作家・向坂氷緒の「言の葉あそび」
ショートストーリー『ひと夏の選択(肢)』入荷記念コラムとなります。
作品は2021年8月6日(金)に公開いたしますので、合わせてお楽しみください。
※冊子版はすでに発売中です。
――悪夢を見ました。
もう数年前、夢現Re:Masterの企画が動きだして、まだ初期の頃。プロット作りの段階のときです。
プレイした方はおわかりの通り、ゆリマスターは複雑な構造を持った物語です。
幾重にも折り重なって、ときにそれらを踏み越えて絡み合う複雑なシナリオ構成。ゲームの中の世界は実在するのか、ゲームキャラに魂は存在するのか、そんな簡単に答えは出ない問いかけ。
それらの内容をキラふわガールズラブストーリーに落とし込むだけでも、ひーひー言ってましたが、もうひとつ重い宿題が私にはありました。
『ニエ魔女』です。
ゲーム内世界で、かつて作られた、伝説の、幻の、同人ノベルゲーム。キャラクター達の人格にも多大な影響を与え、人生の行動指針にもなるような名作ゲーム。
そのお話を考えるのも、メインライターである私の役割でした。‥‥なんだか、似たようなことが前作でもありましたね、白愛世界で名作と呼ばれている絵本『ほしをおうひと』。
あれも大変だったな‥‥(遠い目)
さておき、『ニエ魔女』‥‥という名前は最初はありませんでしたが、ゲーム内ゲームとして登場するその作品も、当然、オマケ程度の薄いものするわけには行きません。
むしろ、ゆリマスター本編はディレクターのみやざー氏によるベースとなるプロットがありましたが、こちらは空白。まっしろ。なんもなし。0から。
本編のプロット作りに苦戦しながら、ゲーム内ゲームのほうも考えないとないな、でも、神ゲーであるとされる作品のお話なんてそうそう浮かばねーよーって、七転八倒してました。
そんな作業の日々の中、がっつり風邪を引いたんです(コロナ以前の話です)
そう、夏でした。
今年の夏はどえらい暑いですが、あの夏も暑かった。
遅れているスケジュール、不安と焦燥に包まれながら、高熱にうなされ、汗だくで、起きてるんだか寝てるんだかわからない意識朦朧が続いてる、その中で‥‥悪夢を見ました。
ひどい、おそろしい悪夢でした。
明けない夜に閉ざされ、底知れない力を持つ魔女に脅かされている世界、魔女の下に生贄として送り込まれる無力な少女―――。
救いのない世界の、救いのないお話、夢でした。朦朧としたまま目が覚めて、すぐにスマホにメモりました。
夢の中で名乗っていた、彼女達の名前。
‥‥「無限の魔女」と「ニエ」、それが原型となりました。そんな熱に浮かされてるときに見た悪夢なんかをネタにしていいのかとは思いましたが、他にはない気もして。
えー、最終的には、私に時間と余裕がなくなり、マリー・ルートも担当してくださった西川さんが、そんな夢の産物である原型を解読し、再構築し、立派なかたちにしてくださったんですがm(__)m
これもまた、ひとつの“夢現(を)リマスター”ってことで。
はい。
ということで、突発、ゆリマスターの思い出話から入りました。向坂氷緒です。ゆりますちゃんの夏SSです。
夏は誘惑の季節です。
そして、誘惑と選択(肢)は切っても切れない関係です。誘惑に乗るのか乗らないのか。迷って、悩んで、選ぶ。ADVゲームおけるドラマは、選択肢に詰まってる、とすら言えると思います。
ゲームにおいては選択肢を選ぶのは、プレイヤーである皆さんですが、このSSでは、あい自身が選べるならどうするだろうなって考えながら、書いてました。
基本、気弱で主体性がなくて、奥手なあいちゃんですが、大切な人と結ばれた後の彼女だからか、それなりに強い想いで選んでくれたように思います(たぶん)(どうでしょうか)
もしかしたら、私達も、誰かが遊んでるゲームのキャラクターかもしれません。
夏に選択はつきものです。みなさんの夏イベントも、良い選択肢を選んで、素敵なイベントCGが見られますように。‥‥あ、でも、どれだけ興味があってもバッドエンド狙いの選択肢を選ぶことはオススメしませんよ。
ええ、リアルでは(笑)
向坂氷緒