死と罠のユリイカソフト〜眠れない不夜城の探索〜
※注意
本書は「ゲームブック」の体裁をとっていますが、いわゆる”なんちゃって”であり、いわゆるゲームブック”風”というやつですので、深く考えず、気楽にお楽しみください。
――――筆者より。
【1】
帝都東京、虹園寺。
急行が停まらないその街の一角に、小さなゲーム制作会社があった。あなたは今日、そこに〝会社案内〟を受けにきた。なんでも、社員たちによって会社の中を案内されながら、ゲーム制作のなんたるかを教えてもらえるらしい。あなたがそれを知ったのはウェブでたまたまだ。
まだ、この会社の採用試験を受けるかどうか、あなたは決めていない。それでもかまわないという話だったので、来てみることにした。
ゲーム制作。
ゲーム作り。
ゲームを、つくる、ということ。
それがどういうことなのか、あなたはまだ知らない。
もちろん、ゲームがプログラムによって出来ていて、絵や物語や音楽それとUIの組み合わせで表現されることは知っている。
そういうことではなくて……ゲーム作りとはなんなのか、なぜゲームを作るのか。それはまだわからず、ただ、あなたの胸にはゲームを作りたいという熱い欲求だけがある(あるんです)(いいですね?)淡い期待、今日その一端くらいはわかるだろうかと。
そして今、あなたの前には会社への入口、ドアがある。それは、いわば新しい世界への”旅の扉”だ。
ドアの横には小さな看板。百合の花とソフトクリームを手にしたイカの絵と共に「ユリイカソフト」と社名が記されている。
ゆり、いか、そふと(くりーむ)……ふざけているのだろうか?
ともあれ。
ドアを開けるなら【2】へ、あえて開けないなら【25】へ進め
【2】
”ゲームを作る”ってなんだろう?
その答えが、このドアの向こうにはある(はずだ)そんな想いを胸にあなたはドアを開けた。……ドア横の看板は、なるべく、あまり視界に入れないようにした。
がちゃり、運命の回る音と共に、ドアが開く。
すると、すぐその先には、
「お、お、お帰りなさいませ……! あ、あの、あのあの……!」
ひとりのメイドがいた。
髪は淡い栗色、おとなしそうな顔立ち、標準的な体形のその姿を茶系のメイド服で包んだ女性が立っていた。あなたを待っていた。なぜだか、頬を真っ赤にしている。その瞳は今にも泣きだしそうに潤んでいる。
……メイド? とあなたが首を傾げると、女性はあたふたと手を振って、
「あ、あのっ、ちがっ、違うんです! これは……ですね、そうじゃなくて好きでやってるんじゃなくて、ななさんが、あ、いえ、なんと言いますかえっと会社案内を受けに来られた方ですよね? わたし、大鳥あいと言います……って、すみません、やっぱり無理です、あの、一度ドア閉めていただいていいですか、五分、五分後、また入ってきてください……!」
なんだかよくわからないが、言うとおりにしないと”大鳥あい”と名乗った彼女が泣いてしまいそうだったので、あなたは従うことにした。
ゆっくりドアを閉めた。
五分後開けるなら【3】へ、このまま帰るなら【25】へ進め
【3】
あなたは律儀に五分待ち、再度、ドアを開けた。
「ようこそ、お待ちしていました。会社案内を受けられる、――――さんですね。わたし、このユリイカソフトでADをしている大鳥あいです。本日はよろしくお願いします」
おそらく急いで私服姿に戻ったのだろう、大鳥あいがいた。
丁寧に挨拶して、ぺこりと頭を下げてくる。あなたも頭を下げた。大鳥あい――あいの顔には人好きのする優しい笑みが浮かんでいる。よく見れば唇の端がかすかに引きつっていた。だが、さっきのことには触れないほうがいいだろう、とあなたは思った。
「どうぞどうぞ、入ってください」
促され、踏むこむ。ドアの先はフロアだった。1フロアの中ほどに一列にロッカーが並んでおり、ふたつに仕切られているようだ。想像していたより片付いているとあなたは感じた。失礼ながらゲーム会社とは、もっとこうごちゃごちゃしているものかと。
きょろきょろしているあなたに、あいが不安げな視線を向けている。
「…………き、昨日、大急ぎで片づけたから、だいじょぶのはず……」
胸のうちで呟いているつもりの心の声が漏れていた。ここは聞こえないふりがマナーだろう。
不思議なのは、あい以外に姿が見えないことだ。今日は平日だが……。
「えっと、それじゃ会社案内はじめますね。よろしくお願いします。まずここがオフィス――開発室とも呼ばれる場所で、わたし達ユリイカソフトでは現在、ふたつのチームがゲームを作っていて」
あいが説明をはじめた。あなたはふむふむとそれを聞く。ざっくりと開発室の説明をしたあと、あいは顔色を窺うように、
「ここまでで、なにかご質問……聞きたいことはありますか?」
質問。聞きたいこと。そんなものは、ひとつだった。
”ゲームを作るとはどういうことなのか” ”プログラムがどうとかそんな話ではなくて” ”なんなのか” 聞いていいと言われたので、あなたは遠慮なくあいにぶつけた。まがりなりにもゲーム会社で働いている彼女なのだから、きっと――。
すぱっと答えてくれるだろうと。
「……………………………………………………………………………え?」
思いっきり硬直していた。
あいは金縛りにでもあったようだった。まさしく、その表情はおそろしい怨霊にでも出くわしたような顔で、あなたに、あなたの言葉に目を見開いて固まっていた。動かない。
体だけでなく、思考までフリーズしたように。しばし待ったが反応がないので、あなたは眼前でひらひら手を振った。
「はっ!?」
あい、再起動。ぱちぱちと瞬きをくり返し、ぼんやりとあなたを見る。
「えっと、すみません。なんだっぺ……じゃなくっ! あ、あはは、なんでしたっけ?」
ぽろっと漏れた方言らしき言葉(彼女の地元の言葉だろうか?)に、あせあせとしながら、あいは聞いてくる……記憶が飛んでいるようだ。あなたはなんでもないと笑顔で首を振った。あいはきょとんとしていた。
質問は特にないと告げるとあいは頷き、オフィスを見回して、
「それじゃ、オフィス以外のところを案内しますね。社長室、会議室、給湯室があるんですけど、どこから行きますか? あ、社長室も入って大丈夫だそうです、ほのかさん……社長がいいって」
ずいぶん気さくな社長らしい。いいことなのだろう、たぶん。
案内先を考えながら【4】へ進め
【4】
さて、どこを案内してもらおうか?
社長室に行くなら【5】へ
会議室に行くなら【6】へ
給湯室に行くなら【7】へ
もう少し、あいとここにいるなら【8】へ進め
もう行くところがないなら【17】へ進め
または、秘密の数字をすべて集めたら、それらを合計した値のパラグラフへ進んでもよい
ここから先は
¥ 300
頂いたサポートのおかげで、明日も工画堂文庫を開店できます。