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TOMORROW Part2


かえでアフター


 ”白衣の天使”じゃなかった。
 手を伸ばす、憧れの”星”なんかじゃなかった。
 先生は。
 ……先生は―――”女”だった。


*    *   *


「すーはー、すーはー……ふう」

 わたしは深呼吸。
緊張に高鳴る胸をなんとか鎮めようとする。なんとかなだめようとする。でも深呼吸したくらいじゃドクドク暴れてる心臓はぜんぜんおとなしくなってくれない。唇がやけに乾いてた。私服の下、脇に汗をかいてるのがわかる。
別に運動してるわけでもないのに。

「が、がんばって、あすか」

 わたしの正面にいる先生が、両手を”ぐー”にして、同じく緊張の面持ちでいる。
 ここは先生の自宅の先生の部屋。和室。

「………………(こくり)」

 わたしは無言で先生に頷く、任せとけって勢いで。でも、内心じゃアホほど緊張してて。
 できる、できる、わたしならできる。
 今のわたしは、昔のダメダメなあすかじゃない。二年の秋には、戴帽式で生徒代表まで務めて、成績は今でも優秀で、三年生の今、一年や二年の子達から慕われてて。もうクラゲ系女子なんて言わせない。ゆらゆら、ふわふわじゃない。
 賢くて、ぴっぴとしてて(言わばイルカ系女子)。先生と結ばれることで、恋の奇跡でパワーアップしたスーパーあすかなんだ。ニューあすかなんだ。
 だから、できる。

「ふぅ――――……」

 細く長く息を吐いて、わたしは静かに目を閉じる。瞑想するように。

「やれる。できる。わたしならできる。わたしにできないことなんてないんだ」

 ぶつぶつと唱える、わたし。自分を鼓舞する。
 先生の声援も耳に入ってくる、頑張れ頑張れって。これで頑張れなきゃわたしじゃない。
 先生の恋人である、立派なわたしじゃない。かっこいいわたしじゃない。

「やれる、やれる、やれるやれるやれるやれるやれるやれる――――――――……ッッ」
「そう、そうよ。あすかならやれるわっ」
「うん、やれる! わたしは強いんだ、わたしが世界最強なんだ! あいあむ・なんばわんっ、あいあむ・ちゃんぴよんっ、誰でもかかってこい!」

 プロレス・ショー式に自分をアゲて、くわっと目を見開く。正面にいる先生を見据える。
 鋭く、まっすぐに。力強く。

「やるよっ、わたし!」
「ええっ、どーんとやって!」
「やるんだから!」
「ええっ、お願い! さあ!」
「やってやる! やってやるんだ!」
「そうよ! そうよ、あすか!」
「やってやる!」
「さあ、あすか!」
「行くよ――――っっ!」

 わたしは先生を強く強く、熱く見つめて。先生が、こくんと唾を呑んで喉を鳴らして。
 わたしは、


「かえっ…………」


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