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【聞香会のアーカイブ】2022年9月28日・六国の会・佐曽羅

このnoteは、香雅堂で行われる聞香会で話された会話の内容を(個人情報に関わる内容を必要に応じて削除したうえで)純粋に記録したものです。企画概要は以下リンクよりご覧くださいませ。
この企画は、お手伝いの方たちの大変ありがたいご尽力によって成り立っております。この場をお借りしてあらためて御礼申し上げます、誠にありがとうございます。
麻布 香雅堂 代表 山田悠介

「会長」皆さん、いらっしゃいませ。本日はようこそお越しくださいました。今日もよろしくお願いいたします。

えっと、初めての方はおられますか。はい、聞香会そのものがお初めてですか?
…ただ聞くだけの会なので、もし何かございましたら、遠慮なくおっしゃっていただいて…よろしくお願いいたします。

今の六国シリーズでは木所ということで、その各木所の分類っていうものがどういうふうに行われてきていて、それぞれの特徴がどこにあるかなっていうふうなことで進めておりますが。
今日のメニュー、昨年やった時と努めて同じような内容で準備させていただいています。

佐曾羅とか寸門陀羅っていうのは、なぜか知らないんですけれども、流派によって全く違う香木が使われますね。
今日は志野流系統の方は? はい、はい、はい、はい。あとは御家流系統の方ですよね。御家流といっても流れは様々あるかとは思いますが、割と共通して、御家流系統では佐曾羅というと、赤栴檀あるいは白檀が使われることが多いようです。歴史的に見ましても、私が存じ上げている限りでは佐曾羅って結構、赤栴檀が使われているんですね。

後ほどお回しする「あから橘」という現代の赤栴檀ですが、もしかして、これ墨塗って外見を赤栴檀らしくないようにしてしまって炷いてみたらどうなんだろう?と。沈香の佐曾羅と、もしかしたら聞き分けるのが難しいのかもしれないというふうに思うこともあります。

何がどうなって、流派によって使われる香木が変わってしまったのかっていうのは、よくわからないんですけれども…そもそも六国はいつ誰によって、どう決められたのかっていうのも、はっきりとした文献、私は存じ上げないので。
志野流系統では、志野宗信が一生懸命(足利)義政所持の香木を聞きに聞きまくって、それで「香木はもう六国しかない、6種類しかない、味は五味しかない」というふうなことを極めたというふうなことが書かれておりますが、それが絶対的に<聞き取れず>正しいものかどうかっていうのは、私は存じ上げないんですね。

文献によると、伽羅とか真那賀とか羅国は最初の頃にもう確定していたけれども、真南蛮はちょっと遅れて、あとは佐曾羅・寸門陀羅にいたっては、もっと後で制定されたというふうなことも何かで読んだことがございます。ですから、はっきりしたことはわかりませんが、いずれにしても申し上げられることは、六国にしても五味にしても、決めるのはトップなんですよね。家元あるいは御宗家。だから流派のトップが「自分の流派ではこういう分類をします」「佐曾羅にはこういうものを使います」っていうふうにお決めになれば、それでいいわけですね。

最初に今日ですね、歴史的な名香というか、江戸時代から残ってきている香木の中で、香包に「佐曾羅」、「赤栴檀」って書いている名香も結構あるんですけれども。
これから佐曾羅、「サ」って書いてあるんですが、それを最初にお聞かせします。

(勅銘香『狭衣』の香包を回覧する)
これ、ちょっとボロボロなんでビニール袋に入れていますが、これが香包です。多分、この紙は間似合紙で作られていると思います。間似合紙ってのは、間、似る、合う、紙ですね。多分、日本で今2軒ぐらい漉いていると思いますが、特徴としては、その土地の泥、土を一緒に漉き込むっていう紙ですね。香包の用紙なんかには、ちょっと向いているかなと思われます、字も書きやすいですし。

(勅銘香『狭衣』を回覧する)
これもビニール入れたままお回しますので、塊がそこそこありますから、どんな木肌か、どういうタイプの木なのかっていうのが、ちょっとはおわかりいただけるかなって思いますね。で、私が持っている赤栴檀で一番似ているのは、これですね、「春の曙」。これも一緒に回します。

この木の、この辺の断面とか、ここら辺は輪切りにしているところですけれども、木の様子は結構タイプ的に似ていると思われます。ですから、そういうこともあるし、やはり香りが似通っているということで、この『狭衣』と言われる勅銘香は、赤栴檀だろうと。
「サ」っていうのは佐曾羅という意味で書いているはずですが、中身は赤栴檀だというふうに考えています。

先に、こっちにしましょう。それで、もう皆さん手の消毒とかはお済みだろうと思いますので、乗っけて回しますので、帛紗で持って見ていただけますようにお願いします。

(香木を回し始める)

(『狭衣』もこんなタイプだろうと思える)「春の曙」という、赤栴檀ですね。赤栴檀って、ここにも書きましたけど、何の植物だか私は存じ上げないんですね。わからないですね。
多分、神社仏閣の建材とかそんなふうなことで昔、日本に入ってきたんだろうかなっていうふうに思いますが、全くわからないんです。だから私の手元にある赤栴檀っていうのは、歴史的な銘がついている赤栴檀って言われているようなものと炷き比べて、特徴として「これは赤栴檀だな」っていうのを選んで、残してきているということになります。

この「春の曙」も、その一つです。

沈香とか伽羅だったら、例えばインドネシアの業者さんから昔、どこそこの沈香っていって輸入してきましたから、それで、どこで採れた香木かってのはわかったんですけど。必ずしも皆、そういうわけにはいかなくて。どこで採れたかわかんないようなものっていうのは、やっぱりいっぱいありますから。

こちら『狭衣』です。

佐曾羅・狭衣・1回目・125℃

「連衆」(「狭衣」について)木、だわ。

「連衆」聞いてみていいですか、これは開けないで、見るだけですね?

「会長」はい、開けないでください。見るだけです。すみません、ちょっと見にくいかもしれませんけど。紙がボロボロなんです。

「連衆」これが、さっきおっしゃった『狭衣』に一番似ている?

「会長」はい、比較的似ているタイプかと思います。だから、もっとその『狭衣』の大きな塊があるとしたら、その「春の曙」みたいな感じだろうと想像できますね。後で回す「あから橘」と全然違うんですね。

「連衆」それでも木の種類としては、赤栴檀なんですね?

「会長」はい、焚くと一目瞭然、赤栴檀ですね。ただ赤栴檀ていうのも何かこう、白檀に比べると面白い木だなと思いますね。白檀も、いろんな白檀があって、良いのもあれば、しょうもないのものもいっぱいありますけれど。良いもの炷くと、それなりに香りに深みがあって、墨を塗って炷いてみたら面白いんじゃないかなと思いますね。

「連衆」落語に、赤栴檀のお話があって。赤栴檀の横には、何だかが必ず一緒に育っているみたいな落語があったんです、たまたま。植物、前に何かわからないっておっしゃってたんですけれど。でも、それが、わかっているっていうことなのかなと。たまたま落語の、どこかのお寺だったんですけど。ちょっと後で調べてみます。

「会長」お寺から伝わっている話って、大体怪しげ。

「連衆」怪しいですね。一同、笑。

「会長」ただ私が知らないだけで、実は赤栴檀ってのは、こういうもんだなっていうのが、わかってるかもしれないんですよ。私が知らないだけで。

「連衆」いやでも、会長さんが知らないのに、そんな。。。

「会長」いやいや、そんなことないですよ、いっぱいあります。いくらでもあります。

「連衆」お寺のだから、怪しいかもしれない(笑)

「会長」お寺で怪しいのは、コノテガシワとかビャクシンって言われるような木を栴檀の木だっていって誤解しておられる。だから「うちの庭に昔、白檀があったよ」とかっていうことがあるんですよ、実際に。だけどそれは誤解だっていうのは、そういうことはあります。だけど赤栴檀については、ちょっとわかんないです。

「連衆」うちの前の家に、母が「あれは伽羅の木だよ」って言って。伽羅の木?と思って。。(笑)沙羅双樹というか、夏椿でしょうか。白い。

「会長」いや私もね、札見たことありますけど、「伽羅木」っていうのがありますよね。それのことじゃないでしょうかね。

「連衆」そうですよね、びっくりしました(笑)。

「会長」あれが伽羅だったらね、頑張って育てて太くして、、と思いますけど。
一同、笑。

「連衆」これですね「赤栴檀と南縁草」。

「会長」南縁草、それは赤栴檀で引けば出てくるんですか。

「連衆」うんと、これは薬師寺さんの。

「会長」え、松久保さん?

「連衆」薬師寺ってなってます。「赤栴檀と南縁草」というちょっと落語みたいなんですけど。

「会長」薬師寺には昔、松久保秀胤さんという管主がおられましたが、非常に香木大好きで、ものすごく研究されていましたね。

ちなみにですね今、気温・室温が24.7度。湿度49%ですね。ちょっと欲を言えば、もうちょっとあったらいいなっていうとこですよね。

「連衆」これは、見られたんですよね。

「連衆」早いですね、戻りが早い。

「連衆」(間似合紙について)なんか泥が入ってんだか、よくわかんないですね。

「連衆」どこに入っているのかな。

「会長」泥、溶いて、水と一緒に溶いて、それで漉いているらしいです。

「連衆」どうして、泥を入れるんですか。

「会長」非常に目が詰まってるというか。薄いんですけど、<聞き取れず>強いんですね。折り目ぴしーっと付きますし。今、私それ香包用に復元して作ってますが。まだ漉いている人がいるんで。

「連衆」これは、やっぱり雁皮ですか。

「会長」はい、えっとね。いつもそれ私、忘れてしまって。

「連衆」でも、楮だとちょっと折り目が付きづらいような気がするんですけど。

「連衆」ほとんど匂いがしない。

「連衆」あんまりしないね、そんなもんじゃない。

「連衆」強くない香りですね、微かですよね。

「連衆」いつも表現方法がわからなくて、書けないんですけど。書かないと完全に忘れてしまう(笑)。

「連衆」自分なりに。

「連衆」(多数)「微か」と書きました。

「会長」後で時間があったら、もう一度ちょっと温度高くして、また回してみましょう。

「連衆」ゆっくり香りが出るタイプなんですか。

「会長」古いですから。おそらく赤栴檀は白檀と同じで、オイル分が香りを、芳香物質を持っている植物だと思うんですね。樹脂じゃなくてオイル。ですから、沈香や伽羅なんかに比べて揮発しやすいんですね。それでこれが何百年経ってるか詳しくわかりませんけど、2-300年経ってるとすると、その間にどんどんどんどん揮発していきますよね。

欠片が小さくなればなるほど、揮発が早いですから。
そういう点で、銀葉に乗せてすぐには立ってこないっていうことはありますね。それはもう、歴史的な香木は皆そうです。

立ちが遅いですね。銀葉に乗せてすぐに、ばあっと立ってくるっていうふうなことはあまりないですね。まあ、例外もありますけどね。

揮発性が高いっていうことで、よく立つ、途中からどんどん立ってくるだろうということで、ちょっと低めの、赤栴檀にしては低めの設定にしてみたんですが。

「連衆」過去のログをnoteで拝見したんですが、結構最初から、香木を炷く前から、何度ぐらいでいこうっていう感じで焚いてはる感じが、読んでてして。それは、たまたまそういう温度設定ではなくて、本当に狙って温度を作ってはるんですよね。

「会長」作ってはります(笑)一同、笑。

一応、その自分の経験に基づいて、それで“こんなもんと、ちゃうやろか”というか、そうなってます。一同、笑。

「連衆」例えばこの香木だったら、過去に何回か焚いて、これぐらいがベストだなっていう。

「会長」はい、そういう感じで、本当に狙い通りいっていることも、ちょこちょこあります。あとは気象条件とかでピタッと狙ってるはずなんだけど、そうでもないっていう時もありましたし、いろいろですよね。だから、やっぱり火加減は本当に難しいと思います。

「連衆」よくわからないんですけど、御家流では佐曾羅って言葉を使わないで、赤栴檀って言っているんですか。それとも、佐曾羅っていう香木と、赤栴檀っていう香木が2つあって、御家流ではこっちを使い、志野流ではこちらを使うっていうことなのでしょうか。

「会長」そうじゃなくて、佐曾羅っていうのは分類の名前なんです。香木の種類ではないんです。佐曾羅という分類で、じゃあどういう香木を使いますかっていうのは、御家元とか御宗家がお決めになることです。

たまたま今回の場合、この『狭衣』っていうのは、木は赤栴檀なんですけど、これを佐曾羅として使われていたということですね。佐曾羅はあくまでも分類の名前の一つなんです。

「連衆」いわゆる伽羅とか真南蛮とか真那賀とか、みんなそういうことですか。

「会長」そういうことです。そういうことです。はい。

「連衆」私たちが香木を見て、「これ、伽羅だ」とか言っていることは、どう受け止めたらいいでしょうか。

「会長」それはね、また別の話で。
われわれ香木屋からするとですね、見かけは、これ完全に伽羅だっていうのは、専門家として様子でわかるんですよ。だけど、それをどう使おうかっていうのは、それは流派の勝手なんです。

木はあくまでも伽羅なんだけど、だけど、それが真那賀として使われたり、羅国として使われたりっていうことは、いくらでもあるんです。それは流派が勝手にやればいいことなんで。

だから、われわれから見たらこれは完全に伽羅だと。だけど、それが木所が伽羅になってないっていうことは、いくらでもあります。中には香包に「下」、要するに位が低い、だから真南蛮として使う、って書いてあるのもあるんです。

それ、賢章院さん(弥姫、薩摩藩主島津斉興の正室)の名香に入ってますけどね。だから、それでもわかるように、木所と木の種類は必ずしも一致しないです。それが一致すると、シンプルでよろしいんですけど。

「連衆」すみません、今の話の伽羅は、どちらのお話でしたか。

「会長」賢章院です。今日資料で、私間違えて皆さんにお配りしてしまってますけど、これご参考までに、Wikipediaだから必ずしも当てにならないかもしれないんですけれども、今日お焚きしている『狭衣』の持ち主が、こういう人ですっていうのを、ちょっとプリントをお回ししてます。(賢章院は)天璋院篤姫の血は繋がってないけど、おばあさんにあたる人ですよね。

その香炉が、15分経つと電源が切れるようにできているんで、あのブルーのポチッというのが、もし消えていたらスイッチ入れ直しますから。

「連衆」 付いています。点滅しだした。

「会長」点滅は大丈夫だと思います。はい。

「連衆」あまり変わらないですね。香りの立ち方が、軽い。行きと帰りは変わらない感じで、微かというか、密やかと。密やかに薫っている感じですね(一同、うなずく)。

「会長」そうね、オイル系ですから比較的シンプルかもしれないですね。樹脂系等の香木に比べるとね。いろんな温度の変化によって、立ち方がどんどん変わってとかいうふうなことは、あまりないかもしれないですね。

「連衆」 でも、いい香りですね。上品な。

「連衆」静かな気持ちじゃないと、聞けない。心を静かにしないと聞けない感じです。

「連衆」 終わりの温度は、いかがですか。

「会長」ご指摘いただき、、(苦笑)131度ですね。危うく(温度報告を促す)うちわが上がるところだった。一同、笑。

佐曾羅・狭衣・1回目(戻り)・131℃

「会長」後でもう少し温度を上げて、お回しすると、もう少し個性が際立ってくるかもしれないので、後でまた回しますね。

2番目に、同じ赤栴檀で、かなりクセというか個性のはっきりした「 あから橘」という赤栴檀をお回しします。非常に、何て言うか出来方そのものもひねくれていて、個性的というか特徴がありますね。「 あから橘」です。

のこぎりで引いた時の粉もちょっと添えておきます。赤いですね、粉も。普通の植物では、やっぱりないなっていう。

佐曾羅・あから橘・1回目・116℃*戻り、記録なし

「会長」116度ぐらい、「あから橘」です。

「連衆」「春の曙」と「あから橘」の見た目の色とかって、すごい違っていますよね。

「会長」全然違いますよね。

「連衆」切り屑って言うのですか。削った屑も、やっぱり「あから橘」と「春の曙」は違う感じですか。

「会長」違いますね、あの「あから橘」の引き粉って結構赤いですよね。「春の曙」はどっちかっていうと、もうちょっとほんわかとしたら色ですよね、粉は。
今ちょっとここに持ってきてはいないのですが、後で時間があったらご覧に入れます。

ちょうど今、水取ってくるから、ついでに今持ってきます。

「会長」どうでしょう。何か結構、似ている気もしますね。これ「春の曙」のちょっと切ったやつ、挽き粉ですね。そこの「あから橘」と、ちょっと違うかもしれないですね。

「連衆」少し違うような気がします。これは、意外に濃いですね。もっと淡いのかと。

「連衆」 「あから橘」とか「軒の橘」とか、「橘」が付いていますが、橘の木を意味しているのでしょうか。

「会長」それは、私が勝手に名前を付けてるんですが、個人的なイメージとして、どうも赤栴檀の木って、柑橘系のイメージがあるんです。私としてね、個人的に。それで、そういう歌から、仮銘を取っているっていうだけのことです。「春の曙」は、塊をちょっと挽いた時に、バーって香りが出たんですね。それで、そんなふうな歌から銘を取りました。

「連衆」「あから橘」っていうのは赤い橘でしょうか。

「会長」そうですね。昔、挿頭(かざし)って、ありましたでしょう、挿頭で菊とか紅葉とか。それと同じように、橘をかざしてっていうことじゃないかと思います。だから、挿頭の橘が、背後から月が出てきて影になったみたいなことなのか、ちょっとよくわかりませんが。

「連衆」何か先ほど、あの赤栴檀とか白檀は、中のオイル部分が多い、時間が経つに連れて溶けていっちゃうから、香りも薄くなってしまうんじゃないかっていうことでした。それと同時に、そうしたら色の変化もありますか。香木、抜けていくと。今すごい赤いけど、もうちょっと黒くなっちゃうとか、白っぽくなったたりとか。

「会長」多少はあると思います。白茶けたりとかっていうふうなことはあるかもしれないですね。正倉院に遺されている香木の中には、白檀が多分あると思いますけど、外側は汚れて黒ずんできているかもしれませんが、洗えば多分ちょっと白茶けてるんじゃないかなって思いますね。

「連衆」黒くなってきたのは埃とかなのでしょうか、なわけないですよね。

「会長」汚れて色が黒ずむことはあります。あの、引き粉の性質は、多分似てると思います。

「連衆」 「春の曙」の方がすごいサラサラしている気がするけど、これは量が多いからそう見えるだけなのかな。

「会長」もしかしたら粘るほどじゃないですけど、「あから橘」の粉の方がなんていうか、若干パサパサ度は低いかもしれないです。

「連衆」ふわふわした感じですね。

「会長」はいはい、それは、そうかもしれないです。「あから橘」の方が脂分多いですからね。それを放って置くと、すごくカビが生えるっていうか変化を起こすことがあるので、やっぱりそのオイル分は多いんだと思いますね、「あから橘」の方が。

「連衆」引き粉は何かに使うんですか。使わない?でも香るんですよね。

「会長」そうですね、使わないですね。でも例えば赤栴檀で線香を、スティックを作ろうと思ったら、こういうのを使うんですが、これぐらいの量だとなかなか線香にできないんですけどね、もっといっぱいないと。

「連衆」 では、これは比べるために。。

「会長」いや、もったいないから残しているだけです。何かに使おうと思って取っているわけではないんです。ただ、こういうのが一杯たまってくると、もったいないからいい線香作ろうかっていうふうなことがあります。はい。ただ、赤栴檀とかは使ったことはないですけれど、いろいろ粉をブレンドして作ると面白い線香ができるとは思いますけどね。

「連衆」沈香は、お薬で江戸時代とか使われていたと思うんですが、今も使われているんですか。赤栴檀もそうなるんですか?

「会長」今も使われていますよ。(赤栴檀は)知らないです。これは本当によくわからない。確かに沈香・伽羅は上等の漢方薬として経験的に使われてきていて。詳しく研究したわけではないんですけど、徳川家康が南蛮貿易を一生懸命やりましたよね、あれは薬としての香木が欲しかった。どうやら。だから炷いて楽しむものじゃなくて、あくまでも薬として漢方薬としての香木が欲しかった。

「連衆」漢方薬として欲しかったんですね、家康は。香木が好きなんだと思ってた。

「会長」どうやら健康オタクだったみたいですよね。これ、さっき話出ましたけど、何十年も経っている間に黒ずんで汚れてます、焼けているっていうか。白檀です。

「連衆」へえ。

「会長」 白檀って白いもんだ、と思われるかもしれませんが、これは非常に赤い白檀です。上等の白檀です。長いこと日本に、もう何だろう100年近く日本にある間にごろごろ転がして置いてある間に、焼けちゃっています。別に直射日光で焼けたわけじゃなくて。

これ赤栴檀と同じようにオイル系、オイルが香る、だからエッセンシャルオイルが取れるんですね白檀は。これ、ちょっとお回ししますね。裏側は、ひび割れを避けるために木工ボンドを塗っています。それで光っています。こっちが本当の面ですね。

「連衆」放っておくとやっぱりオイルが抜けたところが、バカーッてヒビが入っちゃうんですか。

「会長」芯が残っていると、芯に向かって割れがどんどん入ってくるんです。だから芯を抜いておけば、ヒビ割れは入ってこないんですけど。

「連衆」エッセンシャルオイルは芯材から取るってありますもんね。真ん中の部分で、白檀は。

「会長」これも芯材ですが、私が今言っているのは、これが本当の中心の、芯に向かって割れが入っていくんですよ。ええ。だからこれ芯を取ってありますけど、この部分は。だけどやっぱり、ひび割れが嫌なんで塗っちゃっているんですね。

これ「軒の橘」という白檀ですね。

「連衆」戻ってきました。「あから橘」です。*戻り、記録なし

「連衆」なんて、いい香り。温度、どうでしたっけ。

「会長」温度、今気が付きました。うっかりしました(笑)。多分、数度高くなっている。120度でいきます。「軒の橘」です。ごめんなさい。

佐曾羅・軒の橘・1回目・120℃

「連衆」御家流さんでは、この先ほどの「あから橘」「軒の橘」も両方とも、佐曾羅の典型的な一例ということなんですけれど、香り的には全然違うような感じがするんですけども。どうなんでしょうか、こういうのって。

「会長」典型っていうのは、白檀の佐曾羅も使われますし、赤栴檀の佐曾羅も使われるということなんです。

「連衆」どちらでもありですよ、っていうことなんですね。

「会長」そうです、そうです。どちらかというと、赤栴檀の方がめずらしいので、皆さんそんなにお持ちじゃないですよね。だから香席なんかで出てくる確率は、白檀に比べてはるかに低いと思いますね、赤栴檀の方が。

「連衆」そうだったんですね。志野流だと結局、赤栴檀も白檀の方も使わないでしょう。六国には入ってないですよね。でも、たまに何か鼻休めって言われている赤栴檀なんですよっていうので、聞かせてもらったことがあるんですよね。

「連衆」名香席の時に(一同、納得)。今回ちょっと、なかなかこんなふうに聞けないのが聞けてうれしいです。

「会長」ありがとうございます。志野流においては今おっしゃったように、名香席で名香ばっかり聞いてて、もう鼻がおかしくなってきて、ちょっとここでリフレッシュ、リセットしようかっていう時に炷かれるのが、赤栴檀ですよね。ですけど、まあ普段、志野流では焚かない香木なんで、そういう点でリセットに使えるっていうことで、必ずしも赤栴檀がそんないわゆるお助けみたいな感じの、鼻休めとして向いてるっていうことではないのかなとは思いますけれど。

一切、通常はこういったふうなものは志野流では焚かれませんからね。でも本当に、初心者の方を対象にした組香とかで組まれる先生が、”ちょっとは当たるようにしないと元気でないだろうから“ということで、わかりやすくしようとして白檀とか使われることはありますよね。

「連衆」白檀だったら間違いない香りですものね。

「会長」何て言うか、覚えやすいといいますかね。でも、それでも間違える方は間違えるんですけどね(笑)。

次に、沈香の佐曾羅ですね。今度は、御家流の方には馴染みがないはずのインドネシアの沈香ですね。比較的、典型的なインドネシアの沈香、そういうタイプです。
「春宵」という仮銘が付いていますが、これ私が付けたんじゃなくて、お客さんが“付けさしてくれ”って言われて、お付け下さいました(笑)。

「連衆」命名権発生!あの方ですね。この漢詩、お好きな方。

「会長」この人、全部漢詩から、仮銘を取られて、面白い人です、中国好きの人です。

「連衆」乱箱って、寸法とかってどこを見たら書いてあるのか、調べ方がわからないというか。

「会長」寸法は、なぜお調べになるのですか。

「連衆」代用しようと思って。

「会長」代用かあ。その場合、本香盤と手記録盆が横に並べられる寸法。それプラス、それぞれの間を1センチぐらい取るとして、、、本香盤のサイズと手記録盆的のサイズを足して、プラス3センチぐらいの内寸のゆとりがあればOKです。

「連衆」 寸法は確実に、一応決まってはいるんですか。

「会長」雛形寸法書っていうのがありますが、割とラフなんですよ。

「連衆」そうですか。香道のお道具って普通に買えばいいんですけど、割とお高かったりするので、ちょっと家で真似事をしようかなっていう時に、どういった寸法なんだろうと思って。

「会長」志野流の場合は、がっつり決まっています。

「連衆」そうですか。まだ勉強不足でちょっと。雛形寸法書ですか・・

「会長」雛形寸法書っていうのは公開されているものじゃないので、御宗家のところにあるんです、御家流はね。三條西さんのところは。私は、たまたま御宗家から、それのコピーをお預かりしているんです。だけれど、そんなに事細くは書いていないです。

「連衆」やっぱり、そうですね、お道具を作らないとですね。

「会長」御宗家に相談すると、先代の堯雲宗家でしたが、”こんなの作りたいって言うてはりますけど、どないしまひょか“って言ったら、“その方のお好みに合わせてあげてください”って、おっしゃいましたね。だから御家流は割とそこらへん、なんていうかビシッと決まってはいないです。あくまでも、お作りになる方の気持ちというか、お好みっていうか、そういったふうなものを聞いて、合わしてあげて、よっぽど外れていなければ。

「連衆」何かいろんな写真を見ると、いろんな大きさがあるようにも見えたので。まあ、そういうことでしたか。

「会長」あんまりだから、そんなに事細かに規定されないですね。それは志野流も、実際そうですけどね。

「連衆」茶道とかだと、何だか決まっているような気がして。

「会長」(軒の橘)123度ですね。そんなに温度高くなってない。

佐曾羅・軒の橘・1回目(戻り)・123℃

「連衆」 1回途中で切れたので、付け直しました。

「会長」あっ、そうでしたか。それかもしれないですね。うん、白檀ですね。でも、これぐらい質のよい白檀、そんなにないんですよね。普通、もっとあっさりしていますよね。

「連衆」ほんといい香りでした~~(一同)

「会長」118度ぐらいですね、「春宵」。

佐曾羅・春宵・1回目・118℃

「会長」基本的には、(「春宵」は)御家流系統の方にはなじみがないタイプの沈香のはずですが、前もちょっとお話したように、真南蛮と思われる方がおられるかもしれないんですね。元々本来、真南蛮っていうとタイで見つかる沈香から選びますが、なかなか質の良いものがどんどん採れなくなってしまっているので、タイの沈香ではなくて、インドネシアの沈香から真南蛮を選ぶというふうなことが、もう何年も前から起きてしまっていますから。もしこの香り、真南蛮としてこういうものを聞いたことがある、とおっしゃる方がおられても、不思議ではないような世の中になっています。本来はそうじゃないんですね。これはインドネシアの沈香ですから、真南蛮とは明らかに違うはずです。

次に「春宵」と同じく、インドネシアの沈香の比較的、典型的なものを。産地は両方ともカリマンタンと思われます。ボルネオ島のインドネシア領の方ですね。これ、割ったところがたまたまあったので、それも添えておきますね。

「連衆」表面が、つやつやしいですね。

「会長」中には樹脂分がありますよね。それでさわったりしてると、こすれたりして、つやが出ちゃってるんですね。

「連衆」ひとつの香木の塊の中で、黒いところと白いというか、黒になりきってないところっていうのは、樹脂の沈殿があるかないかとことですか。

「会長」そうです、はい。割合が何%ぐらいかっていうところで、見え方が変わってきますね。それは加熱したら、香木になっていない場所がどれだけ含まれているかっていうことで、香りに雑味が出たりとかしてきますね。だから、これから後でお焚きするような、もうほぼ完全に樹脂化してるようなところっていうのは、雑味はほぼ出さない。

「連衆」 雑味が、香木の味になったりはしないんですか。

「会長」特徴にはなります。だけど、味わい深くはないです。はい。要するに、香木になっていない部分ですから。それが面白いっていうことは、人によってはあるかもしれないですけれども。

「会長」 113度。「春日」です。

佐曾羅・春日・1回目・113℃

「連衆」「春日」ハルヒ、アニメの名前みたいですね(一同、笑)

「会長」志野流の佐曾羅っていうと、酸味に特徴があるっていうことが多くて、寸門陀羅もそうなんですけど、佐曾羅も志野流の場合は、わりと酸味に特徴が出ますね。

ピンからキリまでインドネシアの沈香、品質ございまして、もうあからさまに酸味が出てくるっていうやつも結構あるんですけれども、「春宵」も「春日」も比較的に品質は良くて、そんなにあからさまな立ち方をしないタイプですね。特に「春日」は比較的穏やかな立ち方をするタイプですね。
「連衆」さっき(春宵)の強さがない。

「連衆」穏やかですね。

「連衆」ちょっと酸っぱいですね、一瞬。

「会長」今、帰ってきたら127度。

佐曾羅・春宵・1回目(戻り)・127℃

「連衆」(「面影」について)。すごい真っ黒。高度に樹脂化。

「会長」これは本当にまあ、めずらしいですよね、これだけ真っ黒で、中の樹脂部分が外にちょっと染み出してきてますよね。
これは仮銘「面影」ですが、これとそれから最後の佐曾羅の「惜しむ心」、これはもうほぼ全身樹脂化している。

ただ、これ筋が入ったりしてますよね、外側に。これって何かっていうと、鑿(のみ)の跡なんですよ。
原木の中の一部が香木になりますよね。で、外側には香木にならなかったところが残っています。その部分を鑿で削り落としていくんですね。われわれにしてみたら、香木にならなかった部分を買っても無駄ですから。樹脂化した良いところだけ欲しいから、掃除してもらうんですよ、現地でね。
どんどんどんどんノミで削っていくと、結果的にこういうふうな形になったということです。残った部分は極度に…なんていうか、ほぼほとんど元の組織が残ってないような状態になっているっていうことですね。

こうなってくるとね。佐曾羅らしくないんですよ。後で炷いてみますけど、木所なんだろうっていうことになってきます。それも、また楽しみなんで。

これ、「面影です」。

「連衆」テカテカしてる。めちゃくちゃ樹脂化してるってことは、炷く時も、ほんの少量じゃないと、ほんの少しじゃないと、もう香りが立ちすぎてしまうのでしょうか。

「会長」うん、それもちょっと若干あるでしょうね。あとは温度ですね、加熱する温度。だから、樹脂化の度合いが高い香木ほど、加熱する温度は最初は低め、遠め遠めにしていかないともったいないですね。

「連衆」すみません、あの香紙に紙に包むところへ、それこそ油分になって染みるということは。

「会長」えっと。伽羅だと危ないですけど、沈香の場合はベタベタつかないですね。

「連衆」でも、かなりテカテカしているけれど。

「会長」これは、たまたま温度が高い時にそうやって出ちゃったんですね。そういう環境に置かれてしまったことがあって、その時に出ちゃってるんですね。今は、もう平気です。

そういう沈香がね、もっとたっぷりあるとうれしいんですけどね。もう、それしか残ってない。あとちょっとだけ欠けらがありますけど、もうそんなもんしかないんですね。

「会長」107度、面影。

佐曾羅・面影・1回目・107℃

「会長」「春日」の戻りが124度です。

佐曾羅・春日・1回目(戻り)・124℃

「会長」これ最後ですが「惜しむ心」。私が体験した中で、最も丸ごと樹脂化している例ですね。ちょっと、これだけはあんまり他に見たことないんですけど、姫路藩の家老職の家にあったものなんですね。だから<聞き取れず>は持ってたんですけど、全く使わずに、手もつけずに銘もつけていない、そういうものが3~4本出てきたんですね。その中の一つです。
あまりに面白い木なので、売るのが惜しくて、「惜しむ心」という。。仮銘にしたわけではないんですが、皆さんからそう言われます(笑)。

オンラインストアで1回出したんですけど、あっという間に(想定していた分量が)なくなってしまって、それでもうストップさせてもらって、それっきりになっていますが。来年は香雅堂が40周年らしくて、記念でちょっとまた出そうかって言ったりしています。今回の聞香セットには入ってます。

(「惜しむ心」)真ん中はもう朽ち果てていますね。朽ち果ててなくなってしまっていますね。

「連衆」この「惜しむ心」なんですけど、中がスポンて朽ちて抜けてるってことは、樹脂っていうのは道管じゃなくて師管のところにあったのでしょうか。

「会長」師管です。詳しいですね。伽羅の場合は、真ん中が抜けてるっていうことはまずないんですよ。でも沈香の場合は逆で、外側に樹脂化してるけど中が空洞っていうことはよくあります。

「連衆」伽羅の場合は中が抜けてることがないっていうことは、道管まで樹脂化するってことですか。

「会長」そこは、よくわからないですね。でも本来、道管は樹脂運ぶのに使われないと思いますけどね。

「会長」「惜しむ心です」、105度。

佐曾羅・惜しむ心・1回目・105℃

「連衆」コメント通りですね、“伽羅に紛う”って。ほんとにコメント通りだなと思って。

「会長」もはや、木所わかんないですよね。

「連衆」うれしいですけれど、組香ですと外れますね。聞いただけで、とってもうれしいですけれど。

「会長」一炷聞き向きですよね、組香向きじゃないですよね、もったいないですよね。

「連衆」えーーーーだよ。一同笑。

「連衆」いい香り、想像してたのと違う。伽羅っぽい。

「連衆」今、あの最後の4つは4つとも、全部インドネシア産沈香ですよね。インドネシアは、やっぱり広いっていうか島とかもたくさんあるので、こんなに4つが4つとも、香り違うんでしょうかね。一同、笑。

「会長」おっしゃる通り、私詳しくないですけど、1万以上島があるらしいですね。われわれが主に取引してきたインドネシアっていうと、ボルネオ島の中のインドネシア領。

ボルネオ島の中に、マレーシアとインドネシアとわかれているようですが、そのインドネシア領のところから、志野流で言うね、いわゆる佐曾羅とか寸門陀羅に使えるレベルの香木がよく出てくるんですね。

ただ、「惜しむ心」に関しては全然別のところから、ポッと出てきたものですから、私が輸入したわけではないので、カリマンタンかって言われると、多分そうだろうっていう想像だけなんですけどね。

香木の出所っていうのはなかなかわからないですから、輸入していたとしても、じゃあどこで誰がいつ採ったのかっていうのは、わからないですね。

「連衆」 今は貿易は、どこでもできますけど、例えば姫路藩のって言ったら、江戸時代なり江戸時代末期なりで、その当時って貿易って南蛮貿易もうなかった、ないですよね、どうやって入ってきたんですか。

(注:南蛮貿易は16世紀半ばから17世紀初期に亘って行なわれていました)

「会長」いや多分、南蛮。(仮に愛用された時期が江戸末期であったとしても、それらの香木が渡来した年代は不明といえど、それ以前であったことは間違いありません)

「会長」 面影の戻りが120度です。

佐曾羅・面影・1回目(戻り)・120℃

「連衆」佐曾羅の概念がわからない。香りでは何かこう、佐曾羅がイメージできない感じ。

「会長」 いや本当に、私もいろんな香木を見てきましたけどね、こういうのは、なかなかめずらしいですよね。

火加減を覚えるのって大変難しいですよね。何度とか、こんな測れるわけじゃありませんから。大体どうやって目星をつけるか。

私がある志野流の先生から教わったのは、ここ(右手の薬指の先端付近)で温度を知ることですね。香炉の銀葉に、ここをつけるんです。あまり思い切りつけたら火傷しますから、軽くふれる。軽くふれた時に、どれぐらい熱かったかっていうのを覚えるんです。で、じゃあどれぐらい熱いかっていうのは、例えば“熱い”っていうふうに手首が逃げるぐらいとか、それからひじごと、熱いって逃げるか、そういう違いで覚える。

だから上手いことを炷けているかどうかって、初めての香木ってわからないですよね。どういう火加減が適切かどうかっていうのは。だから、私なんか何回も焚いているものは大体見当がつくんで、それでここの熱さで、こんな感じだったなっていうので、最初合わせます。それが、たまたま測ったら115度だったり、105度だったりっていうふうになるんですね。

ちょっとこれ熱いですけど、それをやってるうちに、皮厚くなりますから。そういうやり方をするんですよっていうふうに、口伝で教えてくださる先生がおられました。

いずれにしろ、その先生も“火加減は一生よ”と。
“決してこれでいいっていうことはない”とおっしゃってますね。

「連衆」あのう…温度を作ってから乗せるのでしょうか、もう最初に低い時から乗せて、熱くなるのを待つのではなくって。

「会長」あの、今の場合ですか。聞香炉の場合ですか。
聞香炉の場合だと、銀葉乗せないと、まずいけないですよね。乗せて、それでちょっと見てみて、押すかどうするかっていうのを判断することになりますよね。

で、それまでの段階で、いろんな要素が含まれてきますから。灰の湿り具合とかね、
うん。予熱することは絶対やった方がいいですよね。あらかじめ焚きガラの何て言うか、途中で消したような炭団(消し炭です)をもう1回熾して、(香炉の中で燃焼させて)灰を温めるとか、あるいは灰を抜き出して焙烙で炒って、ふかふかにしてしまってホコリとか湿気を全部焼き飛ばして、それで香炉に戻して、そこから炭団を入れたら絶対、炭団は結露を起こさないし、弱らないですから、すぐにはね。で、その状態からスタートしていくとかですね、様々でしょうけど。

聞香炉で聞くのはとにかく大変難しいので、どんどん移ろっていきますからね、変化していきますから。
すみません、もう4時過ぎてしまってますが、もう1回、さっきの「狭衣」を温度高くして聞きたいっていう方おられたら、、。

(賛同者多数)わかりました(笑)お時間ない方はどうぞお帰りいただいて。
ちょっとだけ温度を上げました、「狭衣」です。「狭衣」2回目、125度でやっています。

佐曾羅・狭衣・2回目・125℃

「連衆」すごくいい香りになった。「狭衣」3回目(2回目のこと)はよかった。

「会長」 「惜しむ心」の戻りが125度です。

佐曾羅・惜しむ心・1回目(戻り)・125℃

「会長」「狭衣」戻りが131度だったじゃないですか。でも今の、125度の方がすごくよく香りが立っています。

「会長」立ってます?

「連衆」中からやっぱり出てきたっていう感じなんですか。

「会長」そういうことだと思いますね。だから外側抜けても、中にはまだちょっとあるっていう。

「連衆」(「狭衣」)難しいね、これ難しいな、難しいですね。でも家に勅銘香なんてないから、いいんだけど(一同、笑)

「会長」 でもいろんな香木、やっぱり多かれ少なかれ、炷いてみないとわからないっていうことはありますよね。火加減が。

だから難しいですよね。知らない香木を、いきなりぱっと人に聞かせるっていう時は本当に火加減が難しいですよね。もう出たとこ勝負みたいになっちゃいますからね。できれば、何度もいろんな火加減を試して、この火加減がこの木はベストなんだなっていうのをつかんで。それに1年かかるって、言われますよね。

だから、御家元に銘をつけてくださいってお願いをする時、極を付けていただく時、そういう時は結果が出るまで、やっぱり1年待ちますよね。春夏秋冬、いろんな条件で焚いて、その上で、初めてこの木の特性っていうか持ち味っていうのを見極める。

「連衆」1年間かけてですか(ひるむ)

「会長」 はい。

「連衆」何かちょっとやって、“はい”って書かれたのかなと。

「会長」そうじゃないんですよ。1年待たないとといけないですね。もうその内に、下手したら忘れられてしまう。それでも、文句言えないという世界ですからね。

「連衆」 歴代天皇というか、勅銘香が多い天皇とかっているんですか。

「会長」おられますね、ええ。おられますねって言いながらぱっと出てこないんですけど、正解が。霊元天皇が割と多かったし、後水尾天皇も多かったと思いますね。

「連衆」 後水尾天皇はわりと、こう文化的な、何て言うんでしょう、レベルが高かったというかそういう意識が高い方だったのでしょうか。

「会長」はい、そう見たいですね。私もそこらへんは詳しく勉強してないんですけど、はい。
私が持ってる霊元院の勅銘香って言われるのが2つあるんですけど、真那賀なんですけど両方とも、聞いてると、さすがだなっていうふうに思いますね。ええそれで、付けられている銘が『波間』っていうのと『雲間』っていうのと。
それぞれね、なるほどってなんか思っちゃいますよね。「『雲間』ね、なるほど」って。
それは非常に不思議だなと思います。はい。やっぱりさすがなんだなって。だから、勅銘香に選ばれた香木っていうのは、やっぱりただものじゃないんだなっていうふうに思いますね。なんか、やっぱりわけがあるんだなと。
今度、真那賀やる時はそれ焚きますから。
『波間』と『雲間』と、その違いが大変面白いです。

真那賀もね、まぎらわしい木所なんで。

「連衆」 よく音楽をやっている人で感性が豊かな方で、音に色が見えるっていう方いらっしゃるじゃないですか。香りで色を感じる方っていうのはいらっしゃいますか。

「会長」おられます。今日、来ておられませんけど、聞香会に、ほぼ常連で来てる男性がおられるんですが、必ず色を言われますね。何が見えたとか。『惜しむ心』なんか、もうすごい神扱いですから、はい。なんか、いろいろおっしゃいます。

“いい香木を聞くと、そうやって出てくる”っておっしゃるんですね。

「連衆」1つの銘もしくは仮銘のある香木に対して緑が見えるっていうのと、または伽羅は例えば黄色でとか、木所によって色が見えるっていうのは、また意味が違ってくるじゃないですか。意味っていうか、感じ方が。その方はどちらで感じ取られてるんですか。

「会長」多分、木で。

「連衆」木所ではなく、木そのものに色を感じているわけですか。

「会長」五味の時に必ず見えますから。午前か、午後の方が多いのかな。遭遇されたら面白いですよ。聞いてみられたら、どんな感じなんだって。私もよく話は聞きますが、あんまりピンとこないので、自分では、色っていうのは。

「連衆」興味深い。

「連衆」 組香やっている時に、香りを覚えるのに、いろんな覚え方で、だいたいその香りに対して自分なりの色をイメージするとか、自分なりの音をイメージするとか、いろんな覚え方があると思うんですよね。だけど、たまたまその方は色で言われるかもしれないんですけど、その人が例えば“オレンジ”って言ったところで、自分的には“黄色なのにな”とか。

だから、あまり人のイメージを受けちゃいすぎるのも、ちょっと危ないかなと思います、香りに関しては。

「会長」それは、そうですよね。本当に千差万別ですからね。

「連衆」狭い例えばその人がすごく高い音のイメージがする香りだな、キンキンの香りのイメージだなって思っていても、ちょっと鼻の調子が悪かったりすると、どよよよーんって感じだったりもするので。何か香りに関しては、イメージ付けってすごく難しいなって、毎回、毎回思うんですよね。

「会長」ですよね。はい、あのメモが取れる流派ですか。メモ取れない?

「連衆」 志野流です。

「会長」志野流でしたか。ああ、じゃあ全然メモできないですよね。全く駄目ですよね。全部、頭の中で整理つけるしかないですよね。

「連衆」でも一応ちなみに自分で例えばね、ちょこちょこと組香をした時は、はい、ちょっとお答えを書いていたりもするんですけど。

「会長」でも、特徴をメモったりはできないですよね。

「連衆」 できない、そんな暇ないですよね、組香が始まるとね。

「連衆」(組香をもじって?、一同、笑ながら)
“黄色でしたね”“薄い黄色でした”なんか、そんな感じですよね“でも、あんまりクリアな黄色じゃなかったですか、さっき、ちょっと”、といった感じでしょうか。

「会長」(香炉の電源)切れていましたか。大丈夫ですか。

「連衆」大丈夫でした。

「会長」はい。いやもう、なんだかんだ言いながら30分ほど過ぎてしまいました。申し訳ありません、毎度。どうもありがとうございます。

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