おかえりモネ 菅モネの軌跡(東京編)
#俺たちの菅波
2021年9月3日、SNS上を #俺たちの菅波 が席巻した。
菅波とは2021年5月放送しているNHK朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』の登場人物だ。
おかえりモネは過去のブームとなったような朝ドラ作品とは違い、世間的には大きな話題にはなっていない。だが定番の朝ドラとは一線を画す繊細で丁寧な作品作りに熱狂的なファンの支持を得ている。その中でも最も支持されているのが主人公の永浦百音(通称モネ)と医師・菅波光太郎との関係だろう。
周りからは「小学生か!」と呆れられることもあるものの、2人独自の清らかでゆっくりと純粋で心に染みるように築き上げていく関係性にファンは虜になっているのだ。
その2人の軌跡をあくまで私なりに #俺たちの菅波 を見ている人の目線で個人的に分析をしてみようと思う。あくまで個人的見解で。
今回は第2弾東京での菅モネの軌跡。
百音上京し就職する
2016年4月百音は気象情報会社ウェザーエキスパーツ(WE)で働くため上京した。
住まいは祖父の知り合いから紹介してもらった勝鬨橋の近くにある汐見湯という銭湯をリノベーションしたシェアハウス。
大家である井上菜津のもと、先に上京していた幼馴染・野村明日美(すーちゃん)と一緒に暮らすようになる。
上京当日に場所確認の為に会社見学に行ったところ、社員に多数のインフルエンザ感染があり人手不足もあり、そのままニュース番組の手伝いに連れて行かれ、面接を受けることなくあっけなくアルバイトとして正式採用になったのだった。
念願の気象情報会社での仕事は「報道気象班」として平日朝の情報番組での中継お天気コーナーを担当。朝3時30分出社・11時30分退社という勤務を続けることになる。
家族やサヤカら登米の人達に東京での就職を報告。菅波へも上京と就職決定、早速体験した気象の仕事への興奮を伝える長文メールを送ったが、返信は「がんばってください」のみ。
長文のメールを送った自分が恥ずかしいと初めての感情に百音は少し戸惑うのであった。
登米での百音は菅波と毎日のように会うことが出来た、菅波が東京に居ても1週間待てば会うことが出来た。菅波へメールを送る必要もなく、話があれば直接出来ていたのだ。「がんばってください」も直接顔を見て言われれば違うのだろうがメールの文面だと素っ気なく思える。
今までのある種贅沢な環境と、上京しての違いが分かるエピソードだなと思える。
コインランドリーでの再会
百音と菅波が再会するのは4か月以上たった8月半ばまで待つことになる。
しかしそれまでの間に奇跡のようなすれ違いを繰り返すのだ。
菅波の勤める大学病院は百音が暮らす汐見湯の近所にあり、汐見湯に併設されたコインランドリーは百音も菅波も利用していた。それなのに作り話のような(作り話だが)すれ違いを繰り返す2人はまさに #俺たちの菅波 として見る者を「じらす」のだった。
就職して4か月以上が経ち仕事にも慣れてきた百音。ある時天気の急変による大雨の事故をきっかけに情報コーナーで自然や水の怖さや危険ばかり強調していた。上司に指摘され水の大事さ天気の楽しさを忘れていた自分にショックを覚え落ち込み、誰かに話を聞いてほしいとコインランドリーで悩んでいた時声を掛けたのが菅波だった。
運命の再会。久しぶりに菅波の顔を見て笑顔になる百音。
話を聞いた菅波は百音が念願の仕事に就いて結果を出そうと意気込みすぎる「ど新人の空回り」であること、他人が傷つくことを恐れすぎていること、故郷の島での経験が百音を追い詰めているように見え少し心配だと分析する。
菅波の話を聞き、納得し吹っ切れた百音。
改めて自分の事を深く理解してくれて的確なアドバイスをくれる菅波の大切さを再認識したようだった。
一方菅波は東京での生活で髪形や服装などがあか抜けて美しくなった百音に第2の一目惚れをしたように思える。登米の頃封印していた百音への想いが徐々に溢れていくようになる。
深まる2人
これ以降百音と菅波の交流はどんどん増えていく。
百音は報道の仕事に加え、スポーツ気象班としての仕事もするようになる。
鮫島というパラリンピックを目指す車いすマラソンの選手を気象の面からサポートするチームに加わる。そのチームに菅波も医療サポートとして加わることになる。
登米では菅波と様々な事を話し相談したが、主な内容は進路や資格試験で森林組合の仕事については話すことは無かった。
しかし鮫島を通じて2人は同じ目標を目指して仕事をすることになり、2人の関係はよく深まっていく。
百音にとっての菅波が「心から信頼する先生」に加え「信頼して一緒に仕事ができる人生の先輩」という新たな一面が加わったように思える。
菅波も百音を見守り導くべき存在に加え、同じ社会人として対等に語り合える存在になったように思える。
この辺りから脚本・演出・演技全てが2人を見ている者に対して何が正しいのか?本当はどうなのか?と考えさせるようになっていく。繊細で丁寧ななかに(良い意味での)不親切さ・不明瞭さが溢れることにより、登米の頃は森林組合の人達と同じように暖かく見守る気持ちで見ていたのだが、何を考えているの?どういう表情?と深く考えることでまるで当事者のように、百音や菅波の気持ちが乗り移るような感覚を覚えるようになっていく。
百音の気持ちを推し量る事ことは本当に難しい。
菅波のことを本当に大切な存在だと思っていることは間違いない。しかしまだ恋としての好きだという気持ちに気付いていないようだった。
しかし百音の周りの人達は違った。
同じシェアハウスに住む幼馴染の明日美は上京当初より百音に気になる人がいることを本人より先に気付くし、初めて菅波と会った際には即座に百音が好きなのだと感じ、菅波との関係を進めるよう背中を押すのだった。
コインランドリーでの手当て
そして2人の中で関係を大きく動かす出来事が起きる。
2人が出会った頃菅波より言われた言葉の真相も明らかになる。
「あなたのお陰で助かりましたという言葉は麻薬です」
これは菅波が初めて助手として担当した時の悔恨からきた言葉だった。
百音は過去に何があったか聞いた。
菅波は過去にあった事を語り始めた。
患者は病気を発見してくれた菅波へ何度も「先生のお陰で助かりました」と感謝してくれた。初めての患者に感謝され嬉しく突っ走ってしまい、患者の為と思い冷静な判断を誤り、患者は命こそ助かったものの、患者が人生をかけてきた仕事を奪うことになったと。
悔恨の想いを涙ぐみながら話す菅波の背中に百音は優しく手を当てさするのだった。
今まで菅波に話を聞いてもらい助けてもらうばかりだった百音が初めて菅波が抱えている痛みを知りたいと思うようになった。
菅波も自分についてはほとんど話したことはなかったが、初めて自分が最も後悔していることを百音に話せた。
そして百音は菅波に背中に手を当てる。半年前に登米で百音が後悔の念を話した時菅波がどうしても出来なかったことを。
「人の手とはありがたい物ですね」
百音に感謝を伝える。2人とも涙ぐみながら。
この時に2人は今までお互いを思いやり、さらに一段深いところで心と心が通い合ったように思える。
菅波の快進撃
ここからの菅波の恋愛モード爆走が始まる。
次に百音と会った時には蕎麦屋で昼食を取らないかと誘う。
出会って2年半、初めての食事に誘う。その不器用な誘い方に明日美(と見ている者全て)から「蕎麦屋くらい普通に行け」と心で突っ込まれつつ、初めてのデート。
その直後百音の父・耕治と祖父・龍己が訪ねて来る。
場の流れで龍己が養殖した牡蠣を食べなければならない状況に陥る菅沼。過去3度牡蠣を食べて3度とも食あたりになった経験があり以降牡蠣を食べるのを拒否していたが、百音の為に決死の覚悟で食べる菅波。
耕治が(早とちりで)百音の彼氏と挨拶をしたいと連れてこられ対面。
耕治へ「永浦さんに何かあれば出来ることはするつもりです」と宣言。ほぼ告白。
見ている者としては、「菅波良くやった」「さすが菅波」「#俺たちの菅波」 状態だった。
さすがの百音も自分の気持ちも菅波の気持ちも気付いてはいるのだろう。菅波との会話やその時の表情にドキドキしている感じが伝わってくる。ちょっとした挨拶にも気持ちがこもっている様子は傍から見れば完全の両想いなのだが、相変わらず分かりやすくきちんと伝えないのだった。
この辺りの甘酸っぱさ、ドキドキ感、見ている者には本当に堪らない時間だった。
コインランドリーの奇跡
そして運命の2016年11月26日(我々の時間で2021年9月3日)がやってくる。
菅波は百音を訪ね自分の想いを伝える。
「あなたが抱えてきたことを正確に理解して受け止められない。でも登米に行きあなたに出会って自分は少し変わった。今なら少しは受け止められる。いや受け止めたい」
そしてまだ心に痛みを抱える百音へ
「あなたの痛みは僕には分かりません。でも分かりたいと思っています」
と抱きしめながら伝えるのだった。
百音も大学病院を離れ登米へ専念するという菅波へ、会えなくなる寂しさから手を握りながら
「私は先生が目の前から居なくなっちゃうの嫌だって思っているんです」
と気持ちを伝えるのだった。
未だかつてこのように美しい「I love you」があっただろうか?出会って2年と8か月。やっと2人はお互いの気持ちが通じ合った。
大フィーバー・歓喜と祝福の
しかしことはすんなりと行かない。
両想いになったのに4か月後の2017年4月から菅波の登米診療所専念が決まり早くも遠距離恋愛にとなってしまうのだ。
菅波の仕事について理解する百音は会えなくなる寂しさを抱えつつも表に出さない。
しかし4月が近づいても菅波は仕事が忙しくすれ違いばかりでなかなか会えず寂しさが募るのだった。
そんななか菅波はとんでもない行動にでる。なんと百音に自分のアパートの合鍵を渡したのだ!
見ている者としては、あの奥手で堅物の菅波が合鍵を渡す?
どうした菅波。どこまで行って成長するのだ、菅波!といった心境になっていた。
同時に百音の寂しさが見ている者にも伝わり、まるで自分の事のように2人が上手くいって欲しいと願うのだった。
そして2017年3月26日、2人は久しぶりに会うことが出来た。
百音は今までの寂しさと今後の不安を菅波にぶつける。
「もう簡単に会えなくなっちゃうのに、全然時間が無くて。でもそれは仕方ない」
「でも離れちゃって大丈夫なんですかとか」
「待ってたんです、ずっと。鍵なんか渡すから」
「会いたかったんです、ちょっとでもいいから」
「でも先生行っちゃうから、返します」
と言って合鍵を投げる百音。
菅波はその合鍵をキャッチして言うのだった
「結論から言えば大丈夫です。今後何を投げられても、あなたの投げるものなら僕は全部取ります」
これを聞いた百音は菅波に胸に飛び込むのだった。
百音は他人に何かを要求することをほとんどしない。
寂しくて会いたくても自分から会いたいとは言わない性格だった。
でもこの時は初めて菅波に自分の気持ちをぶつけた。
初めて恋する百音が全開になった。
遠距離になり不穏な空気を感じ、2人の関係は大丈夫かと不安に押しつぶされそうになっていた見ている者も、この百音の分かりやすい行動には胸を熱くし、再びの菅波の「I love you」を越える名言に絶叫するのだった。
こうやって東京での百音と菅波を振り返ると意外な事に気付く。
物語ではすーちゃんや登米の野次馬さん達が2人のじれったさにやきもきしている。
すーちゃんにいたっては進展しない2人を見て「小学生か!」「もぉぉ、どっちの問題!」と嘆いている。
しかし登米ではあんなに頑なだった菅波が東京での再会以降かなり積極的なのだ。
もちろん菅波らしく奥手で不器用ではあるが、再会からコインランドリーで抱きしめるまでわずか3カ月ちょっとなのだ。これって結構なスピード感。
対して百音の反応の分かりづらさといったらまさに「小学生か!」である。
明らかに「好きやん」という反応を見せたかと思えば、次には菅波に対して戸惑ったような表情も見せる。菅波も見ている者も翻弄されっ放しだ。
登米では2年かけ他には無い2人だけのオリジナルな関係を築いた。この強固な土台の上に築いた東京での関係も普通の恋人同士では無いオリジナルな「菅モネ」な関係だった。
2人が出会って3年。登米から東京へと続いた2人の関係に1つの区切りがついた。
物語は2年半の空白を経て新たな展開を迎える。
見ている者としては山の神様でも海の神様でも空の神様でもいいので「2人に幸せな未来を!」といった心境である。