何の仕事をしたいかよりも誰と一緒に仕事をしたいかのほうが重要なのかもしれない
警察官の新任時代、上司や先輩から「希望する係はどこだ?」とよく聞かれた。そのたびに「刑事課です」と答えていた。理由は、刑事課は警察の花形でカッコいいと思っていたから。
大学生の時に流行ったドラマ「踊る大走査線」の影響も大きかった。青島刑事みたいに人情味のある警察官になりたいと思っていた。
漠然と刑事課に憧れていたけれど、具体的に刑事課のどの係で仕事がしたいかまでは考えていなかった。
結果的に僕は泥棒捜査を担当する盗犯係を選んだ。それは、盗犯係で新任刑事研修をした時に、指導員の巡査部長が真剣に僕の成長を考えて叱ってくれたから。加えて盗犯係の雰囲気が性に合っていると感じたのもある。希望する係は人それぞれ違うが、決め手になるのは誰と一緒に仕事をしたいかが重要だと思う。
係の選び方の王道は内勤の応援をしながら決める
新任警察官で、将来の希望する係を明確に言える人は少ない。それは当たり前だ。その時点では、内勤の仕事内容や雰囲気など全くわからないのだから。
警察学校を卒業して交番で勤務をし始めると書類の引継ぎなどで刑事課、交通課、生活安全課、警備課などの内勤の人と関わるようになる。その中で新任警察官は徐々に顔と名前を憶えてもらう。
そして、内勤の大規模な捜査や重大事件の発生などで人手が足りない時に交番の若手警察官に応援が必要になる。若手警察官は、いろんな内勤の応援をする中で、自分に合う係を見つけていく。
そして自分の希望が明確になれば、交番で実績を上げてアピールしたり、休日返上でお手伝いをするなどして、内勤への道を切り開いていく。これが王道のパターンだ。
研修で尊敬できる人に出会う
僕は、新任で交番勤務を約3カ月した後、1カ月程度、泥棒捜査を行う盗犯係と殺人や暴力事件などを取り扱う強行犯係で研修をした。
盗犯係の研修で僕の指導員は当時30代前半のA部長だった。常に冷静沈着で何が起きても動じず、物腰の柔らかい人だった。
ド新任だった僕はA部長の腰巾着のようについて回り、やることといえば、お茶出しとコピーぐらいだった。
A部長は僕が毎日提出しなければならない研修レポートを事細かにチェックして何度も書き直しを命じた。僕のミスを叱る時も1から10まで僕が納得できるように丁寧に説明してくれた。1対1で面と向かって、僕のことを若手の刑事課員として指導してくれた。
最初こそ、2週間だけの新任研修生なのに、なぜここまで、細かく指導するのかと不満に思っていた。
けれど徐々にA部長が愛情を持って指導してくれているのが感じられた。叱られているけど、それは僕の成長を信じて言ってくれているのが伝わってきた。指導された内容は全く覚えていないが、A部長の熱意だけは今でも覚えている。
研修が終わるころには、このまま盗犯係で仕事がしたいと思うようになっていた。A部長の期待に応えたいと思うようになっていた。
また、盗犯係の雰囲気も僕の性に合っていると思った。物静かで闘志をうちに秘めるタイプの人が多かった。
盗犯係での2週間の研修を終えた後は、強行犯係での研修が始まった。そこでは、完全にお客様扱いだった。お茶出しと取り調べの補助をしたことくらいしか覚えていない。
また、強行犯係は外交的で正義感が強い人が多くて、心身ともに屈強な人が集まり、怒号が飛び交う場所で、性に合わないと感じた。
それから3年後、機動隊を経て盗犯係に入ることができた。念願のA部長と一緒に仕事をすることができた。
結局は誰と一緒に仕事をやりたいか
僕の場合、若手の時に経験した出会いで希望の係を決めた。信頼できる人と一緒に仕事がしたいという気持ちを優先させた。
だから、将来自分がやりたいことというのは、何がしたいかよりも、結局は誰と一緒に働きたいかが重要だと思う。そういう意味で仕事で一番大事なのは人間関係だと言う人が多いのは納得できる。
最後に
将来自分が何をやりたいか、どの係を希望するかがわからない人は、人と関わる機会を増やすことから始めてみると良い。一緒に仕事をしたいと思える人と出会えるかもしれない。それが、自分の理想の係を見つけることに繋がる。
理想の仕事は何を優先するかで人それぞれ異なるが、僕にとっては、信頼できる人、尊敬できる人と一緒に仕事をすることが最優先事項だった。
それができれば、どんなに厳しく指導されようとも平気だと思えた。実際に盗犯係で勤務した1年半は、僕の警察人生の中で一番大変できつかったけど、仕事を楽しむことができた。
結局は、仕事は何をやるか、何をしたいのかよりも誰と一緒にやるかのほうが重要なのだ。
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