【800字怪談】着信
南さんが出張から帰ってくると、マンション前の道路に花が供えてあった。
事故かな? 車なんて大して通らないのに。そう思いながらボタンを押してエレベーターが降りてくるのを待った。
携帯が鳴ったので見ると彼氏からだ。
今から行ってもいいかというメールだが、ホテルでよく眠れなかった南さんは、とにかく今日は帰ったら速攻で寝ようと決めていた。
返信したところで八階に着きドアが開いた。
南さんの部屋は通路の奥にある。途中の蛍光灯が切れかかっていてちらちら点滅していた。
廊下の突き当たりの壁に小さな花束が立てかけてあるのに気づいた。南さんの玄関の目の前だ。
まさか。たちまち道路の花束との関連を理解した南さんは、彼氏の訪問を断ったことを後悔した。
やっぱり来てもらおう。そう思って携帯を取り出すと、南さんが掛ける前に着信音が鳴り出した。
彼氏からだ。
「今電話しようと思ったのよ」
するとむっとした声が返ってくる。
「家の電話壊れてるの? ぶちぶち切れちゃって、こっちから掛けてもつながらないし……」
南さんは何のことか分からなかった。
鍵を開けて玄関に入りながら詳しい事情を聞いた。
彼氏によるとメールした直後、南さんの自宅から着信があったという。出るとすぐに切れるを繰り返し、自分から掛け直してもやはり切れてしまうのだという。
電話はしていない、今帰宅したばかりだと南さんが説明しても「間違いなくお前からだった」と言い張った。
不機嫌な彼氏をなだめてとにかく部屋には来てもらうことになった。
部屋の電話はテーブルの上にある。
あんなことを聞いたばかりだから、電話の近くにいたくなくて窓際に椅子を置くと、テレビの音量を上げて彼氏の到着を待った。
そのせいで南さんは気づかずにすんだのだ。
「記録が残ってるはずだから見てやる」
着くなりそう呟いた彼氏が受話器の下にそれを見つけた。
「虫かと思った」
菊の花びらだ、と南さんにはすぐ分かった。
ドアの外にあった花だ。
(ビーケーワン怪談大賞投稿作、2005年)