婚活15日目
ここは雑居ビルの屋上で二人が登ったこのビルは他の建物とは比べ物にならないぐらい高さで見晴らしがとてもよかった。慶太はフェンスの正面へとむかっていきそこには小さな鉢があり吸い始めたばかりのタバコをお線香のように立て静かに手を合わせた。
【瑠璃もお線香あげて!】
慶太はもう一本タバコを手に取り火をつけたタバコを瑠璃に手渡した。
『うん?』
瑠璃は状況はわからないが誰かが不幸にあった事は悟った。
【悪いね。付き合わせちゃって!でもこの街の景色も捨てたもんじゃないでしょ?下に降りれば嫌な事ばかりだけど、この景色見るとこの地域も捨てたもんじゃないってよく考えるんだよね】
『ここって最初に知り合った場所の近く。もしかして』
【そう、瑠璃と出会った時はここを訪れた時の帰りだったんだよ】
瑠璃は辺りを見渡し、夜風に辺りながら街灯を見渡した。
『でも、ここが墓場って?』
【俺らの同級生の隼人って覚えてるよね?】
『あー!慶太といつも一緒に居た子ね?』
経緯はこうである。
慶太と隼人は同じ小学校でいつも遊んでいた。しかし、慶太は小学校低学年の時に転校をしてしまったが、それでも隼人は慶太と連絡を取り続けていた。
気付けば20代となり、距離があっても毎月のように酒を嗜む関係となり、
親友の存在であった。
30代に差し掛かると、お互い婚活を始めるようになり、その情報交換相手としてもライバルとしても活動を継続していた。
隼人は婚活を始めてパーティーで知り合った人と交際1年半で成婚を確定させたが、その途端に彼女と会える時間が遠のき同棲を始めてから帰って来るのに日を跨ぐ日が続いた。
数日後、彼女は隼人から多額の現金を持ち逃げし、隼人は人生の路頭に迷いこのビルで飛び降り自殺を謀ったとの事であった。
瑠璃は隼人の墓場だと言う事に直結した。
【ハンバーガー食ったばっかできついかもしれないけど、良かったら飲んでよ!】
慶太は瑠璃に向かってビールを一本放り投げ瑠璃はそれをキャッチした。
この景色で飲むビールはやたら美味しく感じた。
【さっきはごめん。なんか瑠璃の話を聞いたら真剣に婚活をやっている女性って本当はいないんじゃないか?っとか怖くなってきちゃってさ。女なんてみんなそんなもんなんかなーっとかネガティブに考え始めちゃったんだよ】
慶太は涙をこらえ缶ビールを持つ手の震え方が尋常ではなかった。
隼人への無念の辛さが静かに瑠璃にも伝わった。