婚活10日目
一刻と時間は過ぎてしまい、ようやく目が覚めた。
私はお化粧をしたことがない。できない。知らない。ふと、母親の口癖をこのとき思い出した。
「最初からできる人なんていないよ」
脳裏にその言葉をかすめた。
瑠璃はレジへと並びさっきの店員さんの元へと近寄った。
『あっ!あの!えっと、その!』
「はい?」
瑠璃は30を過ぎてから懇親の勇気を振り絞って大きな声で
店員に一言伝えた。
『初心者でもできるアイシャドウのセットをください』
店内は静まり瑠璃へと視線が向けられた。瑠璃は恥ずかしそうに口元を抑えうつ向いた。
しかし、店員は何事もなかったかのように売り場へ案内し、初心者でも簡単にできるメイク方法を教えてくれた。
「まずはお試しにこちらでどうでしょう?とてもお求めやすいですよ」
女性店員はセットで1999円の商品をおススメしてくれて瑠璃は購入した。
「あと、こちらなんですけどよかったら見てください」
女性店員から名刺とアドレスのような物をもらった。スマホを見ると正常に動くようになっていて、時刻はかなり遅めの時間となっていた。
家路を急ぎお腹を空かせているネコに餌を与え、慶太に苦情の電話をかけた。
【はい!もしもし?瑠璃かーどうしたの?】
『どうしたのじゃないわよ!何なのこのアプリ!』
さっきまであった出来事を全て伝えた。
【はっははははは!それは災難だったね!瑠璃!】
『R.Kって何なのこれ!』
【アプリだって!】
『それは分かるけど~』
【まあ、気長に関わってよ!後さー来週の土曜日オープンの婚活パーティー行くでしょ?その帰りに会おうよ!18時にこの前の公園で待ち合わせね!】
『予約はしてるけど・・・』
【じゃあその時間で~またねー】
『ちょっちょっとー』
一方的に電話を切られてしまった。そして、瑠璃はこのアプリにオープン形式の婚活パーティー当日まで振り回され続けた。
いつものようにすっぴんマスクで会社に行こうとしてもスマホ画面には
「昨日、購入したメイク道具を使って出社しろ」
「昼食はお米を少し減らせ・野菜から食べろ」
「帰りにはデパートを寄れ」
「帰りは河川敷を眺めながら歩け」
「職場の女性を一つで良いから褒めろ」
このような無茶振りばかりで振り回され続けた。連日このような事ばかりで瑠璃は疲れ果ててしまった。そして、オープン形式のパーティー当日。
瑠璃は戦場へと向かった。
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