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羽賀研二容疑者らが逮捕された強制執行妨害被疑事件に関して触れられていない視点

羽賀研二容疑者らが強制執行妨害容疑で逮捕

 元タレントの羽賀研二容疑者らが強制執行妨害容疑で逮捕されました。画像は「笑っていいとも」で検索してヒットした画像をお借りしています。

 元タレントの羽賀研二(本名・當眞美喜男)容疑者が9月25日、強制執行妨害などの疑いで愛知県警に逮捕された。
 羽賀容疑者は未公開株詐欺事件で実刑判決を受け服役し、2021年9月に出所していたが、被害弁済を命じられていた。2023年6月、羽賀容疑者は、所有する沖縄県内の不動産を、自身が代表を務める会社に所有権が移ったと装う虚偽の登記をした疑いがもたれている。不動産収入を隠し、弁済を逃れる目的があったとみられている。
 3度めの逮捕となった羽賀容疑者に、SNSでは「またか」という冷めた反応が多数を占めている。だが今回、ともに逮捕されたメンツには驚きの声が……。
 「今回、逮捕されたのは、羽賀容疑者を含め7人。元妻の當眞麻由容疑者、暴力団組長の松山猛容疑者らです。驚くのは、そのなかに日本司法書士会連合会副会長の野﨑史生容疑者も含まれていたということです。
 虚偽登記の事件ということで、司法書士も加担していたのはわかるのですが、それが会員数2万2000以上という大きな組織の要職にあった人物というのは衝撃です」(社会部記者)
 旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)問題の追及などで知られる紀藤正樹弁護士は9月26日、自身のXを更新。
 《逮捕者の中に司法書士が。しかも現役の日本司法書士会連合会の副会長。芳賀研二はともかく司法書士会の大不祥事。会の記者会見も必要です》
 と指摘。ほかにも
《いやいや、羽賀研二どうでもいい えらいこっちゃ 司法書士が信頼できなくなるって言うレベルやんこれ》
《タレントより反社組織のトップと司法書士連合会の副会長が同じ事件で逮捕されたことのほうがよっぽど衝撃的なんだけど、なんであんな報道なの?》
 などの声が。
 日本司法書士会連合会は9月26日、公式HPに「当連合会副会長逮捕に関する会長談話」を掲載。
「被疑事実の有無については今後の捜査を待つことになりますが、報道内容が事実であるとすれば、そのような行為は到底許されるものではなく、極めて重大な事態であると厳粛に受け止めています」「当連合会の役員から逮捕者が出たことは誠に遺憾であり、国民の皆様に不安を与えたことにつきお詫び申し上げます」
 と謝罪している。
 野﨑容疑者のFacebookは、26日現在も閲覧可能となっている。司法書士として全国を飛び回る多忙な様子を、こまめに投稿していたのだが、更新は2015年3月が最後となっている。いったい、何があったのか――。

FLASH「『タレントよりよっぽど衝撃的』羽賀研二『3度目逮捕』以上に注目集める共謀容疑者の驚くべき”肩書”」

 この時間において、司法書士連合会の副会長の野崎史生容疑者が逮捕されていることに着目している人が多い訳ですが、本当に着目すべきは六代目山口組三代目弘道会十代目稲葉地一家総長の松山猛こと松山猛善容疑者がともに逮捕されていることです。
 暴力団組織で十代目まで代替わりをしている組織ということで、芝居などで有名な国定忠治を祖に持つ八代目上州国定一家や清水次郎長を祖に持つ六代目清水一家よりはるかに長い期間継続している暴力団組織であり、三次組織ではあるものの、極めて「名門」であるとも言えます。

山口組分裂抗争で若中が殺人事件を起こしていた稲葉地一家

 この稲葉地一家は、若中である吉井誠容疑者が山口組分裂抗争で対立する池田組志龍会幹事長の上津曲哲也さんを殺害した容疑で逮捕されています。しかも、その手口は宅配配達員を装って荷物を受け取りに来た上津曲哲也さんを銃撃するという計画的な犯行でした。

 10年目に突入した分裂抗争は、六代目山口組と、離脱した神戸山口組、絆會、池田組という3団体との間でしばらく膠着状態が続いていた。そんななか、一気に均衡を破る事件が勃発した。フリーライターの鈴木智彦氏がリポートする。
 9月9日午後3時27分頃、宮崎市田代町にある池田組・志龍会の事務所に訪問者があった。
 年配の男は宅配業者を名乗り、手に小さめの段ボール箱を持っていた。報道によると、作業着姿でIDカードのような身分証を首から提げていたらしい。事務所のドアが開き、留守番の幹部が箱を受け取ろうとした瞬間、男は持っていた拳銃を幹部の胸をめがけて発砲した。近隣の住民は複数回の発砲音を聞いている。司法解剖では2発の弾丸が被害者の左胸と臀部に命中していた。
 銃撃の衝撃なのか、撃たれた被害者はもちろん、ヒットマンも後方にはね飛ばされたように見えた。
 まるで見てきたかのように語れるのは、暴力団間のLINEで、防犯カメラの動画が回ったからだ。映像では上半身しか確認できず、ヒットマンが白いシャツを着ていることしか判別できない。
 銃口から被害者までの距離は30センチ程度で、強い殺意がうかがえる。
「銃撃後、犯人は現場から逃走せず、現場にとどまっていたらしい。志龍会本部付近で警戒中のパトカーが到着すると、両手を上げて自らパトカーに乗り込み、警察官に殺人未遂の現行犯逮捕されたようだ」(警察関係者)
 被害者は市内の病院に運ばれ、その後、死亡が確認された。
 ヒットマンの身柄はすぐに判明した。吉井誠容疑者(63)は、六代目山口組弘道会稲葉地一家の幹部だった。
 弘道会にとっては2023年4月、神戸市長田区のラーメン店で直参組長を射殺されており、報復を実行する必要があった。ラーメン店を営んでいた直系組長を殺したのは絆會の若頭だったが、絆會は友好団体である池田組からの資金提供と引き替えに請け負った可能性がある。
 ヤクザの報復にエビデンスはいらない。弘道会は池田組をターゲットに選び、直接銃口を向け、銃弾を撃ち込んだと考えられる。

ポストセブン「【独走レポート】『山口組分裂抗争』10年目の重大局面へ 宅配業者を装ったヒットマン(63)の執念と幾重にもねじれた哀しき人生」

 暴力団の抗争においては、警察は実行犯と組織のトップの共犯を立証するために微罪逮捕を繰り返す傾向にあります。吉井誠容疑者が「カエシ」のきっかけとして行った疑いが非常に強いと思われる三代目弘道会直参の「ラーメン組長」こと湊興業組長湊学さん殺害事件においても、実行犯の金澤茂樹こと金成行容疑者の逮捕後に組織のトップであった絆會会長の織田絆誠こと金禎紀さん、絆會と連携していた池田組の池田孝志こと金孝志さんが揃って逮捕されたことも記憶に残りますが、稲葉地一家の若中が池田組の直参である志龍会の幹部を殺害しているわけですから、稲葉地一家の総長の逮捕は警察の既定路線であった可能性が非常に高いといえます。1年以上前の事件がこの時期に強制捜査に入って関係者の逮捕という結果となっているのもこの推論を裏付けていると言えるかもしれません。

紀藤正樹弁護士の認識や発言は正しいのか

 この事件に関してリンク法律事務所の紀藤正樹弁護士が次のように述べています。

逮捕者の中に司法書士が。しかも現役の日本司法書士会連合会の副会長。芳賀研二はともかく司法書士会の大不祥事。会の記者会見も必要です>司法書士の野崎史生容疑者(57)=うその登記で強制執行を妨害か=元タレント羽賀研二容疑者ら逮捕 虚偽登記の疑い―愛知県警 https://jiji.com/jc/article?k=2024092501161&g=soc

@masakki_kito

 このポストは日刊スポーツなどでも取り上げられました。

弁護士の紀藤正樹氏が26日までにX(旧ツイッター)を更新。元タレント羽賀研二容疑者らが虚偽登記の疑いで愛知県警に逮捕された一件に、司法書士が絡んでいたことに「大不祥事」と私見を述べた。
紀藤氏は、「逮捕者の中に司法書士が。しかも現役の司法書士会連合会の副会長。羽賀研二はともかく司法書士会の大不祥事。会の記者会見も必要です」とつづっていた。
羽賀容疑者のほか、虚偽の不動産登記をし、強制執行を妨害したなどとして、愛知県警が25日に7人を逮捕した。この中には、特定抗争指定暴力団山口組弘道会系組長の松山猛容疑者、司法書士の野崎史生容疑者らが含まれている。野崎容疑者は、日本司法書士会連合会の副会長でもある。
容疑は、他の者と共謀して23年6月に強制執行を免れる目的で、羽賀容疑者が所有する沖縄県北谷町の不動産の所有権が、代表取締役を務める会社に移ったと虚偽の登記をするなどした疑い。

日刊スポーツ「紀藤弁護士『司法書士会の大不祥事』羽賀研二容疑者とともに司法書士会連合会の副会長も逮捕」

 ただ、この事件を考えるうえで弁護士であるならば当然頭の中に入れておかなければならない法律の条文について、紀藤正樹弁護士は触れていません。司法書士法第21条です。

第21条 司法書士は、正当な事由がある場合でなければ依頼(簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く。)を拒むことができない。

 弁護士の独占業務である地方裁判所以上の訴訟代理関係業務や司法書士が業務としてなすことが認められている簡易裁判所の訴訟代理関係業務とは異なり、不動産登記の申請代理業務の依頼を断ることは、正当な事由がある場合を除き、懲戒事由となります。きちんとした添付書面が準備され、登記申請のための書類等の確認である立会いにおいて、きちんと金銭の授受がなされていたのならば、司法書士は申請をなす以外の選択肢はなくなります。
 そして、強制執行妨害目的財産損壊罪について刑法第96条の2は次のように規定しています。

第96条の2 強制執行を妨害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第3号に規定する譲渡又は権利の設定の相手方となった者も、同様とする。
一 強制執行を受け、若しくは受けるべき財産を隠匿し、損壊し、若しくはその譲渡を仮装し、又は債務の負担を仮装する行為
二 強制執行を受け、又は受けるべき財産について、その現状を改変して、価格を減損し、又は強制執行の費用を増大させる行為
三 金銭執行を受けるべき財産について、無償その他の不利益な条件で、譲渡をし、又は権利の設定をする行為

 例えば、羽賀研二容疑者が個人の不動産を適正な価額で羽賀研二容疑者の経営する会社に売却して、不動産の名義を会社名義にした場合は、不動産に代わって金銭が強制執行を受け、又は受けるべき財産ということになりますが、金銭は費消しやすいものであると考えられていますし、預金通帳などに入金されていなければ、金銭は不動産と比較して債権者の目が行き届きにくい財産であるとも言えます。
 適正な価額でなされた不動産の売買について登記を申請したことで、野崎史生容疑者が逮捕されたという可能性が残る以上、暴力団員に対する微罪逮捕がなされ得る状況も併せて考えると、紀藤正樹弁護士のような軽々な物言いはできないのではないでしょうか。