皇位継承に関する私見 2 ~皇位継承において重要と考える視点
皇位継承において重要と考える視点 ~天皇、皇族側から
男系継承こそが皇位継承のため重要であるという考え方は多くの方から述べられます。しかしながら、私はこれには大きな疑問を持っています。
天皇をお支えする皇族は、皇室典範第11条第1項及び第2項に基づいて皇族の身分を離れることができます。また、天皇や皇太子又は皇太孫に関しては皇族を離れるという規定はありません。天皇や皇太子又は皇太孫以外の皇族については、手続きに差異があるものの、皇族を離れることができるわけです。したがって、皇族が皇族のまま生きていくということは、皇族がたった一度の人生を一挙一動を国民やマスコミに注目され、自由に職業を選ぶことのできない不自由なお立場を受け入れられているのは国民が健やかにすごすことができるよう祈ることのために用いるというご覚悟をお持ちであるということにほかなりません。ゆえに、たった一度の人生を国民のために尽くそうとしている皇族に対し、国民が敬愛することもなく、感謝をすることもないとすれば、皇族を離れようとする方が増えていくかもしれません。
天皇、皇太子又は皇太孫は皇族を離れることができる規定がありませんが、天皇は宮中祭祀を行う立場ですし、皇太子又は皇太孫は天皇のなす宮中祭祀に同席して極秘とされる祭祀などのやり方を吸収する立場です。仮に天皇や皇太子又は皇太孫が宮中祭祀やそれそれのお立場でのご公務などをおざなりにするようになれば皇室は簡単にその存在価値をなくすことになるでしょう。そのようにならないためには、天皇、皇太子、皇太孫及び皇族と国民の間の信頼関係が肝要だといえるでしょう。
例えば、男系男子で皇位を継承させるために皇族方がよく知らない旧11宮家の末裔の男系男子を養子にとらせるようになったとしたらどうでしょうか。国が皇族方の家庭にまで踏み込んで見知らぬ男子や家族を養子にとらせるようになったとすれば、皇族方の家庭はめちゃくちゃになります。男系継承にこだわって皇族に特定の男子やその家族を養子にとらせようとする方は、そのために皇族方に大きな負担を強いることになることをどのように考えているのでしょうか。そして、そのような大きな負担を強いられる皇族方の心から国民のために祈ろうという気持ちがなくなっていくかもしれないことをおそれないのでしょうか。
皇位継承において重要と考える視点~国民の側から
国民の側から見て皇位継承において重要であると考える視点は、天皇陛下をはじめとする皇族方の権威が損なわれることがなく、国民が天皇陛下や皇族方に対して敬愛の情を持つことができるようなものであるべきであるということです。
いわゆる「旧宮家の皇族復帰」案とは、男系男子継承にこだわるがゆえ、その誕生から今まで国民が健やかに育つことを願い、その一挙一動に関心を持ってきた女性皇族より、どこで何をしていたか国民が全く知らない人物や、横浜市長選挙への立候補を検討していたほど我々国民と同様に俗世にまみれた竹田恒泰さんのような人物が天皇にふさわしいと考える案なのです。
また、「旧宮家の皇族復帰」案を唱える者が、女性皇族が天皇になりその子が皇位を継承した場合に皇統が女系に移り「王朝交代」が起こると主張するのを耳にしますが、生まれてから今まで一秒も皇族であったことがない国民として生きてきた方やその末裔の男子が天皇となることはそれ以上に「王朝交代」と表現されるべき事態であると私は考えるのですが、その辺りをどのように整理なさっているのかお聞きしたいものです。なお、11宮家の末裔には皇族であった期間を有する高齢者がいますが、天皇陛下以降の皇位継承候補者を論じる議論ではそれらの人物が考慮されるべきではないことは言うまでもありません。
更に、11宮家の末裔の男系男子が皇族となることについて、すでに国民から女性が皇族となっているから問題がないとする主張も耳にしますが、皇后陛下をはじめとする国民から皇族となられた方々は、ご婚姻によって皇族の家に入り、天皇や皇位継承候補者である配偶者をお支えする立場に留まり、天皇になることはありませんから、11宮家の末裔の男系男子を皇位継承候補者として迎え入れることとはまったく異なるものであることは明らかだと思います。
皇位継承において最も大切な伝統とは
皇位継承においては、伝統を大切にすることが重要であるという点については、私も意見を異にするわけではありません。しかしながら、何が伝統であるかの見極めは重要だと思います。例えば、旧皇室典範制定時に女性宮家を認めなかった理由として、伊藤博文は「女性皇族の配偶者の男性が当主であると誤解されるおそれがある」ということを理由に挙げています。現在は、そのようなおそれがなくなったわけですから女性宮家を認めても何の支障もないはずです。むしろ、男系男子継承にこだわって旧11宮家の末裔の男系男子を皇族とし血の継承を強くするために女性皇族と婚姻した場合の方が、世間は女性皇族が当主であると感じ、皇位継承候補者である男系男子に対する敬愛の情が下回ることになって支障があるのではないでしょうか。
私は、皇位継承において最も大切にする伝統とは、それぞれの時代において臣民や国民が天皇に権威を感じて敬愛し、天皇もまた権威を保ち臣民や国民のことを考えることによって皇位が継承されてきたという伝統だと思います。例えば、男系男子による継承が伝統であるとして、旧11宮家の末裔で我々国民とまったく変わらない世俗にまみれた人物を皇位につけることになるならば、今の時代で天皇の権威が失われて天皇の権威が危うくなるでしょう。それは、皇位継承を危うくするものであると思います。また、いわゆる「旧宮家の皇族復帰」という11宮家の末裔の男系男子を皇族とする案は、庶子による継承がなくなった現在においてその11宮家で男子が誕生せずに事実上の断絶となっていることからも、安定的な皇位継承に結びつくものではありません。11宮家の末裔が絶えたら今度は徳川将軍家の末裔などを皇族にする案でも持ち出すのでしょうか。将来、悠仁親王の配偶者となる女性が男子誕生を期待する周囲のプレッシャーを恐れて現れなかったり、そのプレッシャーによって心身の健康を損なうという悲劇的な事態になれば皇位の断絶が目の前の危機となるわけですが、男系男子にこだわる者はその事態を想像できないのでしょうか。それともその時代には自らはすでに天に召されていると考えているから無責任に男系男子継承を主張されているのでしょうか。