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松本人志さんと株式会社文藝春秋の民事訴訟に思うこと

松本人志さんが訴えを取り下げ

 漫才師の松本人志さんが名誉毀損による不法行為を請求原因として株式会社文藝春秋に対して提起した民事訴訟が取り下げられました。報道内容から考えると裁判外で和解が成立したものと思われます。

人気お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志さんが週刊文春の記事で名誉を傷つけられたと訴えた裁判で8日、双方が合意し、訴えが取り下げられました。

松本さんはこれまで参加した会合について「女性の中で不快な思いをしたり心を痛めたりした方がいれば、率直におわび申し上げます」とコメントを発表しました。

松本人志さんは、去年12月発売の週刊文春に、松本さんから性的な被害を受けたとする女性2人の証言が掲載され、名誉を傷つけられたとして、発行元の文藝春秋と編集長に5億5000万円の賠償などを求める訴えを起こし、文藝春秋側は全面的に争う姿勢を示していました。

その後、非公開での手続きが続いていましたが、8日、双方が合意し、訴えが取り下げられました。

双方の弁護士によりますと、金銭のやり取りやその約束などはないということです。

松本さんは、所属する吉本興業のホームページでコメントを発表しました。

その中で、性的行為の強制性の有無を直接に示す物的証拠はないことなどを確認したとしたうえで「多くの方々にご負担・ご迷惑をかけることは避けたいと考え、訴えを取り下げることとしました。かつて女性らが参加する会合に出席していました。女性の中で不快な思いをしたり、心を痛めた方々がいれば、率直におわび申し上げます」としました。

一方、週刊文春もホームページでコメントを掲載し「原告代理人から、心を痛められた方々に対するおわびを公表したいとの連絡があり、女性らと協議のうえ、取下げに同意することにしました」としています。

また、吉本興業もコメントを出し、松本さんの今後の活動について「関係各所と相談の上、決まり次第、お知らせさせていただきます」としています。

松本人志さんコメント全文

松本人志さんの代理人が発表した松本さん本人のコメントは以下の通りです。

「これまで、松本人志は裁判を進めるなかで、関係者と協議等を続けてまいりましたが、松本が訴えている内容等に関し、強制性の有無を直接に示す物的証拠はないこと等を含めて確認いたしました。
そのうえで、裁判を進めることで、これ以上、多くの方々にご負担・ご迷惑をお掛けすることは避けたいと考え、訴えを取り下げることといたしました。
松本において、かつて女性らが参加する会合に出席しておりました。参加された女性の中で不快な思いをされたり、心を痛められた方々がいらっしゃったのであれば、率直にお詫び申し上げます。
尚、相手方との間において、金銭の授受は一切ありませんし、それ以外の方々との間においても同様です。
この間の一連の出来事により、長年支えていただいたファンの皆様、関係者の皆様、多くの後輩芸人の皆さんに多大なご迷惑、ご心配をおかけしたことをお詫びいたします。
どうか今後とも応援して下さいますよう、よろしくお願いいたします」

松本さんの代理人弁護士コメント

松本人志さんの代理人の弁護士が発表したコメントは以下の通りです。

「当職らは、松本人志氏を代理して、(株)文藝春秋ほか1名を被告とし、松本人志氏の名誉を回復すべく、訴訟活動を継続してまいりました。しかしながら、この度、被告らと協議等を重ね、訴訟を終結させることといたしましたので、ご報告いたします。この訴訟終結に関する松本人志氏のコメントは、下記のとおりです。なお、報道関係者の方々におかれましては、偏向報道と受け取られる可能性のある内容や事実に反する内容を報道することがないよう、適切に対処されたく、念のため申し添えます」

週刊文春コメント

週刊文春がホームページで公表したコメントは以下の通りです。

「本日お知らせした訴訟に関しましては、原告代理人から、心を痛められた方々に対するおわびを公表したいとの連絡があり、女性らと協議のうえ、被告として取下げに同意することにしました。なお、この取下げに際して、金銭の授受等が一切なかったことは、お知らせの通りです」

NHK「松本人志さん 文春との裁判 訴えを取り下げ【コメント全文も】」

 松本人志さんと株式会社文藝春秋の民事訴訟(令和6年(ワ)1353号)については、東京地方裁判所で裁判記録の閲覧に何度か挑みましたが、記録閲覧の請求が殺到している状況であるとの返事をいただき現在も閲覧ができていません。なお、東京地方裁判所民事第12部に確認したところ、閲覧は予約制となっており請求したとしても相当待たされるという回答でした。

東国原英夫元宮崎県知事の本質をついていないポスト

 この報道に対して、東国原英夫元宮崎県知事が的外れなコメントをご自身のYouTubeで公開されているようです。

 元宮崎県知事でタレントの東国原英夫氏が9日、自身のYouTubeチャンネルを更新。松本人志が文藝春秋社らに損害賠償などを求めた訴訟を取り下げたニュースに言及した。
 東国原氏は、松本が8日に「強制性の有無を直接に示す物的証拠はないこと等を含めて確認いたしました」と発表したことに触れ「文春側は、真実相当性には自信があったが、真実性には自信はなかったんじゃないかなと思うんですよね」と推測する。
 実際に文春側は、一連の訴訟の争点は「真実相当性」にあると主張しており、昨年の〝第一報〟で被害女性として名前をあげた「A子」「B子」らへの取材を尽くし、真実だと信じるに足る正当な理由があったかどうかには強い自信を持っていた。このことから「訴訟覚悟でおそらく(文春側は記事を)出したんですけども、真実相当性というのを盾にしてですね。最初から物的証拠とか、客観的な証拠はなかったんです」と私見を語った。
 東国原氏はかねて被害女性が直接、松本を訴えることを提案している。この日も「被害者とされる側のプライバシー等々は守りながら、守られながら裁判は行われますから、それはもう堂々と訴えればよかったんですよ」とした上で「それをしなかったということは、やはりそういう事実がなかったんじゃないかな」と持論を展開していた。

東スポWEB「東国原氏 松本人志の”物的証拠なし”コメントで指摘『文春側は真実相当性には自信があったが・・・」

 名誉毀損を理由とする不法行為を請求原因とする民事訴訟においては、真実性又は真実相当性が認められれば名誉毀損をなしたとされる被告側の違法性は認められません。つまり、株式会社文藝春秋は真実性など立証しなくとも真実であると信じたことに客観的な相当性があることである真実相当性を立証すればよいわけです。そして、裁判所も判断しやすい真実相当性が認められれば真実性の判断をすることなく被告勝訴の判決文を起案します。
 東国原英夫元宮崎県知事は、知事時代に「宮崎県知事 東国原英夫」を名義とする行政訴訟を数多く提起し提起されたはずですが、そのような貴重な経験から何も学ぶことがなかったのでしょうか。

取材不足さんの迷走

 石丸伸二元安芸高田市長に関して取材をされている取材不足さんとおっしゃる方がいらっしゃいます。石丸伸二元安芸高田市長の民事訴訟などについて詳しく取材されており、参考にすることも多かったのですが、松本人志さんの民事訴訟では迷走しています。

ほー、なるほど。詳しくありがとうございます。提訴した側が証明しないといけない(松本さんが潔白を証明)と思ってました。

@skaduki

名誉棄損裁判では、提訴した側には名誉を棄損されたことを証明する義務があります。それは明らかなので誰も議論にしないだけです。これに対して被告は、真実性または真実相当性を示せば賠償を免れますので、そのことを言っています。また、元のポストの「真相が藪の中なら文春の敗訴」と書いた部分が重大な事実誤認でしたので削除しました。失礼しました。

@shuzaibusoku7

 この取材不足さんの削除したポストには、松本人志さんが週刊文春の記事の真実性や真実相当性の立証を崩すのは容易であるにもかかわらず、取り下げたことは株式会社文藝春秋の物証の前に敗訴を覚悟したからであるかのような内容が記載されていましたが、これには疑問が残ります。
 民事訴訟においては、原告の請求が認容された場合に被告に対して強制的に金員の支払いや謝罪広告などが命ぜられることになるため、原告が構造的に不利となっています。その大前提を無視した主張が信用されないのは当然のことであると思います。
 そして、松本人志さんと株式会社文藝春秋の構造的な有利不利というのはそれだけではありません。松本人志さんは生活の糧である仕事を犠牲にして民事訴訟に臨まなければならないのに対し、株式会社文藝春秋にとっては民事訴訟を続けることで裁判レポートなど週刊文春に記載することのできるネタが得られるメリットも大きい業務であるという点です。そして、名誉毀損を理由とする民事訴訟の相場を考えれば1000万円以上の慰謝料が認められることはまれで、記事に関する民事訴訟など株式会社文藝春秋にとっては痛くもかゆくもないものでもあります。松本人志さんと株式会社文藝春秋の民事訴訟を考えるうえでこの原告と被告の非対称性を頭の中に入れておかないと結論がおかしくなると私は思います。