
「国際的皇位継承ルール」なる珍妙な代物を持ち出しながら、国連の女性差別撤廃委員会の勧告への反論を支持する八幡和郎さん
もはや何をおっしゃっているのかわからない八幡和郎さん
女性差別委撤廃委員会が日本の男子継承に対して勧告をなしました。これに対する男系男子の継承に固執する者の迷走は酷く、気の毒になるほどです。
女性差別撤廃条約の実施状況を審査する国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)が、スイス・ジュネーブで8年ぶりに開かれ、10月29日に日本政府への勧告を含む「最終見解」を公表した。
その中では、毎回、扱われている選択的夫婦別姓の導入などとともに、「男系男子」を原則とする皇室典範の改正も勧告。これにより「愛子天皇に追い風か」などと話題になっている。なお、CEDAWは前回も皇室典範の改正に言及しようとしたが、日本政府の抗議で削除された経緯がある。前回の参加団体は左派・リベラル系が主だったが、今回は保守系6団体も参加した。
政府代表団も、「皇位継承のあり方は国家の基本に関わる事項であり、女性差別撤廃条約に照らし、取り上げることは適当でない」とし、「皇統を守る国民連合の会」会長の葛城奈海氏は、「天皇は祭祀(さいし)王だ。ローマ教皇やイスラムの聖職者、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ法王はみな男性なのに、国連はこれを女性差別だとはいわない」「さまざまな民族や信仰があり、それぞれ尊重されるべきだ。内政干渉すべきではない」と問題提起をした。
このほか、慰安婦は誤解だとか、北朝鮮拉致被害の救済を訴えるとか、皇位継承の骨子について、英語版パンフレットも用意し、委員らに手渡したという。
いずれにせよ、保守系の人たちは「日本のことに外国や国際機関は口出しするな」というだけで中身への踏み込み方が不十分だった傾向があったが、きちんと意見を出して、国際的な理解を求める努力を強化しているのは、良い方向だと思う。
だが、CEDAWの最終見解は「委員会の権限の範囲外であるとする締約国の立場に留意する」としつつ、「男系の男子のみの皇位継承を認めることは、条約の目的や趣旨に反すると考える」「他国の事例を参照しながら改正する」よう勧告した。そのため、林芳正官房長官は「強く抗議をするとともに削除の申し入れを行った」と発表した。
国連機関がその本来の設立趣旨からはずれた国家主権の根本にふれるようなテーマにおいて越権行為をすれば、余計な論争に巻き込まれて権威も失い、女性の権利を守るという本来の任務を果たせなくなる。また、資金を拠出する政府としても、このような本来の趣旨と違う活動に対し、厳しい抗議をすべきかと思う。
国連と丁々発止やり合うことはどこの国でもやっており、国連軽視でもなんでもない。日本は戦前の国際連盟脱退のトラウマから、個別機関からの脱退とか資金ストップをちらつかすことをやらないが、主要国ではそういう戦いもいとわないのが常識となっている。
さて、この報告が「愛子天皇」実現に向けた追い風という受け取り方もあるが、それは次の三つのことからも、正しくない。
(1)報告に拘束力はないし、(2)委員会の権限の範囲外とする日本政府の立場に留意しているのだから遠慮がちな意見表明だし、(3)他国の事例を参照というのがどういうことかも理解しなければならない。
たしかに、1990年代から男子優先が欧州諸国で後退する傾向にあるのだが、新原則は、制度改正以降に生まれる王族にのみ適用されている。
つまり、欧州諸国に準拠すれば、立皇嗣礼まで行われた秋篠宮皇嗣殿下、さらには成年を迎えられた悠仁さまへの継承には影響はなく、悠仁さまの次の世代の継承のときに初めて問題になる話だ。以下、欧州の7王家を検証しよう。
最近、ノルウェー国王第一子のイングリッド・アレクサンドラ王女が米国人の霊媒師と結婚して世界を震撼させた。だが、1990年の改正で男女問わず長子優先になったものの、改正以降に生まれた子にのみ適用されるので、弟のホーコン皇太子が継承することが決まっており、ノルウェー王室は事なきを得そうだ。
英国の王位継承法は、2013年に改正され、男子優先の長子相続(女王は可能だが、弟がいればそちらを優先)から男女平等の長子相続となった。
ただし、2011年10月28日以降に生まれた王族のみに適用される。ウィリアム王子の子は、長男のジョージ王子、長女のシャルロット王女、次男のルイ王子と生まれた順だが、チャールズ国王の兄弟では、2番目のアン王女およびその子孫より3番目のアンドリュー王子、4番目のエドワード王子およびその子孫が優先順位を保持している。
オランダの王位継承法も1983年に改正され、新しく生まれる子は長子優先になった。だが、当時のベアトリクス女王の長子はウィレム・アレクサンダー現国王であり、その子は王女3人だけなので、新原則が故に継承順位が変わることはなかった。
ベルギーでは、1991年改正で、新しく生まれた子は長子優先になった。だが、当時のボードワン国王には子がなく、皇嗣殿下だった弟のアルベール2世、その長子のフィリップ現国王という順位に変更はなかったい。ただし、次期国王からは新原則が適用されるので、次子のガブリエル王子でなく姉のエリザベート王女となる。
スウェーデンではカール16世グスタフ王の子として、長女ヴィクトリア王女に続き、カール・フィリップ王子が生まれ、国内での激しい議論の末、国王の反対を押し切り、ヴィクトリア王女が将来の女王とされた。
このスウェーデン王室のケースが、すでに生まれた子に適用した順位変更の唯一の例だ。とはいえ、順位変更は物心つくまでに行うべきだということで、カール・フィリップ王子が5月に誕生後、11月に法律改正、翌年1月に発効した。
したがって、すでに成年に達している悠仁さまの前例にはなるまい。
スペインでは伝統的に国王の子のなかで男子優先だが、女子だけなら女王となることになっており、現在も同じだ。現国王のフェリペ6世には2人の王女しかいないので、長女のレオノール王女が皇嗣であり、女性ながら職業軍人としての訓練を受け王位継承に備えている。
スペインは、2度も王制が倒れて共和国になるなど、何かと不安定だ。とくに、19世紀において、国王には王女しかいなかったため、弟でなく自身の王女に継承させたところ、内乱(カルリスタ戦争)が起き、王制転覆につながった苦い思い出がある。
一方、男子優先については国内で改正論もあり、CEDAWから勧告されたこともあるが、無視されている。CEDAWの委員長はスペイン人のアナ・ペラエス氏で、彼女が母国の状況に影響を与えたいために日本の皇位継承について言及することに固執したともいわれる。
いずれにせよ、CEDAWの勧告に従って欧州各国の例にならったところで、遡及適用はしないのが国際常識だということこそが重要である。現実として、悠仁さまは将来の天皇として厳しい帝王教育を受けられており、心身ともになんの問題もない。
また、現在の国会での検討の土台である「安定的な皇位継承策を議論する有識者会議」(座長・清家篤前慶応義塾長)の報告書が「結婚後の女性皇族単独残留」と「旧皇族養子」という二つの新提案をしたのは、国際常識に従っても悠仁さままでの継承は当然であるなかで、将来も男系男子継承を守ることも可能にしつつ、女系継承への芽も残した合理的な苦心の産物である。
世襲君主制は、長い歴史をもつルールに沿って運用されることで、強固な国民統合の礎となる。したがって、現行の制度で支障がない限り、変更には慎重であるべきだ。
まして、上皇陛下退位のときに制定された新たな法律にもとづき秋篠宮殿下が「立皇嗣礼」まですまされ、皇太子と同様であることを明確に定めたのである。その長男である悠仁さまが将来の天皇としての歩みを重ねておられるのを中断させる合理性は何もないし、その変更の可能性を議論するだけでも、国民の分断を招く。
ただ、悠仁さまのあとも、順調に継承が行われるとは限らず、その場合に、旧宮家の人々によって伝統的な男系男子継承を守るのか、女系継承も可とするのかは、今後の課題だろう。
とはいえ、悠仁さまから次の世代への継承は今世紀の最後あたりのことなのだから、両方、可能なようにしておけばいいことだ。ただし、どちらかの方法だけにすると、十分な皇位継承候補者を確保できない恐れもある。
記事の中で「皇室評論家」と表現されている八幡和郎さんは、国連女性差別撤廃委員会の勧告に反論する政府の姿勢を評価する一方、他の王国の事例を日本の皇室に当てはめようという主張を展開し、日本の皇室を「国際基準」に当てはめようとしているのかそうでないのかわからない状態となっています。国連女性差別撤廃委員会の勧告には反発する一方、敬宮殿下が天皇となることを止めたいという八幡和郎さんの内心があらわれているのではないかと私は思います。
危険水域にとっくに踏み込んでいる皇位継承
皇位継承については、とっくに危険水域に踏み込んでいます。皇位継承順位1位である皇嗣殿下は、天皇陛下と5歳しか年齢が変わらず、天皇陛下の次の世代の天皇として考えることには無理があります。また、皇嗣殿下が天皇に即位したとすると、年齢的にも上皇陛下のような長期の在位期間を望むのは難しいでしょう。その間に皇嗣となられる悠仁親王殿下が、現在は天皇陛下と皇嗣殿下しかご存知ない新嘗祭などの祭祀のやり方を受け継いでいかなければならないわけです。天皇の在位期間が短くなれば、秘法となっている祭祀がしっかりと継承されないおそれがあります。
そして、もっと大きな問題として残るのが悠仁親王殿下の次の皇位継承が絶望的なほど厳しいことです。悠仁親王殿下の配偶者となる女性が現れ、必ず男子を産まなければ断絶となるとんでもないプレッシャーの中に飛び込んでくださる女性が現れるという奇跡が起きることに私は懐疑的です。しかも、男子が誕生するまで女子が誕生しても喜ばれないという地獄のような光景が皇室で繰り広げられ、配偶者となる女性があまりにもおいたわしく感じられることによって、国民の気持ちとして人を地獄に落として継承される皇室に対する権威が著しく低下することが考えられます。
そして、天皇や皇室にとっても国民にとっても地獄という状況が展開される状況が展開される頃には年齢的に八幡和郎さんは天に昇っている可能性が高いでしょう。男系男子継承に固執することによって想定される未来の地獄をご自身は見ることがないから真剣に天皇や皇室の未来を考えていないのではないかと邪推すらしてしまいそうになります。
小林よしのりさんが「ゴーマニズム宣言」で良い表現を用いていたことを改めて思い出します。男系男子かつ嫡子による厳しい皇位継承のルールの中で、大正天皇、昭和天皇、上皇陛下のもとには複数の男子が誕生しました。小林よしのりさんはこれを「神風が吹いていた」と表現されましたが、私もそう思います。そして、「神風」は「神風」であるがゆえに必ず吹かなくなります。八幡和郎さんはもう少し真剣に皇位継承を考えた方が良いのではないでしょうか。