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名古屋高等裁判所金沢支部のとある民事訴訟控訴事件判決

令和5年3月22日判決言渡
同日原本領収 裁判所書記官

主文

1 一審原告X2の控訴及び一審被告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
2 一審被告は、一審原告X2に対し、10万5000円及びこれに対する令和元年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 (略)
4 一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 一審被告の一審原告X2に対する控訴を棄却する。
6 訴訟費用は第1、2審ともこれを5分し、その4を一審原告らの負担とし、その余を一審被告の負担とする。

(略)

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所は、原審とは異なり、一審原告X1の甲3のツイートに関する請求は5万5000円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、一審原告X2の本件控訴に関する請求は5万5000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これらはその限度で認容すべきであり、甲32のツイートに関する請求は5万5000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、一審原告X2は5万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で一部控訴しているから、、上記の限度で認容すべきであり、その余の一審原告らの請求はいずれも理由がないと判断する。以下、時系列に沿って、本件通話、甲2のツイート、甲3のツイート、甲32のツイートの順に説示する。

2 本件通話について

(1)前期前提事実及び証拠(甲9、10、43[2頁]、一審原告X2本人[調書3頁]によれば、一審被告は、本件通話の途中で一審原告X2に対して一審原告夫妻に子がいるかを尋ね、一審原告X2から子はいない旨の返答を受けた際に、「そんな親の子などいない方が良い。子が大きくなってインターネットで父親の名前を検索したときに、ひどい検索結果が出てくるだろうから。」との旨を述べたことが認められる。
(2)以上の認定に反し、一審被告は小さい子どもがいないかどうかを確認するために、その旨の質問をし、子どもがいなくてよかったと述べたにすぎない旨を主張し、一審被告本人もその旨の供述等をする(乙22[5頁]、原審一審被告本人[調書2頁])。
 しかしながら、仮に一審被告が自ら述べるような配慮をするのであれば、本件通話の冒頭に自ら述べるような質問をするのが通常であると考えられるが、実際には、一審被告本人が原審における本人尋問で述べるとおり(調書2頁)、一審被告は本件通話の途中で一審原告夫妻に子がいないことに言及しているのであり、そのような一審被告本人の供述は不自然との感は否めない。
 また、前記前提事実(1)ないし(3)及び証拠(甲9、10[1、2、5頁]、乙2、15、22[4〜5頁]、原審一審被告本人[調書1、15頁])によれば、一審被告は、差別に反対を掲げる団体内部で生じた暴力事件の被害者の写真とされるものが公開されたことについて、一審原告X1と同姓同名の名義の者がツイッターに同写真の公開を批判する趣旨の意見を投稿したのを見て憤慨し、何々寺の電話番号を調べて深夜というべき時間帯に架電し、応対したのが自らの親族でも友人でもない一審原告X1の妻であり、一審原告X1はその時点では不在であることを告げられていたにもかかわらず、1時間余りも本件通話を続けたものである上、「暴力する集団を支援している、クソ坊主に文句を言っただけですから。」「私、今日一日、気分悪かったんですよ。」「うちは[中略]屋久島の実家がお◯さんて言うから[中略]暴力事件を支援するような団体を応援しているお坊さんがいることに憤りを感じる旨を繰り返し述べていることが認められるのであるから、当時の一審被告が、一審原告X2や、いるかもしれない一審原告らの未成年の家族に配慮する余裕を残していたとは考えられない。
 そうすると、一審被告の主張に沿う一審被告本人の上記供述等を採用することはできず、他にも前記(1)の認定を左右するに足りる証拠はない。
(3)そして、証拠(甲9、10[2、5〜6頁]によれば、一審被告は、本件通話において、「きちっと表明しなかった場合には何々寺に報告する。」、「暴力事件を支援するような坊さんは許さない。[中略]ネット上で[中略]自分の間違いがどこだったかキチッと表明しろとお伝えください。」などと、自己の主張が容れられなければ、何々寺の本山に一審原告X1の言動を報告する旨を告げているのであるから、前記(1)において認定した会話の前にも同様の発言をしていたものと推認することができる。
 このように、一審原告X2が一審被告の意思に反して通話を断ち切れば一審被告から一審原告夫妻の社会的評価を損なういかなる報復を受けるかもしれないと考えざるを得ず、事実上、一審被告の一方的な意見表明を聴き続けることを強いられる状況において、一審被告は、前記(1)において認定したとおり、子を持つことを望むか否かというもっとも根源的な自己決定に関して、一審原告夫妻は子を持つべきではない旨の意見を押し付けたものと評価するべきであるから、一審被告のかかる発言は、一審原告X2の私生活上の平穏を侵害するものとして違法というべきである。
(4)以上において認定した一審被告の発言の経緯及び内容に加え、証拠(甲33〜38)からうかがわれる一審原告X2の受けた衝撃の大きさ、他方で、当該発言が非公開の場で行われたこと、一審原告X2も一審被告に対して様々な話題に関する反論を試みていること(乙16〜19)等の証拠から認められる一切の事情を考慮すると、一審被告には、一審原告X2に対し、当該発言による慰謝料として5万円を、その請求に要する弁護士費用のうち5000円をそれぞれ負担させるのが相当である。

3 甲2のツイートについて

(1)一審被告X1は、甲2のツイートは一審原告X1に対する名誉毀損に当たる旨を主張するところその文言からすれば、甲2のツイートを見た通常の読者は、これを「一審原告X1が「何々狂句」ないしはこれと同音の組織に報告されても仕方のないような酷い差別及び人権侵害を行なった。」旨の論評を摘示するものと理解すると認められるから、甲2のツイートは一審原告X1の社会的評価を低下させ得ると認められる。
(2)しかしながら、証拠(乙3、4、13、22[4頁]、原審一審被告は本人[調書4〜5、18〜19頁])によれば、甲2のツイートに先立ち、「森奈津子」なる人物が「在特会」なる団体と「しばき隊」なる団体とは「お似合いの夫婦」であるとの皮肉を含むツイートをしたこと、これに対し、一審原告X1が、平成29年9月11日、「この森奈津子って人、頭がイカれているとしか思えない。マジで頭のネジが1本飛んだんじゃねぇのか。」とのツイートをし、同月13日、「ろくでなし子と森奈津子のクソツイート[中略]「いい加減な事言ってんじゃねーぞ、クソババア」と汚い言葉を言いたくなる。」とのツイートをしたこと、一審被告はこれらのツイートを見て、甲2のツイートをしたことが認められる。
 そうすると、甲2のツイートは、一審原告X1が「森奈津子」や「ろくでなし子」に対して侮辱に当たり得る行為をしたという事実を踏まえて、一審原告X1の言動を論評したものということができるところ、侮辱行為を「所属組織に報告されてもしかるべき酷い差別及び人権侵害」と表現することが不正確であるとまではいえず、仮に甲2のツイートが一審原告X1の社会的評価を低下させたとしても、これに違法性があるということはできない。