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有識者会議の意見書に沿って皇室典範改正が行われた未来の一つの物語 1 〜内親王殿下の配偶者の一つの未来〜

「何でこうなるんだよ」
私は心の中で叫んだ。
皇族数の減少に伴う特例法に基づいて、皇族となる者の氏名が政府から発表されたが、その中に私の名があったのだ。
「お前、いやあなたは、高貴な血筋の方だったんですね。」
私の経営する飲食店、飲食店といってもキャバクラなんだが、開店を待ちきれずに客として来ていた友人の園田国民(そのたこくみん)が声をかけてきた。
バカ言うんじゃない。
さっきまでどのセクシー女優のDVDがいいか下卑た笑顔と共にお前と話していたじゃないか。
大学生の時は、ある男性アイドルグループのファンクラブに入ってチケットを入手し、フリマサイトでチケットを転売するといういつ捕まっても不思議ではないことをやっていたんだぜ。どこが高貴なんだよ、ただの庶民だぜ、それも程度が相当低い。
そう言えば、あの有識者会議の意見書を政府が尊重して忠実に実施してからおかしくなった。
お二人の内親王殿下は、お一人が文筆家で家柄も申し分ない男性と、もう一人が大手コンピュータメーカーのシステムエンジニアとご結婚された。
配偶者となったお二人は、災害などで疲弊した国民を元気付けたい、そして海外からの賓客をつつがなくもてなして、国のために尽くしたいという思いから、それまでのキャリアを捨てて皇室に入られたんだ。
いや、入られたというのは正確ではないね。
有識者会議の意見書のとおり、婚姻してもお二人は皇族とならずに国民のままだったからね。
そういうお立場を分かっているお二人は一歩も二歩も下がった言動や振る舞いに努められたんだ。
「私がこのような邸宅に住むなど畏れ多い」
と、女性宮家の建物のそばにごく質素な離れを建築して、そこにお住まいだったんだ。
最初から家庭内別居だから、当然内親王殿下との意思疎通が上手くいくはずがなく、内親王殿下もお二人もご苦労されたことと思うよ。
ただ、間も無く、被災地への行啓やお成りにも同行しなくなった。
「どうして、内親王の配偶者の方々は行啓やお成りに同行しなくなったんだ?」
「『皇族でもなくただの国民でしかない自分が悲惨な状況に陥っている国民を元気づけようとしても、相手が喜んだり、感激したりするのだろうか』と自問自答した結果、そうなったらしいよ。」
「ああ、お一人のその後の就職先の週刊Bの記事ね。」
「『勘違いした『平民』は上から目線で被災民に何を語ったか』という記事だったな。」
そうだった。
その記事がきっかけで皇族ではなく国民でしかない自分たちが女性皇族と一緒に被災地を訪れて国民を元気づけようなどおこがましいと強く思うようになったお二人。
文筆家であった方は、文章の才能を活かして週刊Bを発行している株式会社βに就職した。
自分たちをボロクソに書いた雑誌の発行元に就職するのは私には理解することができないが、言いにくいことを言ってくれたという気持ちがあったのかもしれない。
配属先は週刊Bのエグゼクティブ・エディターだった。
その後、B砲などとふざけた名称のネット記事をアップする週刊Bオンラインに「千代田砲」という皇室の内容を暴露するネット記事の連載が始まった。
もちろん、その方の仕事だ。
もう一人の内親王の配偶者となった方は、芸能事務所に所属して皇室系YouTuberとなった。
「すごい登録者数だよね。」
「宮内庁のInstagramのフォロワー数を十日で抜いたからね。」
「でも、その後が凄かったな。」
「他のYouTuberやブロガー、SNSのアカウントなどでアンチが大勢現れたからね。」
「私が気になっているのは、その後だよ。」
「そうだった、それらのアンチを名誉毀損などを理由として民事訴訟を提起したんだったよね。」
「皇族であれば、その言動は天皇に準じて内閣の助言と承認のもとになされ、民事訴訟は内閣が皇族に代わってなすことになるんだけれど、国民だったらそんな制限などないからね。」
「国民の税金を使うわけにはいかないとクラウドファンディングで訴訟費用を集めて民事訴訟に勝っていたんだけれども・・・」
「その訴訟代理人がねえ・・・」
「民事訴訟の依頼人であった二十代の女性が自分に気があると勘違いして付き纏ったんだったね。責任をとって弁護士を休業すると発表した記者会見はまさに号泣会見だったな。」
「その後もっと深刻なことになったじゃないか。」
「そうそう、皇室のアンチが民事訴訟で炙り出されることになって、右翼がそのアンチを襲撃するという事件が発生したんだ。」
「ご公務での天皇陛下の行幸や皇嗣殿下のお成りについてもご夫婦でなされているから、皇族数を確保したいなら女性皇族の配偶者も皇族にすればよかったんだよ。どうしてそれなりに覚悟して女性皇族の配偶者になるという決断をした人を国民のままにして、配偶者も女性皇族も孤独にさせて、結果として皇室の権威を貶めるという見通しが立てられないのかねえ。」
「ところで、皇族数の確保の最も効果的な手法であると思われた戦後皇族から離れた11宮家の末裔を皇族とするのはその後どうなったんだ?」