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宗教法人がいわゆる「鎮守の森」を文化的な価値があるほど大切に守り育てると国際記念物遺跡会議の国内委員会から「国に寄付しろ」と批判されます

国際記念物遺跡会議の国内委員会の森林を守り育てる意識が疑われる記者会見

 神宮外苑の再開発計画に関して国際記念物遺跡会議の国内委員会が批判する記者会見を開きました。
 なお、画像は「神宮外苑」で検索してヒットした画像をお借りしています。

10月9日、国際記念物遺跡会議(イコモス)国内委員会の委員長と理事が、神宮外苑の再開発計画における樹木伐採の中止を訴える記者会見を開いた

今年9月に公表された「見直し案」も不十分

会見を開いたのは一般社団法人「 日本イコモス国内委員会」委員長の岡田保良氏と、同委員会の理事を務める農学者(東大名誉教授)の石川幹子氏。

東京の港区と新宿区にまたがる神宮外苑の再開発では、神宮球場や秩父宮ラグビー場の建て替えに加えて、3棟の高層ビルを建設することが計画されている。しかし、計画には樹木の大量伐採などが含まれていることから、市民団体や著名人らが抗議と批判を続けてきた。

昨年9月、フランス・パリのイコモス本部が計画撤回などを求めて緊急声明「ヘリテージ・アラート」を発出。声明は国際的な関心を呼び、直後に東京都が事業者に対して樹木保全策の検討を要請した。結果、再開発は現在に至るまで停止することになった。

今年9月9日、事業者代表の三井不動産は伐採する木の本数を削減するなどした計画の見直し案を公表。今回の記者会見は、この見直し案にも依然として問題があるとして、改めて再開発計画の撤回を求めるものだ。

「イチョウ並木の衰退」「群衆津波の危険」に対策できず

再開発について日本イコモスが特に懸念しているのは、神宮外苑の象徴ともいうべき「イチョウ並木」の衰退に関する問題だ。

過去、事業者が東京都に提出した評価書では、イチョウ並木のすべての樹木の活力度を「健全」と記載していた。石川理事はこの報告を「虚偽」と断言。また、見直し案には「一部のイチョウが枯死しかねないダメージを受けている」との報告は含まれていたが、地球温暖化に伴う高熱からイチョウを守るための対策は含まれていなかった

9月24日に日本イコモスが小池百合子東京都知事に提出した要望書では、神宮外苑が世界に類を見ない貴重な文化遺産であること、特にイチョウ並木の名勝的価値は文化庁の調査報告でも高く評価されていることを指摘しながら、「文化庁に名勝指定を要請すべき」と要望されている。

また、日本イコモスは、ラグビー場棟につづく歩道橋の道幅が大型スポーツ施設の導線としては狭く、「群衆津波」が起こる危険性を指摘していた。見直し案でもこの問題は解決されていない。石川理事は「人命の安全保障を忘れている」と憂慮を示した。

再開発計画の目的は二転三転

石川理事は、再開発計画が発表された当初から、その「目的」が二転三転してきたことを指摘する。

「2011年には『四大スポーツクラスター(スポーツ施設)の整備』が目的とされていたのが、2013年には『まちづくりのための都市公園計画』が目的とされた。

そして、現在、三井不動産は『内苑の森を守る』ことを目的としている」(石川理事)

「内苑」とは、渋谷区にある「明治神宮御苑」のこと。

明治神宮は、スポーツ施設を持つ外苑やブライダル事業の明治記念館など収益部門から資金を繰り入れて、明治神宮がある内苑を維持している。再開発を通じて外苑からの収益を保つことが内苑の維持のためには必要だと、三井不動産側は主張している。

だが、石川理事は「三井不動産は内苑のことを全く理解していない」と語る。そもそも内苑では現時点でも水の枯渇やナラ枯れなどの問題が発生しており、早急な対応が必要だ。だが、地域の森林で同様の問題が発生している自治体に比べて、民間の宗教法人である明治神宮の対応は遅いという。

森林を守るためには「国有化」が必要

石川理事は「明治神宮は外苑・内苑を国に寄付すべきだ」と提案した。

「これまで、国は各地の国営公園で森林をとても丁寧に守ってきた。この事実は日本の誇りだ。

内苑・外苑を国有地にすることで、『内苑を維持するために外苑の再開発が必要』との主張を否定し、再開発を防ぎながら二つの森林を守ることができる。

明治神宮の森林の問題は、多少のお金を積み上げることでは解決できない。この事実を社会が明確に認識して、森を守るための代替案を考えることが必要な段階になっている」(石川理事)

弁護士JPニュース「『明治神宮の森林を守るためには”国有化”が不可欠」 国際団体の日本支部が”外苑”『再開発計画』撤回を求める」

 その国際記念物遺跡会議の国内委員会は、かつて神宮外苑の再開発案を提示して今度は国有化を主張なさっているようですが、ご自身が主張なさっていた神宮外苑の再開発案において一定期間ラグビー場の利用ができないこと(削除部分:できずにその収入が入ってこないこと)の欠陥にお気付きになったようです。(コメントで誤りをご指摘いただきました。ありがとうございます。)

ではそのイコモス案の方の計画はどうなっているかというと、

・神宮第二球場を壊す→その跡地に新しい神宮球場を建てる
・神宮球場の継続性のために芝生広場に仮設球場を建てて対応する
・秩父宮ラグビー場は今の場所で建て替える

…という感じで、あっちこっち場所を入れ替えない分既存の樹木を切る数を大幅に減らすことができる案となっています。

結果として公園が作られた時に意図された「視線の広がり」が維持される事(上述したようにこれを通景線=ヴィスタと呼ぶらしい)や、今の考え方では重要な生物多様性を育むようなゾーンを設ける追加案などがメリットとして主張されています。

この案の問題は、

・第二球場跡地だけでは新神宮球場を建てられず、敷地が重なる位置に”ずらす”事が必要なため、工事中は「芝生広場に仮設球場をもう一個作る」必要が出てくる
・ラグビー場は同じ場所に建て替えるので、工事中は使えなくなる

といったところです。(実はそれだけではないんですがそれについては後述します)

倉本圭造note「明治神宮外苑再開発に私が”賛成”する理由」

 国際記念物遺跡会議国内委員会は、明治神宮外苑の再開発計画において「目的」が二転三転したとおっしゃいますが、そもそも、神宮外苑の再開発計画においてスポーツ施設の整備という側面と神宮内苑の森を守るという側面があったことは最初から明らかで、このご主張は国際記念物遺跡会議国内委員会の後付けの批判に過ぎないと私は思います。
 そして、最も大きな勘違いは、石川幹子理事の次の発言であると思います。

だが、石川理事は「三井不動産は内苑のことを全く理解していない」と語る。そもそも内苑では現時点でも水の枯渇やナラ枯れなどの問題が発生しており、早急な対応が必要だ。だが、地域の森林で同様の問題が発生している自治体に比べて、民間の宗教法人である明治神宮の対応は遅いという。

弁護士JPニュース「『明治神宮の森林を守るためには”国有化”が不可欠』 国際団体の日本支部が”外苑”『再開発計画』撤回を求める」

 地方公共団体の街路樹や公園管理に対する対応が明治神宮に比べて早いなどとどのような論拠をもっておっしゃっているのでしょうか。地方公共団体の街路樹や公園は管理する街路樹や公園が増えていって維持費がかさむ中で非常に苦しいやりくりを強いられており、近所の街区公園を訪れればわかるように公園の草刈りすら回数を減らして雑草が繁茂している状況が確認できますし、街路樹の根元の雑草の管理や街路樹の根が伸びることによって発生する歩道の舗装の破損などの問題も中々解決していないことがわかります。
 そして、国際記念物遺跡会議国内委員会の主張の最大の問題点は、ここまで明治神宮外苑と内苑を守り育ててきた明治神宮に対する敬意が全く存在していないところです。「鎮守の森」を守り育てて国際的に価値のあるものとなった経緯には明治神宮の身を切るような維持管理活動が貢献しており、それは国際記念物会議国内委員会としても喜ばしい活動であるはずです。そのような前提が欠けている国際記念物会議国内委員会に対して私は「あなたは何様ですか」という感情を払拭することができません。