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グッドルーザーになることができない社会運動家たち

大村秀章愛知県知事リコール署名に不正疑惑

 あいちトリエンナーレの「表現の不自由展」をめぐる大村秀章愛知県知事のリコールをめぐり、不正の署名がなされた疑惑があるとして刑事事件化しつつあります。

 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡る不正署名問題で、名古屋市の広告関連会社が多数のアルバイトを募集し、署名簿に偽の署名を書き込む作業をさせていた疑いがあることが16日、関係者への取材で分かった。広告関連会社の幹部は、リコール運動を主導した事務局の指示だったと周囲に説明。問題は、大規模な組織的不正に発展する可能性が出てきた。

 地方公共団体の首長を辞職させるための署名は、原則有権者の3分の1の署名が必要でそのハードルは愛知県のような巨大な地方公共団体になればなるほど非常に高いものとなっています。令和元年7月に施行された参議院議員通常選挙での愛知県の有権者数は611万9144人で、リコールに必要な署名数は80万人を超えます。短期の署名活動で集まる数ではありませんから、知事への批判が相当盛り上がっていたとしてもリコールは不可能な数字だといえます。
 したがって、リコール運動を提唱する者は、必要な署名を集めることは不可能に近いと考えて「どのように負けるか」を考えることが必要であると思います。まず、第一の目的として、首長の政策や政治姿勢に対して異議を申し立てる有権者がいたことを記録に残し、あわよくば有権者にリコール運動をした人々の姿を記憶に残させることを目標とすべきであると思います。
 報道が事実であれば、今回のリコール運動を主導した者の一部はアルバイトに署名を代筆させて署名の数を増やそうとしていたことになりますが、事実上リコールが不可能であるにもかかわらず、手段の適不適を別にしても、リコールが成立しないという目盛りでしかない署名数を増やそうとするということは決して上策ではないと思います。

数に拘る運動家とその無意味さ

 歴史を振り返れば、この目盛りを増やそうとする手法は薬害エイズをめぐる社会運動と重なります。学生が中心となって漫画家の小林よしのりさんなどが支援してきた薬害エイズ問題で厚生労働省に謝罪させようとする社会運動は、デモの参加人数に拘る左翼や組合に乗っ取られて埋没していきました。また、沖縄の県民集会や左翼のデモでも主催者がデモ参加者を水増しして発表するなど異常に参加者数に拘っていることがわかります。
 同様の動きは右派でも顕著で、西村修平さんが代表を務めていた主権回復を目指す会や維新政党・新風の副代表を務めていた瀬戸弘幸さんは、組織的な協力や動員に目がくらんでどう見ても思想的に相容れないはずの東村山市議会会派の草の根市民クラブと組んで元市議会議員の転落死が創価学会による謀殺であるとの主張を始め、その後に彼らが主催したり参加したりした講演会やシンポジウムに特定の宗派の色がついていると思われる者やメディアの関係者などが数多く参加していたことが確認されています。その後、創価学会を敵視するある宗派は、瀬戸弘幸さんを創価学会に対抗する手駒としてスカウトし、瀬戸弘幸さんは「靖国神社に参拝できなくなるのは困る」と断り、その宗派は次善の策として日本を護る市民の会代表の黒田大輔さんを引き入れることになりました。その後の黒田大輔さんや黒田大輔さんが代表を務めていた日本を護る市民の会のていたらくはご存じのとおりです。
 これらは早急に運動を広めようとしたことの弊害以外の何物でもないといえます。

人の記憶に残るリコール運動は難しくない

 人の記憶に残るリコール運動を行った場合、リコールが不成立であったとしても次の県知事選挙において有権者の気持ちを変えることが可能となります。前回の県知事選挙で今の県知事に投票した人が次の県知事選挙で対立候補に投票するかもしれませんし、そこまで至らなくても積極的に支持する理由がないと投票以外の用事を優先するかもしれません。政治の大きな流れは一人一人の有権者のちょっとした気持ちの変化が巻き起こすのです。そのためにはどうすればいいかといえば地道にやるしかありません。
 誰も足を止めて聴いてくれることがなかったとしても毎日同じ時間に同じ場所でリコールを訴える、どのような思想の者が読んでも不快にならないように工夫したビラのポスティングなど選挙運動の空中戦を地道に進めていけば人々の記憶に残っていくと思います。決して特別なことをやる必要はないと思います。グッドルーサーになれば訴えようとしたことは有権者の記憶に残るのです。
 しかしながら、社会運動家たちは早急に結果を求めて無理に大きな組織と連携して運動そのものを変容させたり、今回のように署名の代筆をさせたりするなどをすることによってグッドルーサーから大きく遠ざかっていっていると思います。