選挙ウォッチャーと称するちだいさんの思い込みと偏見に満ちた仕事の数々

 高額の購読料が必要な菅野完さんの編集する「月刊Gesellschaft」には、大袈裟太郎さん、横川圭希さんなどライターやジャーナリストとしてほとんど仕事の実績を聞かない方々が寄稿しています。その雑誌の中で比較的知名度の高いのが編集者の「日本会議の研究」の著者で著述家の菅野完さんと自らを「選挙ウォッチャー」と称するちだいさんでしょう。今回はちだいさんについて触れていきます。なお、私の文章では西暦ではなく年号を用いて表現するのが通例ですが、今回は引用文に西暦が用いられているため一部西暦を用いている箇所があります。煩雑となりますがご容赦ください。

静岡市長選挙に関するちだいさんの思い込みのみで書かれた記事

 ちだいさんは選挙の取材のために全国を飛び回っていますが、その取材については大きな疑問符がつきます。例えば、平成31年4月7日執行の静岡市長選挙の記事では次のように触れています。

なかなか敏腕な市長として名を馳せていたそうで、いい感じだったのに市長を辞めたのは国政に挑戦したから。1996年に衆院選に挑戦するも落選し、それからは県議として今日の今日まで活躍していました。最後に一花咲かせたいと自民党から5年間の復党禁止の条件付で除名処分を喰らっても、今回の市長選に立候補することを決めたようです。

しかしながら、Wikipedia「天野進吾」には次のような記述があります。

1987年静岡市長選挙に立候補し当選、2期7年を務め1994年に業者との癒着の責任を取り辞任、1996年の第41回衆議院議員総選挙に静岡1区から無所属で立候補したが落選した。

Wikipediaの記事が必ずしも正確なものではないことは言うまでもありませんが、選挙の取材を行うのであれば候補者の人となりを知るためにWikipediaの記事を確認してその裏を取るのは当然だと思いますが、ちだいさんはそれすらやっていないのです。そもそも、第40回衆議院議員総選挙が1993年7月18日に執行されているのにその任期満了間近ではなく、わずか1年経過した1994年7月という段階で静岡市長を辞任しているという時系列にちだいさんは何の違和感も感じなかったのでしょうか。なお、参議院議員通常選挙が行われるのも1995年7月ですから国政挑戦のために静岡市長を辞任したという結論は導き出すことはできません。静岡市長選挙のために静岡市を訪れて取材をしたのであれば、それなりに齢を重ねた人に天野進吾さんのことを聞けば静岡市長を辞任したときのことは容易に聞き出すことができたのではないでしょうか。
 なお、天野進吾さんの静岡市長辞任で検索すると、服部寛一郎さんという当時の静岡市議会議員のWikipediaを見つけることができます。

静岡市議会議員時代、市議会で当時の天野進吾静岡市長の疑惑を追及し同市長を辞任に追い込んだことで広くその名を知られるようになり、その勢いで静岡県議会議員選挙に立候補し当選した。

ちだいさんではない人がちゃんと取材して静岡市長選挙の記事を書いたならかなり興味深い記事になったのではないでしょうか。

ちだいさんの偏見だけで書かれた株式会社ユースビオに関する記事

 本題に戻りましょう。
 私はちだいさんの物書きとしての誠実さに大きな疑問を抱いています。それは事実に対する謙虚さというものかもしれません。それはいわゆる「アベノマスク」の調達を担った株式会社ユースビオに関する記事やツイートでより明らかになりました。


看板もなければ、表札もありません。どこからどう見ても儲かっているようには見えないし、この会社が政府から億単位の受注を受けて妊婦用のマスクを製造・納入しているとは到底思えません。これでも何か実績があるのなら理解もできますが、今まで一度もマスクを作ったことがない上に、会社名も出していなければ、本当に経営しているのかどうかも怪しいのです。もし僕がそのマスクを売るんだとして、この会社に300万円を振り込めるのかと聞かれたら、300万円でさえ躊躇します。だって、こんなに経営しているのかどうかが怪しい会社にお金を振り込んで、トンズラされたらどうするんでしょうか。一度は信用調査会社に調査をお願いすることでしょう。ちなみに、もしもお願いをしたら社長が脱税で逮捕され、現在は執行猶予中の身であるという情報が出てくるわけです。ますます怪しいですから、たかだか300万円だとしても取引はしないことでしょう。

 国や地方公共団体を相手として物品を販売する会社は、小売店というより問屋に近い会社が多く、そのような会社は必然的に店構えが質素になります。私は、ある地方公共団体相手の文具売上高のトップを争う文具店をいくつか知っていますが倉庫のような店構えだったり、小売をまったくやっていない簡単なつくりの事務所であったりします。また、とある設備工事の分野で工事請負額がトップだった会社は昔懐かしい昭和の平屋一戸建ての住宅を借りた事務所でそれだけの請負額と比例していない外観だと感じたのを覚えています。つまり事務所や社屋の外観だけでその会社信用できるかどうかを判断すると見誤るということです。それとも、ちだいさんはある会社が信用して取引できるかどうかを会社の財務書類などではなく会社事務所の外観で判断するほど世間知らずなのでしょうか。
 ちだいさんのツイートにもおかしなものが見られます。

ユースビオの件に関しては、そもそも国が会社の定款にも書いていないような発注をしている時点でおかしいんですよ。会社の定款に書いてないことはやっちゃいけないんだから。それを億単位のお金を払ってやらせる理由って、一体、何なのさ。「オマエの憶測だ!」じゃねぇっつーの!

 会社の定款に記載された目的は広く解釈するというのが通説で、これは政治献金がなしたことが会社の目的内の行為であるかどうか争われた八幡製鉄事件最高裁判所判例で明らかにされています。また、会社定款に記載された目的には、「上記各号に附帯関連する一切の事業」と末尾に記載することにより許認可等の伴わない事業であれば広く認められるものとなっています。
 そもそも、国が株式会社ユースビオにマスクの調達を依頼した理由は、福島県との取引などで大量のマスクを調達することができるルートを持っていることを国が知ったからであると考えるのが自然であり、目的にこだわるちだいさんのツイートは批判するためのこじつけに近いものとなっています。
 これもまた調べればわかることであって、わざわざ福島まで取材に行きながら株式会社ユースビオについて肝心のことを何も調べていないというのはどうしたことでしょうか。ひょっとしたら安倍内閣や政府を批判するためなら事実ではない記事を書いたりツイートしたりしても構わないとお考えなのかもしれません。

株式会社ユースビオのマスク調達の実態

 最後に株式会社ユースビオのマスク調達の実態について取材した週刊朝日吉崎洋夫さんの記事を紹介してこの記事のまとめとします。

現地の写真を見ると、広大なスペースの工場に数十台のミシンが並び、三角巾をつけた女性作業員たちがマスクを縫製していた。その隣には、完成したマスクの山を袋詰めする作業員の姿も写っている。樋山社長は、現地の様子をこう説明する。
「僕もそうだけど、ベトナムに滞在しているうちの駐在員も、ほぼ寝ないで作業していた。ホテルに帰る時間がもったいないって言って、工場に段ボールを敷いて寝ている写真を送ってきましたよ。僕は元自衛官で、そいつが『段ボールって暖かいですね』って言うから、『新聞紙をかけるともっと暖かいぞ』って教えてあげました。『本当だ』って、返事が来ましたよ」
 品質管理については、マスク用の布を洗浄殺菌し、乾燥時にさらに熱による殺菌を実施するなどの注意を払っていると強調する。
「検品も厳しくしていて、うちの駐在員は不良品を発見したら、激怒して再確認させていた。不良品といっても、『畳み方が雑だ』という程度ですが。『一度舐められると国の威信にかかわる。ここまでやらないといけない』と言っていました」(樋山社長)