事実が歪められて伝えられている群馬の森朝鮮人追悼碑問題 3 〜前橋地方裁判所判決文〜
主文
1 群馬県知事が平成26年7月22日付けでした原告の公園施設の設置期間の更新申請に対する不許可処分(群馬県指令都第aaaaa-a号)を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,それぞれを各自の負担とする。
第1 請求の趣旨
1 主文第1項に同旨
2 群馬県知事は,原告が平成25年12月18日付けでした公園施設(県立公
園群馬の森における「記憶 反省 そして友好」の追悼碑)の設置期間の更新
申請に対し,これを許可せよ。
2 事案の概要
1 本件は,戦時中に労務動員され,群馬県内で亡くなった朝鮮人(大韓民国及び朝鮮民主主義人民共和国の人々を指す。以下,本判決において同じ。)労働者を追悼する追悼碑(以下「本件追悼碑」という。)の被告が管理する県立公園における設置許可を受けた団体から本件追悼碑に関する権利義務を承継したと主張している権利能力なき社団である原告が,上記設置許可の期間満了に当たり,群馬県知事に対し,都市公園法(以下「法」という。)5条1項に基づき,平成25年12月18日付けの本件追悼碑の設置期間の更新申請(以下「本件更新申請」という。)をしたところ,同知事から平成26年7月22日付けで設置期間の更新不許可処分(以下「本件更新不許可処分」という。)を受けたため,本件更新不許可処分の取消し(以下「本件取消しの訴え」という。)とともに,群馬県知事に対する本件更新申請の許可の義務付けを求めた(以下「本件義務付けの訴え」という。)事案である。
2 本件に関連する法令の規定
(1)法の定め
(目的)
1条 この法律は,都市公園の設置及び管理に関する基準等を定めて,都市公園の健全な発達を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。
(定義)
2条
1項 この法律において「都市公園」とは,次に掲げる公園又は緑地で,その設置者である地方公共団体又は国が当該公園又は緑地に設ける公園施設を含むものとする。
1号 都市計画施設(都市計画法(中略)第4条第6項に規定する都市計画施設をいう。(中略))である公園又は緑地で地方公共団体が設置するもの(後略)
(2号略)
2項 この法律において「公園施設」とは,都市公園の効用を全うするため当該都市公園に設けられる次に掲げる施設をいう。
(1号ないし5号略)
6号 植物園,動物園,野外劇場その他の教養施設で政令で定めるもの
(7号以下略)
(3項略)
(都市公園の管理)
2条の3 都市公園の管理は,地方公共団体の設置に係る都市公園にあっては当該地方公共団体が(中略)行う。
(公園管理者以外の者の公園施設の設置等)
5条
1項 第2条の3の規定により都市公園を管理する者(以下「公園管理者」という。)以外の者は,都市公園に公園施設を設け,又は公園施設を管理しようとするときは,条例(中略)で定める事項を記載した申請書を公園管理者に提出してその許可を受けなければならない。許可を受けた事項を変更しようとするときも,同様とする。
2項 公園管理者は,公園管理者以外の者が設ける公園施設が次の各号のいずれかに該当する場合に限り,前項の許可をすることができる。
1号 当該公園管理者が自ら設け,又は管理することが不適当又は困難であると認められるもの
2号 当該公園管理者以外の者が設け,又は管理することが当該都市公園の機能の増進に資すると認められるもの
3項 公園管理者以外の者が公園施設を設け,又は管理する期間は,10年をこえることができない。これを更新するときの期間についても,同様とする
(4項略)
(許可の条件)
8条 公園管理者は,第5条第1項(中略)の許可に都市公園の管理のため必要な範囲内で条件を付することができる。
(2)法施行令の定め
(地方公共団体が設置する都市公園の配置及び規模の基準)
2条
1項 地方公共団体が次に掲げる都市公園を設置する場合においては,それぞれその特質に応じて当該市町村又は都道府県における都市公園の分布の均衡を図り,かつ,防火,避難等災害の防止に資するよう考慮するほか,次に掲げるところによりその配置及び規模を定めるものとする。
(1号ないし3号略)
4号 主として一の市町村の区域内に居住する者の休息,観賞,散歩,遊戯,運動等総合的な利用に供することを目的とする都市公園,主として運動の用に供することを目的とする都市公園及び一の市町村の区域を超える広域の利用に供することを目的とする都市公園で,休息,観賞,散歩,遊戯,運動等総合的な利用に供されるものは,容易に利用することができるように配置し,それぞれその利用目的に応じて都市公園としての機能を十分発揮することができるようにその敷地面積を定めること。
(2項略)
(公園施設の種類)
5条
(1項ないし4項略)
5項 法第2条第2項第6号の政令で定める教養施設は,次に掲げるものとする。
1号 植物園,温室,分区園,動物園,動物舎,水族館,自然生態園,野鳥観察所,動植物の保護繁殖施設,野外劇場,野外音楽堂,図書館,陳列館,天体又は気象観測施設,体験学習施設,記念碑その他これらに類するもの
(2号及び3号略)
3 前提事実(証拠を掲げた部分以外は,当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア 原告は,本件追悼碑の維持・管理を目的とする権利能力なき社団である(甲3)。
イ 被告は後記(2)で詳述する県立公園群馬の森(以下「本件公園という。)を管理する地方公共団体である。
(2)本件公園について
ア 本件公園の設置目的等
本件公園(敷地面積26.2ヘクタール)は,被告が昭和49年10月に群馬県高崎市に設置した「都市計画施設としての都市公園」(法2条1項1号)であり,主として一つの市町村の区域内に居住する者の休息,鑑賞,散歩,遊戯,運動等総合的な利用に供することを目的とする都市公園(いわゆる総合公園(法施行令2条1項4号))に該当する。
本件公園の設置目的は,都市における良好な景観の形成,緑とオープンスペースの確保を通じて豊かな人間性の確保と都市住民の公共の福祉増進をはかることとされ,また,本件公園は,かつて日本陸軍の火薬製造所であった甲の跡地に設置されたものであり,敷地内には県立近代美術館や県立歴史博物館が設置されているなど,群馬の歴史,文化を広く県民に伝える機能を有し,歴史と文化を基調としている。
イ 本件公園の利用状況
本件公園は,県立近代美術館,県立歴史博物館はもとより,約4ヘクタールと広大な大芝生広場,日本庭園,わんぱくの丘などを有し,また平野部における貴重な緑である平地林をはじめ数多くの樹木に囲まれている。
このため,本件公園は,地元高崎市民はもとより,多くの県民が,憩いの場として利用しており,例えば平日は小学校や幼稚園等の遠足の場として,休日は家族連れが大芝生広場で遊び,弁当を食べるという家族団らんの場として利用されている。また,多くの県民が安全で手軽にウォーキングなどの軽スポーツができる場所として健康づくりのために日々利用している。
本件公園の年間利用者数は,平成22年度が54万2871人,平成23年度が55万5278人,平成24年度は54万2586人,平成25年度は50万4236人とされており,このうち平成25年度の利用者数が減少した理由は台風と雪の影響によるものであると指摘されている(甲5)。
(3)本件追悼碑の設置許可
ア A会(以下「建てる会」という。)は,平成16年2月25日,群馬県知事に対し,わが国と近隣諸国,特に日韓,日朝との過去の歴史的関係を想起し,相互の理解と信頼を深め,友好を推進するために有意義であり,歴史と文化を基調とする本件公園にふさわしい公園施設であることなどを理由として,本件公園に「記憶 反省 そして友好」の追悼碑と名称する本件追悼碑を設置することを目的とし,設置期間を設置許可の日より10年間とする公園施設の設置許可を申請した(甲13)。
イ 群馬県知事は,同年3月4日,建てる会に対し,法5条2項に基づき,設置期間を平成16年3月4日から平成26年1月31日までとして,本件追悼碑の設置を許可(以下「本件設置許可処分」という。)した。同許可には,法8条に基づき,「設置許可施設については,宗教的・政治的行事及び管理を行わないものとする。」との公園施設設置許可に関する細部事項としての条件(以下「本件許可条件」という。)が付された(甲13,14)。
(3)本件更新不許可処分に至る経緯
ア 原告は,平成25年12月18日,群馬県知事に対し,法5条1項に基づき,本件追悼碑建立の目的を維持し,継続することを理由として,本件追悼碑の設置期間を平成26年2月1日から平成36年1月31日まで更新する旨の本件更新申請をした(甲20)。
イ 群馬県知事は,平成26年7月22日,要旨以下の理由で本件更新申請を許可しない旨の本件更新不許可処分をした(甲31)。建てる会の運営委員は,平成16年4月24日に本件公園内で開催された本件追悼碑の除幕式において,「碑文に謝罪の言葉がない。今後も活動を続けていこう」と発言(以下「本件発言1」という。)した。
(イ)原告の事務局長は,平成17年4月23日に本件公園内で開催された追悼式において,「強制連行の事実を全国に訴え,正しい歴史認識を持てるようにしたい」と発言(以下「本件発言2」という。)するなどした。
(ウ)原告の共同代表は,平成18年4月22日に本件公園内で開催された追悼式において,「戦争中に強制的に連れてこられた朝鮮人がいた事実を刻むことは大事,アジアに侵略した日本が今もアジアで孤立している」,「このような運動を「群馬の森」から始め広めていこう」と発言(以下「本件発言3」という。)した。
また,B群馬県本部委員長は,同日,「朝・日国交正常化の早期実現,朝鮮の自主的平和統一,東北アジアの平和のために共に手を携えて力強く前進していく」と発言(以下「本件発言4」という。)した。
(エ)B群馬県本部委員長は,平成24年4月21日に本件公園内で開催された追悼式において,「日本政府は戦後67年が経とうとする今日においても,強制連行の真相究明に誠実に取り組んでおらず,民族差別だけが引き継がれ,朝鮮学校だけを「高校無償化」制度から除外するなど,国際的にも例のない不当で非常な差別を続け民族教育を抹殺しようとしている」,「日本政府の謝罪と賠償,朝・日国交正常化の一日も早い実現」と発言(以下,「本件発言5」といい,本件発言1ないし本件発言5を併せて「本件各発言」という。)した。
(オ)本件各発言は,いずれも政治的発言であり,除幕式及び追悼式の一部内容を政治的行事とするもので,「政治的行事及び管理」を禁止した本件許可条件に反する行為である。このような違反行為が繰り返し行われた結果,本件追悼碑の設置目的は,日韓,日朝の友好の推進という当初の目的から外れてきたと判断せざるを得ない。さらに,本件追悼碑は,存在自体が論争の対象となり,街宣活動,抗議活動などの紛争の原因になっており,都市公園にあるべき施設としてふさわしくないと判断せざるを得ない。
以上により,本件追悼碑は,都市公園の効用を全うする機能を喪失しており,法2条2項の公園施設に該当しない。また,本件追悼碑は,法5条2項1号の公園施設には該当せず,都市公園の機能の増進に資する施設とは認められないから,同項2号の公園施設にも該当しない。
(5)原告は,平成26年11月13日,本件訴訟を提起した。
(略)
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実,証拠(甲2,3,8,9,13,14,16,18~29,31,47~48の12,甲52,53,56,58~63,乙1~4,11,18,19,証人F(以下「証人F」という。),証人G(以下「証人G」という。),証人D副知事)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件設置許可処分に至る経緯等
ア 旧建てる会は,平成11年12月10日頃,群馬県知事宛てに,B群馬県本部及びH(以下「H」という。)群馬県地方本部との連名による同日付「群馬県朝鮮人・韓国人 強制連行犠牲者追悼碑を建てる運動へのご支援のお願い」と題する書面を提出して,「群馬県内の強制連行先で無念の死を遂げた朝鮮人を追悼し,その碑を建立するとともに,労働現場となった県内十余か所の各遺跡に,その実態を示す銘板を建立し,戦争遺跡として保存を図るなどの運動」を行うための支援を要請し,また,平成12年3月22日,上記追悼碑を建立する第1希望地として,戦時中の甲の跡地である本件公園を希望する旨の要望書を提出した。
イ 旧建てる会の共同代表であったIらは,平成13年2月14日,群馬県議会議長宛てに,労務動員朝鮮人労働犠牲者追悼碑建立のため,県有地を貸与してもらいたい旨の請願書を提出し,同請願は,同年6月12日,群馬県議会において趣旨採択された。
ウ 被告国保援護課及び都市施設課は,同年10月25日,旧建てる会に対して「戦時中における労務動員朝鮮人労働犠牲者の追悼碑」の本件公園への設置に関しては,「宗教的・政治的行事及び管理は一切行わない」ことを含む11項目の条件について合意した後に占有手続等を行うこととする旨を提案した。これに対し,旧建てる会は,同年12月11日,被告国保援護課長及び都市施設課長宛てに,上記11項目の合意条件は全て合意できる旨の確認書を提出した。
エ 原告は,平成14年4月頃,群馬県知事宛てに,碑文の案を提出した。上記碑文案は,「強制連行」という言葉を使用し,政府が朝鮮人の強制的動員を開始し,さらに国民徴用令による徴用を行ったことや群馬県内の軍需工場等にも数千人の朝鮮人強制連行労働者が投入され,多数の犠牲者を生んだことを訴える内容が含まれていた。
これに対して,被告国保援護課及び都市施設課は,平成14年11月18日頃,①追悼碑設置を申請する団体の名称は「群馬県労務動員朝鮮人労働犠牲者追悼碑を建てる会」とすること,②碑名は「朝鮮人追悼碑」など単純,明快なものとすること,③上記旧建てる会から提出された碑文案から,政府が朝鮮人の強制的動員を開始し,さらに国民徴用令による徴用を行ったことや群馬県内の軍需工場等にも数千人の朝鮮人強制連行労働者が投入され,多数の犠牲者を生んだことを訴える部分を削除し,「強制連行」の文言を「労務動員」に改めた被告修正案のとおり見直すよう助言した。
オ 旧建てる会の内部では,申請団体名の名前や碑文から「強制連行」の文言を削除することについて様々な議論がなされたが,本件公園に追悼碑を建立することが大きな目的であり,強制連行の概念も労務動員の概念の中
に含まれるため妥協できるとの考えから,申請団体名の名前や碑文から「強
制連行」の文言を削除することとした。
旧建てる会は,平成15年11月15日開催の第4回総会において,県有地の借用申請及び追悼碑の建立を行う団体として建てる会を結成し,追悼碑の維持管理団体として原告を設立することを決議し,旧建てる会の構成員らは,同日頃,建てる会及び原告を結成した。
カ 建てる会は,平成16年2月25日,群馬県知事に対し,わが国と近隣諸国,特に日韓,日朝との過去の歴史的関係を想起し,相互の理解と信頼を深め,友好を増進し,歴史と文化を基調とする本件公園にふさわしい公園施設であることなどを理由として,本件公園に「記憶 反省 そして友好」の追悼碑と名称する本件追悼碑を設置することを目的とし,設置期間を設置許可の日より10年間とする公園施設の設置許可を申請した。
キ 群馬県知事は,同年3月4日,建てる会に対し,公園施設設置許可に関する細部事項として「設置許可施設については,宗教的・政治的行事及び管理を行わないものとする。」との本件許可条件を付した上で,設置期間を平成16年3月4日から平成26年1月31日までとして,本件設置許可処分をした。
ク 本件追悼碑は,建てる会のJを発注者,K建建築設計事務所を設計・監理者,L株式会社及びM株式会社を施工業者として,合計570万円をかけて建設され,平成16年4月17日に完成した。
ケ 原告は,同日頃,建てる会から,本件追悼碑の所有権及び本件設置許可処分による権利義務を包括的に承継した。
(3)原告の組織等
ア 原告は,会の趣旨に賛同する個人である個人会員と,組織として会の趣
旨に賛同する団体である団体会員とで構成され,総会で選出される役員として代表委員,事務局長,事務局次長,運営委員,会計,会計監査が置かれ,会の機構として総会と運営員会が設置されている。
総会は,年1回開催され,上記役員の選出のほか,活動報告・会計報告・会計監査報告を審議し,次年度の活動計画・予算を審議決定するものとされ,運営委員会は,適宜開催され,総会の決定に基づき,会の活動を具体的に推進するとともに,本件追悼碑の設置許可の更新に関する事務を処理するものとされている。
イ 原告は,上記(1)記載のとおり、平成15年11月15日開催の旧建てる会の第4回総会において,本件追悼碑の維持管理団体として設立することが決議され,旧建てる会の構成員らによって結成された後,役員等を変更しつつ,現在まで活動を継続しており,原告の財産は,原告名義の預金口座によって管理されている。
(3)本件追悼碑及びその周辺の状況等
ア 本件追悼碑は,鉄筋コンクリート造及び鉄骨造のモニュメントの外観をもつ追悼碑である。本件追悼碑は,直径7.2mの円形の台座の上に設置された高さ1.95m,幅4.5mの碑文壁,最高高さ3.98mの塔及び同台座の外周に沿う形で設置された複数の円柱形の構造物によって構成されている。
イ 碑文壁の正面(西側)には,日本語,韓国語及び英語で「記憶 反省 そして友好」と記載された文字盤とレリーフ(絵)が取り付けられており,碑文壁の裏面(東側)には,日本語及び韓国語で以下のとおり記載された碑文が取り付けられている。
「 追悼碑建立にあたって
20世紀の一時期,わが国は朝鮮を植民地として支配した。また,先の大戦のさなか,政府の労務動員計画により,多くの朝鮮人が全国の鉱山や軍需工場などに動員され,この群馬の地においても,事故や過労などで尊い命を失った人も少なくなかった。
21世紀を迎えたいま,私たちは,かつてわが国が朝鮮人に対し,多大の損害と苦痛を与えた歴史の事実を深く記憶にとどめ,心から反省し,二度と過ちを繰り返さない決意を表明する。過去を忘れることなく,未来を見つめ,新しい相互の理解と友好を含めていきたいと考え,ここに労務動員による朝鮮人犠牲者を心から追悼するためにこの碑を建立する。この碑に込められた私たちのおもいを次の世代に引き継ぎ,さらなるアジアの平和と友好の発展を願うものである。
2004年4月24日
「記憶 反省 そして友好」の追悼碑を建てる会
碑文中「朝鮮」及び「朝鮮人」という呼称は,動員された当時の呼称をそのまま使用したもので,現在の大韓民国,朝鮮民主主義人民共和国,及び両国の人達に対する呼称である。」
ウ 本件追悼碑が設置されている本件公園の北側西寄りの場所一帯は,樹木が生い茂る散歩道であり,正面入口からは距離があるため,正面入口付近に比べて,公園利用者の姿は少ない。
(4)除幕式及び追悼式の状況
ア 原告は,平成16年4月24日,本件追悼碑前で除幕式を開催した。除幕式には,群馬県知事の代理人として被告の職員,H群馬県地方本部団長及びB群馬県本部委員長らが出席して追悼の言葉を述べたほか,H中央本部及びB中央本部の代表者らによる献花,朝鮮学校生徒らによる追悼歌の合唱等が行われた。
また,原告は,除幕式の閉会後,本件公園の群馬県歴史博物館の視聴覚室において,追悼碑建立記念の集いを開催した。同集いでは,E運営委員が本件追悼碑設計の基本理念,レリーフ(絵)の説明をしたほか,これまでの活動の経過報告や今後の運動の提案等が行われた。
イ 原告は,平成17年4月23日,本件追悼碑前で追悼式を開催した。原告のJ事務局長(当時。以下「J事務局長」という。)は,同追悼式において,「強制連行の事実を訴え,正しい歴史認識を持てるようにしたい。」との本件発言2をした。
ウ 原告は,平成18年4月22日,本件追悼碑前で追悼式を開催した。原告のN共同代表(以下「N共同代表」という。)は,同追悼式において,「戦争中に強制的に連れてこられた朝鮮人がいた事実を刻むことは大事」,「アジアに侵略した日本が今もアジアで孤立している。」,「このような運動を「群馬の森」から始め広めていこう。」との本件発言3をした。
また,B群馬県本部のO委員長(当時。以下「O委員長」という。)は,同追悼式において追悼の言葉を述べ,朝・日国交正常化の早期実現,朝鮮の自主的平和統一,東北アジアの平和のために「共に手を携えて力強く前進していく」旨の本件発言4をした。
エ 原告は,平成19年から平成23年にも毎年1回,本件追悼碑前で追悼式を開催した。
オ 原告は,平成24年4月21日,本件追悼碑前で追悼式を開催した。B群馬県本部のP委員長(当時。以下「P委員長」という。)は,同追悼式において追悼の辞を述べ,「日本政府は戦後67年が経とうとする今日においても,強制連行の真相究明に誠実に取り組んでおらず,民族差別だけが引き継がれ,朝鮮学校だけを「高校無償化」制度から除外するなど,国際的にも例のない不当で非常な差別を続け民族教育を抹殺しようとしている」,「日本政府の謝罪と賠償,朝・日国交正常化の一日も早い実現」のために活動していく旨の本件発言5をした。
(5)本件更新不許可処分に至る経緯
ア 平成16年5月8日付けの朝鮮新報WEB版は,同年4月24日開催の本件追悼碑の除幕式に関する記事を掲載し,同記事において,E運営委が,「碑文に謝罪の言葉がない。今後も活動を続けていこう。」との本件発言1をしたことが記載されている。
また,平成17年5月14日付けの朝鮮新報は,同年4月23日開催の追悼式におけるJ事務局長の本件発言2に関する記事を,平成18年4月25日付けの朝鮮新報は,同月22日開催の追悼式におけるN共同代表の本件発言3及びO委員長の本件発言4に関する記事を,平成24年5月15日付けの朝鮮新報は,同年4月21日開催の追悼式におけるP委員長の本件発言5に関する記事を,それぞれ掲載した。
イ 被告都市計画課長であった証人Fは,同月頃,県民からの情報提供を受けて,上記同月15日付けの朝鮮新報の記事を確認した。もっとも,証人Fを含む被告の職員は,原告に対し,同記事の内容について,事実確認をすることはなかった。
ウ 被告に対しては,同月以降,本件追悼碑の碑文の内容が事実でない,本件追悼碑は即刻撤去すべきであるなどの抗議や意見の電話やメールが相次いで寄せられるようになり,また,抗議団体の構成員らが被告国保援護課に来庁し,本件追悼碑の碑文の内容について抗議したが,同課職員は,碑文の内容は問題ない旨を回答した。
エ 同年11月4日,抗議団体の構成員らが,群馬県高崎駅前で本件追悼碑の撤去を求める街宣活動を行い,その後,本件公園に来園して園内にプラカードを持ち込むなどしたため,公園職員との間で小競り合いとなり,警察が駆けつける騒ぎが発生した。また,抗議団体の構成員らは,平成26年4月19日にも,本件公園の正面入口付近で本件追悼碑の撤去を求める街宣活動を行った。
オ D副知事は,平成25年3月頃,原告に対し,本件追悼碑をめぐって様々な抗議や意見が集中しており,同年の追悼式を本件追悼碑前で開催した場合に公園利用者の安全を確保できないおそれがあるため,同年の追悼式は延期してもらいたい旨を要請した。
カ 原告は,上記要請を受けて,同年の追悼式を群馬県高崎市所在の労使会館で開催することとし,同年4月13日,同会館で追悼式を開催した。なお,追悼式には,毎年,B群馬県本部の委員長も出席していた。
キ 平成25年9月20日,群馬県内在住の男性から,「本件追悼碑の碑文の内容が事実と異なり,これにより県民財産である県立公園の利用に関し県民の利益が阻害されているだけでなく,虚偽の内容により県民の名誉感情が大きく侵害されて」いるなどとして,本件設置許可処分を取り消し,原状回復のための必要な措置を講ずべきことを求める住民監査請求がなされたが,監査委員は,同年12月2日,同請求を却下した。
ク 証人Fは,同年10月頃,前記ア記載の平成17年5月14日付けの朝鮮新報,平成18年4月25日付けの朝鮮新報,平成24年5月15日付けの朝鮮新報の記事をそれぞれ確認した。
ケ 原告は,平成25年12月18日,群馬県知事に対し,法5条1項に基づき,本件追悼碑建立の目的を維持し,継続することを理由として,本件追悼碑の設置期間を平成26年2月1日から平成36年1月31日まで更新する旨の本件更新申請を行った。
コ 群馬県知事は,平成25年12月24日頃,原告に対し,上記アの各朝鮮新報記載の記事が,事実と相違ないか否かについて報告を求めたところ,原告は,平成26年1月6日,群馬県知事に対し,報告書を提出し,上記アの各朝鮮新報記載の記事はいずれも事実と「相違ない」と回答し,平成24年4月21日開催の追悼式におけるB群馬県本部のP委員長の本件発言5について「在日朝鮮人の立場から行われたもので,表現の激越さなど,日本人の私達から見ると違和感を覚えるものがある。」,平成16年5月8日付けの朝鮮新報WEB版の記事の中には「取材した記者の主観が表出し,極論ととられるおそれのある記述」がある旨を回答した。
群馬県知事は,平成26年1月10日,原告に対し,さらに上記アの各朝鮮新報に記載された本件発言1ないし本件発言5が,政治的発言と考えるか,また,平成24年4月21日開催の追悼式におけるP委員長の本件発言5について発言の停止や抗議を行ったかなどについて報告を求め,平成26年3月18日にも上記事項についての報告を求めた。
原告は,同月28日,被告に対し,群馬県知事の上記平成26年1月10日付け及び同年3月18日付けでなされた報告書の提出の求めは,「これを素直に受け入れて回答することを躊躇させるもの」であり,本件更新については,できるだけ早い許可を決断してもらいたい旨を求める回答書を提出した。これに対して,群馬県知事は,同年5月8日,原告に対し,上記同年3月28日になされた回答の内容には不十分な部分があるとして,再度の回答を求めた。
原告は,同年5月9日,被告に対し,「追悼集会のなかで,一部来賓の挨拶に,不適切な発言があったことは認めざるを得ないと思いますし,私たち,日本人の感覚からは,一部違和感を抱く部分もありました。」としつつ,あらためて本件更新については,できるだけ早い許可を決断してもらいたい旨を求める回答書を提出した。
サ 被告は,原告から本件更新申請に関する意見交換の場を設けてもらいた
い旨の要望を受けたため,同年1月27日及び同月31日,原告との間で意見交換会を開催した。上記各意見交換会において,D副知事は,原告に対し,上記ア記載の朝鮮新報の内容について,事実確認をした。
シ 平成26年3月20日,「Q会」と称する団体の代表者らから群馬県議会議長宛てに本件設置許可処分の取消しを求める旨の請願書が提出され,また,同日には群馬県内在住の男性から,同年5月13日には「R会」,「S会」と称する団体の代表者から,それぞれ本件設置許可処分の更新を不許可とすることを求める旨の請願書が提出され,上記各請願は,いずれも同年6月16日,群馬県議会において採択された。
ス 被告は,同年7月11日,原告との間で意見交換会を開催し,D副知事は,原告に対し,本件更新を許可することは困難であることを伝え,本件追悼碑を自主的に本件公園外に移転することを提案した。これに対し,原告は,同提案を拒否し,被告に対し,①原告が本件追悼碑の敷地部分を買い取ること,②被告が本件追悼碑の更新期間を1年ないし2年に短縮して更新許可処分をすること,③被告は原告の10年の本件更新期間の更新申請を許可する代わりに,原告は当分の間,本件追悼碑前での追悼式の開催を自粛することを内容とする3つの代替案を提示した。
セ D副知事は,同月22日開催の原告との意見交換において,原告の上記代替案はいずれも受け入れることはできない旨を回答し,再度本件追悼碑を自主的に本件公園外に移転することを提案したが,原告は,これを拒否した。
原告は,同日,被告に対し,群馬県知事との意見交換会の開催を申し入
れたが,被告は,これを受け入れず,群馬県知事は,同日,本件更新不許
可処分をした。
2 争点(1)(原告多「法人でない社団」(行政事件訴訟法7条,民事訴訟法29条)に該当するか。)について
「法人でない社団」(民事訴訟法29条)といい得るためには,団体としての組織をそなえ,そこには多数決の原則が行なわれ,構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し,その組織によって代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない(最高裁判所昭和39年10月15日第一小法廷判決・民集18巻8号1671頁)。
前記認定のとおり,原告は,会の趣旨に賛同する個人である個人会員と,組織として会の趣旨に賛同する団体である団体会員とで構成されており,団体としての組織をそなえているといえる。証拠(甲53,54)によれば,原告は,総会では役員の選出のほか,活動報告・会計報告・会計監査報告を審議していること,次年度の活動計画・予算を審議決定していることが認められ,これらの事実に照らすと,多数決原則によって意思決定がなされていたことが推認できる。また,原告は,平成15年11月15日開催の旧建てる会の第4回総会において,本件追悼碑の維持管理団体として設立することが決議され,旧建てる会の構成員らによって結成された団体であり,その後,役員等の変更はあったものの現在まで団体として存続しており,代表機関として代表委員が定められ,原告名義の預金口座によって原告の財産が管理されているのであるから,団体としての主要な点が確定しているということができる。
被告は,原告提出に係る原告の会則(甲3)と原告が平成26年1月6日に被告に対して提出した原告の会則(乙17)の記載内容が一致しておらず,原告は有効な会則を定めていなかったと考えざるを得ないと主張する。
しかし,原告提出に係る原告の会則(甲3)では,第8条(付則)として,「この会則は2003年11月15日から実施する。」と記載されているのに対し,原告が被告に対して提出した原告の会則(乙17)では,第8条(付則)として「この会則は2003年◯月◯日から実施する。」との不動文字で記載されていたのを手書きで「11月15日」と訂正されていることからして,原告が被告に対して提出した原告の会則(乙17)は,平成15年(2003年)11月15日の設立以前に作成されたものであることがうかがわれ,単なる会則案にすぎず,その後,修正を経て記載内容の異なる有効な会則(甲3)が作成されたと合理的に推認することができるので,被告の上記主張は採用できない。
以上によれば,原告は,「法人でない社団」(民事訴訟法29条)に当たり,本件訴訟の当事者能力が認められる。
3 争点(2)ア(被告は,本件追悼碑について,特段の事情のない限り更新を許可すべき義務があるか。)について
原告は,処分行政庁は,記念碑や追悼碑等の公園施設の設置許可を受けた者が当該公園施設の設置期間の更新を欲するときは,都市公園の管理上あるいは公益上の必要がある場合など特段の事由がない限り,公園施設の設置期間の更新を許可すべき義務を負うと主張する。
しかし,法5条3項は,公園管理者以外の者が公園施設を設け,又は管理する期間は,10年をこえることができないとし,更新するときの期間についても同様である旨規定している。同項の趣旨は,同一の私人に途中で何らの手続もさせずにあまりにも長期にわたって公園施設を設けさせたり管理させたりすると,その関係が不明確になったり,当該私人がいつの間にか私物化してしまうといった諸種の弊害を生ずることが予想されて好ましくないので,いかに長くとも10年ごとに,公園管理者に更に同一私人に公園施設の設置又は管理を継続させるべきか否かを検討させる機会と,その関係を改めて明確にする機会を与えることによって都市公園の管理の適正を期する点にあると解される。そして,公園管理者に公園管理者以外の者が継続して公園施設の設置又は管理を継続させるか否かを検討させ,その法律関係を明確にする必要があることは,当該公園施設が記念碑や追悼碑等の場合であっても異ならないというべきである。
なるほど一旦公園施設の設置許可を受けた者が更新申請を行う場合には,従前の設置により当該更新申請者が有するに至った経済的利益その他の利益に配慮して更新の拒否を判断する必要があり,処分行政庁が,更新申請を拒否するためには,当該更新申請者に継続して公園施設の設置又は管理を行わせるべきでない特別の理由が必要であるというべきであるが,上記のとおり,法が,設置期間を更新する場合には,新たな設置許可の場合と異なり原則として更新を予定しているとまではいうことはできず,それ以上に一般的な義務として,処分行政庁の更新義務を認めることはできない。原告が主張の根拠として挙げる裁判例は,いずれも本件とは事案を異にするものであって,原告の上記主張は採用できない。
4 争点(2)イ(本件許可条件が,原告の表現の自由を侵害し,憲法21条1項に違反し,無効か。)について
(1)原告は,本件許可条件は,本件公園のパブリックフォーラムとしての意義を没却し,本件公園内での原告の表現の自由を著しく制約するものであるから,憲法21条及び法の趣旨に反し,無効であると主張する。
前記本件に関連する法令の規定のとおり,法は,5条において,公園管理者以外の者が,公園管理者の許可を受けて,一定の公園施設を設けることができる旨を規定する一方で,8条において,公園管理者は,上記許可に都市公園の管理のために必要な範囲内で条件を付することができる旨規定している。そして,前提事実記載のとおり,本件公園は,都市住民全般の休息,鑑賞,散歩,遊戯,運動等総合的な利用に供することを目的とする総合公園であり,都市における良好な景観の形成,緑とオープンスペースの確保を通じて豊かな人間性の確保と都市住民の公共の福祉増進をはかることが設置目的とされている。
このような法令の規定及び本件公園の設置目的を踏まえれば,都市公園の効用を全うするために設けられる「公園施設」(法2条2項各号)も一般公衆の多種多様で自由な利用に供する目的をもって設置されるべきであり,公園管理者は,公園管理者以外の者に対して公園施設の設置を許可するに当たり,法8条に基づいて,当該公園施設が一般公衆の多種多様で自由な利用に
供されるために必要な条件を付することもできるというべきである。
本件許可条件は,本件設置許可処分の公園施設設置許可に関する細部事項として「設置許可施設については,宗教的・政治的行事及び管理を行わないものとする」ことを内容とするものである。公園施設が政治又は宗教上の目的に利用された場合には,当該政治又は宗教上の意見,考え方と異なる意見,考え方をもつ者が安心して心身を休めたり,自由な時間を楽しむことができなくなったり,ときには紛争の原因となるなどして,当該公園施設を一般公衆の多種多様で自由な利用に供することが困難ないし不可能となることも想定されることからすれば,本件許可条件は本件追悼碑が一般公衆の多種多様で自由な利用に供されるための条件としての合理性が認められる。
そして,表現の自由といえども絶対無制約のものではなく,都市公園における公園施設の設置及び利用が何らの制限を受けないというものではないこと,本件許可条件によっても,原告が本件追悼碑に関わらない宗教的・政治的集会及び表現活動を行うことは何ら規制されるものではなく,本件追悼碑に関する集会及び表現活動であっても,宗教的・政治的行事及び管理に当たるものでなければ,何ら規制されるものではないことからすれば,本件許可条件が憲法21条及び法の趣旨に反するということはできず,原告の上記主張は採用できない。
(2)また,原告は,本件許可条件は,それ自体不明確であり,規制範囲は漠然としているというほかなく,過度に広範な規制といわざるを得ないから,原告の表現の自由を侵害し,憲法21条1項に違反し,無効であると主張する。
しかし,「宗教的・政治的行事及び管理」との文言がそれ自体直ちに不明確であるということはできない。加えて,①旧建てる会は,平成13年12月11日,被告国保援護課長及び都市施設課長宛てに,「戦時中における労務動員朝鮮人労働犠牲者の追悼碑」の本件公園への設置に関しては,「宗教的・政治的行事及び管理は一切行わない」ことを含む11項目の条件について全て合意できる旨の確認書を提出していること,②Iらが同年2月14日に行い,同年6月12日,群馬県議会において趣旨採択された請願は,「労務動員」という言葉を用いて,労務動員朝鮮人労働犠牲者追悼碑建立のため,県有地を貸与してもらいたい旨の請願であったこと,③これに対し,平成14年4月に,旧建てる会が,当時の群馬県知事宛てに提出した碑文の案では,「強制連行」という言葉が用いられ,政府が朝鮮人の強制的動員を開始し,さらに国民徴用令による徴用を行ったことにより,群馬県内の軍需工場等にも数千人の朝鮮人強制連行労働者が投入されたことを訴える内容が含まれていたこと,④被告国保援護課及び都市施設課は,同年11月18日頃,旧建てる会に対し,上記訴えに係る部分を削除した上で,追悼碑設置を申請する団体名や碑文の案から,「強制連行」の文言を「労務動員」に改めることなどを助言したこと,⑤旧建てる会の内部では,申請団体名の名前や碑文から「強制連行」の文言を削除することについて様々な議論がなされたが,本件公園に追悼碑を建立することが大きな目的であり,強制連行の概念も労務動員の概念に含まれるため妥協できるとの考えから,申請団体名や碑文の文面から「強制連行」の文言を削除して本件追悼碑の設置の許可の申請を行ったことは,前記認定のとおりである。
「宗教的・政治的行事及び管理」との文言自体直ちに不明確とはいえない
だけでなく,上記の本件追悼碑の設置許可申請に至る経緯によれば,被告は,本件設置許可処分に当たり,「強制連行」の文言を使用して,歴史認識に関する主義主張を訴える行為をすべきではないとの考えの下で本件許可条件を付したことが認められ,歴史認識に関する問題が国内外の政治問題にまで発展することもあり得ることであるから,本件許可条件にいう「政治的行事」には,少なくとも本件追悼碑に関して「強制連行」の文言を使用して,歴史認識に関する主義主張を訴えることを目的とする行事を含むものと解され,かつ,そのことを原告も認識していたというべきである。
したがって,本件許可条件は,具体的場合に当該行事が本件許可条件違反となる「政治的行事」か否かを判断することが十分に可能であり,その適用を受ける原告の立場からみて,「強制連行」の文言を使用して歴史認識に関する主義主張を訴えることを目的とする行事が「政治的行事」に当たることは明らかであったということができるから,本件許可条件が不明確であり,規制範囲が漠然としているということはできないし,「政治的行事」の意味が上記のとおり解される限り,過度に広範な規制ということもできないから,原告の上記主張は採用できない。
5 争点(2)ウ(本件更新不許可処分が,原告の表現の自由を侵害し,憲法21条1項に反し,無効か。)について
原告は,本件更新不許可処分は,原告から本件追悼碑による原告の表現の場を奪うものとして,原告の表現の自由を侵害し,無効であると主張する。
しかし,いかに碑の設置行為が表現行為の一態様であるとしても,特定の表現手段による表現の制限が,表現者の表現の自由を侵害するものというためには,表現者が,法的に当該表現手段の利用権を有することが必要と解されるところ,前記本件に関する法令の規定のとおり,法は,公園管理者以外の者に公園施設を設置させ又は管理させるかを公園管理者の許可に委ねているのであって,原告が,法律上,本件追悼碑を設置し,利用する権利を有しているということはできない。したがって,本件更新不許可処分が原告の表現の場を奪うものとして,原告の表現の自由を侵害する旨の原告の主張は,前提を欠き,採用できない。
6 争点(2)エ(本件更新不許可処分が,憲法31条に違反し,無効か。)について
原告は,本件追悼碑の設置期間の更新手続には憲法31条の定める適正手続の保障が及ぶところ,本件更新不許可処分に当たって原告に弁解や防御の機会が十分に与えられたものとは到底いい難いから,憲法31条に反し,本件更新不許可処分は無効であると主張する。
憲法31条の定める法定手続の保障は,直接には刑事手続に関するものであるが,行政手続については,それが刑事手続ではないとの理由のみで,そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。そして,行政処分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるかどうかは,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって,常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である(最高裁判所平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁参照)。
これを本件についてみると,原告は,本件更新不許可処分により本件公園における本件追悼碑の設置を継続することができなくなるものであるが,本件更新不許可処分が原告の表現の自由を侵害するものではなく,直ちに本件更新不許可処分により制限を受ける原告の利益が重大であるということはできないこと,申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名宛人としてされる処分については,不利益処分ではなく,告知聴聞の機会の付与は処分の手続的要件とされていないこと(行政手続法2条4号ロ,13条参照)などからすれば,本件追悼碑の設置期間の更新手続には憲法31条の定める適正手続の保障が及ぶということはできない。
また,仮に,本件追悼碑の設置期間の更新手続に憲法31条の定める適正手続の保障が及ぶとしても,前記認定のとおり,被告は,平成25年12月25日以降,原告に対し,朝鮮新報記載の記事が,事実と相違ないか否かについて報告を求めるなどした上で,原告からの要望を受けて,平成26年1月27日,同月31日,同年7月11日及び同月22日の4回にわたって,原告との意見交換会を開催して,その中で朝鮮新報記載の記事の内容に関する事実確認や本件追悼碑を自主的に本件公園外に移転することの提案をし,また,原告から代替案の提示を受けるなどしているのであって,直ちに原告の防御の機会が不十分であったということはできない。よって,原告の上記主張は採用できない。
7 争点(2)オ(原告が,「宗教的・政治的行事及び管理」を行ったか。)について
(1)前提事実4記載のとおり,本件更新不許可処分は,本件各発言がいずれも政治的発言であり,除幕式及び追悼式の一部内容を政治的行事とするものであって,本件許可条件に違反する行為が繰り返し行われた結果,本件追悼碑は,都市公園の効用を全うする機能を喪失し,法2条2項の公園施設に該当せず,また,本件追悼碑は,法5条2項1号の公園施設には該当せず,都市公園の機能の増進に資する施設とは認められないから,同項2号の公園施設にも該当しないことを理由とするものである。
ここで,前記本件に関連する法令の規定のほか,公園管理者は,法の規定による許可に付した条件に違反している場合等においては,法の規定によってした許可の取消し等をすることができるとされていること(法27条1項)などにも鑑みると,公園管理者以外の者に公園施設の設置又管理を許可するか否かは,法5条2項所定の要件の存する範囲内で,公園管理上の政策的,技術的な観点から,当該第三者の人格,識見,経験,技術,手腕,財力などを勘案した公園管理者の合理的な裁量判断に委ねられているものと解される。もっとも,公園管理者に,公園管理者以外の者に公園施設の設置又管理を許可するか否かについての裁量が認められるといっても,そこには一定の限界が存するのであって,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があることなどにより判断が全く事実の基礎を欠く場合や,事実に対する評価が明白に合理性を欠くことなどにより判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠き裁量権の範囲を超えていると認められる場合又は不当な目的のために裁量権を恣意的に行使するなど裁量権の濫用に当たると認められる場合には,当該処分は違法というべきである。
(2)ところで,本件訴訟において,被告は,平成27年4月30日付け被告準備書面において,「被告が,本件追悼碑の管理状況について調査したところ,本件追悼碑前において,①「碑文に謝罪の言葉がない。今後も活動を続けていこう。」(中略)との各発言がなされたことが確認された。」,「各発言が政治的発言に該当すると判断し(た)」と主張したのに対し,原告は,同年12月9日付け原告第3準備書面において,「認める」と認否した(当裁判所に顕著な事実)。
原告の上記認否は,被告が主張立証責任を負う本件更新不許可処分の適法性を基礎付ける具体的事実である本件許可条件の違反行為として,E運営委員が平成16年4月24日開催の除幕式において本件追悼碑前で本件発言1をした事実を主張したところ,原告が認めたものであるから,上記事実が存在することについて自白が成立している。
これに対し,原告は,原告の上記認否は,被告が,本件追悼碑の管理状況等について調査を開始し,調査の過程で除幕式においてE運営委員による本件発言1がなされたことを確認したという事実経過(各発言を認識した経過)に対して認否したにすぎず,実際に除幕式においてE運営委員が本件発言1をした事実についてまで認めたものではないと主張する。
しかし,原告が,自らが経験しているわけではない被告の調査,確認の経過のみを認めることは不自然といわざるを得ず,原告は,被告が調査した結果,確認した事実,すなわち,除幕式においてE運営委員による本件発言1がなされたことも含めて認否したと理解するのが相当であり,他に原告の自白の成立を妨げる事情はない。
(3)そこで進んで,原告において,上記自白が真実でなく,かつ,錯誤に基づく自白であるとして,撤回することができるか否かを検討すると,証拠(甲59~61)によれば,同人は,除幕式において何ら追悼の言葉を述べたり,献花をしたりするなどの行為を行っていないことが推認される。
確かに,原告が提出する除幕式の動画(甲61)は,一部映像が途切れている部分があり,また,上記動画には,除幕式の式次第(甲59)には予定
されていない黙祷の時間や手紙ないし詩の朗読の時間が設けられているなど,一部,上記式次第と整合しない部分はある。しかし,動画の撮影者において,スピーチとスピーチとの間に間があったりした場合に一時的に撮影を停止させることはあり得ることであるし,上記動画と上記式次第は,大部分において合致していることからすれば,直ちに上記動画及び式次第の記載が信用性を欠くということはできない。また,前記認定のとおり,E運営委員は,除幕式の後,本件公園の群馬歴史博物館内で開催された追悼碑建立の集いにおいて,本件追悼碑の基本理念,レリーフ(絵)の説明をしているのであるから,さらに,除幕式において,式次第にも記載がない挨拶をするとは考え難いことからすれば,同人が除幕式において本件追悼碑前で本件発言1をした事実はないと認めることができる。
そうすると,原告の上記自白は真実に反するものであり,かつ,原告が上記自白が真実に反するものであることを知りながら自白をしたことをうかがわせるような事情はなく,上記自白は錯誤に基づくものであったということができるから,原告は,上記自白を撤回することができるというべきである。なお,原告には上記自白をしたことについて過失があることは否定できないが,自白の撤回が許されるためには,錯誤につき無過失であることまでは必要ではないと解すべきであるから,上記事情があることをもって,自白の撤回が許されないということはできない。
また,被告は,原告の自白の撤回の主張は,時機に後れた攻撃又は防御方法として許されないと主張する。しかし,原告の自白の撤回は,平成28年11月16日の第10回口頭弁論期日でされたものであるが,未だ争点の整理を終える前の段階でされたものであるし,上記自白の撤回の後も平成29年5月17日の第13回口頭弁論期日には争点の整理を終えて,原告及び被告が申し出た証人の採否の裁判がなされていることからすれば,未だ時機に後れた攻撃又は防御方法に当たるものとはいえない。
(4)以上によれば,本件更新不許可処分は,E運営委員が除幕式において本件追悼碑前で本件発言1をしたとの事実がなかったにもかかわらず,これがあったものとしてなされたことになる。
この点について,原告は,本件更新不許可処分は,処分の前提に重大な事実誤認があったことが明らかであると主張する。
確かに,E運営委員が除幕式において本件追悼碑前で本件発言1をしたとの事実は,原告が「宗教的・政治的行事及び管理」を行ったことを基礎付ける重要な事実であるということができるから,本件更新不許可処分は「宗教的・政治的行事及び管理」の存在を基礎付ける重要な事実に誤認があったといわざるを得ない。
しかしながら,一般に,取消訴訟においては,行政庁は,原則として当該処分の効力を維持するための一切の法律上及び事実上の根拠を主張することが許されると解される(最高裁判所昭和53年9月19日第三小法廷判決・集民125号69頁参照)。したがって,被告が政治的発言に当たると主張する本件発言2ないし本件発言5が,政治的発言であると評価され,追悼式の一部内容を政治的行事とするもので,「政治的行事及び管理」を禁止した本件許可条件に反する行為であると評価される場合には,E運営委員が除幕式において本件追悼碑前で本件発言1をしたとの事実がなかったとしても直ちに本件更新不許可処分が全く事実の基礎を欠くということはできない。
そこで,以下,本件発言2ないし本件発言5が,政治的発言に該当し,追悼式の一部内容を政治的行事とするもので,「政治的行事及び管理」を禁止した本件許可条件に反する行為であるということができるかについて検討する。
ア 既に説示したとおり,本件追悼碑の設置許可申請に至る経緯によれば,少なくとも,本件追悼碑に関して「強制連行」の文言を使用して,歴史認識に関する主義主張を訴えることを目的とする行事は,「政治的行事」に含まれ,かつ,そのことを原告も認識していたというべきであるから,「政治的発言」には,本件追悼碑に関して「強制連行」の文言を使用して,歴史認識に関する主義主張を訴える発言が含まれると解するのが相当である。
そうすると,平成17年4月23日開催の追悼式におけるJ事務局長の本件発言2のうち「強制連行の事実を訴え,正しい歴史認識を持てるようにしたい。」との部分,平成18年4月22日開催の追悼式におけるN共同代表の本件発言3のうち「戦争中に強制的に連れてこられた朝鮮人がいた事実を刻むことは大事」との部分,平成24年4月21日開催の追悼式におけるP委員長の本件発言5のうち「日本政府は戦後67年が経とうとする今日においても,強制連行の真相究明に誠実に取り組んでおらず」との部分は,いずれも「強制連行」の文言を使用して,歴史認識に関する主義主張を訴える行為であるといえるから,政治的発言に該当するものというべきである。これに対し,平成18年4月22日開催の追悼式におけるO委員長の本件発言4は,朝・日国交正常化の早期実現,朝鮮の自主的平和統一,東北アジアの平和のために「共に手を携えて力強く前進していく」旨の発言であり,「強制連行」の文言は使用しておらず,歴史認識に関する主義主張を訴える行為であるということもできないし,その他,政治的発言に該当するということはできない。
そして,上記各政治的発言は,いずれも追悼式における原告の事務局長,共同代表又は来賓としての立場からなされたものであり,当該発言に含まれる歴史認識に関する主義主張を推進する効果を持つものであるから,上記各政治的発言がなされた結果,追悼式自体が死者を悼む目的を超えて,政治性を帯びることは否定できないというべきであり,平成17年4月23日開催の追悼式,平成18年4月22日開催の追悼式及び平成24年4月21日開催の追悼式は,いずれも「政治的行事」に該当するというべきである。
イ 上記認定に対し,原告は,本件発言2,本件発言3及び本件発言5における「強制連行」という言葉は,確立した歴史学上の用語として一般的に使用されている上,過去の歴史的事実を表現する意味合いを超えるものではないから,「強制連行」という言葉が含まれることをもって,「政治的発言」と評価することはできない旨主張する。
しかし,申請団体名や碑文の文面から,あえて「強制連行」の文言を削除した経緯からすれば,少なくとも原告と被告との間では,「強制連行」の文言を使用して,歴史認識に関する主義主張を訴える行為が,本件追悼碑の内容とは異なる主義主張を訴える行為に当たることについて,共通の認識となっていたというべきである。その意味では「強制連行」という言葉が,歴史学上の用語としていかなる意味で用いられ,いかなる歴史的事実を指すものであるかに重要性があるとはいえない。
また,原告は,本件発言5は,追悼式に参加した来賓の発言であって,原告が本件発言5に対して,抗議しなかったことをもって,各発言を利用したと評価することはできず,本件追悼碑を政治的に利用したと評価することもできないと主張する。
しかし,証拠(甲15)によれば,B群馬県本部は,「本件追悼碑除幕式の報告」において「関係団体」とされていることが認められ,平成16年の除幕式以後,B群馬県本部の委員長は,何度も追悼式に出席して挨拶をし,本件発言5がなされた後に開催された平成25年の追悼式にも出席していること(前記認定事実(4)),証人Gは,証人尋問において,追悼式で来賓のうち誰に挨拶をしてもらうのかについては,主催者である原告が決定して依頼していたと供述していることからすれば,B群馬県本部委員長の挨拶は,原告の事務局長及び共同代表が行う挨拶と同様に,毎年の追悼式の通例となっていたことがうかがわれる。その上,原告が,P委員長が本件発言5を行った際に,何らの抗議もしていないことを併せて考えれば,本件発言5が来賓の発言であるからといって,追悼式自体が政治性を帯びることを否定することはできないというべきであり,原告の上記主張は採用できない。
さらに,原告は,追悼式に参加した関係者から社会情勢や政治に関する単発的な発言があったとしても,追悼式自体の目的が政治的な目的に変化するものではないから,本件追悼碑に係る政治的発言がなされたことをもって,追悼式を「政治的行事」と評価することもできないとも主張する。
しかし,上記のとおり,追悼式において政治的発言がなされた結果,追悼式自体が当該発言に含まれる歴史認識に関する主義主張を推進する集会としての性質を帯び,死者を悼む目的を超えて,政治性を帯びることは否定できないというべきであるから,原告の上記主張は採用できない。
ウ 以上によれば,本件各発言のうち本件発言2,本件発言3及び本件発言5は,いずれも政治的発言に該当し,平成17年4月23日開催の追悼式,平成18年4月22日開催の追悼式及び平成24年4月21日開催の追悼式は,いずれも「政治的行事」に該当するものであるから,これらの追悼式を開催した原告は本件許可条件に違反したものといわざるを得ない。
8 争点カ(原告が本件許可条件に違反したことにより,本件追悼碑が都市公園の効用を全うする機能を喪失し,「公園施設」(法2条2項)に該当しなくなったということができるか。)について
(1)ある施設が都市公園の効用を全うするか否かは,個々の公園の特殊性に応じて,具体的に決すべきであると解される。そして,前提事実及び記載のとおり,本件公園は,都市住民全般の休息,鑑賞,散歩,遊戯,運動等総合的な利用に供することを目的とする総合公園であり,都市における良好な景観の形成,緑とオープンスペースの確保を通じて豊かな人間性の確保と都市住民の公共の福祉増進をはかることを設置目的としており,本件追悼碑は,わが国と近隣諸国,特に,日韓,日朝との過去の歴史的関係を想起し,相互の理解と信頼を深め,友好を推進するために有意義であり,歴史と文化を基調とする本件公園の効用を全うするものとして設置されたものである。
(2)前記認定のとおり,原告は,平成16年以降,毎年追悼式を開催し,平成17年及び平成18年の追悼式では,前記のとおり政治的発言に該当する本件発言2及び本件発言3がなされていたにもかかわらず,平成24年5月15日付けの朝鮮新報が同年4月21日開催の追悼式に関する記事を掲載するまでは,被告に対しても本件追悼碑に関する抗議や意見の電話及びメールが寄せられたことはなかったのであり,原告が追悼式を開催及び運営するに当たって支障や混乱が生じたことを認めるに足りる証拠はないから,本件許可条件違反の事実,すなわち,原告が,本件追悼式について政治的行事を行った事実があることをもって,直ちに本件公園の効用を全うする機能を喪失していたということはできない。
これに対し,被告は,本件許可条件違反の事実が認められた場合には,例外なく,本件追悼碑は都市公園の効用を全うする機能を喪失したものと考えるべきであると主張する。
しかし,仮に,被告が本件許可条件違反の事実が認められた場合には直ちに本件追悼碑は都市公園の効用を全うする機能を喪失するとの認識を有していたのであれば,本件許可条件違反をうかがわせる事実を認識した時点で,事実関係の調査や原告に対する事実確認を行うなどの対応をとるのが自然であるにもかかわらず,証人Fが,平成24年5月頃には,既に同月15日付けの朝鮮新報の記事を確認していたのに,被告は,平成25年10月頃に平成17年5月14日付けの朝鮮新報,平成18年4月25日付けの朝鮮新報及び平成24年5月15日付けの朝鮮新報の記事を確認するまで何らの調査も行わず,平成25年12月24日頃に,上記各朝鮮新報の記事が事実と相違ないかについての報告を求めるまで原告に対する事実確認を行っていない。証人Fは,証人尋問において,平成24年5月頃に朝鮮新報の記事を確認した後,約1年半もの間,調査及び事実確認を行わなかった理由について,本件更新申請がなされた段階で処理すればよいと考えていた旨を供述しており,上記供述によれば,証人Fは,仮に,平成24年5月15日付けの朝鮮新報の記事内容が真実であるとしても,直ちに本件許可条件違反を理由として本件設置許可処分を取り消すなどの対応を取ることは全く想定していなかったというべきである。そうすると,被告自身,本件許可条件違反の事実が認められた場合には直ちに本件追悼碑は都市公園の効用を全うする機能を喪失するとは考えていなかったというべきであり,被告の上記主張は採用できない。
なお,仮に,本件追悼碑について政治的行事が行われたことにより,本件追悼碑が歴史認識に関する主義主張を伝達するための施設に該当するに至ったと評価される場合であっても,その後,本件追悼碑について政治的行事が行われることなく,時間が経過するなどの事情により,本件追悼碑の歴史認識に関する主義主張を伝達するための施設としての性質が消失し,日韓,日朝の友好推進という本件追悼碑本来の機能を回復することもあり得るというべきである。
しかしながら,被告は,①原告が本件追悼碑の敷地部分を買い取ること,②被告が本件追悼碑の更新期間を1年ないし2年に短縮して更新許可処分をすること,③被告は原告の10年の本件更新期間の更新申請を許可する代わりに,原告は当分の間,本件追悼碑前での追悼式の開催を自粛することを内容とする3つの代替案をいずれも拒否しており,被告が,上記3つの代替案を受け入れることができるか否かについて,具体的に検討したことを認めるに足りる証拠はないことからすれば,群馬県知事は,本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を喪失したと判断するにつき,当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず,本件更新不許可処分は,この点においても,その裁量権行使の判断要素の選択に合理性を欠いているといわざるを得ない。
(3)以上によれば,本件更新不許可処分は,原告の本件許可条件違反の事実によっては,本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を喪失していたということができないにもかかわらずなされたものであり,本件許可条件違反との事実に対する評価が明白に合理性を欠いており,その結果,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるから,裁量権を逸脱した違法があるといわざるを得ない。
なお,①被告に対しては,平成24年5月以降,本件追悼碑の内容が真実
でない,本件追悼碑は即刻撤去すべきであるなどの抗議や意見の電話及びメールが相次いで寄せられるようになり,また,抗議団体の構成員らが被告国保援護課に来庁して,本件追悼碑の碑文の文面の内容について抗議したこと,②同年11月4日には,抗議団体の構成員らが,群馬県高崎駅前で本件追悼碑の撤去を求める街宣活動を行い,その後,本件公園に来園して園内にプラカードを持ち込むなどしたため,公園職員との間で小競り合いとなり,警察が駆けつける騒ぎが発生したこと,③同団体の構成員らは,平成26年4月21日にも,本件公園の正面入口付近で本件追悼碑の撤去を求める街宣活動を行ったことは前記認定のとおりである。
上記事情は,原告の本件追悼碑の利用又は管理とは直接的には関係するものではないが,本件追悼碑をめぐる抗議活動や街宣活動が活発化していたことを示すものである。そして,被告において,抗議団体による抗議活動や街宣活動の結果,本件公園周辺で都市公園としてふさわしくない混乱が生じるなどの具体的な支障が生じ,日韓,日朝の友好推進という本件追悼碑本来の機能を十分に考慮してもなお,都市住民全般の休息,鑑賞,散歩,遊戯,運動等総合的な利用により,都市における良好な景観の形成,緑とオープンスペースの確保を通じて豊かな人間性の確保と都市住民の公共の福祉増進をはかるという本件公園の効用が阻害されるに至っていると判断されるような場合には,群馬県知事が本件追悼碑の設置期間の更新を認めないとの処分をすることも,公園管理者の合理的な裁量の範囲内の行為として許される可能性は考えられなくもない。
しかしながら,上記のとおり,抗議団体の抗議活動や街宣活動の内容は,主として,本件追悼碑の碑文の内容が真実でないため,本件追悼碑は即刻撤去すべきであることを求めるものであったのであるところ,①群馬県知事は,本件設置許可処分にあたって,原告に対し,本件追悼碑の碑文の内容の修正を求め,修正後の碑文の内容は相当であることを認めた上で本件設置許可処分を行ったものであるし,②現に,被告国保援護課の担当職員は,抗議団体の構成員らが被告国保援護課に来庁した際にも,本件追悼碑の碑文の内容には問題ない旨を回答している。そうすると,被告自身,本件追悼碑の碑文の内容は相当であると認めているのであるから,被告としては,本件追悼碑の碑文の内容に関する抗議活動や街宣活動を行う抗議団体に対しても,本件追悼碑の碑文の内容を説明し,抗議団体が碑文の内容を誤解していると認められるような事情があれば,その点を指摘して本件追悼碑の碑文の内容は相当であることの理解を求めるのが望ましいということができるのであり,抗議団体による抗議活動や街宣活動の内容が正当であることが判明し,考え方を改めたといった事情もないにもかかわらず,直ちに本件公園の効用が阻害されるに至ったと判断することはできないというべきである。
そして,抗議団体の構成員らが,平成24年11月4日に群馬県高崎駅前で本件追悼碑の撤去を求める街宣活動を行い,その後,本件公園に来園して園内にプラカードを持ち込むなどしたため,公園職員との間で小競り合いとなり,警察が駆けつける騒ぎが発生したことは上記のとおりであるが,証人Fは,証人尋問において,上記小競り合いの詳しい状況の報告を受けたのかとの質問に対して,警察も出動した旨を述べるにとどまり,具体的にいかなる小競り合いが生じ,本件公園の利用にいかなる影響が生じたのかについて何ら供述していないのであって,被告がこの点について,何らかの調査を行ったことを認めるに足りる証拠はない。さらに,本件公園の年間利用者は,平成22年度が54万2871人,平成23年度が55万5278人,平成24年度は54万2586人,平成25年度は50万4236人とされており,このうち平成25年度の利用者数が減少した理由は台風と雪の影響によるものであると指摘されていること,本件追悼碑が設置されている本件公園の北側西寄りの場所一帯は,樹木が生い茂る散歩道であり,正面入口からは距離があるため,正面入口付近に比べて,公園利用者の姿が少ないことは前提事実のとおりであって,本件追悼碑をめぐる抗議活動や街宣活動によって本件公園の利用者数が減少したということもできない。そうすると,そもそも抗議団体による抗議活動や街宣活動の結果,本件公園周辺で都市公園としてふさわしくない混乱が生じるなどの具体的支障が生じていたと認めることもできない。
以上によれば,本件訴訟に現れた証拠による限りは,抗議団体による抗議活動や街宣活動の結果,本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を喪失したということはできない。
9 以上説示したところによれば,本件更新不許可処分は違法な処分であるから,その他の取消事由を検討するまでもなく,取り消されるべきである。
10 争点(3)(群馬県知事が,本件更新申請に対する許可処分をしないことが,裁量権の逸脱又は濫用となるか。)について
本件義務付けの訴えは,いわゆる申請型の義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項2号)であるから,本件取消しの訴えに係る請求に理由があると認められ,かつ,群馬県知事が,本件更新申請を許可すべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又はその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときに認容される(行政事件訴訟法37条の3第3項)。
(1)既に説示したとおり,本件更新不許可処分は,本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を喪失したということはできないにもかかわらずなされた点で,裁量権の逸脱があったものと認められ,違法であるから,本件取消しの訴えに係る請求には理由があるものと認められる。
(2)原告が平成25年12月18日,群馬県知事に対し,本件追悼碑の設置期間を平成26年2月1日から平成36年1月31日まで更新する旨の本件更新申請をしたところ,群馬県知事は,平成26年7月22日,原告に対し,本件更新不許可処分をしたことは,前提事実記載のとおりである。
上記のとおり,本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を喪失したということはできないところ,本件更新不許可処分後の事情に関しては原告及び被告ともに特段の主張立証がなく,現時点において,本件追悼碑が,本件公園の効用を全うする機能を有しないということはできないから法2条2項の要件に適合しないということはできない。また,本件追悼碑を原告により設置又は管理することが本件公園の機能の増進に資するものと認められないともいえないから法5条2項2号の要件に適合しないということもできない。
もっとも,公園管理者以外の者が公園施設を設置又は管理する期間については,法は,5条3項において10年を超えることはできないと規定するほかは,何らの規定を設けていないから,更新申請者に対し,具体的にいかなる期間の更新を許可すべきか否かは,公園管理者の合理的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。
そうすると,本件追悼碑が,法2条2項及び5条2項2号の要件を満たすとしても,いかなる期間及び条件のもとで本件追悼碑の更新を許可すべきかについては,なお,群馬県知事の裁量判断に委ねられているというべきであり,群馬県知事が,更新期間を平成26年2月1日から平成36年1月31日までの10年間とする本件更新申請を許可しないことが,法令の規定に反することが明らかであり,又は,その裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となるということまではできない。
したがって,本件更新申請の許可の義務付けを求める原告の本件義務付けの訴えに係る請求は,理由がない。
11 結論
よって,原告の本件取消しの訴えに係る請求は理由があるから認容し,原告のその余の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
前橋地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官 塩田直也
裁判官 高橋浩美
裁判官 佐藤秀海