【授業におけるICT入門】情報リテラシーを育てる
今年度もさまざまな自治体の小学校でお話をさせていただいております。
講座の打ち合わせでは先生方と「いま、困っていること」をお伺いすることが多いのですが、定番である「SNSやゲームでのトラブル」や「長時間利用」などに混じって、耳を疑うような話が増えてきました。
それは、「学校から貸与されるタブレットパソコンの家庭での扱い」についてです。
基本的にタブレットは学校の授業で使用しますが、徐々に家に持ち帰って、宿題や自主学習などに活用するようになってきています。
普通に考えれば、「学校から持ってきた道具に家庭で何か手を加える」ということはないのですが、どうやらそうではないらしく、ITの分野の技術を持っているご家族が、子ども用に学校では使わないアプリを「内緒だよ」とインストールしてしまったり(当然内緒にはできず、子どもが授業中に使って判明する)、ひどいところではネットのフリーマーケットに転売(!)してしまったりというケースがあるというのです。
売ってしまうというのは本当に驚くことですが、学校の授業に使っている道具に、勝手にアプリをインストールしてしまうという行為は、「教育」というものに対する理解もそうですが、そもそもICTということに対する理解がないというように感じます。
IT機材だけに限りませんが、道具は「目的」をもって使うものですから、勝手に改造してしまうと目的に沿えなくなってしまいますし、本来「貸与」されているだけで私物化してよいわけではない機材であるという認識がないまま受け取られているということもあります。
教育委員会(各学校)は、タブレットを使用する前に各家庭に対して目的や使用方法などについての通知を出しているのですが、それをきちんと読んでいない、つまり情報リテラシーがない状態なのです。
私は、学校で子ども達に情報モラル、情報リテラシーについての講座を行っていますが、それと同時に保護者に対する講座(というか一緒に考える勉強会で良いのですが……)を行っていかなければと常々感じます。
ただ、例えばPTAや学年の集会などでいくら実施してもあまり人は集まりません。最近は苦肉の策で、公開授業のような保護者がたくさん来る日に情報リテラシー講座をあてて、担任ではない私の授業を受ける子ども達を参観する…というような策をとられる学校も増えてきました。それでもやはり、足りないのです。
ですから、学校外で大人の情報リテラシーを向上する機会を増やさなければと思っています。
たとえば企業内の研修であったり、行政が一般市民に向けて実施したりといった具合です。そのなかでも私は企業の研修が望ましいなと思います。なぜなら、情報リテラシーはどの世代にも、どんな場面でも必要なものだからです。
学びは学生の時だけではありませんし、情報リテラシーは学校だけで学ぶものでもありません。さまざまな世代の、さまざまな立場の人が情報リテラシーについて考える機会を持つことが、結局は子どもの教育に活かされるし、案外それが近道なのかな…と考えています。
2011年、文部科学省が発表した資料に「21世紀型スキル」という言葉が登場しました。21世紀型スキルを提唱したのはATC21s(Assessment and Teaching of 21st Century Skills=21世紀型スキル効果測定プロジェクト)という国際団体です。
この団体には、アメリカなどの政府や大学、Microsoftなどの企業も参画していますが、2015年に国立教育政策研究所が発表した「資質・能力を育成する教育課程の在り方に関する研究報告書1』では「21世紀型スキル」は「どの国でも一部のできる人にあてたものではなく、すべての人に求められるものだ」と説明しています。
この、21世紀型スキルの中に、「新しい知識をつくり出すために、テクノロジーの力を利用する」情報リテラシーが含まれています。
ネットの発達により、世界はグッと身近になりました。日本に居ながらにして世界に通じることができるこれからの時代を生き抜いていく子ども達に情報リテラシーを会得してもらうには、おそらく今までのような「授業」で教えることは少なくなると思います。
私たち大人の日常生活、行動に情報リテラシーが伴っている状態をみて、自然と身につけるものでなければなりませんし、そのためには私たち自身のリテラシーの向上を意識することが大切なのだと思います。
ですから、先生方には情報モラルや情報リテラシーを授業で取り上げる際にはぜひ、「教える」ではなく「一緒に考える」というような内容を考えていただきたいと思います。
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現在、「教育」が「IT」でどのように変化するのかを定点観測するwebサイト【koedo】にも記事を掲載中です。