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【23年度グランプリ受賞者がこっそり教える】文藝春秋SDGsエッセイ大賞2024を書くにあたってのポイント

 昨夕から妙にアクセス数が多いなと思っていたら、今年の「文藝春秋SDGsエッセイ大賞2024」の応募が始まり、そこに作品を掲載くださっていたことがわかった。

 去年は過分な評価を頂戴し、お蔭様で下記の記事でグランプリを受賞している。そこで恩返しの意味も含め、この記事で去年の私がそこはかとなく考えていたことを共有しておきたい。今年ご応募を考えているクリエイターさんの参考になる部分があれば、幸いである。

 その前に、受賞して何か変わったかとよく聞かれた一年であったので、この場を借りて回答させていただきたい。結論から言って、かなり変わった

 「農福連携」というかなりニッチなテーマにも関わらず、商業出版の機会を数社から既にいただいている。脱稿が終わり、版元の編集者さんとやりとりが始まっている原稿もあれば、まさに脱稿に向けてうんうんと苦しんでいる原稿もある。私にとっては、大変ありがたい機会だ。そこから派生して、『晴耕雨読』関連の本をという話も現段階で出始めている。

 ちなみに、今年の記事はこちらで応募させていただいた。
 (今後も締め切りまで編集は続けていく予定)

 それでは早速、本題に入っていこう。


1、テーマ

 まずはどのようなテーマで書くかを考えることだ。

 もちろんSDGsなので、持続可能性についてのエッセイを書いていくわけだが、具体的なことを考えなければならない。

■応募概要

 そこで、熟読すべきは「応募概要」になる。なぜなら、この条件から外れてしまったら、どんなに素晴らしい文章を書いたとしても、受賞が遠のいてしまうからだ。「応募概要」の数行は熟読しておくこと。ちなみに今年の「応募概要」は以下の通りになる。

そこで今年も、よりよい未来のためにあなたが考えていることや、実際に行動していることにまつわるエッセイを募集します。

大きな取り組みだけでなく身のまわりの小さなことでも、また、考えや目標だけでもかまいません。みなさんの考える「未来のために、今取り組むこと」について、自由にご投稿ください。

応募概要より引用

 去年の私の場合は、「身のまわりの小さなこと」×「実際に行動していること」の掛け合わせにした。簡潔に言ってしまえば、「身近」×「行動」である。具体的には「身近な草を使って、どう行動しているか」しか書いていないわけだ。では、なぜこの掛け算にしたのか。それは審査員に角田光代さん・為末大さんがいらしたからになる。

■審査員の世界観

 私がグランプリを受賞したのは、まず角田さんに推していただけたのが大きい。光栄なことだ。

角田 わたしは「僕らはひたすら草を土に置く」を一位にしました。刈りとった草を畑に戻す“草マルチ”というやり方があるんですね。この方は農業をやっておられるんでしょうか、他の方とはちょっと視点が違っていて面白いなと思いました。

『文春オンライン』より引用

 これはまったくの主観であったけれども、おそらく角田光代さんは日常の何気ない物事がSDGsへと繋がっていく視点を大切になさっていると私は考えた。だから、私は記事の主役を「草」にしたのだ。もちろん「農福連携」を普及したい気持ちはあったものの、それを前面に出せば、農家や福祉関係者以外には届かない。だから、ノウフクはB面にこそっと隠しておく。A面には、皆が私にもできると思えるようなものがふさわしい。

 このように審査員の方の世界観を推測し、目に止めていただけるようなテーマに目星をつけていくことが大切だと私は思う。無論、これはまだ筆をとる前の作業になる。続けて、他の審査員の方のコメントも見ていこう。

為末 角田さんが挙げた「ひたすら草を置く」も、実感がこもっていて、リアリティがありますよね。テクニックに凝るような書き方よりも、こういう淡々とした書き方のほうが、僕の好みだなと思いました。

『文春オンライン』より引用

 為末大さんは「実感」と「リアリティ」の視点を加えて、コメントしてくださっている。こちらも非常にありがたいことだ。そして、トップアスリートでいらしたキャリアから考えても、ごく自然な言葉を頂戴した印象を私は受けた。実はこれも応募前にある程度、予測はできることである。スポーツの世界を生きてこられたのだから、身体的な世界観は少なくても重要視されているはずだ。

 つまり、角田光代さんは「応募概要」の中の特に「身のまわりの小さなこと」を、為末大さんは「応募概要」の中の特に「実際に行動していること」を重視されてれいるのではないかと仮説を立てたのである。この仮説があってこその「身近」×「行動」のテーマ選びになった。

 さて、今年の審査員は山邊鈴さんになる。彼女が十代とは思えない文章力を発揮された記事を始めとして、当然色々と読まれた方がよい。そして、彼女の世界観に響く文章とは、どのようなものか。応募概要と見比べながら、探していかれるのをオススメする。

 あと、一年目はタケチヒロミさんのドレスの記事。二年目は私の農業関係の記事がグランプリを受賞しているから、衣食住の衣食と偶然にも続いている。だから、今年は安直に「住」のテーマを狙っても面白いかもしれない。

 兎にも角にも、闇雲に書く前に、どのようなテーマにすべきかを考える必要がある。それが終わったら、型にいこう。

2、型

 去年の私は2022年度グランプリ受賞者であるタケチヒロミさんの型を真似するところから始めた。私が幸運であったのは、すでに前年度、素晴らしい記事を書かれていた方がいらっしゃったという点につきる。出版業界は類書の有無で今後の出版を判断する方法をとる。したがって、誰も見たことがない文章を書くよりも、既に評価されている文章をモデルにして書くべきなのだ。ちなみに彼女は今年度も優秀賞をとられており、私よりも文章が上手いので、私よりも彼女の文章を真似された方がよいと思う。

■タイトル

 まずはタイトルから真似をしていこう。

 初グランプリに輝いたタイトルは上記の「ただ美しいドレスをつくる」になる。去年の私は当然、ここからタイトルを考えた。まず「ドレスをつくる」の部分は、すでにお話しした私のテーマである「草」を分母にして考え、「草を土に置く」とした。また、「ただ美しい」の「ただ」の部分は、どう真似しようか考えているうちに「ひたすら」という言葉が降りてきた。合わせて「ひたすら草を土に置く」の完成である。

■章立て

 次に真似すべきは章立てだ。

 タケチヒロミさんの記事を拝読して感動したのが、1,000字という短いエッセイの中で、丁寧に写真まで掲載し、章立てをなさっているという点だ。無論、『文藝春秋』に掲載される際は、下記のように写真は一葉のみになるけれども、読者としてはイメージがかなり湧きやすい。

 また、文字数は1,000字以内とあるので、最終的には900字〜1,000字のあいだに収めたい。私の場合は、掲載されないとわかっているのに、写真下のキャプションにまでこだわったので、こちらの文字数も含めて1,000字以内にした。

 ちなみに、私はえらくタケチヒロミさんの型を気に入ってしまい、他の応募をする際も未だに同じ型で書いている。例えば、今も応募期間である「#自分で選んでよかったこと」の私の応募記事は、文字数こそ違えど、そっくりなのがわかっていただけるのではないだろうか。

 兎にも角にも、真似できる部分は真似すべきだ。本来、完全なオリジナリティなんてあり得ない。私の記事もお役に立つ箇所があれば、いくらでも真似していただいて結構である。こうしてお互いに切磋琢磨していくことで、今眼前にあるnoteの記事から、世界の持続可能性に貢献することは充分に可能である。

 概して、書けども書けども化学反応や奇跡なんてまったく起きないものだが、それでも僕らはひたすら書き続けていくことで、今同時代に生きているどなたかに何かが届くこともある。実際、私の記事がきっかけで草マルチや農福連携を始められた方も少なくない。

 というわけで、私からの最後の贈り物は「執筆」についてである。

3、執筆

 私の書道の師は野尻泰煌先生といって、もう亡くなられてしまったけれども、日本よりも世界で有名な書家であった。彼の稽古は「墨をすっている暇があるなら、ひたすら書け」という精神のもとに展開されていた。おそらくこの影響であろう。正直に申し上げると、「賞のとり方を考えている暇があるなら、ひたすら書く」といった姿勢の方が結果的には、よいような気もする。

 今回は1,000字以内なのだから、テーマを決めて、一気に3,000字程度ほど書き上げてから削るとよい。無駄を棄て果てたところに真理がひとつ残る。文章を削り切って、1,000字以内に収めたいところだ。間違っても、500字程度で充分な話を、1,000字に薄めていくといった手法はしないことである。

 また、応募は一記事だけでよいのではないか。「一以貫之(一を以って、之を貫く)」という禅語もある。去年、私が応募したのも一記事だけだ。幾つか記事を書いて応募した瞬間、文章の迫力が薄まると私は感じてしまう。

 あとはスキとかを考えないこと。自分自身が惚れる記事を書けたなら、自ずとその記事は自分で幾度も読んでしまうものだ。「僕らはひたすら草を土に置く」も私は幾度も読み直した。それは「てにをは」のチェックも兼ねたが、何よりも自分でこの記事を気に入っていたからに他ならない。応募時、この記事のスキ数は30そこそこであった。私にとっては多い数だけれども、注目をされていたわけではない。他者の承認欲求を越えたところに、執筆本来の楽しみがあるのではないか。

 普段は二十時半に就寝している(小学生より早い)ので、さすがに睡くなってきた。しかも、別に狙ったわけではないが、今日も炎天下のなか、ずっと草マルチ敷きをしていた。朦朧とした頭で思い返したところ、私が去年意識したのは以上になる。夜分遅く、長文に付き合ってくださって、ありがとう。

いつも心温まるサポートをまことにありがとうございます。 頂戴しましたサポートは、農福連携ならびに読書文化の普及に使わせていただいています。