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[日記] 2024.1.6 大磯
深夜に帰宅すると、台所の傍らに紙がいちまい貼られていた。レシピにしては紙の大きさが異なる。手にとれば、そこには大磯日帰り旅行の計画が詳細に記されていた。出発はどうもあくる朝のようである。
大磯駅にはまだ昔ながらの雰囲氣があった。改札を降りると、家人はまず島村父さん邸に連れていってくれるということであった。東海道線沿いに少し歩くと、そこには島崎藤村邸がある。なるほど、二文字違いで氣がつかなった私も惡い。何処ぞのお父さんと話さなくてよいのかと、靜かに胸を撫でおろした次第だ。
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ここは島村父さんが晩年まで過ごした家ということであった。この家を見つけたあくる日にはもう住まわれていたというから、それほどまでに大磯が氣にいったのであろう。竹垣も古風な男結びで編まれており、今もなお庭も含めてよく掃除されている。
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書斎には靜子夫人の書が飾られてあった。島村父さん自身が「つたない字であるが・・・」と云っていたそうであるが、佳い字である。昔、野尻泰煌先生に「君の字は誤字だけど、佳い」と褒められた一場をふとおもいだした。靜子夫人のは誤字でない上に、品がある。島村父さんの最期は幸いにも靜子夫人がこの家においでたときであったらしく、「涼しい風だね」と云って亡くなられている。佳く生きたからこそ、佳き別れになるのかもしれない。
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天氣がよかったので、城山庵まで歩いた。家人曰く、國寶の茶室「如庵」の写しがあるということである。城山庵の隣には休憩室があり、客にあわせて和菓子が出されたばかりでなく、店員がたしかな薄茶を裏で点ててくださった。外で美味しい薄茶をいただけたのなんて、幾年ぶりだろうか。
あとから家族がいらしたが、そのお茶もひとつひとつ丁寧に点てられていた。それを待って会計を済ませると、軽く御礼を云われ、城山庵を案内してくださった。
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個人的には南坊録読書会で雪隱の寸法を勉強したばかりであったから、庭の雪隱に興奮したのだが、城山庵も木漏れ日が差しこまれており、非常に美しかった。
たしかな日本家屋はカネワリという伝統的な我が國の寸法に則って建てられている。昔はカネワリ座談会などがひらかれる等、当たり前のことであったものが、今やカネワリという言葉すら訊いたことがない方が大半であろう。カネワリはいわゆる西欧の黄金律が算出した絶対美と結果的にはほぼ等しくなる。しかし、我が國の美は「三分がかり」と云って、わざわざ算出した絶対美からあえて九㎜ほどズラしてきた。絶対美を識りながら、微かに外す処に妙があるのだ。
島村父さんの件も藤村贔屓の方からお叱りを受けるかもしれないが、「たとえ真理から外れても、またそれもおもしろしという境地」がある。ご勘弁いただきたい。
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