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凡てはこれきり。今宵で最後という覺悟のみが戀になる。 あくる朝がくるとおもうから、戀にならない。
履物を揃える際、よく足で綺麗に揃える方がいるが、それでは戀にはならない。履物は手で揃えるべきものだからである。 たとえ履物が微かにズレていたとしても、きちんと手で揃え直したものであれば、これは戀になり得る。
昔々、歌に託して戀を傳えるのが常の時分があった。間もなく逝くであろう妻にも歌を贈って今生の別れを惜しんだ時分になる。 路傍の戀もまた、言の葉は少なければ少ないほうが佳い。接吻の跡など、街の雪のように残さぬことである。