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加藤訓子プロデュース「STEVE REICH PROJECT」
今年1発目のコンサートは加藤訓子の『STEVE REICH PROJECT』で横浜赤レンガ倉庫。
Steve Reichのエレクトリック・カウターポイント等は一度は生で聴いてみたかった。
Steve Reichのコンサートに行こうと思ったのは、私は現代音楽や実験音楽が好きなのに、尽く逃してきた。
自宅から近所だった杉並公会堂で行われた『in C』も行かなかったし、アルヴィン・ルシェのコンサートにも行かなかった。
強いて言えば、アサヒアートスクエアで行われたジョン・ケージの『ミュージサーカス』に参加した程度である。
行かなかった理由は、お金である。
108回を越えてから数えるのを止めたが、私は短くて1ヶ月。
長くても3ヶ月で転職していた。
就職氷河期とか、そう言う理由ではなく、転職していた。
だから、いつもお金がなかったし、金欠だった。
自分の活動を行うのが精一杯で、色々なコンサートやライブに行きたかったが、金銭的事情で行けなかった。
最近は、職場環境や人間関係も良くて、仕事も多忙とは言えない簡単な仕事なので4年も勤務している。
賃金は最低賃金だが、生活も低空飛行だが安定してきた。
Steve Reichコンサートはアーティスト割と言うモノがあり、1部~2部を観ても6000円だった。
アーティスト割って、自分をアーティストだと言う事をどうやって証明するんだろう?と思っていたが、何もなくスンナリ入れた。
Steve Reichは学生時代にCDを買った。
その前に『エレキング』『スタジオボイス』『REMIX』と言った雑誌で紹介されていた。
登場、テクノ系で『ミニマル・テクノ』『ミニマル系』と言った音楽が流行っていた。
代表格としては『とれまレコード』や『田中フミヤ』だった。
そんな流れもあってSteve Reichは「元祖ミニマル!」と言う紹介のされかただった。
「踊れる現代音楽」
と言う紹介もあった。
しかし、当時のクラブでSteve Reichが掛かったとは聞いた事はないが、18歳の青年はドキドキしながらCDを買った。
買ったCDは『druming』だった。
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色々と種類があったが、何となく逸れを買った。
で、「スゲェ!」となって夢中になった。
一時期は朝から晩まで聴いていた。
私が現代音楽と言うモノを始めて聴いた瞬間だった。
テクノ好きでもSteve Reichまで聴いている人は殆どいなかった(福岡市ではそうだった)。
90年代はCDがミリオンセールが多かったが、やっぱり新譜でも3000円だから、学生時代に買うには覚悟が必要だった。
学校で「Steve Reichスゲェよ!」と言っても、Steve Reichの知名度は九州大陸では無名に近く、誰もが「は?誰、それ」だった。
学生時代にSteve Reichが好きだったんだけど、アングラ演劇を始める事になり、CDやLPを買う、と言うよりは「売る」になってしまい、私のSteve Reichストーリーは一旦、終了。
Steve Reichを再度、聴き始めるのは、アングラ演劇を辞めて、メンヘラ女性との同棲も解消して、暫くしてからだった。
それでも頑張って中古CDを買ったりしていた。
ガチで聴いていたのは高円寺に
『スモール・ミュージック』
と言うレンタルCDショップが出来てからだ。
3日に一回は行って、Steve Reichを借りまくった。
軽くコンプリートしたんじゃないか?と思う。
それまで手にれていた中古CDやレンタルCDもどれもSteve Reichはいつだって素晴らしかった。
Steve Reich以外にもマニュエル・ゲッチング等のジャーマン・ロック系も聴いていた。
Steve Reichが影響を受けた、と言う事でガムランも聴いていた。
兎に角、大好きだった。
どうも、私はミニマルな音楽が好きらしく、作る曲もミニマルな曲が多い。
大量の空間系エフェクターを使うので、ミニマルにならざるを得ない、と言うのもあるけど。
以前、年上のトランペッターが酒に酔って
「何でお前の曲にはコードが少ないんだ!」
と言われて、
「何だとぉ!コードがなんやねん!」
と大喧嘩した事があるが、あの時は自分の音楽的な素養が足りないんじゃないか?と言う、意味不明なコンプレックスがあったので、私も激怒したのだけど、音楽的素養以前にミニマルな音楽が好きだし、好きだからやっているに過ぎないんだよな。
JAMセッションとかでJazz系の曲をやったり、段違いに格上の人と演奏して
「あ、俺はこう言うコードが多い曲も出来るんだ」
と気がつくまで、コンプレックスだった。
加藤訓子のSteve Reichプロジェクトを知って、少し悩んだ。
行くべきか?と。
年末年始で散財させられて、あまり金銭的事情が芳しくなかった。
でも、『in C』やアルヴィン・ルシェのコンサートも行かなくて、あとで激しく後悔したのを思い出した。
ああ言う後悔はしたくない。
生活費(食品や日用雑貨)を削れば行ける。
それで、チケットを買った。
1部だけじゃ意味ないから1~2部のフルセット。
幸い『アーティスト割』と言うモノがあり、それだと2公演観ても6000円だ。
だが、最低賃金で働く私にとって6000円は、一般のサラリーマンにとっての6万円に近い。
横浜赤レンガ倉庫は自宅から1時間半かかる。
横浜赤レンガ倉庫は過去に2回ほど行った覚えがあるのだが、1回目が思い出せない。
2回目は深谷正子さんの
『ダンスの犬』
と言うグループに音源を提供したので、仕事の確認と言う感じで行った。
もしかすると、私の記憶違いで、過去に1回しか行っていないかもしれない。
短波ラジオ奏者の直江実樹さんのイベントと勘違いしているかもしれない。
直江実樹さんは横浜の黄金町でイベントをやっていて、それに2回出演して、1回はトークショーで出演して(YMOの『BGM』と『テクノデリック』を語る会だった)、あとはライブを観に行ったり。
その頃は新高円寺駅周辺に住んでいたので、アクセスが良かった。
深谷正子さんの公演は友人が車で送ってくれたので、楽だった。
今回は初めて自力で赤レンガ倉庫に。
東急東横線なんて初めて乗った気がする。
今、住んでいる世田谷区からだと、私が東陽町と同じくらい嫌いな渋谷を軽油しなくてはならない。
渋谷駅は行く度に迷路っぷりが激しくなっており、数多くの工場の中には、施工者も「何の為の工事か分からない」と言う工事があるらしい。
サクラダファミリアですら、完成の目処が付いてきたのに、渋谷駅は私が死ぬまでに完成するのだろか。
完成は西暦23000年とかじゃないか。
何とか、初めて乗る東急東横線に乗り、日本大通り駅へ。
1時間半なので、軽く旅行気分である。
13時半開場だったので、13時10分に着いたら、既に3階のホールだと言うのに、1階まで長蛇の列だった。
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Steve Reichを愛する人が沢山いて少し嬉しくなった。
その日は寒くて、コートに手袋、マフラーだったのだが、赤レンガ倉庫は暖かい。
席は満員御礼。
冒頭にSteve Reichのビデオ・メッセージが流された。
最初に来日したのは文化村と言う場所で、1991年。
それから90年代に何度か呼ばれて、最後は2013年。
しかし、東京は遠く、私も1991年のような体力はない。
だけど、今回は加藤訓子が演奏するから問題ない。
彼女は素晴らしいアーティストだ、と
Steve Reichクラスになると、飛行機はビジネス・クラスだと思うが、知らべたらSteve Reichは88歳らしい。
88歳にとって太平洋横断はビジネス・クラスでもキツいんだろうな。
幕があけると加藤訓子の登場。
音源は知っていたが、予備知識なしで挑んだ。
どう言う音か予め知っていたら面白くないし。
最初は『エレクトリックカウターポイント』。
打楽器でどうやって演奏するんだろう?と思っていたが、スティール・パンで演奏し始めた。
これが原曲のギター版よりも良いのである。
スティール・パンの優雅な音が響く。
途中、演奏中にマレットを落とす、と言う失態はあったが、良かった。
続く『シックスマリンバ・エレクトリックカウターポイント』はバックトラックを流しながらだった。
『ヴァーモント・カウターポイント』も同じく。
リハーサルどうだったのか分からないが、PAから出力されるバックトラックの音量が大きくて、加藤訓子の音が聞こえ難い場面があった。
そのため「なんだかレコードコンサートとか、初期の電子音楽コンサートみたいだな」と思った事は否めない。
だが、最後はノリにノったのか
『ニューヨーク・カウターポイント』
は凄かった。
何が良かったのかは説明し難いが、ガチャガチャと言うバックトラックを後ろに、マリンバで自由奔放な演奏で、嘗て、私がやりたい演奏だった。
もう、格好いい姿だった。
なかなか、どうして、これまた感動した。
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第一部は15時頃に終わり、第二部が16時半。
室内にいても良かったのだが、私はヘヴィースモーカーなので、煙草が吸いたくて、外に出た。
赤レンガ倉庫周辺を歩く。
赤レンガ倉庫周辺は春節と言う事で色々なイベントをやっている。
アイスリンクがあって、スケートを楽しむ人や、屋台があってお酒や美味しそうな食事を楽しむ人。
横浜には、上記の通り直江実樹のイベントと深谷正子さんの公演でしか来たことがなく、直江実樹さんのイベントも、思えば初の県外でのLIVEだったから気負っていたと言うか、緊張していたし、深谷正子さんの公演も、私は曲の提供だけだったが、公演が終わったら直ぐに帰ってしまったので、余り知らない。
皆、楽しそう。
友人女性で、長年、高円寺に住んでいた女性が、横浜市に引っ越した。
でも、仕事は都内なのだが
「東京に仕事では行くけど、東京の人々は皆、イライラしているから嫌だ。だから、仕事が終わったら横浜へ直ぐに帰る。横浜の人達は朗らかだ」
と言っていて、何となく分かる気がした。
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屋台でビールが呑みたかったが、演奏中に尿意を催したら嫌だな、と思い我慢。
赤レンガ倉庫のカフェでコーヒーを飲み、第二部へ。
16時半開場なので、16時10分に行くと、既に長蛇の列。
受付を済ませて、演奏を待つ。
で、加藤訓子の登場。
1曲目は『フォーオルガンズ』で、
「オルガン曲をどうやって打楽器で演奏するんだろう?」
と思っていたが『フォーオルガンズ』のバックトラックを流しながら、手に持っていたマラカスを振るだけだった。
「えー!マラカスを振るだけ?!」
と驚愕したが、段々、そのストイックな姿に『孤高』と言う言葉を感じる。
パーカッション奏者としての矜持と言うか。
次はゲストを交えて『ピアノフェイズ』。
もう、これは原曲のピアノ版より良くて、涅槃の音楽だった。
「嗚呼、この時間が永遠に続けば良いのに、、、」
と思った。
鉄琴と言うか、ヴィブラフォンと言うか、音のモワレが凄くて、能汁全開。
永遠に続けば良い音もいつかは終わる。
次は『ナゴヤ・マリンバ』。
これも凄く良かった。
最後は『マレット・カルテット』。
「この曲はミニマルなのか?」
と思うほど加藤訓子は自由奔放に叩く。
圧巻だった。
終わってから「イエーイ!」「フォー!」と言う声も上がっていた。
個人的に第二部の方が良かった気もするが、まぁ人それぞれだろう。
それに2回の公演を買っている人が殆どだったし、大満足の1日だった。
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テープ(多分、DAWだと思うが)での演奏も素敵なんだけど、人力によるミニマルは凄い。
終わってから、夜景の赤レンガ倉庫を見ながら
「これでSteve Reichに対して『禊』が終わったな」
と思った。
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18歳から、30代中頃までSteve Reichが本当に大好きだったし、「好きな曲は?」と聞かれたら「全部」と言いかねない私だった。
自分で曲を作る際、Steve Reichの影響から逃れるのが大変だった。
鍵盤楽器で作曲しようとすると、直ぐにSteve Reichっぽくなってしまうし、30代の頃に大正琴を飼って、バイオリンの弓で弾こうとしたら、直ぐにSteve Reichっぽくなってしまって、大正琴を捨てたもんな。
学生時代にsynthesizerを持っていたので(KORG 01W)真似しようとして懸命に打ち込んだりしていた。
ただ、synthesizerと言うかシーケンサーは音が「ズレない」ので、諦めた覚えがある。
思えば他に方法もあっただろうけど。
Steve Reichは好き過ぎて、その影響から逃れる事が最優先事項で、幸いトランペットと言う楽器は「呼吸、息継ぎ」があるので、Steve Reichっぽくならないのが良い。
それでも、ループマシンを買った時はメレディス・モンクのコピーをしようとしたけども(失敗に終わった。メレディス・モンクの曲は「声」だから成立する)。
トランペットと言う楽器はミニマル・ミュージックに向かない。
和音は出せないし、循環呼吸でもしない限りは「息継ぎ」があるし、ミニマルにならない。
強いて言えば、2017年だったと思うが、高円寺『グッドマン』で、トランペット・ディオの曲を描いた。
チューニングBを2人で延々と出すだけで、Steve Reich系と言うよりは、トニー・コントラッド的な演奏だったけど、あれは、あれで結構、大変だった。
ミニマルは疲れる。
でも、自宅から1時間半。
往復3時間かけてSteve Reichを聴いた。
これで、私の中でSteve Reichと言う偉大な存在への『禊』は終わったし、今後は自分の中での『Steve Reichコンプレックス』みたいなモノは解消された気がする。
第一部の最後の曲、『ニューヨーク・カウターポイント』はゴチャゴチャとした音をバックに加藤訓子は踊るように叩いていた。
嗚呼、そうだ。
それで良いんだ。
音楽に正解もなければ、不正解もない。
ただ、ただ、音と戯れる。
遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん
憑き物が落ちたような気がした。
まだまだ、色々と書きたいけど、この辺にしておくか。
加藤訓子さん、Steve Reich、有り難うございます。
私の中のコンプレックスが解消されました。