はるこの祇園祭 第十一話「神輿洗い」
主人公は小学一年生の"はるこ"
この物語は、小さなはるこが祇園祭を通して出会う人々との交流と、ちょっぴり不思議な出来事を描く、ひと夏の物語です。
7月28日
ゆきちゃんのよこがおは、しんけんです。
カラン、カランと鈴をならして、パンパン!と手を合わせます。ぎゅうっと目をとじて、なにやらぶつぶつ言っています。
はるこは、ゆきちゃんが目をあけるのを じぃっと、まっています。
ぶつ ぶつ ぶつ ぶつ。
パンパン!
ちからづよく両手をうって、やっと、ゆきちゃんはかおをあげました。
「…なに おねがいしたん?」
「ええー、言うたら かなわへんっておばあちゃんが言うてたしなあ……」
ゆきちゃんはちょっと口をとがらせて「そやけど」と、いたずらっぽく笑いました。
「はるちゃんには、言ってもいいことにしよ! あんな… (ごしょごしょ)うちも、ふっちゃんと遊べますようにっておねがいしてん! えへへ」
はるこも、えへへと笑いました。
夏休みはつづいています。
ふたりは、はるこのお父さんにつれられて、八坂神社までやってきています。
本殿で手をあわせ、くるっとふりかえると舞殿(まいでん)が見えます。そこには、りっぱな3基のお神輿がかざられています。
中御座、東御座、
そして8人の王子たちがのっていた西御座……。
ふたりは、お神輿をよこからみたり、ななめからみたりして、「はあ〜!」とため息をつきました。
「ふっちゃん、これにのってかえらはったんや。すごいなあ!」
「うん。すごいやろ」とはるこは、お神輿をみあげました。
キラキラと金色にかがやいて、いくつものちょうちんが、ぐるりとまわりについてます。やねのてっぺんには、りっぱな鳥が羽をひろげています。
はるこの目には、ホイットホイット!とゆれるお神輿に、「おっとっとと!」と、しがみついているふっちゃんの姿がみえました。
ふっちゃんだけじゃなくて、8人ものっているから、きっと みんなで上になったり下になったりして…
「おっとっとと! おっととととと!!」
ぎゅぎゅうっと、のっていたんでしょう。
「ふふっ」とはるこは笑いました。
「え? なんでわろたん?」 とゆきちゃんが聞きました。「なんでもない!」ひゃあっとにげるはるこを、
「ずるいー! なんなんー!」とゆきちゃんがおいかけます。
「おお、元気だねえ」
買ったばかりのジュースをもってお父さんが戻ってきました。
「メロンジュースといちごジュース、どれにする?」
「メロン!」「うち、いちご!」ふたりは元気に、こたえました。
ミーンミンミンミン。せみも元気。
みんな、元気です。
ふっちゃんののっていたお神輿は、はしゃぐふたりにかこまれて、そっと、しずかに、そこにあります。
そこにふっちゃんのすがたは見えないけれど、はるこがぴょんとはねるたび
カラン、カリン、カロン!
ポケットのなかのちいさな瓶が音をたてるので、はるこには、ふっちゃんの笑顔が見えるのです。
太陽がしずみ、”神輿洗い“がはじまりました!
道をきよめる松明(たいまつ)が、ほのおをあげて、ゆうぐれの町をゆきます。
「よいやっさーじゃ!
よいやっさーじゃ!」
日にやけた大きなからだの男たちにかつがれて、じゃぎんじゃぎん!とお神輿が進んでゆきます。まっしろのはっぴが、ゆうやみにくっきりとうかびあがり、まるでしぶきをあげる波のようです。
“神輿洗い”は神職さんが、四条大橋のまんなかで、朝くみあげた かもがわの水を榊にふくませ、お神輿をきよめる行事です。その水のしぶきをうければ、厄除(やくよけ)や、無病息災(むびょうそくさい)の後利益(ごりやく)になると言われています。
それもあって、ちいさな子供達が、よいしょとおとなにかかえられ、お神輿のまわりにあつまっています。
ザッ! と水しぶきがとんで、御神輿がきよめられてゆきました。
そのしぶきをうけようと、おとなたちは、ぐいっ!と子供を上にもちあげて、健康をねがいます。
かみさまをのせる、おおしごとをおえた御神輿。
来年も、その次も、そのもっと次も、おおしごとは、まっています。
もういちど、ねがいをこめて……
ザッ…!とみずしぶきが、とびました。
<つづく>
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はるこが暮らす京都の町は、碁盤の目が特徴です。祇園祭はこの町で行われます!
コドモト・プロジェクトメンバーのミニコーナー
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次回7/31配信予定
最終回「疫神社夏越祭(えきじんじゃなごしさい)」
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では、みなさん、どうぞお楽しみに!
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