見出し画像

プロジェクトの計画段階では見えづらい「隠れた要素」を発見せよ

片手でもしっかり納豆をかき混ぜることのできる「納豆かき混ぜキット」というものがあります。

この動画を見たとき、「いつも使っている手段が使えなくなっても、他の手段を使って“要となる状態”を生成できれば、目標を達成できる」例だと感じました。
この要となる状態のことを、プロジェクトマネジメントではCSF(主要成功要因)と呼び、プ譜の用語では「中間目的」と呼びます。中間目的では要素だけではなく、「要素とその状態」を表現します。
この要素は未知のプロジェクトであってもリサーチをすればそこそこ導出できますが、机上ではどうしても気づかない・気づきにくい隠れた要素があります。また、要素はわかったとしても、それが「どうなっていないといけないか?」という状態は、もっとわかりにくいものです。この隠れた要素・状態を「片手で納豆をかき混ぜて食べる」という未知のプロジェクトによって解説します。

「片手で納豆をかき混ぜて食べる」未知のプロジェクトに挑む

今まで両手を使えていたみなさんが、あるとき片手しか使えないという状況におかれ、納豆をかき混ぜて食べなければいけなくなったら、それは未知の問題です。プロジェクトとは未知の問題に取り組むこと。ある日、突然「片手で納豆を食べる」というプロジェクトを与えられたら…と考えてお読みください。

このプロジェクトに参加するのは10歳(アーネ)と6歳(ジージョ)になる私の娘です。人生経験のまだ少ないルーキーです。二人は同じ場所にいますが、チームを組むのではなく、別々に納豆パックを与えられて問題に取り組みます。

まず、机上で納豆を食べるまでの工程を考えてみます。「納豆を食べる」を最終ゴールとして、そこまでの工程・行為(問題を構成する要素)を中間目的の欄に下から順に書いておきます。これが机上の計画にあたります。そして、その状態を実現するために、アーネとジージョが実際に行うことを施策の欄に書いていきます。

右上にある「勝利条件」は無視してください

状態を実現するために複数の手段がある

まず、「タレ・カラシの封が切れている」という状態を実現するために、アーネとジージョが採用した手段をみてみます。

アーネが採用した手段は「指で袋をつまみ、歯でくわえて噛み切る」というものでした。口先、指先が器用な人材であればこその手段です。

ジージョはアーネのように口ではかみきれないと考えたのか、「ハサミつかっていい?」と聞いてきました。私はハサミを使ってはいけないとは言っていません。未知の問題を解決するため、身の回りの資源(リソース)を活かそうとするのは大事なことです。
ところがハサミを使ってもうまく切ることができません。そこで、お茶の入ったコップでタレの袋を押さえて、袋の先端を切ります。この「お茶の入ったコップ」もまた、身の回りの資源です。

次に「納豆が混ざっている」状態を実現するための手段です。片手のまま混ぜると下の動画のようになります。

アーネが採用した手段は、「1本の箸を納豆及びパックに突き立て、もう一本の箸で混ぜる」というものでした。

この手段は、学校の授業で体験したコンパスが頭に浮かんで思いついたとのことでした。

ジージョは、アーネの箸の使い方を見てそう考えたのかわかりませんが、ジージョの箸は「エジソン箸」という頂点部が連結されていて、“分けて”使えないもののため、パックのフタを顎ではさんで混ぜるというものでした。
ただこの手段では満足しなかったのか、他の手段を試したかったのか、中身の残るペットボトルでパックのフタをおさえて混ぜるということも行っていました。

ジージョの手段は、パックのフタが残っていたから採用できたものです。アーネはフタをパックから切り離していました。「フタがあいている」という状態を、フタをパックから「切り離す」のか、ただフタをあけるのかでは、状態が異なるということをおわかりいただけると思います。

ジージョの場合、「納豆をかき混ぜる」状態を実現するために、フタを残しておこうと考えたのではないでしょう。そこまでの先読みはしていないはずです(こういう先読みができる人が深謀遠慮の凄腕プロマネでありましょう)。
先読みすることは難しいですが、それに近づくために自分自身に「要素がどうなっていると、関係する他の要素にそんな影響を与えるか?」と問いかけてみると、三手先くらいまでは読める(想像できる)と思います。
ちなみに、こうした「先読みはしていないけど、あとあと役に立った/効いた」という、意図せざる幸運な状態が、しばしばプロジェクトを救うことがあります。

また、今回の体験は1人1パックでしたが、4人が「フタをあける」から「かき混ぜる」の工程を1人1工程担当するとします。このとき4人がどのように一連のプロセスを行うのかを相談することなく行ったすると、かき混ぜ担当がイメージしていたかき混ぜ方が、フタのあけ方によってできたりできなかったりするでしょう。分業時には最終的な目標達成時の姿をメンバー間で共有しておくことが重要ですが、そうしたことについても思いを至らせる体験になりました。

隠れていた「固定」という要素

さて、ここまでアーネとジージョが採用した手段をならべてみると、「突き立て」「押さえて」「はさんで」「つまみ/くわえて」という、いずれもパックの「固定」という状態につながる手段を採用していることがわかります。机上ではこの「固定」という要素が浮かび上がりにくいのです。

一連の行為すべてに「固定されている」という状態が上手ではわかりづらい場合は、下図のようにしてもよいです。

一連の工程において非常に重要な要素であるのにかかわらず、当たり前すぎて見逃している。気づかれにくい隠れた要素。こうした隠れた要素は実際にプロジェクトを動かしてみて初めてわかるものが多く、だからこそプロジェクトではさっさと動かし、小さく失敗するということがひとつの鉄則となります(もちろんプロジェクトの内容によりけりです)。

なお、納豆かき混ぜキットはこうした各工程における「固定」という状態を、冒頭の動画のような機構・手段で実現しています。自分たちが片手で納豆をかき混ぜる体験をしてみると、これもひとつのプロジェクトの解決案であり、こういう考えでこの手段を採用したのだということを一層ふかく理解することができます。

これは問題解決のアクティビティとしても良い体験になると思います。納豆かき混ぜキットは下記のリンク先から購入できます。

考案者の川口晋平さんは作業療法士として、様々な自助具やリハビリ訓練機器をつくっておられます。これらの製品の収益は、活動費用、3Dプリンターの保守など材料費、サンプル作製費、同じような活動を行なっている方達の購入費や寄付に使用されるとのことですので、ぜひご購入下さい。

未知なる目標に向かっていくプロジェクトを、興して、進めて、振り返っていく力を、子どもと大人に養うべく活動しています。プ譜を使ったワークショップ情報やプロジェクトについてのよもやま話を書いていきます。よろしくお願いします。