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サッカーでプロダクトマネジメントの組織の問題を疑似体験する
前回の記事を受け、プロダクトマネジメントの組織の問題を説明するためにサッカーを持ち出した理由は、「PdM、営業、CS、開発」 というプロダクトマネジメントの組織構造が、 「監督、攻撃、中盤、守備」という組織構造に似ているということ。アトランタ五輪代表を題材にしたのは、 『28年目のハーフタイム』という書籍で、モードのズレがどのようなもので、それがどんな問題を引き起こしたかを大変なまなましく描写しているからです。ちなみに私はサッカー観戦は好きなのですが、戦術についての理解はほとんどありません、今回このnoteに書いている内容はほぼすべて『28年目のハーフタイム』に依拠していますが、もしサッカーの戦術的に誤っている部分があれば、それは本書の問題ではなく、私の理解・解釈の問題です。
監督がPdm。攻撃が営業。中盤がCS。守備が開発。
サッカーは攻守一体のスポーツで、オフェンスの選手だけで攻めることもできなければ、ディフェンスの選手だけで守ることもできません。しかし、ポジションごとに与えられているタスク・役割は存在しており、チーム全体でそれぞれ分業しています。その分業体制を大きく3つに分ければ、攻撃・中盤・守備になります。そして、その分業を機能させるために、自分はピッチには立たないけれど、方針・作戦を考えて与えるのが監督です。ここでは、一つの試合をプロダクトとして。アトランタ五輪代表の西野監督をPdM、攻撃の選手を営業、中盤の選手をCS、守備の選手を開発と見立てて読んでください。
いのちだいじにモードの作戦
アトランタ五輪サッカー日本代表は、グループリーグ第2戦でナイジェリア代表と対戦しました。第1戦、当時世界最強と謳われていたブラジル代表にマイアミの奇跡を演じ勝点3を獲得した日本代表は、続くナイジェリア戦で勝利をおさめれば決勝トーナメント進出はほぼ確実。引き分けても、ブラジル・ナイジェリアに比べると力の劣るハンガリー戦に勝利すれば勝ち点7でこれまた決勝トーナメント進出が確実になる状況にありました。
このような状況下、西野監督は「チンタラした試合に引きずり込んで、勝ち点1をあげて最後のハンガリー戦で勝負をかける」という方針を立てます。これはドラクエのモードでいえば「いのちだいじに」に相当します。「いのちだいじに」モードをゲームプランに落とし込むと、攻撃・中盤・守備のあるべき状態とその状態を実現する施策は下図のようになります。
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守備に人数を割き、攻撃と守備をつなぐ中盤の選手は、相手チームの危険な攻撃的な選手をマークすることに重きを置き、前線に飛び出して攻撃をサポートすることは控えます。このモードと作戦を攻撃・中盤・守備の選手たちにも伝え、中盤・守備の選手は賛同し、攻撃の選手は渋々ながらそれに従うのですが、前半を終えたハーフタイム時に、攻撃の選手たちは「ガンガンいこうぜモード」でいこうと主張します(ここはプロダクト開発を進める中で、或いはプロダクトを売り始める中で、世界・市場からのフィードバックを元に、当初の計画を見直し、次の一手をどう進めるかを検討することに相当します)。
ガンガンいこうぜモードの作戦
ガンガンいこうぜモードとは、西野監督が立てた勝利条件「チンタラした試合に引きずり込んで、勝ち点1をあげて最後のハンガリー戦で勝負をかける」をやめて、「攻めて(攻撃的なスタイルで)勝ち点3を取る(第2戦で決勝トーナメント進出を決める)」に変更することをチーム全体に要求します。
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分業を行っている方であればご存知のように、こちらの部署の要求を、あちらの部署がすんなり了承して、自分の望むように振舞ってくれるということはほぼありません。また、自分の要求を受け入れてもらうには、自分自身も何かしらの要求を受け容れたり、新たな責任を負う必要があります。ナイジェリア戦でガンガンいこうぜモードの作戦を成立させようとすると、攻撃の選手は以下のような守備の選手からの要求に応えなければなりません。
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守備ラインが上がっているようになるには、大きくゴールを蹴り出してラインを上げる時間を稼ぐだけでは足りません。大きくボールを相手陣地にまで蹴り出しても、身体能力に勝るナイジェリアのディフェンダーにヘディングで跳ね返されて自陣にボールが戻ってきたらカウンターのリスクが高まります。そのリスクを回避するには、相手ゴールからは遠ざかりますが、ピッチの外に開いて身長の高いディフェンダーとの競り合いを避けるといった行動を取る必要があります。これは攻撃の選手から守備の選手への要求を成立させるための、守備から攻撃への要求、つまり攻撃の選手が負うべき責任です。
『28年目のハーフタイム』では、攻撃から守備だけでなく、守備から攻撃への要求が伝えられたかどうかの記述はありませんでした。書籍に書かれていたのは、攻撃から守備への要求を行ったことで監督がキレてしまい、攻撃的に戦えない理由(ブラジル戦からの選手の疲労、グループリーグ突破のための方針など)を十分に説明することなく、後半に突入したということでした。この時点でチームは事実上崩壊し、日本はこの試合に0-2で敗れ、続くハンガリー戦では3-2で勝利したものの、このときの失点が響き、決勝トーナメント進出は叶いませんでした。このあたりの詳しい機微や経緯はこのnoteでは書ききれないため、ぜひ『28年目のハーフタイム』を読んでみて下さい。
得られる教訓
この事例は以下のような教訓を私たちに与えてくれます。
監督がどんなモードでいくかを明確に示さず、説明しないとチームメンバーのモードがバラバラになってしまう
モードが変われば試合の進め方が変わる。それによって自分のタスクや責任がどう変わるのかをメンバー全員が納得・合意できなければ、作戦が成り立たない。そのまま進めればチームが崩壊する可能性がある。
事前のモードと作戦は、実際に動かしてみてから変更する可能性がある。変更したくなる可能性がある。
変更する場合の条件は明示しておく必要がある
攻撃と守備はもともとギクシャクしがちな関係
サッカーが好きなPdMがいたらメンバーから。サッカー好きなメンバーがいたらPdMから、「こんな問題が起きるから、一度話し合おう」というキッカケづくりにも役立てていただければ嬉しいです。
このnoteには書きませんでしたが、組織の中での年齢は下でも、経験が豊かであればその者の意見を聞くことや途中参加者の遠慮を除いていくことの大切さなども『28年目のハーフタイム』から疑似体験することができます。
最後に、このモードと進め方を一人一人が表現して、合意形成していくための方法も紹介していますので、よろしければご覧ください。
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