見出し画像

志向性の揃っていないWBSは永遠に完成しない

Projectを進めていくには大きく2種類の志向性を揃える必要があります。「顧客-受注企業」という関係を想定すると、一つは顧客社内の志向性。もう一つは、顧客-受注企業間の志向性です。

志向性(Intentionalität)とは、フッサールが提唱した概念で「対象に向かう意思の動き」と説明されています。これをプロジェクトマネジメントの世界にもち込むと、「関係者のだれからも合意された、プロジェクトの成功の定義(それをやって本当に実現したいことは何か?)を実現するための意思の方向性」という表現にすることができます。

志向性が揃っていないとプロジェクトそのもの及びチームは下記のような状態になってしまっています。
●目標の成功の定義がやプロジェクトの進め方が合意されていない
●部署や人々の間の願いや想い、利害や思惑がバラバラ
●求めるクオリティー(品質)がバラバラ
●評価される軸が統一されていない
●メンバー間の情報の格差が大きい
●各種の思い込み、こだわり、暗黙の前提などに齟齬がある

こうした志向性が揃っていない状態だと下記のような問題が起きます。
●制作したWBSに落ち漏れが見つかる
●後から仕様の追加、変更が発生する
●重要なステークホルダーの意見や要望が反映されていない
●成果物が完成したのに効果が出ない
●成果物が納品されたのに使われない

WBSの落ち漏れや仕様の追加・変更はよく起きますが、志向性を揃えることができればこうした事態を低減させることができます。そもそも志向性が揃わない限り、仕様の追加変更は必ず起き、WBSはいつまでも完成しない、と言えます。

ではなぜ志向性を揃えられないのか?
WBSなどの方法はありましたが、関係者の誰からも合意されるよう、各種の意見や利害、情報を調整しながら「これだ!」という表現・構造をつくり、合意するための方法を持っていなかった、或いは知らなかっただけだと考えます。WBSは実行する作業分類はしてくれても、意志の方向を示したり、合意形成したりすることには適していないのです。ブレストでアイディアを募り、議事録をつくり、グラレコで記録をしても合意形成を促しはしません。

そこで提案したいのがプ譜です。プ譜についてはこちらの記事に詳しいのでご覧いただくとして、解説動画も貼っておきますのでご覧ください。

プ譜を提案する一番の理由は、習得・理解のコストが低く済むことにあります。紙1枚で表現できるフレームワークであり、それを使って合意するためのルールもあります。プ譜を使用した仮説立案と合意形成の手順・方法については下記の記事をご覧ください。

プ譜を志向性を揃えるために使用するときのポイントは、顧客社内でも顧客-受注企業間でも(必要なら受注企業社内でも)プ譜を一緒につくり共有することです。
プ譜はパワーポイントやGoogleスライド、もしくは紙と付箋などでつくるのですが、プロジェクトに関わる各種の要素を一つのオブジェクトとして記述するため、その要素の順番や位置を組み換えたり移動させたり、文章の表現などを変更させたりすることができます。それを一緒に対話し、問いかけながら、オフライン(対面、リアル)であればその場で、オンラインなら画面共有してすぐさま成功の定義や目標実現のためにつくらなければいけない状態などの言葉の表現を対話しながら探し合うことができます。
顧客の意向を聞いて受注企業の営業担当者がプ譜をつくって同意を得るという方法でも良いですが、一度持ち帰ると上述のようなつくり方ができません。最も望ましいのは一緒に考え、対話しながらつくることです。プ譜をつくるうえで特別な準備や環境を用意する必要はありません。難しいルールもありません。「ちょっと一時間ほどやりませんか?」と声をかけてすぐに始められるコストパフォーマンスの高い方法なのです。

一緒につくる順番は主に二つのパターンがあります。顧客企業のなかにプ譜を知っている人がいれば、顧客社内でまずプ譜をつくる(合意しておく)。
それを元に受注企業の営業担当者といっしょに精査・アップデートするというパターン。もう一つは顧客企業担当者と受注企業の営業担当者の間でプ譜をいっしょにつくり(おおよその進め方を示す)、つくったプ譜を顧客企業担当者が社内で合意形成用に使用するというパターンです。顧客企業担当者は自社内の志向性を揃えるための材料を手にすることができ、たいてい喜んでくれます。
受注企業側からすれば、顧客との合意形成だけについ目がいきがちですが、顧客担当からすれば複数の部署や人が絡むプロジェクトほど、社内合意を取ることに非常な苦労を強いられています。そんな社内合意を支援するツールとして活用いただきたいです。というか、顧客社内の合意が取れていないと、結果的に自分たちに害(という言い方はよくないですが)が及んできます。

合意形成の方法

プロジェクトの規模によっては階層が深くなり、サプライヤー・下請け企業も加わりますが、プ譜はプロジェクトを全体のプ譜と部分のプ譜の入れ子構造で表現することができます。

スライド5

この方法を使えば複数の階層にまたがるプロジェクトにも部分と全体をつなげて対応することができます。顧客社内で合意されたものを再度顧客企業担当者と受注企業の営業担当者間で共有し、合意します。この合意された状態を、志向性が揃っている状態とします。

もしこのnoteを受注企業側の方が読んでくださっていれば、顧客と受注企業間で合意がされる前後に、顧客がプ譜のことを知らず、顧客の社内で合意形成するタイミングがあって、外部からの参加が可能であるなら、ぜひそこを助けてあげてほしいです。顧客社内に入り、プ譜をつかった合意形成を支援するのです。自社内で複数の部署や人物の思惑や利害を調整しながら合意をとることは顧客企業担当者にとっても骨が折れる作業です。
ここを無償でやるかどうかは企業の判断です。そこまでやっても受注できるとは限りません。私がプ譜の用法を伝えたベンダー企業では、自社ツールを導入するための志向性を揃えるためのワークショップメニューをつくり、そこでプ譜を使用しています。

この記事ではプロジェクトの初期段階で最も重要で大変な志向性を揃える作業を、プ譜で行う方法を紹介しました。少しでもみなさんのプロジェクトがうまく進む役に立てたら嬉しいです。


未知なる目標に向かっていくプロジェクトを、興して、進めて、振り返っていく力を、子どもと大人に養うべく活動しています。プ譜を使ったワークショップ情報やプロジェクトについてのよもやま話を書いていきます。よろしくお願いします。