
安易な解決策に飛びつかない、直線的思考を避ける方法
私たちは結果がよくないと、すぐに改善できそうな行動に飛びつきがちです。今月の受注件数が落ちているから、来月はもっと訪問件数やテレアポ数を増やそうとか。メニューの注文数が減っているから、食材を良くしようとか。自分の経験や価値観の影響も受けながら、安易な解決策に飛びついてしまう思考を直線的思考と言います。直線的思考はその解決策が適切であればなにも問題ありませんが、複雑な問題、多くの要素が存在するプロジェクトでは、“外す”可能性が高くなります。
この直線的思考を防ぐために、プロジェクトの思考・表現ツール『プ譜』では、「中間目的」という要素をフレームワークに設けているのですが、この記事では中間目的を理解するために、サッカー監督であるマルセロ・ビエルサの守備の考え方を例にとって解説します。私はサッカーは実際に蹴ることも観ることもあまりなく、戦術的な知識もほとんどないのですが、ビエルサ監督の考え方が安易な解決策に飛びつきがちなプロマネ、マネジメント職諸子の役に立つと思い、解説を試みた次第です。
ビエルサ監督の「失点の7つのパターン」
ビエルサ監督の守備の考え方はNumberの下記の記事で知りました。
2020年11月21日リーズ-アーセナル戦前日の記者会見で、直近2試合に1-4,1-4で敗戦していたことについて、ビエルサ監督は記者から失点の多さと改善方法について質問されました。
記者会見で質問した記者がどのような答えを期待したのかわかりませんが、プロマネやマネジメント職にいる方であれば、すぐに効果の出そうな守備に人数を割くとか守備力の高い選手を起用するといったことを考えてしまうのではないかと思います。この「目標に対してすぐに思いつく手段を実行する」ことを表わしたのが下図になります。
プ譜の本来のフレームワークは下図ですが、「失点を回避する」という目標に対して、すぐにできそうな・思いつく改善方法を直線的につないだものが上図になります。
失点を回避するための手段(プ譜では「施策」)は上図に限らず、数多く存在するはずです。そうした手段は口にすることは簡単ですが、何を選択するかはチームの戦略や方向性、チームに在籍している選手のスキルや特性、相手チームの戦略や戦術、選手のレベルなどによって異なるはずです。闇雲に手段を選択して効果を出せるはずはありません。ビエルサ監督は質問に対して下記のように答えました。
私は試合分析においては数字ではなく、その失点の状況が『回避できる失点だったのかどうか』について検証されるべきだと考えています。守備とは少しでも不利な状況を避けようとするものです。指導者が守備を改善したいと考えるならば、不利な状況下でのディフェンスを避けなければいけない。
この「不利な状況下でのディフェンス」を避けるうえで、ビエルサ監督は失点には7つのパターンがあると言います。プ譜では勝利条件という要素があり、これは“どうなっていればその目標が成功したといえるか?”“どうなっていたら目標が成功しそうか?”という定義です。ここに「不利な状況下でのディフェンスを避けることができている」と記述し、中間目的にビエルサ監督の失点の7つのパターンを記述しました。
中間目的とは目標を実現するため、プロジェクトに存在する要素の“あるべき状態(或いはあるべきではない状態)のことを言います。ビエルサ監督は自分が率いるクラブチームのこれまでの失点がどのパターンに属しているかを説明します。
志向する品質とあるべき状態のトレードオフを無視するな
下3つのパターンの失点が多いという分析をビエルサ監督は行っていますが、ここで注目したいのは、この3つのパターンの失点は、チームが採用している戦略戦術や志向するスタイルとのトレードオフの結果であるということを述べている点です。ポゼッションサッカーを志向する上では、自陣から攻撃を構築しなければなりませんが、それは自陣からのビルドアップをミスするリスクと表裏一体です。(プ譜では「クオリティ(品質)」の欄が志向するスタイルに該当すると考え、クオリティ欄に記述しました)
プロジェクトを進めていると、これはやりたいあれはいやだという望み・思惑・要望が関係各所から寄せられますが、すべてを満たすことはできません。そうしたことを無視してはプロジェクトの諸要素の辻褄が合わなくなり、新たな問題の火種になってしまいます。
失点しないための「あるべき状態」と「あるべきではない状態」
ビエルサ監督の失点の7つのパターンは、過去の失点を分析・分類したものと思われますが、ここで一度プ譜で説明するのに適した表現に変えてみました。
「直接FKによる失点」というパターンは、「ゴールエリアに近い距離・位置でファウルを与えていない」という“あるべきではない状態”の表現に。「前線からのプレスがはまらず、相手に攻撃の起点を作られての失点」というパターンは、「周辺の選手とバランスをとりながら、選手間にできるギャップの調整ができている」という“あるべき状態”の表現に変更してみました。
これらの表現は、各種サッカー解説記事を参考にしたものですが、失点のパターンをどのように表現するのかも、自信が志向するスタイルや戦略戦術の影響を受けます。
このことは、自社がある企業をベンチマークにして同じようなテーマのプロジェクトに取り組む際、そのテーマのプロジェクトに存在するパターンがあったとしても、その企業の規模やカルチャー、抱えている人材といった所与の条件・環境によって、取り組み方は異なってくるということを示唆しています。
そして、この中間目的の状態をどのように表現するかによって、具体的にどのような手段を選択するかが決まってきます。
私たちは同じ業界や同じテーマのプロジェクト・仕事に携わっていると、どうしても過去の経験から効果のあった手段を採用しがちです。しかしその手段が効果を出すかどうかは、そのときのプロジェクトチームの状態や置かれている環境、目指す(目指せる)品質の影響を受けます。その手段が効果を出していたときと状況や条件が異なっているときは、直線的思考に進むことを避けるべきです。このとき、どの手段が最も効果的かを判断できるようになるために、中間目的を設けて考えることが、問題解決・目標実現の役に立ちます。
いいなと思ったら応援しよう!
