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ホンダの「A0A00A000」の会話構造を可視化する

A0A00A000とは

「A0A00A000」とは、ホンダ社内で使われている目的・目標・手段を記号化した表現方法です。
私はこの表現方法を『意思決定入門 第2版』(中島 一)で知りました。ホンダでは、誰もがこの言葉の主旨と定義を理解しているそうです。(※この記事の執筆当時、検索しても出てこないので、本当にあるのか門外不出の秘伝なのかはわかりません)

A0が目的。A00が目標。A000が手段に該当します。

この記号を用いることで、自分が取り組もうとしている仕事を、目的としてとらえているのか、目標としてとらえているのか、手段としてとらえているのかを意識できるようになり、上司であれば、部下の意思決定が、この三段階のどのレベルで行われているかを確認することですぐにチェックでき、どの段階で考えるべきかを指導することができるとのことでした。

A0A00A000の会話例

本書ではA0A00A000を用いた会話例が記載されています。長いですが以下引用します。

ある工場長は、整理整頓と書いて壁に貼り付けてある職場なのに、材料や用具が入り組んで置かれている状況があったので、職場長に整理整頓について質問することにした。
「整理整頓できていると思いますか?」
「繰り返して指示しているのに進みません」
「A0A00A000というレベルで考えるとこの言葉はどこにあたりますか?」
「そのように考えたことはありません」
「整理整頓は何のためにするのですか」
「安全、作業効率アップ、働く意欲向上が期待できます」
「安全確保、作業効率アップ、働く意欲向上の環境づくりの三つを達成する目的を整理整頓という言葉で表現できていると思いますか?」
『「意欲を持って働ける整理整頓された職場環境づくり」と言ったほうが、目的として理解しやすいかもしれません』
「それでは、AOをそういう表現にしてください。次にA00に行きましょう。安全確保、作業効率アップ、働く意欲向上という表現でピッタリきますか?」
「安全確保というのは標語的で、もう少し具体的な成果で表現したいと思います。絶対に事故を起こさないというのはどうでしょう?」
「わかりやすいですね。同じように他の二つも見直してください」
「作業効率アップは、物と人の動きが最小化され、全体としての効率も最大化されるというこ とだと思います。働く意欲向上は、出勤した時に来てよかった、今日も一日頑張ろうと思える 清潔な作業環境づくりだと思います」
「さて、A000に行きましょう。A00を達成するためにどんな具体的な案がありますか?」
「安全については、ここの作業は気をつけろという指示を出しているのですが、チョコチョコ と不休災害が起きます。心配な個所は複数残っていて、作業上の指示はしていますが」
「心配な作業を全部書き出し、作業工程を明細化して、危険ポイントと対策を作業者と一緒に 書き上げてみたらどうでしょう。整理整頓には、物や機械器具だけでなく、作業の進め方も含まれているのですよ」
「A000の表現をみていると、やらなければならないことが次々と具体的に頭に浮かびます」

『意思決定入門 第2版』より

文を読んでいると、目的目標手段それぞれの表現が具体的になり、手段が目標に、目標が目的にきちんとひもづいて、「何のために何をするのか?」が明確になります。

A0A00A000をさらにわかりやすくするための記法

この会話という口と耳で行う情報のやり取りで、やるべきことや順番が十分に理解され、共通認識を持つことができれば、話はここで終わりです。
口と耳だけでは不安なので、メモをしておこうという人は多くいるでしょう。口と耳の音声情報に文字情報が加わります。
これをリストで表現する人もいればWBSで表現する人もいると思いますが、 「A0A00A000」という目的目標手段関係は、プ譜の表現と相性がいいように思いました。

以下、前述の問いかけと対話をプ譜で表現していきます。

まず、「ある工場長は、整理整頓と書いて壁に貼り付けてある職場なのに、材料や用具が入り組んで置かれている状況があったので、職場長に整理整頓について質問することにした」という場面です。
プ譜では「獲得目標」の欄に「整理整頓」を入れます。

次に、「整理整頓は何のためにするのか?」という目的について職場長に問いかけます。この回答はプ譜の「勝利条件」の欄に記入します。勝利条件はA0A00A000の「A0」に該当します。

職場長との対話で、A0は「意欲を持って働ける整理整頓された職場環境づくり」となりました。プ譜の勝利条件では、未来完了時制で「意欲を持って働ける整理整頓された職場環境ができている(つくることができている)」という表現になります。

次に、A0を構成する3つの要素について問いかけていきます。
『意思決定入門』ではA0A00A000を「目的→目標→手段」関係としていますが、プ譜のフレームワークでは、「獲得目標→勝利条件→中間目的→施策」としています。
目標と目的という言葉の順序が異なるので混乱するかもしれないのですが、このまま進めます。
A00はプ譜の「中間目的」に該当します。

「安全確保、作業効率アップ、働く意欲向上という表現でピッタリきますか?」という問いかけに対し、もう少し具体的に表現できるという対話が行われました。

それぞれの要素を具体的に表現したものが下記になります。

最後に個々の要素で具体的に表現したあるべき状態を実現するための手段について問いかけます。
プ譜では手段を「施策」と呼び、これがA000に該当します。

対話の結果、考案した手段を施策の欄に記入します。

このように、構造をプ譜で可視化し、それを互に目で見て確認し合えば、より認識の齟齬をなくすことができ、取り組む順番や個々の要素と施策の関係性も把握しやすくなります。

今回、A0A00A000を整理するための問いかけ例を見つけたのでこれを題材としましたが、プ譜を用いてプロジェクトの仮説・計画立案をするための、プ譜のフレームワークに対応した問いかけリストを下記の新著に収録しました。

プロジェクトメンバーや上司・クライアントとの認識のすり合わせ、共通認識づくりの役にきっと立つと思います。

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前田考歩
未知なる目標に向かっていくプロジェクトを、興して、進めて、振り返っていく力を、子どもと大人に養うべく活動しています。プ譜を使ったワークショップ情報やプロジェクトについてのよもやま話を書いていきます。よろしくお願いします。