見出し画像

状態を観察して、言語化できるのが良いコーチ

知人のKさんから、良い声で歌うことについて大変おもしろい話を聞きました。Kさんは子どもの頃から、歌を歌う時は「大きく口を開けて」と言われ、それをしっかり守っていたそうです。それが、最近ボイストレーニングに通ったところ、トレーナーから、「Kさんは息がたくさん流せる(呼気量が多い)ため、口を大きく開けると音が拡散するのと、声帯の許容量を超えて息が多く当たるため音が割れる」と指摘されました。そこで、「口は小さめに開けて、息を流す量も減らしていい」と指導されたのだそうです。

このエピソードから、私は歌を歌ったりスピーチするための練習・学習はしないけれど、分野を問わず、こういう指導をしてくれるコーチに出会いたいと強く思いました。と同時に、こうした指導ができるコーチになるには、どのような段階を経るのだろうか?という疑問が生まれました。
そこでこのエピソードと発声に関する書籍を参考に、コーチの成長・進化の段階を分けるものについて考えてみました。なお、これを可視化してわかりやすくするために「プ譜」を使用しました。また、ここで考えた内容は、いわゆる「コーチ」を称する方だけでなく、人に教授・指導・アドバイスする立場にある、機会をもっている人(例えば、メンバーや部下を率いるマネージャー、Saasなどのベンダー営業、コンサルタントを称する人、カスタマーサクセス担当者など)全般に役立つのではないかと思います。この記事では、以下こうした方々も含め、「コーチ」と総称します。

素人は断片的な情報だけを知っている

Kさんの発声エピソードを題材に、まず素人とコーチを分けるものを考えます。他者に教授・指導・アドバイスをする人の素人レベルとは、昔なにかで見聞きした、或いは体験した断片的な情報だけを知っているという状態といえます。
プ譜に書き起こすと、「良い声で歌う」ことを目標とし、それを実現するために「口を大きくあける」という施策があります。
「なんでか理由はわからないけど、口を大きくあければ大きな声が出るわけだ“から”、いい声で歌えるだろう」という、施策と目標がその人の頭の中では直結しています。この状態をプ譜で表現すると下図のようになります。

「口を大きくあける」ことは、良い声で歌う要素の一つである「喉が広がっている」状態を実現する手段になっています。喉が狭いと浅く平たい印象の声になるのに対し、喉が広がっていると深みのある丸い感じの声になるからです。 

プ譜ではこうした要素とその状態を中間目的の欄に書きます

素人はこのような原理やメカニズムを知りません。発声の原理からは切り離されたアフォリズム、或いはヒューリスティックのような情報をもっているのが素人と言ってよいと思います。

Kさんのエピソードに戻ります。経験的、世間的に信じられている「良い声で歌う」ために「口を大きくあける」ことをしてみたら、良い声どころか「声が割れる」という望まぬ結果を招いてしまいました。

この原因はKさんの声帯と吐く息の量(呼気量)に原因があります。

プ譜では所与の条件や環境を「廟算八要素」の欄に記載します

声は肺から出す息が声帯にあたって私たちの耳に聞こえてくるわけですが、軽くて短い声帯に、呼気量が多い人が大きく口をあけて歌うと、声帯の許容量を超えて声が割れてしまいます。 良い声で歌うためには、「喉がひらいている」という状態だけではなく、「適した量の息が声帯に当たっている」という状態も必要です。声帯も呼気量も人それぞれ異なります。この条件を無視して「口を大きくあけ」て、「喉を広く」してしまうと、望まぬ結果を招いてしまうということです。

LV1のコーチは、施策のレパートリーは豊富

こうした事態に遭遇したとき、手を打てないのが素人でしょう。そして、「この手がダメなら、こっちはどうだろう」と、「良い声で歌う」ための他の施策(レパートリー)を多く持っているのがLV1のコーチと言えるのではないかと思います。

素人よりも情報を多く持っている状態をLV1としましたが、原理原則が体系化された分野であればこの状態も素人レベルに止まるものと思います。

LV2のコーチは、 原理原則を知り、施策のレパートリーを持っている

これを素人レベルと呼ぶか、コーチLV1とするかはこの記事ではそれほど重要ではありません。下図は、発声の原理原則や上述の「喉の広がり」と「声帯に当てる息の量」といった異なる要素の関係性などについて理解し、それぞれの状態を実現するための施策のレパートリーを持っている状態のプ譜です。この記事ではこれをLV2のコーチとしますが、体系化された分野ではこの状態がLV1のコーチでありましょう。

蛇足になりますが、原理原則が明らかになっている分野なら、体系的に知識や技術を学習・習得することができますが、未知の分野の場合、施策(すること)が、どの要素をどんな状態にしたのかが明らかにされていません。そのような分野で、中間目的にあたる「要素」と「状態」を発見し、その言語化ができている人はたいへん抜きん出ている(LV2より上の段階にいる)コーチと言えると思います。

LV3のコーチは、 相手の診断・評価ができて、施策の行い方の調整・工夫ができる

再びKさんのエピソードに戻ります。Kさんのボイストレーナーは、Kさんの声を聴いてKさんの結果から原因(声帯の質や呼気量)を推察し、望まぬ結果を招かないための施策を提案します。Kさんは呼気量が多く、声帯が短いために、大きく口をあけるのではなく、小さめにあけるという施策の調整・工夫を行いました。


こうした、相手の診断・評価ができて、施策の行い方の調整・工夫ができるのがLV3のコーチです。このようなコーチに出会えたKさんを幸せと言うべきかどうかはわかりません。ボイストレーニングの分野では、こうした状態になければコーチと名乗ることがなきないのれあれば、それは「当たり前」のことでしかないからです。
しかし、世の中にこの記事のLV1の段階でもコーチ・コンサルタントと称する人がいるのも事実です。例えば、あるSaasを導入し、それを活用して目標を実現するためのコンサルティングを依頼したとします。しかし、そのコンサルタントはレパートリーの数は豊富ですが導入した企業の事情を考慮せず、 「一般的にはこうです」といくつかの施策を提案するだけです。こんな「コーチ」に遭遇するのはご免こうむりたい。まだ歴史の浅い分野で原理原則がないのであれば、その分野の人々・企業にはLV2、LV3のコーチになっていってもらいたい。それがしいては、その企業の利益になって返ってくるはずです。コーチを受ける側はそうした人に出会いたいですし、コーチがまだその段階になくても、それを探求しようとしている人に出会いたいと願っています。

LV4のコーチは、 相手の真の希望を見出して、オーダーメイドのプランを立てる

最後に、LV4のコーチの状態とコーチの(指導の)状態を可視化するのに用いたプ譜の役割・意義を紹介して終わります。
LV4のコーチは、「良い声で歌う」真の目的を導き出し、真の目的を実現するための諸条件から、その人の条件や状況に応じたオーダーメイドのプランを立てられる人と考えます。

プ譜は、コーチとコーチを受ける人との間の共通認識を言語化・可視化してより確かなものにすることやコーチのプログラム・プランづくりにも役立ちます。また、自身の経験を言語化することも助けます(LV1からLV2へに移行を促します)。この記事の文字量が多くなりましたので、LV4の状態とプ譜の活用方法については、下記の記事をご覧下さい。

プ譜が言語化を促すことについては、別の機会に書きたいと思います。

※備考
発声については下記の書籍を参考にしました。私の理解が間違っており、記事に誤った情報を記載していた場合、その責任は書籍ではなく私にあります。記事内容を適宜修正しますので、ご指摘頂ければ幸いです。

未知なる目標に向かっていくプロジェクトを、興して、進めて、振り返っていく力を、子どもと大人に養うべく活動しています。プ譜を使ったワークショップ情報やプロジェクトについてのよもやま話を書いていきます。よろしくお願いします。