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一般の会社員だったらありえない研修

「研修」と言えば、どんなものを体験してきましたか?

社会人1年目だと、報告・連絡・相談のほうれんそうが大事とかを教えられたり、電話の受け答えとかでしょうか?
中堅になったら、その業務の内容について詳しく話してくれる講師のレクチャーを受けるのでは?
管理職になったら、部下のマネージメントや時代の流れに沿ってChatGPTの活用法とか、もしくは人間心理とかでしょうか?

その研修……座っていません?
研修中に立ち上がって、何なら歌って踊ってなんて普通やりませんよね。
ましてや、隣に座っている知らない人とハグとかありえませんよね(笑)

私は、やっていました。
知らない人とぎゅってしたり、こしょこしょしたり。
みんなで、わいわいするのです。真剣に!

これが、立派な研修なのです。なぜなら、私が保育士だったから。
知らない人とぎゅってしながら、頭の中でイメージしているのは自分のクラスです。いつ、この曲をクラスでやろうか?思考をめぐらせ、このテンポだと、乳児クラスは無理だなぁとか、運動会に使うとしたらこのテーマでいけそうだとか考えつつ、使えるネタを集めているのです。隣の人の手をもって、くすぐったりし合いながら。

そういう研修とかで見つけた曲とかCD(音源)の購入はもちろん自腹。
それが当たり前の世界でした。
後から、社会人は経費と言うものが使えると聞いて、なんだそのシステム!……と思っていました。たまに、運動会のために園長先生が買ってくれるCDもあったからあれがそうだったのでしょう。でも、そんな1枚だけじゃ足りません。使いたい音源が、カセットに入っていた時代もありました。(今の子は知らないでしょうけども)

そもそも、研修自体が有料だったりして、それも自腹な事も多かったです。これは、自己研鑽で当たり前なのかな?もちろん、仕事の範囲内でいくやつは、無料でしたが内容は「リスクマネジメント」とか、「小児アレルギーの現在」とかそんなやつ。そういうのは、ちゃんと研修費として経費計上されています。まぁ、大事ですけども、うきうきもわくわくもしません。

今思えば、歌って踊る研修は「恥を捨てる」という練習だったのかもしれません。学生の頃から、保育学校の授業は「人形劇の発表」とか、「即興のリズム表現」とか「ピアノ」とか「幼児のお弁当実習」とか実技が多かったのです。とにかく、私をなんらかの形で表現しまくるのです。

18歳ぐらいだと、まだまだ恥はあるものです。
でも、保育士になりプール開きに「水の妖精」役とか、「カッパ」役とかをやったり、夏祭りで「たぬきのおしょうさん」役とかをやったりしまくっていたら、もう恥なんてどっかいきますよね(笑)
先輩も「あれができなきゃ、保育士じゃないわ」なんて言う始末。
保育士に、プライドなんて邪魔なのでしょう。

なぜ、自分はこんなことをやっているんだろう?ってふと我に返ることがありました。
相手が子どもたちだから?
いや、子どもも大人も人間だし。
どうして私は、わざわざ役になりきらなきゃいけないんだろう?
私の中に残るプライドが問うのです。

その答えは、誰も教えてくれませんでした。

世の中の人たちの研修は、ゴールがあってわかりやすいもの。自分はこれを学びにきたから、それをおとなしく授業を受けて聞いていこう。そして、会社に報告書を書いて、自分はこんな行動をして改善いきますと表明します。(まぁ、ほとんどの人は、報告書を出したら解放感でいっぱいで終わるはず。もれなく私も。)
そこに、「恥を捨てる」という項目はありませんよね。普通。

一般の会社員だったらありえない研修なのでしょう。
自尊心をわざわざ捨てに行くなんて。

……いや、待てよ。
違ったのかもしれない。
「恥を捨てる」っていうのは、そもそも「あんな動きするなんて恥ずかしい」っていう思い込みだったのかもしれません。
大事なのは、子どもに伝えることです。
子どもに伝えるための「表現力を身につける」ためだったのかも。
よりよく、伝えるためのマインドと技術力。

子どもたちは、飽きっぽいのです。せいぜい15分。これが限度。今の子はもっと短いのかもしれません。その中で、「お友だちを叩きません!」とか、「プールサイドは走りません!」とか、「クリスマスツリーの飾りはとっちゃダメです!」とかとか、まぁ日常の細かい所を伝え続けていかなければなりません。教訓めいたものをストーリーを通して伝える必要があります。わかりやすいから。

お話のチカラ。それを借りるのです。
そこに、保育士は「表現」をのせて、わかりやすく伝えるのです。
だからかぁ、あの「恥を捨てる」っていうやつは。自分のためじゃなくて、子どもたちのためにやらなきゃいけなかったんだぁ。子どもたちの生きるパワーに負けないぐらいに、こちらもパワーを出しながら伝え続けるために。

……いやいや、正直。伝えるだけなら動画で良くない?とか思ってしまう楽したい保育士の私。ただ、あの歌って踊る研修で私自身が楽しかったから、そういう楽しい気持ちを保育園に持って帰って、子どもたちに伝えることはできていたように思います。人からのエネルギー伝達として。

一般的には、アーティストのライブとかになるのかな。仕事帰りにライブに行って、エネルギーチャージしてまた仕事に戻るって流れ。あれに近かったのかもしれません。あれらの研修が。

そういう意味でも、一般の会社員だったらありえない研修なのでしょう。
だって、仕事の一環としてエアロビクスならぬ、「エビカニクス」を踊りに行くんですから。
まぁ、こんな世界もあったよってお話でした。



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