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谷川俊太郎さんの詩から生まれた絵本「生きる」

読書記録と言うほどのモノでもないけれど、この絵本はじっくり見ていたいと思わせる、引力がある。たったp39のお話。
それも、谷川俊太郎さんの詩をなぞっているから結論はわかっているけれども、絵の視点だ。ここがすごい。

「生きる」といいつつ、ほのかな「死んでしまった」を含むのだ。

この絵本は、セミの死骸のアップからスタートだ。
いきなり虫が苦手な人は「うえっ」っとなる。だって、その死骸にアリが群がっているのだから。自然の中の死だ。

そこから、公園の引きの絵があり、こまやかな人々の姿をじっくり観察できる。少しずつ、少しずつ視点がズームしていき、ある姉弟の家族の物語が浮き上がってくる。これは、昭和か平成の家族。団地。ミニスカート。商店街。ファックス付きの固定電話。扇風機。
そして、写真立ての中にだけ存在する人。ここだけは、今も変わらない。

「生きる」

先日、この死を作った谷川俊太郎さんがお亡くなりになった。
ご冥福をお祈りします。
でも、それがあったから追悼の意味で本が私たちの手に取りやすい所に並んでいた。それがなかったら、私はこの本を手に取っていない。

いろいろな思いがある中で

そして
かくされた悪を注意深くこばむこと

絵本「生きる」p16~p17

この文が書いてある見開き1pのひまわりの花をじっと見る。

私は、人の死を利用してアピールされているこの本を手に取った。
それは、はたして追悼なのか?それとも押し売りなのか?……。

それだけ命は重いということなのか、
有名だからと知っておかなきゃという見栄なのか、
ただの知りたがりの興味本位なのか、
わからなくなる。

上記の記事を読んで、

谷川 「死ぬ」ということを含み込まない「生きる」は、インチキだと思っています。これはすごくいい。

ココに私は反応した。
そっか、わからないままでもいいんだ。
「生きる」って。


生きる        谷川俊太郎 詩

生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木漏れ日がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみすること
あなたと手をつなぐこと

生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと

生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ

生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまがすぎてゆくこと

生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ

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