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【読書記録】名古屋駅西 喫茶ユトリロ

名古屋にお住いのあなたなら、知っている場所が満載でした。
ただし、鶴舞図書館の寿がきやラーメンは閉店してしまったので本書に出ている情報としては、懐かしみながら読んで下さい。

このお話は、名古屋駅西にある架空の喫茶店ユトリロに関わる人々たちの連作短編ミステリーでした。ミステリーと言っても人は死なないので平和だし、謎も軽い感じなので名古屋が地元でほっこりしたお話を希望する方に向いています。

名古屋名物の手羽先・カレーうどん・寿がきや・鬼まんじゅう・どて煮が目白押し。読みながらお腹がすくかもしれません。私はスポーツ観戦をあまりしない人ですが、この地方は何と言ってもドラゴンズ推し。この本に出てくるミステリアスな麻衣さんもドラゴンズファンという設定でした。主人公は東京に住む男の子のとおる。名古屋大学に受かったから、こちらに住むことになりおばあちゃんがやっている喫茶店のある家に下宿中。東京の人だから、名古屋のことはよくわかりませんっていう設定で地元のことを少しずつ知っていきながら、ちょっとした謎を追っていくという流れ。

名古屋に住む私たちには当たり前の名古屋めし。だからといって食卓にすごくあがるわけではありませんが、それでも街でよく見かけるお店の名前が多いので、やっぱりこれは地元の人が楽しめる作品なのでしょう。作者の太田さんも地元の人ですし。

そういえば、この方の対談を去年聞きに行った気がします。

ちょっとご縁のあった方の本だから手にとったというのもあります。読んでみて、これは全国的にはヒットは難しいけれど地元愛が詰まっているからじわじわくる本です。ただ本編に出てくるような名古屋弁を話している人はなかなか見かけないので、あくまで小説として楽しむのがいいかも。

喫茶店の名前は、パリを愛した孤独な画家モーリス・ユトリロという実在の人物が描いた絵が由来です。この喫茶店にはユトリロの描いた1枚の絵が飾られているのがみそです。この絵を眺める一人の紳士。ちょっとシャーロックホームズみたいなこの紳士の存在がキーポイントになります。

小説に出てくるちょっとしたキーワードで、へぇこんな世界もあったんだと知見が広がるのが読書の楽しみでもあります。私の場合、今回はユトリロでした。こういう画家さんもいたんだね~知らなかったわと思わず検索してしまいました。美術系の知識があまりないので……。でもすぐ検索するこの癖を正すような短編が第5話にありました。例は、美術ではなく映画ですが。

「彼女はきっと映画を純粋に楽しみたかったのだと思います」
紳士さんは言った。
「何の予備知識もなく映画に接したいと思うひとは多い。しかしAにはそれが理解できなかった。何もかも徹底的に調べ上げ、知識を蓄えたうえで、その知識を教えてあげることが彼女を喜ばせることになると思ってしまった。逆効果にしかならないとは思わずにね」

名古屋駅西喫茶ユトリロ p228

「知識はもともとネットに存在していたものではありません。人が持っていたものです。人に尋ねなさい」

名古屋駅西喫茶ユトリロ p245

「知るは一時の恥、知らぬは一生の恥」とよく言ったものですが、「知る」ことは、ChatGPTなどAIを使ったら近所の人に聞くよりよほど正確で膨大な知識が入ってくる現代です。ただ人に聞かずに知ってしまうデメリットもあるのです。恥を捨て「人に聞いて知る」という体験。それが失われることで、そこで生まれるはずだったコミュニケーションのタネを失い、自らご縁を切っているのです。

検索は便利です。でも、それだけじゃ足りません。TPOをわきまえつつ、頭でっかちにならないように気をつけようって思いました。基本的に人は自分の話を聞いてほしくて、人の話なんて押しつけてほしくないのですから。

なんていろいろ考えてしまいましたが、この本はライトにサクッと読めてしまうので、名古屋の方でご興味あればお手にとってみてください。もちろん名古屋市図書館にもちゃんと置いてありますから。

それでは👋

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