1人酒場飯その51「緑と清流の地、藤岡で愛される街中華を嗜む」
関越自動車道を上越方面へと進む車。だが、関越に入ってすぐに高速を降りる。関越道の初めの土地、群馬県藤岡市の市内へと足を下ろす。
藤岡市はどちらかと言えば埼玉の秩父方面が近い、山の中の小さな地方都市だ。群馬の中でも前橋や高崎と言った名前が上がる市とは違い、自然の中にポツンとあるような感じで僕の出身に近い印象を受ける。
高速道路脇の道の駅に一旦停まり、道の駅である「ららん藤岡」を歩いてみる。
まず目についたのは道の駅に小さな観覧車があることだ。小さい観覧車、くるくる回る花の観覧車。子供が好きな観覧車。ここは1つのオアシスかな。目についた観覧車から道の駅特有の物産品の商業エリアへと足を延ばす。
ここはなかなか面白い。お土産、地元の物産エリアは覗いてみると地元で作られたシルクや手作りの小物、日本酒にお菓子の定番が広いエリアで並んでいる。どれを手に取ってみても、地元の努力を感じる。
さらに別な建物は地元のブランド豚や牛肉を販売する直売場もあり、藤岡周辺の魅力が詰めこまれている。
こういう場所好きなんだよ。
地元の子連れのにぎやかな声と開催されていたイベントの音楽が交わり、穏やかに時間が過ぎていく。そう言えば向かいには、ラーメン店や甘味処、肉に海鮮の様々な店が並んでいた。
その方角を見て、なかなかの混雑具合に感じる。と言うか、これだけ道の駅で地元の食材を見せられたら思う。店、探しに行きますか。と。
道の駅というディティールに囚われるな、余所行きじゃない日常を切り取った味を探しに行くぞ。車に戻り、藤岡市内へと車を走らせた。
道の左右を見てみれば、実に愛着がわく。
大型の電器屋やチェーン店がある一方で、ゲームセンターと車屋が混在した大きいレジャー店やトタンの古い建物、ボーリングとホテルが合体した宿泊所などが混ざり合って、かなり独特な世界を織りなしている。
なんだろう、藤岡。奥が深いぞ。
そんな感想を持ちながら、田んぼの広がるエリアに近づく。すろと、僕の視界に一軒の中華料理屋が飛び込んできた。白い店は歴史を感じる汚れ具合。
砂利の駐車場にはなぜかカラーコーン。でも車が何台か停まっており、地元に長い間あるお店だということがわかる。何より店名の前についた『思い出の味』がグッとくる。ここはこの店で決まりか。
僕は思い出の味という看板に惹かれるがまま、「たわらや」の扉を開いた。
店内はやはり思った通り昭和のお店だ。厨房とは別に洗い物などの流しをぐるっと囲うタイプのカウンター席に白い塗装のされたテーブル席がメイン。やっぱり地元の人がメインで飯を食べている。
奥には畳座敷の上がり部屋、そこではビールを飲んでいる常連さんが目につく。なるほど、酒場使いか。
だが、何と言っても僕が当たりだと直感したのは、カウンター前の洗い場では店員の叔母ちゃんが餃子を包んでいる場面を見たからだ。
餃子をここで包む!作り置き無し、仕事が丁寧。この時点で小さなガッツポーズをしてもいいぞ。
この字のカウンターのちょうど奥のテーブル席と洗い場が見える位置に腰を落ち着け、メニューを思慮しよう。まずあの手包み餃子は確定だろう。それとどうするか。
しかしながら、メニューが驚くほど安い。
一番目につくのはラーメン390円。おいおい、夢か?夢じゃない。全部のメニューが安価だ。大衆中華の模範として教科書に乗せるべきだな。お上品とか、高級とか、この庶民の食堂の前じゃただのお飾りなんだよ。
というわけでチャーシューメン、チャーハン、餃子を注文する。麺、飯、餃子の町中華三種の神器のそろい踏みだ。餃子、見せられたら食べたくなるやつなんだ。
くいっと水を呑み、目を座敷の常連さんに向ける。唐揚げとか食べているけれど、こっちも喰いたくなる。それに車じゃなかったらどれだけビールを呑みたいか、あの様子を見たら分かるでしょうが。
自らを制止し、手札が揃うのを待つ。パッとまず先陣を切って出してもらったのはチャーシューメンだ。早い。
チャーシュー4枚とネギを散らしたシンプルな醤油ラーメンのたたずまいはもはや有形文化財と言っても過言じゃない、俺の心の中の遺産。
食べてみればわかる。ああ、そうか、これは昔ながらの中華そばだ。時代は変わっても全く変わることのない醤油の旨味。今の進んだラーメン屋とは違った。見た目は何かもの足りなそうだが、味わえばわかるその味。
しっかりと歴史という楼閣を口の中で組み上がるすっきりとした切り口。昔こそセンセーショナル。シンプルだからこそ、美味いラーメンがあるのだ。だがそれ故に絶滅しかかっているこの味、変化が常の時代だからこそ残す必要があるんだ。チャーシューをかじり、面を啜る。580円なんだぜ、この一杯。高価とかまるでこの一杯の前ではかすんでしまう。
そこへチャーハン、餃子の二大町中華が登場する。三種が揃ったぞ。
チャーハンに無造作に蓮華を入れて、山を崩す。おお、具材角切りゴロゴロ系チャーハン。パラパラとは一線を画すこの焼き目感がいいんだ。ナルトとチャーシュー、ネギのシンプルな具材を卵が包む。しっとり、パラパラじゃないけど香ばしい。
チャーシュー角切りがチャーハンに入っていると、宝物を見つけたみたいでとてもうれしいんだ。いい塩味の味付けを蓮華で夢中で掻き込む、こういうしっとりチャーハンはもはや日本料理だ、飯文化の血潮がコメの髄まで流れている。
麺で仕切り直したら、次はおばあちゃんが目の前で包んでいた餃子だ。
細長いまとめ方の餃子だが、それもそのはず。見れば皮の留め場所が絶妙に空いている。手作りの餃子は皮は薄手のため、パリとモチのいいところどり、餡はニンニクのパンチが効いた刺激強めだ。
餃子の旨さ、身に沁みます。餃子をまた包み始めたおかあさんに一礼したい。
藤岡の街には誰もがふらっと来て、町中華の鏡と出会える思い出の味が確かにあった。チャーハンを一気に掻き込み、水で締める。僕の頭に思い出の味がしっかり残ったぞ、たわらや、忘れるなかれ。いや、忘れるわけがない。
おばちゃん、美味しかったです。奥の厨房でみんなのための味を作るご主人にも美味しかったです。と残して店を出る。
藤岡の誇る愛しき町中華よ、ずっと思い出の中に残っているからな。
今回のお店
たわらや
住所 群馬県藤岡市藤岡1162
お問い合わせ番号 074-22-2388
定休日 火曜
営業時間 11時~14時
17時~21時
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