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1人酒場飯ーその47「人情の町中華と思いこもったレバニラと、長岡に乾杯」

 各所が観光客で賑わいを見せる秋の三連休。

 日本的には「我慢」とか言われていたあの三連休。僕は観光客が多くいるであろう観光地ではなく、新潟県長岡市にやって来ていた。

たった一人で自家用車を駆り、長岡の地へ。観光とか、名物とか僕にとってみれば野暮だ。神社の片隅で神道を見つめ直して、地元の隠れた味を見つけ出すのが僕にとっての一人旅。

 初日の夜、長岡の中心通りをゆっくり歩く。駅から通りへと出てきてみたが長岡の街はしっとりと静かだった。観光客の姿は全くなく、地元の人たちが散歩がてらに練り歩くだけの静かな夜。

こういう空気が僕にとってみればありがたい、心穏やかに。しっとりと。

そうか、そんなことを言ってはいるが昼から何も食べていなかった。長岡の夜にどんな店と出会えるのか、ワクワクしてきた。なれば店を探すとしようか。

 先に目を付けていた店があるのだがそのお店は明日なら予定が取れるというわけで明日にしてあるため、本格的に手掛かりなしの状態での店探しになる。

 それがまた悩む。

 なかなか出来そうな店構えの店や、ビルの2Fにあったイタリア料理店を探し当てたはいいが、満杯で入れない連戦連敗。よさげな店構えだが自分がいま求めていないのでスルーした焼肉。

 いいか、自分にぴたりと合った、自分の心を生き生きさせてくれる店を探すことは人生において、これ以上のない難題なのだ。

 正解などない無限の計算式、その方程式を真正面から解きに行くのが真理であり、僕が追い求める酒場の流儀だ。

なんて格好つけても結局分からないんだから難しいんだよね、だから面白くてこうやって地方に来たら店を探すわけで。そんな事を知ってか知らずか、ついに僕は長岡で初めての答えにたどり着いた。

 駅から一本奥の大通りに良い具合に煤けた昭和遺産に申請したい看板を見つけた。「中華料理おがわ」の字体が渋い。大通りに面した町中華と表に貼られたニラレバの文字に心動いた僕は運命をここに委ねることにした。

店の暖簾をくぐるといきなり餃子専用の厨房が真横に現れる。カウンター無しの奥まったお座敷とテーブルの店構え。


 夜9時を過ぎていたがお客さんはなかなか上々でにぎわっている。

 奥をじっと眺めていると、いいですよ、どこでもどうぞ。店先で餃子を焼いていた店主さんに案内されるまま入口近くの4人用のテーブル席を一人で陣取る。さて、どうしようかね。

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 入り口で餃子を焼いていたのを見たら餃子、食べたくなるじゃないか。

 それに心動いたレバニラを定食でまとめて・・・。メニューを覗いてもう一つ気になったメニュー「中国そば」。なんか分からないけど、隣の醤油ラーメンがあるのでこの名前をとっている以上、予想とは違う味に出会えそうだ。

 というわけで流されるように餃子、ニラレバ、中国そばを注文して、ビールでも飲んでおくことにした。生は無いのでキリンラベルの瓶ビール。瓶ビール、懐かしい。

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 手酌でグラスにビールを注ぎながらおつまみで出された春雨サラダを入れる。これは春雨、間違いなく春雨サラダ。グイっとビールを飲み、セルフでとってきた冷で酔いを調整する。ううん、良いじゃないか。
 
 おつまみが上がるとすぐに餃子が運ばれてくる。

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 うおお、焼き目と焦げ目が良い小ぶりな餃子。こういう餃子は分かってる、美味いんだ。酢と胡椒を餃子の皿の仕切りのある部屋で調合して酢胡椒だ、もう餃子はこれじゃないとダメなんだ。

 餃子を半分で噛み切ってやると優しさが舌に伝わってくる。肉汁は程よく、でもキャベツの多さが優しく受け止めることで餃子を成り立たせる。

亀戸餃子さんはもっと軽かったが、個々の餃子は芯に足る旨味と軽さを調和させた一枚だ、これ好きだなあ。

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そこへビールの爽やかな苦味がまた合う。誰が餃子とビールを合わせるという発明をしたんだろう、この発明はイグノーベル賞ものだぜ。

 深い感銘を受けていると次に「中国そば」がやってくる。中華そばとは違う、その面拝ませてもらうじゃないか。だが、その姿はシンプルなラーメンそのものだった。

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 しかし、スープの輝きが違う。スープが醤油の色ではない、透き通り方をしている。塩なのか?でも塩とも思えぬコンソメのような色がまた不思議だ。
 
 なら一度飲んでみるしかあるまい。スープに蓮華を沈めてスープを喉へ通す。それは僕のラーメン史に堂々たる爪痕を残した。

 実に複雑に入り混じった奥深い立体的なスープだが、その根底は野菜だ。野菜に様々な出汁を組み合わせた複雑な味わいが優しく舌を包み込み、体の芯まで染みていく。

 しっかりとした悠久の形を舌の上で作り出し、余韻を残したままスゥっと消えていく、儚いようで記憶に残るその味に心が揺れる。

そのスープを活かすためか、塩味なのがまたこの一杯を食べてほしいという町中華の愛情に満ちた思いを表している。これが毎日食べたい、ラーメンなのかもしれない。

 麺ももちろんよし。チャーシューやメンマも彩を添える立派な主役だ。この丼の中で一つの和を以て成り立っている。このスープが全てを纏めている。今までの中で一番僕の中に染み込んだスープかも知れない。

 こんな丁寧な仕事をされている長岡の町中華に思わず乾杯してしまうよ。

 麺をすすっているとついにニラレバがやってきた。

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 実にシンプルなニラレバ、ニラとたっぷりのレバーとモヤシ。白髪ねぎと紅ショウガのトッピングはなかなか珍しい。おがわの名物を喰らおう、ニラレバ、たられば。

 こいつは美味いと脳に率直に舌が訴えかけてくる。

 レバーの臭みがないのは下処理が丁寧な証拠であり、そのレバーは内臓の本来の旨味を口の中で花開かせる、トロリとした味とこの鉄分で満ちた栄養が満ちていく。それだけでなく、レバーに仕掛けられた下味のタレが美味い。

 深く深く芯の旨味を引き出しながらも他の野菜たちの味をくっきりと浮かび上がらせてニラレバを一つのご馳走へと昇華させている。甘辛なのに後味はすっきりとしたニラレバに心底驚く。ビールがガンガン入ってしまう。レバーに、町中華に、ビールに酔わされる。

 僕は勝ったのだ、長岡の夜の賭けに。真横のキャベツの浅漬けも手を抜かない、漬物は店の良しあしを決める大事な一手なのだ。

 すべての皿を平らげ、いつの間にか誰もいなくなった店内を見渡す。長岡、良い場所。一度はこの町中華に会いに来て。

 店主さんと軽くお話をして、会計を済ませた僕はおがわの看板を振り返る。


 また来るよ、この店のこの味に。会いにくるよ、長岡に。

 今回のお店
 中華料理おがわ
 住所 新潟県長岡市東坂之上-2
 電話番号 0258-35-6375
 定休日 月曜
 営業時間 11時~27時
 


#ここで飲むしあわせ

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