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西巣鴨の昼しゃぶしゃぶ

 コの字はよく聞くが、U字型のカウンターというのはかなり珍しい。

U字のカーブ当たりの席で周りを見渡しながらメニューとにらみ合っていた。すき焼きとしゃぶしゃぶ、どちらが今、胃袋に収めるべきか、と。


 東京都豊島区西巣鴨。巣鴨駅前の商店街を一通り眺めた後、17号線に沿ってこちらまで来ていた。このエリアに来たのが大学時代に就職活動で第一希望の新聞社の2次試験を受けに来た時以来だ。結果?ダメだったが。


思い出しただけで苦い思いがこみ上げてくる。この苛立ちを紛らせるには腹を満たすしかない、そうと決まれば店を探すだけ。自分勝手気ままに食べられるフリーなものが食べたい。決まった順番なんて気にしないもの、とくればなんだろうか。


大通りを渡り、路地を進む。ラーメン?違う。お好み焼き、やってない。しゃぶしゃぶ、この店やってる!


お好み焼き屋の隣、しゃぶしゃぶとすき焼きの文字が看板に踊る店を見つけた。1人鍋、これはフリーダムな飯で間違いない。ここで決まり。即決とばかりにその店、『しゃぶ辰』の暖簾をくぐった。

 

 冒頭で書いた通りのU字のカウンターが目に飛び込んでくる。そのU字のカウンターに沿って客が自分の前の鍋をつつくスタイルのようだ。


とりあえず今は満席なので5分ほど待つことになった。待ちながらどんな様子で食べているかをちらりちらりと見てしまうが、どうやらすき焼きをみんな選んでいるようだ。卵を溶く音が合奏のように耳に響く。この音は心をすき焼きに傾ける罠だ。悶々としながら待っていると、片付け終わった席へと座るように指示が出る。


ちょうどU字のカーブのあたり、みなさんが食べている様子がよくわかる位置。文字通りすき焼きが飛び交っている。すき焼きに心が決まりかけている中、メニューを眺める


。牛、豚、鶏、どの肉もあるのか。一番高いのは黒毛和牛で2600円。安い。1500円以下で1人鍋定食は安い。しゃぶしゃぶも同じパターンだ。それに今日のお勧めで米沢牛のさがりの鍋もあるらしい。なら、今日のお勧めにするか。肉は牛に決めた、次はどちらを選ぶか…。すきか、しゃぶか。すきか。


でも、いい肉はストレートで食べるのもアリだよな。シンプルに感じたい。決まった。

今日の僕はすき焼きよりもしゃぶしゃぶだ、すき焼き君。またね。


注文を通して、すき焼きへの未練を断ち切る、ここで自分の選択に後悔してはいけない。まっすぐ鍋と向き合うだけだ。水を呑んで準備が整うのを待つ。


まずは鍋、それからポン酢等しゃぶしゃぶの道具がセットされていく。期待が高まる、今から1人鍋祭りが始まるのだ。そのスタートは具材が運ばれてきてから、歓声を揚げて始まる。出てきた肉は見事な霜降りじゃないか、しかも下の春菊やキノコたちもしっかりとしてあって、飯にしめのうどんつきの2200円とは、これは凄い。


白菜、春菊、豆腐などを鍋の中に押し込み、火を通るように先に煮ておく。それから肉だ。霜降りの入ったさがりをお湯の中で踊らせる。仄かに色着いたらサッと引き上げ、ポン酢につけて食べる。


柔らかく、脂が美味い。赤身とのバランスも良く、いい肉質を感じる。しゃぶしゃぶ勝負で大正解。シンプルに肉を楽しみながら飯で追いかける。


そこから火の通った春菊と白菜を挟む。野菜、甘いシャキシャキで肉とのバランスがしっかりと取れている。キノコたちもポン酢でサッパリと。すき焼きの役者たちと内容は一緒だが働きが全然違う、しゃぶしゃぶの野菜たちの役どころは主役を輝かせる照明役だ。


肉の旨味が肉を躍らせる箸を止めさせない。淡々としゃぶしゃぶをして、ポン酢のさっぱりさで赤身と脂を楽しむ。これぞ1人鍋、大人の1人鍋だ。


豆腐を引き上げて飯に載せてポン酢をかけて掻っ込む、湯豆腐飯も楽しめる。それと春雨のような乾麺を湯にくぐらせて麺のように喰うのもまた一興だ。すき焼きの流れに逆らい、しゃぶしゃぶで勝負に行って良かった。〆のうどんでかっちりと閉めて、一人の宴は幕を閉じた。


店から出たところでやっぱりすき焼きが恋しくなった。次来たときはすき焼きにしてしまおう。


今回のお店

しゃぶ辰西巣鴨店

住所 東京と豊島区西巣鴨4-13-15
お問い合わせ番号 03-3910-1020

定休日 水曜日 第2日曜日

営業時間 11時30分~13時40分

     17時~20時30分


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