酒場1人飯ーその38「エキナカ酒場、東北本線郡山にて」
誰もかれも時間に追われている。タイトな時間の中で誰もが癒しを求めている。それはどこにいても同じ。人とは時間に縛られることで生きている窮屈な存在なのかもしれない。
ただ時間は不自由だ。どうやっても悲痛な声を上げながら時間に追われる事もあれば、思いもよらぬ間が空いて手持ち無沙汰になる事もある。
その時は暇でどうすればいいか、逆に分からなくなってしまうのが人間だ。だらりと過ごしてしまってあっという間に時間の波に泳がされてしまう。
悩んで快適、不思議な人間。誰かの芸人のコントの中で聞いたフレーズなのだが、まさにその通り。摩訶不思議すぎて笑えて来る。好きなように時間を分配できる人はある意味で最高の幸せを持っているといっても過言ではないのだ。
それはそうと地方都市で電車を乗り過ごした時、こんな状況になる事があるのはどうしてなのだろうか。本当にすっぱりと時間が空いてしまうとどうしていいか分からなくなってしまうのだ。
タクシーにでも乗れば?それはノーサンキューな解答だ。思わぬ空いた時間こそ、自分をさらけ出せる時間なのだ。だらりとはしてられない。電車は次に乗ればいいじゃないか。
という事で僕の地元にはそんな空いた時間を埋めてくれる酒場が駅の中に存在する。JR東北、福島県のちょうどど真ん中郡山駅の新幹線ホームのある2階。まだ時間がある、そんな旅人を誘うように日本酒の一升瓶が大量に飾られた店があるのだ。
福島県は他の酒処にも負けず劣らずの銘酒が揃っている。個性豊かな酒蔵の酒を取りそろえた駅ナカの理想郷はそこだけ異様な存在感を光らせている。その店は『もりっしゅ』。なかなかスタイリッシュな店構えで中へ誘われればモダンで洒落た照明が鈍く照らす蔵のような大人の空間。
だが、それはあっという間に異なる印象へと変わる。カウンター席に腰を下ろせばずらりと冷蔵庫に並べられた福島の地酒が待ち受ける。
広い県内の酒蔵の大多数の銘柄をそろえた冷蔵庫を見れば、日本酒好きは圧巻とつぶやくことだろう。そして、福島の郷土料理を取り揃えたメニューが二重に手招きする。
僕にとって空いた時間を過ごすのにとても重宝できる酒場だ。駆けつけ前に景気をつける、ふらりと立ち寄ってサッと呑んで東北本線へ乗り込める、静かに友人と呑む、どの状況でもオールラウンドに対応できるからだ。
でもやっぱりカウンターで1人日本酒と向かい合うのが僕らしい。どれを呑もうか、メニューを開いて腕を組む。『もりっしゅ』にあるのは地酒の日本酒だけでない。猪苗代の地ビールや、ウイスキーなど福島と縁が深いものも多数そろえているからまた悩む。
まあ、言わずもがなこれほどまで日本酒に触れているから僕の場合は日本酒オンリーなのだが。
さて、少し物珍しい郷土の味がある。それが鯉だ。鯉って食べられるのか、と思う方もいるかもしれないが実は食べることが出来るのである。日本では昔から鯉を食する文化が残っている。
だが、随分と手間がかかる。鯉は水質の悪い場所でも住める魚だ。それ故に泥臭いことがある。泥臭さを抜くために綺麗な水で泳がせて泥を抜く事が鯉の養殖のコツらしい。実は郡山は有力な鯉の養殖地なのである。まさに運命の巡り合わせなのである。
日本酒片手に鯉の洗い。実に面白いじゃないか。コリッコリとした食感はまるでヒラメ、淡白で奥深く淀みない味は鯉とは思えぬ、恋の味というやつか。上手いこと言っていないぞ。
鯉から次は円盤餃子へ。餃子の皮はパリッと、餡はしっかりと。真逆なパンチに対して、日本酒をあおるそんな時間が狂おしいほど好きなんだ。
今日も又郡山駅の改札前で旅人たちは一升瓶に誘われていく・・・。
今回のお店
もりっしゅ
住所 福島県郡山市燧田195 エスパル郡山2F
お問い合わせ番号 024-933-5105
定休日 施設に準ずるため不定休
営業時間 11時~21時30分