1人酒場飯その49「新橋の味、福島へ行く。やきとんまこちゃん」
僕が新橋で思い出に残る味がある。新橋駅のレンガ造りの高架下。明治維新から時代を経て役目を終えて、今は過去を伝える遺産となった通りに新橋の中だけで複数店舗を展開する焼き豚の店がある。
新橋を代表する酒場である『やきとんまこちゃん』だ。
新橋の呑み屋小路に本店、別館、新館、そして僕が初めて立ち寄ったレンガ通りのガード下店の4か所に店を構える、新橋の雄と言っても過言ではない酒場だ。
僕がそこに初めて訪れたのは大学3年の3月、所属していた大学スポーツ新聞の記事を書いていたサークルの卒業会の日だ。なんやかんやで3年間お世話になった先輩たちを送り出す会ではなく、早く来すぎてしまったわけで午後イチから初めて訪れた新橋を1人ワクワクしながらぶらぶらしていたのだ。
全く成長が無いことにある種の感嘆を抱いてしまうが、まあ、いつまでたっても好奇心を忘れないことは大事ですよね。
そんな中でレンガ造りの歴史に圧倒され、ガード下のまこちゃんへと辿り着いたわけだ。その時に初めてやきとんの味を覚えた。焼き鳥とは真逆の濃厚な世界にあっという間に引き込まれた。新しい文字が串の世界に刻まれた。
ある意味では僕のルーツの一つと言っても過言じゃないかもしれない。
それから数年、地元東北、福島に戻っていた僕がまこちゃんの焼きとんに再び出会ったのは、同じく福島の郡山市の呑み屋街である朝日という土地だった。
ふと朝日の近くを自家用車で通った時、見覚えのある店名が飛び込んできた。「新橋」の文字と「まこちゃん」の店名。
あれ、この店は間違いなくあの店じゃないか。いつの日も出会いは突然。懐かしい名前に目が惹かれ、驚きが頭の中に浮かび上がった。
それから調べてみると県外に唯一存在しているまこちゃんの分店があの店だということを知った。暫く喰っていなかったあの味に会いに行こう。一人決心し、僕はその数週間後にお店を訪れた。
夜、フラフラと店の前にやってきた。呑み屋街の一角の小さなテナントだが、文字の存在感は抜群。黄色の看板がまた似合う。店内もカウンターと大テーブルが4つ、5つだけだが活気は本家に負けず劣らずだ。
カウンターに座り、メニューを覗く。
やっぱりここは「まこちゃん」だ、変わらない。カシラとタンとレバー、やきとんを何種か選んでそれに煮込みを足す。こういうのが新橋でやった時のパターンだ、この流れで問題はないだろう。
ちなみに居酒屋、焼き物屋に来た時に僕からしてみれば煮込みは試金石だ。
煮込みの旨い店は総じてすべて外れがないと思っている。定食屋で言うところの漬物の手間の掛け方で店の姿が見えるというのと同じだ。
つまり、基本的なメニューこそ裏を返せば店の技量を図る大切な一手ということなんだよ、たぶん。
そんな事はどうでもいいけれど、さっそく煮込みが出された。
「まこちゃん」の煮込みは味噌仕立ての関東ベースの濃い煮込みだ。
丁寧な処理によって臭みが無く、しっかりと純粋な旨味だけを残した牛モツと野菜の煮込んだ味わいが濃い味噌の風味を引き立たせる。モツに、豆腐に染みわたった出汁の後味はすっきりとする。
呑兵衛基準の味の濃さがやっぱり旨い。
次はごま油とネギたっぷりで絶妙に火が通ったやきとんのレバーだ。レバーってトロっとした内臓らしい後に残る味だが、新鮮なものほどそのトロリな味わいが濃くなるのだ。
ごま油という相棒とネギというサポーターを得たレバーはもはや無敵だ、命のかけらを頂いているというそんな想いもする。
ただ、濃いめ、さっぱりな歴史を紡いだタレをまとったスタンダードなレバーも捨てがたい。難しい選択だ。
カシラは歯ごたえ良く、ジューシー。僕は豚の部位の中ではカシラが一番好きなんだ。噛み応えと肉の旨味が一番同居しているからだ。タンもコリっとして、タンを食べている感が強い。やっぱり焼きとん、美味い。
焼きとんを楽しんだわけだ、次は別な顔を追加で注文しよう。
「まこちゃん」のメニューは実は各店舗で若干違う。それぞれにしかない味というのがあるのだ。その点から言うと茹でタンは無かった気がする。というわけでゆでタンと飯物からはらみ丼を追加で頼んだ。
煮込んだタンの旨さは牛タンで堪能したことがあるが、タンの繊維がとろりととろけて何とも言えない柔らかさになるのが特徴だ。タンという部位は役者だ。焼けば味と持ち合わせる絶妙な脂の乗りが楽しめ、煮込めば姿を保たないほどに柔らかくなる。舌を巻く変幻自在の世界に今日も翻弄される。
しかし、誰がタンを煮込むなんて考えたのだろう、舌を煮るなんて普通考えつかないものだろうよ。
そして香ばしく焼かれたハラミが乗ったハラミ丼が最後の締めだ。香ばしく焼かれたハラミとタレが飯にまた合う。ハラミを噛みしめ、飯を喰らう。丼が似合う一杯じゃないか。
懐かしさとワクワク感が入り混じった新橋と郡山の地で僕はこの酒場と出会えた日のことを忘れないだろう。新橋の喧騒が遠くになりにけり。
今回のお店
新橋 やきとんまこちゃん郡山富田店
住所 福島県郡山朝日2-18-1 白川ビル1F
お問い合わせ番号 024-932-0098
定休日 日
営業時間 17時~0時