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1人酒場飯その52「なれば、唐揚げ。盛岡駅前の鳥料理酒場にて」

バラ定食、至極のおでんを探し当てた岩手への出張ももう最終日になった。盛岡八幡宮岡で日本の寺院の奥深さを感じ、改めて日本に根付く神道の心を知る。

今、時代が大きく変わるからこそ古来日本の心とその気質をしっかりと見直して、重石のように国際社会の流れに向き合い、よりよい生き方を見つけられるようにするのだ。最近、僕達人間は人との結びつきをすっかりと忘れて、人を蔑んではいないだろうか。

 そう言えばウルトラセブンの話の中でこんなことあったな。実相寺昭雄監督の特徴的な映像美が今でも語り続けられる夕日での戦い、「狙われた街」だ。

現在のウルトラシリーズでもちょくちょく出てくる宇宙人のメトロン星人が人間同士の信頼を壊せばいいと言い、タバコの中に宇宙麻薬を仕込んで、摺った人間を暴れさせて混乱させるという作戦をしていた。その作戦は最終的にはセブンに打ち砕かれるわけだが、その最後のナレーションが悲しいほどに皮肉が効いていた。

『人間同士の信頼感を利用するとは恐るべき宇宙人です。でも、ご安心ください、このお話は遠い、遠い、未来のお話なのです。え?何故ですって?我々人類は今、宇宙人にねらわれるほどお互いを信頼していませんから』(抜粋 ウルトラセブン第8話『狙われた街』より)

セブンは放送から50年近く経っているのにまだ名作、メッセージ性が強烈なんだよ。どうしてこうも人は変われないのだろうか、と悲観交じりに思う。

哀愁なんぞ置いていこう。八幡宮を背に新幹線の時間をチェックする。自由席なら午後2時ぐらいに出ればいいか。それまでの間、盛岡駅の周りを見てみるか。バスに乗り、駅前へと移動する。

駅前までつけばもう昼時。どうりで、物を入れたくなるものだ。駅前で今の哀愁を吹き飛ばす美味い店を探そう。

そう思い、液の大通りを歩く。居酒屋、ランチなし。岩手でパスタランチ、なんか違う。ラーメン、麺は違う。吟味しながら歩いていく。どうも胃袋に落ちるドカン系を今、食べたいのだ。

すると、メインの通りと僕が泊まっていたホテルに続く橋の間に惹かれる店があった。でんと大きな看板に『ももどり駅前食堂』の文字。

メニューの看板が3つほど外に出るなかなか味のある木の建物。鶏料理か、ちょうど今の気分にジャスト、ヒットする。

商い中、ここで勝負と行くか。扉を開き、いざ敵は鶏よ。

店内は入口の様子とは違い、縦長になっている。カウンターとテーブル中ほどまで並び、シックでぼんやりとした灯りが味わいある。厨房も横長。ちょっと思っていたのと違う。

どこでもどうぞ、と呼ばれるがままカウンターではなく、中央のテーブル席に腰を下ろす。木のくすんだ感じのテーブルがまたいいなあ。奥を見るとさらにテーブル席があるようだ。酒宴が催されている一方で、カウンター席にいるカップルも一杯やっている。

思わぬ居酒屋飯だったか、だがこの戦場は僕にとってみれば戦いなれた1人酒場飯。今日は定食一本でいくんだ、単騎突入の孤兵を舐めるなよ。

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テーブルのメニューをじっと見つめ、何を喰うべきか。なるほど鶏酒場だけあって定食も鶏がメイン。名物は看板メニューの『ももどり』。同じく『唐揚げ』の二択か。5個と3個のサイズの選択もあるのか。そのほかにも餃子、豆腐ステーキ、じゃじゃ麺とさまざまなメニューに惹かれるが、ここは直感で「半唐揚げ定食」を頼もう。

日替わり定食をふと見るとオカラの衣のチキンカツも供されているようだ。

気になりつつ、店員さんに声をかける。そこで僕は見切り発車をしてしまった。気づけば口に出ていた、単品出来ますかという言葉。そう、唐揚げとチキンカツ、両方頼むという暴挙に出てしまったのだ。唐揚げが半だから行けるだろと言う謎の自信があるからか。

男なれば注文の一つや二つで後悔することなかれ、と自分に言い聞かせるがそれが詭弁だったことを思い知る。

広い厨房を行き来する板前さんたちの動きをぼんやりと見つめ、カップルのビールがなかなか減らない眺めを頭の中で、さっさと呑んだらいいんじゃないのと言うおせっかいを投げかける。なんなんですか、余計なお世話だ、と口に出したら面と向かって言われるのは間違いないだろう。

それは奥の酒宴の皆さんもそうか、気の合う仲間っていうのは1つの形を成しているんだ。

ああいう信頼を気づくのって難しいんだよね。メロトン星人ではないけど、人と人って心から結び付けば強いものだ、そのためには寛容であるというのも大切なんだろう。

 哲学とかじゃなくて本質、本質は…目の前に来た唐揚げに一旦止まる。

 大きい、おいおい、大きいぞ。むしろ、大きすぎるだろう。大ぶりに豪快に揚がった唐揚げ。それは一個、一個が皿の半分はある大きさだ。これだけで3つとか、どうなってるんだ?

 小鉢はおからか。まずは唐揚げと対峙すべし。

 重い。ズシッと箸を通じて腕の神経まで重さが伝わってくる。思いっきり行けば分かった。これは最高の鶏肉だ。実にしっかりとした噛み応えとジューシーな肉質、思いっきり鶏の旨味が弾け飛んでくる。やられた、開始5秒でテイクダウンだ。

 衣にも負けない鶏肉、久々に食べた。おおぶりな形も、ももどり食堂の名前に負けることのない自信の表れだ。

 噛み締めろ、岩手の大地の味。そこにキャベツ。すっとリセットさせてくれるキャベツは偉大な付き人、グリーンボーイだ。そこに2個目のから揚げ投入。また生き生きした地鶏が口の中で暴れまわっている。暴力的なまでのスーパーヘビー級だ。

 その一撃から逃れるようにサイドの茶碗蒸しへ。茶碗蒸し、君がいればなんとかノックアウトは免れそうだ。卵の優しさが身に染みる。

さあ、仕切り直しだ。肉を噛みちぎれ!揺れる、脳が。感じる、大地を。今、鶏を通して岩手の大地を感じているぞ。

 味噌汁には海藻が入ってる、リアス式の滋味もあるとはなかなかあなどれない定食だ。

 さて、すっかりと忘れていたが次の刺客が既にやってきていた。忘れたか、チキンカツ単品だ。というか単品でも2枚分のボリュームとか、完全に読み違えた。

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 だがこのチキンカツの衣はオカラ故にかなりきめが細かい、パン粉じゃ出せない細かさだ。そこにおろしポン酢の援軍がセットでついてきたのが渡り船だ。

 おろしの海にくぐらせ、チキンカツを迎える。うん、地鶏だ。

唐揚げの感じとは違う柔らかい上品な旨味と唐揚げと同じく同居している力強さがバランス良くせめぎ合っている。衣がまた。おからの衣は盲点を突かれた。パン粉とは全く違う軽やかな感じがポン酢と合う。おからの無限の可能性に気づかされてしまった。

サクッ、サクッ。リズムよい衣の軽やかな合奏。今までの中で個人的に一番ストライクなチキンカツかもしれない。いや、一本取られた。

ポン酢だけではない、ソースも手札の内だぞ。ソースをかけてもなおも美味い肉。ソースってどうして男は沢山かけるのだろう。ソースの味は童心の味。
 
 そしてまた、唐揚げと対峙する。カリvsサク。どっちも選べん。ヘビー級揚げ物コンビ大成功だ。が、胃は重いが。

 その合間で小鉢のおからの染み具合に救われる。おからって脇にいたら何でもできるスーパーサブだ。もちろん、キャベツも忘れてはいけない、助演賞だ。

 そうか、揚げ物の組み合わせって、互いに分かり合っている信頼に満ちた組み合わせなんだ。改めてこの黄金の組み合わせに感涙する。

 皿の中で食材同士が信頼し合い、酒場で人と人が信頼し合う。この土壌、やっぱりやめられないな。まだまだ捨てたもんじゃないぜ、人間。

 ようやく哀愁が吹っ切れた気がする。このモヤモヤを晴らしてくれた地鶏と盛岡に感謝だな。

 ちなみに何とか最後まで食べ切ったのちに名物のももやきを追加したのはまた別の話であったりする。まあ、岩手、侮るなかれ。か。

今回のお店
駅前ももどり食堂
住所 岩手県盛岡市盛岡駅前通10-4
お問い合わせ番号 019-654-6622
定休日 年末年始(12/31、1/1)
営業時間 11時~25時(ラストオーダー24時)
     ランチ、日替わり定食の時間帯は11時~17時まで

 


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