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人参嫌いのキャロットラぺ

人参は厄介だ。野菜嫌いだった私は、子どものころ常々そう思っていた。味の濃さも歯応えも、いかにも野菜らしい野菜。なんとなく飲み込めるキャベツや玉ねぎよりも存在感がある。小学校を卒業するくらいまで、ロクに食べようとしなかったのではないか。

大人になってからも好んで食べようとはしなかった。野菜炒めに入っていれば避けずに食べる。しかしそれは「そこにいる」から食べるのであって、積極的に食べたいから食べるのではなかった。「美味いものではない」という意識がいつまでも残っていた。

その認識が変わったのは30歳を過ぎてから、吉祥寺の某店で飲んだ時のこと。人参は「つまみ3種盛り」の中に盛られてきた。人参一色のつまみ。そう期待せずに食べたそのキャロットラぺが、とにかく美味かった。

ほどよく甘酢っぱくて、野菜らしさを感じない。なにやらスパイスの香りもしてきてビールが進む。

以来、その店では喜んで人参を食べるようになり、そのうちに自分でもキャロットラぺを作るようになった。シンプルな見た目に反して、いざ作ってみると塩やオイルの加減、切り方などが難しいと気づく。クミンを振ってみたのは正解だったけど、次はもっと細部まで観察しないといけないな。

難しい、難しいといいながら、気がつけば人参を丸ごと一本分、一人で食べている。馬じゃないんだから。ビールで酔いながら、そんな月並みなことを思い浮かべてしまう。

次にあの飲み屋に行けるのはいつだろう。それまではもうしばらく、馬になりながら試行錯誤してみたい。

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