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護身用法律まとめ



平等権

第十四条
1.すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2.華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3.栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

相対的平等:「平等」とは各個人の年齢、性別、財産、職業など様々な違いを踏まえて、等しいものは等しく、異なるものは異なるものとして、何が平等かを相対的に考えるという考え方を「相対的平等説」といいます。相対的・実質的な差異に基づく合理的な区別は認められ、不合理な差別は禁止するという考え方で、判例・通説はこの立場を取っています


暴行罪

暴行罪は、他人に対して暴行を加えた場合に成立する犯罪です。暴行罪の法定刑は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。条文上にも明記されているように、暴行罪は「暴行によって怪我を負わなかった場合」に限って成立します。

(暴行)第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処す。【引用】刑法第208条

暴行とは、他人に対する物理力の行使を意味します。例えば、殴る・蹴る・叩くといった暴力行為が典型例です。さらに音・光・熱・冷気などを用いた物理力の行使も、暴行に当たり得ます。ほかにも、裁判では以下のような行為についても暴行に当たると判断されています。

・衣服を掴んで引っ張る行為
(大審院昭和8年4月15日判決|Westlaw Japan 文献番号1933WLJPCA04156004)
・太鼓を連打して意識朦朧とした気分を与える、息を詰まらせる行為
(最高裁昭和29年8月20日判決|Westlaw Japan 文献番号1954WLJPCA08200009)
・塩を振りかける行為
(福岡高裁昭和46年10月11日判決|Westlaw Japan 文献番号1971WLJPCA10110006)
驚かす目的で、数歩手前を狙って投石する行為
(東京高裁昭和25年6月10日判決|Westlaw Japan 文献番号1950WLJPCA06100004)
脅かす目的で、狭い室内で日本刀を振り回す行為
(最高裁昭和28年2月19日決定|Westlaw Japan 文献番号1953WLJPCA02190007)


傷害罪

傷害罪とは、他人の身体に傷害を負わせた場合に成立する犯罪です。傷害罪の法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金であり、極めて重い犯罪となっています。判例・通説では、傷害とは「他人の生理的機能を侵害する行為」であると解されています(大審院明治45年6月20日判決等)。

(傷害)第二百四条人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。【引用】刑法第204条

例えば、殴る・蹴る・叩くなどの暴力により相手にケガをさせる行為が典型例です。ほかにも、裁判では以下のような行為も該当すると判断されています。

・嫌がらせ電話によって不安感を与え、精神を衰弱させる行為
(東京地裁昭和54年8月10日判決|Westlaw Japan 文献番号1979WLJPCA08100008)
・騒音によって精神的ストレスを与え、睡眠障害に陥れる行為
(最高裁平成17年3月29日決定|Westlaw Japan 文献番号2005WLJPCA03290003)
・性病であることを秘して性交渉等を行い、性病に感染させる行為
(最高裁昭和27年6月6日判決|Westlaw Japan 文献番号1952WLJPCA06060006)


窃盗罪

窃盗罪は刑法第235条に規定されており、他人の財産を侵害する犯罪(窃盗、強盗、詐欺、恐喝、横領など)の一つとされています。対象となる「財物」については、財産権の目的となる物であれば足りるとされているため、たとえば、空き缶やペットボトルなどであっても「財物」に該当するといえるでしょう。なお、窃盗罪の被害額は「時価」で算出されます。

(窃盗)第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

引用元:刑法第235条

恐喝罪

恐喝罪とは、暴行や脅迫を手段として人を畏怖させ、財物を交付させたり、財産上不法の利益を得る又は他人に得させる犯罪です(刑法249条)。

(恐喝)第二百四十九条 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

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財物を交付させるとは、要するに、金品を巻き上げるカツアゲ、ゆすり、タカリをイメージすればいいでしょう。財産上不法の利益を得るとは、債権者に債権を放棄させて借金をチャラにしたり、無償でサービスなどの役務提供を受けたりすることです。他人にその利益を得させるとは、たとえば、「俺の彼女の借金を帳消しにしろ、さもないと殴る」と彼女の債権者を脅して彼女が本来支払うべきであった借金を免れさせたようなケースです。

恐喝罪の成立要件
①恐喝行為をしたこと
②畏怖させたこと
③恐喝行為から財物交付等までの因果関係があること

①恐喝行為をしたこと
恐喝行為とは、人に財物を交付させる、財産上不法の利益を得るまたは他人に得させることの手段として、人を畏怖させるような行為、すなわち、暴行または脅迫をすることをいいます。暴行とは、人に対する有形力の行使のことで、殴る蹴る、押し倒す、胸倉をつかむ、水をかけるなどの行為がそれに該当します。脅迫とは、脅迫罪のように、相手やその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対する害悪の告知をすることに限られません。相手の友人や勤務先の企業に対して害悪を及ぼすことを告げる場合も恐喝行為でいうところの脅迫にあたります。たとえば、「お前を殺す」「お前の家族を殴る」と言った場合はもちろん、「お前の友達を拉致監禁してやる」「お前の働いている企業のPCにコンピュータウイルスをばら撒いてやる」といった発言でも脅迫にあたります。また、直接口頭で伝える場合はもちろん、電話やメールで伝えるなど害悪の告知の方法は問われません。

②畏怖させたこと
畏怖とは、怖がることを意味しますが、暴行や脅迫により畏怖させたかどうかは、被害者が怖がったかどうかではなく、一般人であればその行為により怖がるかどうかで判断されます。たとえば、非常に怖がりの体格が大きい成人男性がいたとして、その男性に対して小柄な小学生が「お金くれないならぶっ殺すぞ」といった場合、仮にその男性が畏怖したとしても、一般人であれば小柄な小学生に殺すと言われても畏怖することは一般的にはありませんので、恐喝罪は成立しません。恐喝罪が成立するほどの畏怖があったかの判断は、公の場か密室か、昼か夜か、性別、年齢差、対格差、行為者と被害者との関係性、暴行・脅迫に至るまでの経緯等に照らし裁判官が判断することになります。

③恐喝行為から財物交付等までの因果関係があること
次に、恐喝行為によって、相手方から財物を交付させたり、財産上不法の利益を得る、または、他人に得させることが必要です。すなわち、行為者の恐喝行為によって相手方が畏怖し、相手方の畏怖によって財物が行為者に交付された(あるいは、財産上不法な利益を得た・他人に得させた)という一連の因果関係が必要といえます。たとえば、行為者が脅迫したものの被害者は一切畏怖しておらず、ただ単に、絡まれて面倒くさい・行為者が哀れといった感情で財物を相手に渡した場合には、畏怖の感情に基づいて財物を処分したとはいえないため因果関係が否定され、恐喝罪は成立しません。

恐喝罪の証拠となるもの
被害者が恐喝の事実を立証できる客観的な証拠を揃えることで警察が捜査を開始し、逮捕される可能性があります。そのような証拠としては、以下のようなものがあります。

・恐喝行為を録音・録画したボイスレコーダーや動画データ
・恐喝してきたLINEやSNS、DMなどの文面のスクリーンショット
・恐喝を受けた直後に被害者が被害状況を書き留めたメモ・備忘録
・被害者が被害直後に第三者に被害相談していた事実
・加害者が反社会的組織に属している事実 など


脅迫罪

脅迫罪は、刑法第222条に規定されている犯罪です。
相手または相手の親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対し害を加える旨を告知して(害悪の告知という)脅迫することで成立します。
以下では、脅迫罪の成立要件について、詳しく解説します。

1)生命、身体、自由、名誉、財産に向けられたものであること
脅迫罪は「生命、身体、自由、名誉、財産」の5種類の利益に対して害悪を告知することで成立する犯罪です。逆にいうと、これら以外の利益について害悪の告知をしても、原則として脅迫罪は成立しないのです。それぞれの利益について「害悪を告知すること」の具体的な事例は、下記の通りになります。

生命:「殺すぞ」「お前の妻の命はない」など
身体:「ぶっとばす」「痛い目にあわせてやる」など
自由:「ここに閉じ込めてやる」「お前の子どもをさらってやる」など
名誉:「お前の隠していることをネットで公表してやる」「会社中に言いふらしてやる」など
財産:「お前の車に火をつけてやる」「ペットを痛めつけてやる」など

(2)害悪の告知があること

原則として、「害悪の告知」がなければ脅迫罪は成立しません。
害悪の告知があったかどうかは相手との関係性や年齢差、体格差、脅迫行為があった場所、時間帯などさまざまな状況をふまえ、客観的に判断されます。たとえば、同じ文言であっても「仲のよい友人とふざけあっている最中に出た言葉」であるのか「トラブルを抱えている相手に対して、厳しい口調で言った言葉」であるのかによって、害悪の告知と見なされるかどうかが変わる場合があります。また、「実際に被害者が恐怖を感じたかどうか」は、脅迫罪の成否に影響しません。

(3)本人または親族を対象としていること

脅迫罪の対象となるのは、脅迫する相手本人、またはその親族です。相手の友人や恋人、生徒などに対する害悪の告知をしても脅迫罪は成立しません。
なお、法律上、ペット動物は「モノ」扱いであるため、本人の飼っているペットの身体や生命に対する害悪の告知は、「本人の財産に対する害悪の告知」となりますので、脅迫罪が成立します。また、自然人ではない法人は対象外ですが、法人に属する個人やその親族に向けられた害悪の告知であれば脅迫罪が成立する場合があります。


名誉毀損罪

刑法に定める名誉毀損罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する」犯罪です。(刑法230条)

名誉毀損罪が成立する要件
・公然性:不特定または多数の人へ
・事実適示性:嘘か真実かを問わない具体的事実を伝え
・名誉の毀損:外部的名誉(社会的評価)を毀損する

名誉毀損罪の要件1|公然性

「公然」とは、次のいずれかの人に、情報が伝達され得る状態のことをいいます。

・不特定の人:相手方が限定されていない状態
・多数の人:発信の範囲が限定されてはいても、ある程度多くの人数がいる状態

インターネットの誰でも見れる掲示板への投稿などは、「不特定の人への伝達」に当たります。一方、少人数しかみられないとしても、グループ内の誰かが他の人に伝えたり広く公表したりすることが予想される中での投稿などは、「多数の人への伝達」に当たり、公然性が認められることもあります。「鍵付きのアカウントだから大丈夫だろう」といった考えは通用しませんので、注意しましょう。

名誉毀損罪の要件2|事実適示性

「事実」とは、人の社会的評価を低下させるだけの具体的な事実をいいます。この事実は、真実であるか虚偽であるかを問いません。そのため、嘘であっても、人の社会的評価を低下させていれば、名誉毀損となります。ただし、死者に対する名誉毀損については、摘示した事実が嘘の場合にのみ処罰されます。(刑法230条2項)
なお、以下のように事実を示すのではなく、主観的な「評価」だけを示す場合には、「事実」の摘示とは言えず、名誉毀損罪にはなりません。侮辱罪には該当し得ますので、注意しましょう。

・会社で「バカ」「役立たず」と陰口を言う
・インターネット上に、「アイドルの○○はブス」などと書き込む
・口コミに「この店の料理はまずい」などと書き込む

名誉毀損罪の要件3|名誉の毀損

「名誉」とは、世間の評価や名声などの外部的名誉(社会的評価)をいいます。


信用毀損罪

信用毀損罪(しんようきそんざい)とは、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損した場合に成立する犯罪です。

(信用毀損及び業務妨害)第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

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構成要件
(1)虚偽の風説を流布した、または偽計を用いたこと

・信用毀損罪の処罰対象となる行為の一つ目は、虚偽の風説を流布したことです。「虚偽の風説」とは、事実とは異なる内容の事柄、すなわち噂のことです。風説は出所、根拠が明らかかどうか、行為者自身がねつ造したものであるかどうかを問いません。
「流布」とは、事実とは異なる内容の事柄を不特定または多数人に伝えることです。必ずしも行為者自身が直接、不特定または多数人に伝える必要はなく、他人を介して順次不特定または多数人に伝わることを認識しながら、特定の少数の者に伝えた場合も流布にあたります。流布の方法には制限はなく、口頭によるほか、SNSに投稿内容をアップする行為も流布にあたる可能性があります。

・信用毀損罪の処罰対象となる行為の二つ目は、偽計を用いたことです。
「偽計を用いる」とは、人を騙したり、誘惑したり、あるいは人の勘違いや無知を利用する違法な行為一般をいいます。

(2)人の信用
信用毀損罪で守られるのは「人の信用」です。「信用」には、人の経済的側面における価値、すなわち支払の意思・能力に対する社会的信頼のほか、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含まれると解されています(最高裁判所平成15年3月11日)。信用毀損罪における「人」とは行為者以外の者をいい、自然人である個人のほか、法人、法人格を有しない団体も含まれます。

(3)毀損した
最後に、人の信用を「毀損した」ことが必要です。「毀損した」とは、人の信用を低下するおそれのある状態をつくることをいい、現実に人の信用を低下させたことまでは必要ではないと解されています(大審院大正2年1月27日)。たとえば、ネットの掲示板やSNS、ブログなどに以下にあげるような投稿をすると、信用毀損罪にあたりうる行為となります。

「○○店でバイトしていたことがあるけど、客の食べ残しをそのまま使っている」

「○○店で売られている○○は日本産ではなくすべて外国産だ」

「○○店の店員はろくに手も洗わず、マスクもせずに商品を扱っている」

「○○社は倒産寸前なので、取引先として選ばない方がいい」

異物を混入した商品の写真画像をアップする

「粗悪品」と書いた写真画像をアップする


侮辱罪

侮辱罪とは「公然と,事実の摘示をせずに,人の社会的評価を下げる行為をしたとき」に成立する犯罪です。(刑法231条)

侮辱罪が成立するための「構成要件」は以下のとおりとなります。

(1)公然と
公然と、とは不特定多数の人へ広がる可能性があることです。たとえばネット上で情報を投稿すると転載や拡散によって広がる可能性があるので「公然と」の要件を満たします。

(2)人の社会的評価を下げる行為をする
人の社会的評価を下げる行為をしたときに侮辱罪が成立します。
対象となる人には個人だけではなく法人も含まれます。また行為をしたときに犯罪が成立するので、実際に社会的評価が下がったことまでは要件となりません。

(3)事実の摘示をせずに
侮辱罪が成立するのは「事実の摘示」をしないケースです。事実の摘示とは、何らかの事柄を示すことを意味します。たとえば「あいつは不倫している」などであれば事実の摘示になるので侮辱罪は成立しません。
「馬鹿野郎」「ゲス野郎」などの「事実の摘示以外の罵倒」などの言動があると侮辱罪が成立する可能性があります。


肖像権侵害

肖像権侵害となる行為
肖像権は自分の顔や姿態をみだりに「撮影」や「公表」などされない権利です。そのため、無断で顔写真を撮影する行為や、撮影したものをネット上で公開する行為は肖像権の侵害行為になり得ます。また、自分で撮影したものではない写真であっても、その写真を無断で公開する行為は肖像権侵害のおそれがあります。実際、ネット上ですでに公開されている写真について、被撮影者の承諾なしにその写真を他のサイトに無断で転載する行為は肖像権を侵害すると判断された事例があります。

肖像権侵害の基準
肖像権に関しては法律で明文化されておらず、肖像権侵害に該当する基準は明確には定められていません。しかし、被撮影者の受忍限度内かという観点が考慮される基準といえるでしょう。

・個人(被写体)が特定可能か
・拡散性が高いか
・撮影場所がどこか
・撮影、公開許可の有無

肖像権の侵害になるケース

・顔がはっきり映っている写真である(モザイクなどの加工なし)
・SNSなど、誰もが見れる場所で公開された
・自宅内や病院など、私的な空間にいる様子を撮影、公開された
・撮影、公開の許可を出していない

肖像権の侵害にならないケース

・人物の特定が困難である
・DMでのやり取り(非公開の場)
・公道や駅、イベント会場など、多くの人が出入りする場所での撮影
撮影、公開の許可を出した


プライバシー権侵害

プライバシー侵害は、以下の3つの要件を満たす情報が公開された場合に、成立すると判断される可能性があります。

私生活上の事実または事実と受け取られる可能性がある
①の事実が公開されていないものである
①の事実が通常は公開を欲しないものである

例えば、「あいつは親戚から多額の借金をしている」という事実はプライバシー情報を構成する可能性が高いと思われます。対して、「あいつは朝食にパンを食べたことがある」という事実は、公開されようがされまいがどうでもいい情報ですので、プライバシー情報ではないと評価される可能性があります。

該当情報例
これらは例示列挙であり、上記の3つの成立要件を満たしていれば、これ以外の情報もプライバシー情報となり得ます。

前科,過去の犯罪行為
疾病(持病・病歴)
身体的特徴
指紋
日常生活・行動・住所
身分行為(結婚・離婚)
犯罪捜査としての情報(の取得)

プライバシー権は憲法上保障された基本的人権
プライバシー権は、日本国憲法十三条の解釈により、保障される基本的人権であると考えられています。

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

引用元:日本国憲法第十三条

もっとも、上記のように、プライバシー権は憲法の規定によって明確な定義が定められているものではないため、時代の変化にしたがって解釈が変わる余地はあります。


詐欺罪

詐欺罪は刑法第246条に規定されている犯罪で「人を欺いて財物を交付させた」場合に成立します。わかりやすい言葉を使えば、他人から金品などをだまし取った場合に詐欺罪として問われると考えれば良いでしょう。

また、刑法第246条2項によれば「(人を欺くという方法によって)財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた者」も詐欺罪で処罰されます。
これも平易な表現では「代金支払いを免れる」と言い換えられるでしょう。

さらに、刑法第246条の2では「人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報もしくは不正な指令を与えて財産権の得喪もしくは変更に係る不実の電磁記録を作り、または財産権の得喪もしくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた者」についても、電子計算機使用詐欺罪として詐欺罪と同様に処罰されます。これは、たとえば銀行システムなどに偽の電磁記録を作ったり、悪用したりして銀行から他人の財産を盗む行為にあたります。

構成要件
(1)欺罔(ぎもう)行為|錯誤を引き起こさせる行為

詐欺罪の成立を非常に難しくさせる特徴的な要件が「欺罔(ぎもう)」です。欺罔とは、人を欺(あざむ)いてだます行為を指します。簡単にいえば「うそをいう」ことが欺罔行為にあたりますが、欺罔行為とみなされるのは故意に虚偽の事実を伝えた場合です。たとえば「来月の給料で返済する」と伝えて借金をしたところ、給料の未払いによって返済ができなかった場合は、不測の事態によって見込みと違った結果が起きただけでうそをついたわけではないので、欺罔行為にはなりません。

(2)相手方の錯誤|錯誤に陥る行為
欺罔を受けた被害者が「錯誤」に陥っていることが詐欺の要件として必須です。錯誤とは、「うそにだまされて信じ込んだ状態」を指すと考えれば良いでしょう。錯誤によらない財産移転は窃盗罪として扱うのが一般的です。ただし「どうせうそだろうと思うが、返済してくれなければ裁判所に訴えればいい」とお金を渡したなどのケースでは、錯誤に陥っておらず、窃盗でもないので、犯罪は成立しないでしょう。

(3)財物の処分行為
詐欺罪における「処分行為」とは、つまり「金品を渡す」ことを指します。
被害者自らが財物や財産上の利益を交付することによって処分行為が完成するため、たとえば被害者が目をそらしているすきに、物品を持ち去る行為は詐欺罪ではなく窃盗罪で論じることになります。

(4)財物・利益の移転
欺罔・錯誤・処分行為(交付)による一連の流れから財物・財産上の利益が移転した時点で詐欺罪が成立します。ここまでの要件を満たしていても、最終的に財物・財産上の利益の移転がなければ詐欺未遂です。

(5)財産的損害
厳密には詐欺罪の構成要件ではありませんが、詐欺罪は財産を対象とした犯罪であるため「財産的損害」の発生も求められます。たとえば、取引先にうそをついて錯誤に陥らせて、本来の支払日よりも早く代金を支払わせたケースでは、本来的に代金支払いを受ける権利を有していたため取引先にとっては損害が発生していないことになり、詐欺罪は成立しないと考えるのが妥当です。

代表的事例

架空請求詐欺
令和2年1月、タイ国内を拠点とした特殊詐欺事件で主犯格の男性2名が逮捕されました。この事件では、主犯格を含めて28人が逮捕されています。

結婚詐欺
令和2年1月、50歳代の男性に結婚話をほのめかしつつ「以前の交際相手に借金を返さなければならない」と相談して、現金をだまし取った女性が逮捕されました。男性が現金を渡したあとで連絡が取れなくなり、被害が発覚したとのことです。

キセル乗車
平成29年10月、団体職員の男性が低額の鉄道切符を購入して電車に乗り、もっていた定期券を使って目的地で下車する行為を繰り返して正規の運賃支払いを免れたとして、電子計算機使用詐欺罪で逮捕されました。


強盗罪

強盗罪は、暴行または脅迫を用いて他人の財物を強取したり、財産上不法の利益を得る、または、他人に得させることで成立する犯罪です。刑法236条に規定されています。

強盗罪の構成要件

①暴行又は脅迫
強盗罪の暴行・脅迫の程度は、相手の反抗を抑圧する程度に強いものでなければなりません。暴行とは殴る,蹴る,叩く,押し倒す,羽交い絞めにする,武器で殴打する,被害者の腕・身体を縛る,口をふさぐなど、人の身体に対する不法な有形力の行使をいいます。脅迫とは、殺すぞ命はないぞぼこぼこにされたいのかなどです。相手にナイフを突きつける行為がまさにその典型です。相手の反抗を抑圧する程度に至らない暴行・脅迫は恐喝罪(刑法249条)の暴行・脅迫であって、恐喝罪が成立するにとどまります。

②強取
強取とは、暴行又は脅迫によって相手の反抗を抑圧し、財物(お金など)を自己あるいは第三者の支配下におくことをいいます。コンビニ強盗の例でいうと、犯人がレジの店員に対してナイフを突きつけて「レジの中にある金を全部よこせ。」と言い、レジの店員から現金を受け取る行為が強取です。客観的にみて相手の反抗を抑圧する程度の暴行又は脅迫が行われれば足り、暴行又は脅迫によって現実に相手の反抗が抑圧されたことまでは必要ありません。もっとも、強取といえるためには、一般に、暴行又は脅迫がなされたからこそ財物を奪取できたという、暴行又は脅迫と財物奪取との間に因果関係が認められることが必要です。


不同意性交等罪

被害者が、性交等について「同意しない意思を形成、表明、全う」することが難しい状態で性交等を行う罪が、不同意性交等罪です(刑法177条)。被害者が性交等について相手に嫌だと言えない状態や、被害者が抵抗できない状態などに乗じて性交等を行うと、不同意性交等罪に問われる可能性が高くなるでしょう。

性交等とは
・膣への陰茎の挿入
・肛門への陰茎の挿入
・口腔への陰茎の挿入
・膣や肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為であって猥褻なもの

不同意性交等罪の構成要件
①「同意しない意思を形成し、表明し、若しくは全うすることが困難な状態」のもとで、性交等を行う(刑法177条1項)

②「わいせつな行為ではないと誤信させたり、人違いをさせること又は相手方がそのような誤信をしていること」に乗じて性交等を行う(刑法177条2項)

③「相手が16歳未満」もしくは「相手が13歳以上16歳未満で、行為者が5歳以上年長である」場合に性交等を行う(刑法177条3項)
※16歳未満の相手との性交等は、たとえ同意があっても、不同意性交等罪が成立します。

同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態(刑法176条)。
・暴行・脅迫
・心身の障害
・アルコール・薬物の摂取
・睡眠・意識不明瞭
・拒絶するいとまを与えない
・恐怖・驚愕させる
・虐待
・立場による影響力


強盗関連罪

以下では、強盗罪に関連する罪についてご紹介します。

強盗予備罪
強盗罪は重たい罪であることから、未遂のみならず、未遂の前段階である予備も処罰することとしています。強盗する目的でナイフなどの凶器を買うなどの行為が処罰対象です。なお、強盗罪のほか放火罪(刑法108条、109条1項)や殺人罪(刑法199条)についても予備罪が規定されています。

事後強盗罪
事後強盗罪は、窃盗犯人(窃盗既遂、未遂も含む)が、財物を取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は証拠を隠滅するために暴行又は脅迫した際に問われる罪です。強盗罪は基本的に「暴行又は脅迫→財物奪取」の流れとなる罪ですが、事後強盗罪は「財物奪取→暴行又は脅迫」と強盗罪とは流れが反対になる罪です

強盗致死傷罪
強盗(既遂、未遂を含む)の機会に人を負傷させた場合は強盗致傷罪、人を死亡させた場合は強盗致死罪に問われます。ここでいう強盗とは強盗罪の強盗犯人のほか事後強盗罪の強盗犯人も含まれます。
したがって、たとえば、万引きの窃盗犯人が犯人を捕まえようとした店員に対して暴行を加え、それによって店員を怪我させた場合は強盗致傷罪、死亡させた場合は強盗致死罪にまで発展することもあり得ます。強盗致傷罪、強盗致死罪は結果(怪我、死亡)を発生させる意図がなくても罪に問われます。一方、強盗するにあたって怪我させる意図、死亡させる意図があった場合は強盗傷人罪、強盗殺人罪に問われます。

強盗・強制性交等及び同致死(殺人)罪
強盗・強制性交等及び同致死(殺人)罪は、刑法改正前の強盗強姦罪、強盗強姦致死罪に相当する罪です。すなわち、強盗(既遂・未遂を含む)の機会に強制性交等の罪の既遂・未遂、あるいは、強制性交等の罪の既遂・未遂の機会に強盗の既遂・未遂を犯した場合は強盗・強制性交等罪に問われます。


少年犯罪

少年法は、少年が起こした刑事事件(少年事件)についての処理方法を定めた法律です。通常の犯罪は刑事訴訟法という法律に従って処理されますが、少年事件については、犯人が少年であるという特徴があります。少年は成人と異なる性質があるため、成人とまったく同じように扱うのは適切とはいえません。そこで少年事件については、刑事訴訟法の適用を制限し、少年の特性を考慮した少年法に従って処理するものとされているのです。

少年法における「少年」とは、20歳未満の者をいいます(少年法2条1項)。従来は、少年と未成年はイコールでしたが、成人年齢が18歳に引き下げられたことから、18歳と19歳については、「成人ではあるが、少年法上では少年に当たる」という状態となっています。18歳と19歳は、少年法上では「特定少年」という言い方をします。

14歳以上の未成年なら刑罰を受ける可能性あり
14歳以上の未成年者が、犯罪を犯した場合「犯罪少年」と呼ばれ、逮捕される可能性があります。逮捕後は、成人の事件とおおむね同じ手続きを経て、家庭裁判所に送致されたあと、適切な処分が決定されます。

14歳未満の未成年は刑罰を受けない
14歳未満、すなわち13歳以下の者は罪を犯したとしても刑事罰は受けず、その代わりに、刑罰法令に触れる行為をした「触法少年」として、児童相談所へ送致されたり、家庭裁判所へ送致されて保護処分を受けたりします。

少年への損害賠償請求
少年犯罪の損害賠償について過去のケースを見ると、損害賠償請求することは可能とのことです。しかし、責任能力を持たない未成年が第三者に対して損害を与えたときには、本人に損害賠償責任はないとのことです(民法712条) 。しかし、親権者には監督責任があるので、責任能力のない未成年が犯罪を犯したときには、親が損害賠償責任を負わなくてはならないようです(民法714条1項) 。責任能力がない年齢というのは、大体12歳くらいまでとのことで、13歳の子供の犯罪の場合は原則本人に賠償責任が発生するとのことです。しかし、これもケースバイケースらしく、13歳以上の子供の犯罪でも親が監督責任を果たすべきときに怠っていれば、親子共々損害賠償責任が発生するようです。ただ、13歳以上は本人に賠償責任があると言っても、中学生や高校生では収入がないので、親が子供に代わって賠償金を支払っているケースが殆どとのことです。


精神障害者の犯罪

放火や殺人事件などで、被疑者・被告人が精神障害者等である場合、責任能力が問われます。責任能力とは、「行為の善悪を判断する能力(弁識能力)」と「悪いと分かった行為を止める能力(行動制御能力)」を指します。これらの能力が欠けている場合、刑事責任を問われず無罪になります。

責任能力の分類
・完全責任能力:弁識能力・行動制御能力がある
・限定責任能力(心神耗弱):能力が著しく低下
・責任無能力(心神喪失):能力が欠如

責任能力がない場合の対応
・心神喪失:不起訴または無罪。
・心神耗弱:軽減された刑罰。
・医療観察制度:心神喪失や心神耗弱が原因で重大な他害行為を行った場合、検察官が医療観察を申し立て。指定医療機関での治療や退院後の生活調整を実施。


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