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信州・甲斐を列車で行く(車いす、旅に出る 前編)
北陸新幹線で信州へ
8月後半の金曜日。今朝は4時半に目覚ましをかけたが、3時に起きた。ずいぶん早いとは思ったが、昨晩早めに寝たので寝不足ではない。朝のルーティンは省くつもりだったが、せっかくだから行うことにした。それでも計画より余裕がある。順調なスタートだ。
6時過ぎ。障害を得てからこれほど早い時間に出かけることがほとんどないので、久しぶりに晴れた朝の空気を感じながら気持ち良く電動車いす・WHILLを走らせる。これからぐんぐんと気温が上がることを考えると、今回の逃避行は計画勝ちだなと、ニヤリと笑った。
今回は長野から山梨にかけて標高の高い観光列車に乗る計画だ。去年の夏は北に逃げようと北海道に行ったが、蒸し暑くて話にならなかった。北がダメなら上に行こう、と考えを変えて旅行先を決めた。
私が片麻痺になる前はロードバイクで出かけるのが趣味だったが、「移動も楽しむ」というのは観光列車も同じなので、以前からやってみたいと思っていたのだ。
8時過ぎ。新幹線に乗るために東京駅に着く。
障害を得るまでは気にしてなかったのだが、新幹線の東京駅の導線は、障害者のことを考えているらしい。改札、待合室、エレベーターまでが並んでおり、エレベーターを昇った先に車いすスペースがある7号車が到着する。最短ルートで便利だ。先導の警備員に促されてホームに出ると、あっけなく着いた。
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スロープをかけてもらって「はくたか555号」に乗り込んで右側に進み、突き当りの扉が開くとそこに車いすスペースがある。切符を見るとB席だが、車いすスペースの位置はC席にあたる場所だ。指定席は障害を得てから始めて購入したが、JRの車いす対応スペースは、その横の座席とセットになっていて2席分使えるらしい。ありがたく椅子に移動し、深くもたれて景色を楽しんだ。
高崎を過ぎるとやがて車窓は徐々に山が迫ってくる。トンネルに入るといよいよ軽井沢だ。
ここで乗り換えるのは観光列車の「ろくもん」で、軽井沢を出て長野まで下りる。実はこの列車を知って観光列車に興味を持ったので、機会があれば是非にと思っていた。気持ちが高まる。新幹線はホームに滑り込む。
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10時前の軽井沢はやはり涼しい。一旦JRの改札を出てから「しなの鉄道線」の改札へ。
エレベーターを降りると左側にホームが見えてきた。ところが目の前に飛び込んできたのは「峠のシェルパ」ことES63形電気機関車。引退してここに保存されているのだ。軽井沢駅で見られるとは聞いていたが、いきなり目の前にあるとは。子供の頃これが格好良くて鉄道模型をまじまじと見ていたが、本物をこんなに近くで見られる日が来るとは感動だ。
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満足して振り返ると、駅舎とは別棟の建物がある。ここがろくもんの受付だ。男性の駅員が制服を着てニコニコとこちらに手招きをしている。名前を告げると、「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ。受付をします」と言ってくれた。受付の女性は制服ではないが、にこやかなのは同じだ。きっといい旅になりそうだと、嬉しく思った。
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まだ時間があるので、散歩をしようと受付の建物を出る。ここは以前、軽井沢の駅舎だったらしい。古いものを移築して残してあるのだそうだ。いまだに地元から愛される駅舎を見上げると、夏の青い空と白い雲がまぶしい。
ろくもんの旅
そろそろ「ろくもん」が入線するとの案内があった。私もホームへ行って写真を撮ることにした。ゆっくりと入線するろくもん。待っていた乗客は、一斉にシャッターを切った。私も遅れまじとiPhoneで写真を撮った。
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駅員さんが「一緒に撮りましょうか」と声をかけてくれた。お言葉に甘えて先頭車両と一緒に写った。その後、その駅員さんと少し話をした。「晴れて良かったですね。さっきまで雨が降っていたのでどうなるかと思っていたのですが。今年は天気が目まぐるしく変わります」
雨が降って一緒に湿気を落としてくれたのだろう。もう一度空を見上げると、心の中で軽井沢の空にお礼をいった。
出発の時間が来たので、スロープを掛けてくれた入口からろくもんに乗り込む。内部の装飾は雑誌などで知っていたが、自分で見ると美しさが違う。通路は車いすが通れる幅で心配なかった。そして空いているスペースに許可を受けてWHILLを止め、テーブルに着いた。長野行きは洋食コースが味わえるのだが、すでにオードブルがテーブルの上に置いてあった。さあ、さっそく食事を楽しもう。
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「軽井沢イタリアン」という事だが、味が複雑だ。塩味と甘さと苦さが目まぐるしく入れ替わるようで、とても美味しかった。冷製スープを経て、いよいよメインの牛ステーキだ。柔らかくてこれも最高においしかった。だが、片手ではフォークとナイフは扱えないので、運んできた女性スタッフに頼んで小さく切ってもらった。
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その方や他の男性スタッフともいろいろな話を聞かせてもらって、興味深くも楽しかった。特に列車デザインの話は秀逸だった。デザインは水戸岡鋭治さんが手がけたのだが、素材にまで気を配っていて、信州産を前面に出すことで観光を盛り上げようという意図が伝わってきた。
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やがて浅間山のビューポイントに差し掛かったが、山頂が雲に隠れてしまって全体は見られなかった。残念がって乗客が窓から目を離すと、男性スタッフが晴れた浅間山の写真を持っている。「本当だったらこのような山容が見えるのですが。またチャレンジしてくださいね」と言ってみんなに見せて回っていた。売っているわけではないのだ。微笑ましい。
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更に下ってゆくと上田駅に着いた。ここから見えるのは上田城だ。天守閣もあるが思ったよりも小さく、あの徳川軍を破ったという堅牢さは感じられなかった。ここで女性スタッフが聞かせてくれた、真田家の地形を生かした巧みな戦略の話は実に面白かった。やはり史跡を見ただけでは本当の凄さは分からないのだな。
食後のデザートを楽しんでいると、女性スタッフが八幡屋礒五郎という地元老舗メーカーの七味唐辛子をお土産に渡してくれた。パッケージに「ろくもん」の車両と軽井沢の旧駅舎が書かれている、コラボ商品だ。珍しいので嬉しいが、辛いものは苦手な方なので飾るだけかな、と思っていた。ところが、「山椒が入った七味です。もし余ってしまったら、ポテトチップスに掛けても美味しいですよ」と言われた。せっかくなので試してみるか。
後日、ポテトチップスを買ってきた。少しだけ七味を振って食べてみると、辛みと香りがツンとしてなかなか良い。お上品なカラムーチョみたいだ。他にもかけてみよう。
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途中、停車時間が長く設定されている2つの駅でホームから降りて、地域の物産や写真撮影を楽しんだ。2つ目の屋代駅を出ると周囲が開けてきて、やがて千曲川が見えてくる。ここまで下ると信州の田園地帯だ。
新幹線の高架が左から近づいてきて、線路の本数が増えてきたなと思っているうちに、列車は長野に着いた。座席からWHILLに乗り移る。
他の乗客が降りてからスロープを掛けてもらい、私もさっと降りた。すると後ろから「ありがとうございました、道中お気をつけて」という声がして、振り返ると駅員とろくもんのスタッフがにこやかに手を振ってくれた。心が温まる気がした。
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見どころが多かった善光寺
気分が温まるのはいいが、長野の暑さはどうしたものか。先ほどの軽井沢とは真逆だ。暑い。皮膚がジリジリと焦げそうだ。あとで知ったのだが、この日は36.6℃で長野市の今夏の最高気温を更新したとの事だ。なんという計画倒れか。
長野に来るので、せっかくだから善光寺に行く計画を立てていた。長野駅から善光寺まではバスを使うことにしている。バス会社のホームページには、「あらかじめ使用するバスや時間を連絡してください。ご乗車できない場合があります」などと書かれていたので、私は13時20分のバスを使うと伝えていた。しかし、行程には余裕を持っていたため、13時にはバス停に到着した。
バスはひっきりなしにやってくるので、どれが対象なのかはっきりしなかった。そこで到着したバスの運転手さんに、「これは13時20分のバスですか?」と尋ねてみた。そうしたら、「もうちょっと後だよ。でも乗るかい?」と聞いてきたので、あわてて私は事情を説明した。運転手さんは「ああ、いいよ別に。乗っちゃって乗っちゃって」と軽く言ってくれて、拍子抜けした。と同時に安心もした。炎天下で、何分も待たなくて良くなった。
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今回は列車に乗るのが目的なので、失礼ながらついで気分で来たのだが、善光寺は思いのほか面白かった。
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このお寺は創建以来約千四百年の歴史があるのだとか。しかも地域に根ざしている。観光地化もされていて、洗練されたお店も多くあった。その先には昔から残るお店もあって、新しいものと古いもののコントラストが楽しい。
極めつけは、新しくなったお寺の売店だ。ビームスとコラボして店作りをしている。長野や善光寺を象徴する色や文字を使ったお土産品などを売るのがビームス、その隣で御朱印帳や御守りを売るのがお寺。非常にスマートで驚いた。
私も感化されて御朱印帳を購入し、向かいの寺務所で御朱印を頂く列に並んだ。頂くのは今回が始めてで、鮮やかな達筆で書かれる御朱印を興味深く見た。
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山門は拝観ルートがあるが、車いすは行けない。2階からの景色を見てみたいと思ったが断念。車いすルートを回って先へ進む。
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すると遠くに本堂が聳え立っている。どんどん近づいていくと圧倒される大きさだ。徒歩なら階段で上がるが、車いすの入り口はどこだ。探すと本堂の右側に木製のスロープがあった。まるで昔からそこにあるように設けられていて、色もデザインも全く目立たない。非常に素晴らしいと思った。
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帰るときに気づいたのだが、このスロープは明後日から建て替えのため使えなくなるという看板が出ていた。この日に当たったら、やむなく引き返すだけなので危なかった。より便利に使いやすくなるのだろう。しかし建物と風景に溶け込むデザインは残してくれると良いのだが。
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本堂に入ると木像があって、そこに人だかりができている。座禅を組んでいる仏様のようだ。良く見てみると、参拝者が仏様をなでてその後自分の同じところを触っている。どうやら撫で仏のようだ。後日調べてみると、「びんずるさま」というらしい。安置以来300年以上たっているのでお顔などは完全にすり減ってしまい、信州の人の信心深さがわかる気がする。
それなら私もと、お賽銭とお参りをしてから、びんずるさまの右手と右足をさすった。お顔も撫でたかったが手が届かない。触ったつもりになってお願いした。自分の足で痛みもなく歩けますように。自分の想う通りにしゃべれますように。
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最後に御本尊に向けてお参りをし、スロープを降りた。一般の参拝者は階段を降りてそのまま帰るケースがほとんどだろうが、スロープは本堂の脇に出るので、ここまでくると裏側に何があるのか興味が出てくる。
こんな時WHILLは強い。歩かずにスティック1本動かせばスイスイ進めるのだ。とは言え砂利にタイヤを取られないように慎重に石畳を進んでいった。
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いろいろな所を見て回ったが、その中で人だかりを見かけた。手元のガイドを読むと「仏足跡」というらしい。見ると、お釈迦様の足型を模して造られた石があって、皆がそれを撫でていく。昔は偶像崇拝がなかったので、仏足跡がその代わりに有難がられていたという。本来の意図と少し違うだろうが、これにもすがろうと思って、よくよくお願いしておいた。
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お参りを終え、帰り道の坂を下って行った。暑くて、喉も渇いたので、どこかに逃げる所はないかとうろうろ探していると、スタバがあった。ここで一服しよう。
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この手のお店は狭くて入り辛いイメージがあるが、ここは作りがゆったりとしていて、車いすでも問題なく入れた。カウンターの前で注文したが、「お席に持っていきますね」という事なので甘えることにした。
席に移って、長野についてからここまでWHILLに乗ってばかりいることに気づいた。WHILLも乗り心地はいいのだが、背もたれの高い座席はやはり心地いい。ちょっと伸びをした。冷房が気持ちよかった。
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思い付きはよろしくない
さて、ここからどうやって長野駅近くのホテルまで行こうか。もともとの計画は、どんなに暑くても3時を過ぎれば涼しくなって長野駅まで歩いていけるはず、と踏んでいたのだが、今日はまだまだうだるようだ。歩きたくない。でも同じバスにまた乗っても、同じ街並みを見るだけだからな。面白みに欠ける。
それならば、少し距離はあるが長野電鉄の駅まで歩いて行って、そこから長野へ戻ったらいいのではないかと考えた。
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スマホで調べたが、最寄りの善光寺下は地下駅で、地上部からエレベーター等はないらしい。仕方ないので一つ先の本郷駅まで行って、そこから乗ることにした。観光化されてない街を通っていくのも興味深い。
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駅に着いた。ホームページのバリアフリー対応表には、本郷駅の「車いす」の欄に「〇」がついていたので、何も考えていなかった。ところが駅に入るとそこは無人駅。しかし車いすOKとの記載なので、車両との段差もないのだろうと気にしなかった。
ところがやって来た電車を見て愕然とした。車両のドアが、ホームから階段を一段上るほどの高さにあったのだ。〇印は、ホームまではOKですがそこから先は場合によります、という意味か。これはダメだ。観念しよう。
先頭車両付近にいたので運転席から私が見えたのか、慌てた様子で電車から降りてきた。私が「さすがに無理ですよね。スロープないでしょう?」と言ったら、「僕が抱えますから乗りませんか?乗りますよね?」と。いや、無理でしょう。私を含めたら100キロ以上あるんですよ。
すると近くにいた若い女性が寄ってきて、2人がかりで私を乗せたまま「よいしょ、よいしょ」と持ち上げようとしている。慌てて口が回らなくなり遠慮することも出来ず、あれよという間に乗せてくれた。ホッとしたし、ありがたいことだ。
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長野駅に着いたら、既に駅員さんがスロープを持って待っていた。運転中に連絡を入れたのだろう。運転席から降りてきた運転手さんに、改めてお礼を言った。朗らかで体格のいい運転手だった。
地上に出ると雷が鳴りだした。空を見ると、先ほどまで日差しが照り付けていたのに、いつの間にか雲が出て暗くなってきた。これは夕立が近いな。大急ぎで予約した駅前のホテルに入った。その直後に降ってきた。危うくセーフだ。間に合った。
翻訳アプリと失語症者の対決
食事は外で取るつもりだったので、雨が上がるまではホテルの部屋をチェックして待つことにした。バリアフリーなのだが、念のため車いすの導線や水回りの安全対策など一通り見た。気が付くとすっかり上がっていた。
お昼はコースをお腹いっぱい食べたので、夜はラーメンで済ませることにした。お店の入り口で食券を買って店内を見わたすと、満席のようだ。店員が何か言っていたが聞こえなかった。身振りでは「外に出て待つように」だと思ったので、そうすることにした。
すると欧州からの観光客と思われる若い男性が、私のことをじっと見ていた。私が気付くと、スマートフォンの翻訳アプリを使って私に話しかけてくる。また外国からの観光客か。車いすは声を掛けやすいのかな。よし、失語症でも翻訳アプリが使えるか試してやろう。
「アナタモ順番ヲ待ッテイルノデスカ?ドウヤッテ待ツノデスカ?」
「その機械でチケットを購入して、ここで待っています」
「アナタハ、チケットヲ買ッタノデスカ?」
「そうです」と答えて食券をみせた。彼は納得したように笑顔を見せてお店に入り、食券を買った。簡単な会話だが見事に通じた。私のような失語症でも、ゆっくり話せばできるのだ。
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海外旅行などはまだまだ先の話と考えていたのだが、思いがけずに現実的になってきた。ホテルに帰ってきて、(海外かぁ。どこへ行こうかなぁ)と考えながら眠りについた。
(続く)