Kodai Kusano

NYUアブダビ校で社会心理学の研究をしてます。

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地球が小さく感じた

UAEに引っ越した2023年の8月に、アラブ首長国連邦に引っ越した。アメリカでの長い博士課程を終えたあと、学者一発目の職場が、中東の地、UAE。ここに至った経緯と、今の所感じたことを書いてみる。 経緯 面接で意気投合し、この場所なら良い研究ができるだろうなと感じた。ボスのプロジェクトベースのポジションではなく、かなり自由にやらせてもらえる感じだったし、世界中から集まる研究者と交流がしたかったので、大学の環境に対しては良い期待しかなかった。社会心理学の分野は比較的小さかった

    • 差別に対する自分の考え

      最近ハリウッドで話題になっているアジア人への差別について、自分の思うことを書こうと思う。アメリカで日本人として10年以上住んだ経験のある、社会心理学者としての意見。 人の振り見て我が振り直せ 差別を観察して自分が嫌悪感を感じるのであれば、自分が同じことをしないように心がけるのが、基本的に自分が唯一できる抵抗ではないかと思う。差別はしている側は意図してしているわけではない。じゃあ自分も意図しないでしてしまっているのではないか、と疑ってみることが大事だと思う。ただ、これを実践

      • 総合型(AO)入試と筆記試験、どっちがいいの?その前に妥当性の話をしよう

        総合型選抜(AO)入試が増えている日本の大学入試では、従来の筆記試験に代わって総合的に人間の能力を決める「総合型選抜」が増えているみたいですね。これは一昔前に、AO入試と呼ばれていたものみたいです。 この話題は議論に絶えず、たびたび自分のTLでも蒸し返します。 大体の場合この議論は、「結局、どちらの方法が良いのか?」という点に集中します。しかしこういう議論を見かけては、研究者(心理学者)として、とても腑に落ちないことが一つあるのです。 決定的に欠けている、本来、一番最初に

        • 嫌われない勇気

          嫌われる勇気一時期日本で流行りましたよね。ちょうど、最近発表された論文が、当時なぜか日本で流行っていたアドラー心理学という熱気を思い出させてくれたので、そのまま紹介しようと思いました。 前提:アドラー心理学と現代心理学は全く違う この本は、アドラー心理学に基づいており、過去のトラウマよりも私たちの行動が目的指向であると主張しています。また、承認欲求を否定したり、劣等感を成長の源と見るなど、興味深い励ましの言葉を提供しています。 しかし、僕が現役の心理学者として感じるのは

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          心理学における理論危機

          先日、心理学の若手研究者を中心としたパプリックトークがあり、そこで発表したスライドを共有します。 感想発表後の議論の中でご指摘にあったのが、「理論」と「法則」は違う、ということでした。スライドでも紹介した Eronen & Bringmann (2021)も指摘している通り、まずロバストな現象がちゃんと観察されてから、理論というものは作ることができます。なので、(社会)心理学はまだ理論構築をできる段階にすらないかもしれません。 また、これらの議論と自分のレビューを通して感

          心理学における理論危機

          心理学の再現性危機、そんなに不安になる事ないです〜頑丈な家を見つけよう

          科学の再現性危機科学的な根拠を主張するための一つの条件に、再現性があります。再現性とは、ある一つの研究で報告された内容を、もう一回同じ手順で繰り返したときに、同じ結果が得られる状態を言います。 近年になって心理学を中心に、この再現性の低さが科学界全体で議論されてきました。コトの発端は、2015年にサイエンス誌で発表された論文です。この論文を簡単に要約すると、以下のようになります: このプロジェクトでは、三つの代表的な心理学ジャーナル(Journal of Experime

          心理学の再現性危機、そんなに不安になる事ないです〜頑丈な家を見つけよう

          進化論についてよくある13の誤解

          自然選択による進化に対するよくある13の誤解を紹介します。進化を誤用しないためにも、最低限、絶対抑えておきましょう。若干わかりやすくするために自分の解釈も入っています。より正確に理解したい人のために、最後に引用元を貼っておきます。 1.自然選択はランダムで、偶然の産物であるこれは誤解です。自然選択は、「変異・淘汰・遺伝」を経て種が変化していく過程・プロセスのことです。このプロセス自体はかなりロジカルに、一定に動いています。むしろ、ランダム・偶然なものは「変異」の部分で、ここ

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          環境はどこから来る?進化心理学の限界・発展(ニッチ構築)と、学問の消費の仕方

          コロナが起きてから、進化心理学のアプローチはこれまで以上に注目を集めてきました。だけど、進化心理学は正しい理解を得るのには少々ややこしく、ゆえに非常に誤用(悪用)されやすい分野です。今回は一例を通して、進化心理学の正しい理解とその弱点を補う考え方を、自分自身の研究を通して紹介し、そして進化心理学のこれからと、さらには学問の消費の仕方について提言します。 進化心理学のロジック進化心理学では、研究したい心理的概念や説明したい行動を、人間が進化してきた環境下で自然淘汰によって選択

          環境はどこから来る?進化心理学の限界・発展(ニッチ構築)と、学問の消費の仕方

          一流の研究者になるにはどうしたら良いのか実際に一流の研究者に聞いてみた〜ビジョン編

          研究者の中には、トップジャーナルに論文を常に掲載し、分野を超えて有名になる研究者がいます。 去年の夏に、ニューヨークで社会心理学の大学院生を対象としたサマースクールと言うものに参加して来ました。僕は「道徳心理学」と言うテーマのクラスに分けられ、ハイレベルな仲間と一流の研究者たちに囲まれた2週間をみっちり過ごして来ました。幸い、僕のクラスの講師陣たちは道徳心理学の最先端を行っている、イェール大のポール・ブルーム教授と、ブリティッシュ・コロンビア大のアジーム・シャリフ教授と、と

          一流の研究者になるにはどうしたら良いのか実際に一流の研究者に聞いてみた〜ビジョン編

          COVID-19から予測できること:失業率・銃・自殺(アメリカの場合)

          社会科学の理論と研究結果を使って、大胆な予想をしてみようと思います。 「コロナによって失業率が上がれば、自殺率が増える。特に、名誉の文化で知られるアメリカ南部の中年の白人男性において、その影響が顕著に見られるはず。」 失業率が自殺に与える影響 コロナが引き起こした経済への悪影響は、リーマンショックを上回るだろうと予想されています。特に予想されるのが、経済のストップによる失業率の増加です。 失業率が増えると、自殺が増えるのはずっと前から研究されています。リーマンショックを

          COVID-19から予測できること:失業率・銃・自殺(アメリカの場合)

          陰謀論が生まれる心理的背景を解説します

          あなたは、2001年の9月11日に起きたアメリカの同時多発テロはアメリカ政府の陰謀だと思いますか?このテロは、アメリカ政府がイラクとアフガニスタンで戦争を始めるための口実を作るための、自作自演だと思いますか? 少しでもあなたがそう思うなら、その信念が形成された背景には、どのような心理的要素が絡んでいるのだろう? 今回は、一般的に陰謀論が生まれる原因について、進化心理学的なアプローチからの研究成果を紹介したいと思います。この記事は、文末に引用してある心理学のレビュー論文を参考

          陰謀論が生まれる心理的背景を解説します

          2019年の目標はライティングを上達させる

          明けまして少し経ちましたが、おめでとうございます。ハッピーニューイヤー。 今年の目標は、「ライティングを上達させる」にしたいと思います。 珍しく書けるアイディアが多くなってきたので、筆の進み具合が追いつかなくなってきました。なので、今年はタイミング的に自分のライティングを追い込む良い機会かなと思いました。 ライティングになぜこだわりたいかと言うと、論文の質は文章の質にも依るからです(心理学や社会学に限ってかもしれないです)。つまり、力強く説得力のある文章ほど、多く読まれ

          2019年の目標はライティングを上達させる

          一流の研究者になるにはどうしたら良いのか実際に一流の研究者に聞いてみた〜パワームーヴ編

          研究者の中には、毎年質の高い論文を数本生み出し、生涯の中で一つの分野において重要な功績を残すような超生産性の高い研究者がいます。幸いにも、僕はそのような方達数人に直接お会いする事があったので、その度に「成功する秘訣は何ですか?」と聞いてきました。その一部、特に「力技(パワームーヴ)だな〜」と思った具体的な数字を紹介します。 ① 毎週最低でも72時間は仕事する (H.T教授、心理学の分野でも「文化」と言うテーマを初めて開拓した) ② 自分が人生を賭けて取り組めるテーマを見つ

          一流の研究者になるにはどうしたら良いのか実際に一流の研究者に聞いてみた〜パワームーヴ編

          温暖化は戦争を引き起こすか?

          先日、自分の大学にオスロの研究センターからゲストスピーカーを招いた講演があったのでその内容をメモ目的に記しておこうと思います。 スピーカー(Halvor Berggrav)と研究所のリンク(link) 内容はタイトルにもあるように、「温暖化は戦争を引き起こすか?(Will Climate Change Lead to War?)」と言う内容であったが、実際のところは「気温の変化は武力紛争にどのような影響があるのか?」と言う内容でした。とてもキャッチーなタイトルだったので、

          温暖化は戦争を引き起こすか?

          多く引用される論文を書くにはどうしたら良いのか?

          つい先日、心理学のトップジャーナル「Psychological Science」の30周年を記念して、Robert Sternbergが「インパクトのある論文はどのような論文か?」についてのアドバイスを記してたので、ここでシェアします。Sternberg自身も知能や創造性の研究の第一人者で、この30年の間に、最も多く引用された著者たちが(無意識にしろ意識的にしろ)実践している方法について彼が実際にインタビューをして考察している内容なので、非常に有効かと思います。 実際にSt

          多く引用される論文を書くにはどうしたら良いのか?

          2018年の抱負

          少し遅いですが、2018年の抱負を記したいと思います。 生活面と研究面に分けたいと思います。 生活 とにかく研究するのにも何をするのにも、体調が整っていないとどうも上手くいかないと言う結論に至りました。なので、「まずは体調管理」を第一に、運動・食事・睡眠をきちんと取っていく事を意識して実践して行きたいと思っています。これらの要素を欠くことは、博士課程や研究生活のような長期的な戦いには向いていないと思いました。 研究 2017年は論文を一つ投稿することができ、教科書の

          2018年の抱負