彼女はただのレモン好き
彼女 : 「はい、どうぞ。」
僕 : 「…」
僕の彼女は食後のフルーツにレモンを出してくる。
今からテキーラパーティーでもあんのか?くらい出てくる。
彼女 : 「食べないとかあり得ないからね。」
僕 : 「君も僕が作った料理食べないのと一緒だよ。こんなの食べれないよ。」
ーーー
南イタリアの名産レモン。
その香り、大きさ、発色が明らかに他のレモンと違う。
南イタリア特有の潮風を受けカンカンに降り注ぐ太陽が育んだレモンは全てが規格外だ。
甘み、酸味、香りのバランスが完璧だ。
食後に食べるレモンは皮を剥いてから食べる。
皮は料理やデザートに使う。
一口サイズにカットされたレモンに塩をつけて食べる。
なぜだろう?酸味がほとんどない。
むしろ甘い。
香りが鼻から抜けたあたりでやっと酸味が追いかけてくる。
「美味しい…」
初めて単体で食べた時に衝撃を受けたことを今でも覚えている。
レモンの概念を覆されたのだ。
僕も僕の彼女もローマに住んでいる。
先日彼女が実家から持ってきていたレモンが無くなった。
「レモンを買わないと。」
彼女がスーパーマーケットでノーマルレモンを買ってきた。
香りも大きさも発色も明らかに違う。
「はい、どうぞ。」
いつも通り食後に一口サイズに切って出してくれた。
「…」
僕は食べる気にならない。
「食べないとかあり得ないからね。」
彼女が食べることを強要してくる。
「君も僕が作った料理食べないのと一緒だよ。こんなの食べれないよ。」
南イタリア人でもないのにも関わらず精一杯に食べたくない事をアピールした。
まさにイタリア人がナポリタンの説明を聞いたイメージと先入観だけで絶対に食べないような断り方でやり過ごそうとした。
が、
結局食べさされた。
ただなんというのだろうか、こう、何か別のフルーツを食べた感覚になった。
ひと言でいうと「マズイ」のだ。
苦いというか太陽を十分に浴びている味がしないし果肉もパサついている。
彼女はよくこう言う。
そんな彼女がスーパーマーケットで買ったノーマルレモンを食べて言った。
「あー、美味し。」
ただのレモン好きやないかい。