Theme 2: 検温(全5話 その3,4,5)
temperature check, 3, 4 & 5
医師/精神分析家(慶應義塾大学環境情報学部)
岡田暁宜(おかだ・あきよし)さんが綴るワンテーマ・エッセイ
《ぼくたちコロナ世代》避密ライフのこころの秘密
ふたつめのテーマ「検温」、すっかり生活の一部となりましたね。
これにて全5話、完となります。
前回の「検温」その1と2 はこちら
3/5 体温計の今昔
コロナライフになるまで、私はタブレット型のサーマルカメラというものを見たことがありませんでした。初めてサーマルカメラで検温したとき、これまで経験してきた体温計のことを思い浮かべました。
私が子どもの頃には、体温計と言えば、ガラス製の水銀体温計でした。測る際には、体温計をよく振って、中の水銀を移動させて、腋窩の場合は10分間、口腔の場合には5分間、身体に密着させる必要がありました。私は体温計を勢いよく振って、ぶつけて破損し水銀が飛び出るという失敗も、何度か経験したことがあります。私が大学生になった頃、水銀体温計は製造中止となり、現在はあまり目にすることはありませんが、私はかつて父親の診療所で使用していた「岡田医院」の名前入りの水銀体温計を、今でも大切にしています。
次に登場したのが、私が大学生の頃に登場した電子体温計です。実測式の水銀体温計とは異なり、予測式の場合は電子体温計の場合、数分で測定できるのが画期的でした。測定する際には、ケースから出して酒精綿で拭いていました。電子体温計は、私が病棟で働いていた1990年代の初めには医療現場で使われていたように思いますし、現在では家庭でも日常的に使われているように思います。
その後、赤外線で鼓膜温を測定する耳式体温計というものが登場し、私は一瞬で体温を測定できるのを目の当たりにして感動したことを覚えています。水銀体温計や電子体温計のように身体の測定部位に直接触れることなく、一瞬で体温を測定できるということは、革命的なことでした。その後、額式の非接触型の体温計なども登場し、体温計を通じて時代の変遷を感じることが、これまで何度もありました。
4/5 体温計の測定部位
体温計の変遷には、測定部位の視点からも興味深いものがあります。
腋窩部での測定は、子どもの頃から馴染みのある測定部位でしたが、私は学生時代に法医学の講義で死亡推定時刻の推定方法として、直腸温を測定することを知りました。その後、臨床医学を学び、乳幼児あるいは大人でも皮膚温の測定が難しい場合には直腸温を測定することを知りました。直腸は深部体温の測定部位です。
35.0度以上の猛暑日でなければ、外気温は人間の深部体温よりも低いので、皮膚体温は深部体温よりも低くなります。一般には、腋窩温<舌下温<鼓膜温<直腸温の順で体温は高くなるとされていて、私たちは測定の目的に合わせて、測定の部位を決めることになります。
コロナライフですっかり浸透したサーマルカメラによる額の「体表面温度」は、外気温の影響を受けやすい皮膚体温を測定しているので、「腋窩温」とのギャップもあり、「深部体温」に比してばらつきも大きいとされています。
5/5 検温様式と精神療法
以上のような体温計の変遷や測定部位の特徴から、私はいろいろと空想します。
これまで皮膚に直接触れて時間をかけて実測していた体温を、皮膚に直接触れずなるべく時間をかけずに予測しようとする、技術者の開発志向性が感じられるかもしれません。これはおそらく、世の中の体温計ユーザーたちのニーズを反映しているのでしょう。
コロナライフにおいて、タブレット型のサーマルカメラの画面に映った自分自身にface to faceで対面した際、私は、深部体温の測定はこころの深層を観察する〈精神分析〉のメタフォァで、腋窩温の測定は日常的な〈精神療法〉のメタフォァで、迅速かつ簡便なサーマルカメラによる皮膚温の測定はスクリーニングとしての〈精神保健〉のメタフォァであるように思いました。また、「長い時間をかけて患者や治療者のこころに“直接ふれる”精神分析から、なるべく時間をかけず、症状や認知を対象としてこころに直接ふれない精神療法へ」という近年の変遷と共通しているようにも感じました。
ただし、今日、迅速かつ簡便な方法である鼓膜温や皮膚温の測定がどれほど普及しても、臨床場面では、直接皮膚に接触し日常的で“安定性”のある「腋窩温」の測定が今でもおこなわれているということは、重要な事実であるように思うのです。
(Theme 3: ??? につづく)
コロナライフに入るまで
こんなに体温計の種類があるとは思いませんでした
水銀体温計 とても懐かしいです
わたしも子どもの頃に使っていましたが
岡田先生と同じように勢いよく振りすぎ
ガラスをぶつけて中の水銀がコロコロと出てきたことがありました
その時に母親から「触ったらアカン!」
と これまた勢いよく叱られた記憶がくっきりと残っています
小児科を訪れた際には、ぐったりしながら水銀体温計を脇に挟み
検温している間の10分が長く感じドキドキしたことも思い出します
コロナライフでは「密」にならず
なるべく人の手や時間をかけずに簡便に検温する方法が採用されてきました
が
最終的には 時間をかけながら
心を遣い 「人」と「人」が関わっていくことが
今も昔も変わらず続いている
ように思えます
「スクリーニング」として役割を担っているものは
医療現場のみならず
私たちの生活の色んな場面であるのかもしれませんね!
さて、Theme1「マスク」(全7話)に続き
Theme2「検温」(全5話)は いかがでしたか?
《ぼくたちコロナ世代》避密ライフのこころの秘密 は
次のThemeへと進みます
引き続きお楽しみに♪