17: 逃げられない国の住人たち H
ママ友との絆
——30代後半の主婦Hさんは…
〇 上場企業のサラリーマンの夫と、小学五年生の息子と、三人で暮らすHさん。学生時代は部活やサークルに入り数名の友人がいましたが、元来大人しく人づきあいは得意ではなく、社会人になってからは交流が途絶えました。
地方公務員の両親から「結婚するならエリートと!」と囁かれ、5年ほど付き合っていた地場企業につとめる彼氏と別れ、30歳になる直前に両親が強くすすめる地元出身の8歳年上のエリート男性とお見合いし、結婚し、上京しました。
〇 多忙な夫は結婚当初から平日の帰宅は深夜で、週末も出張のため留守がちでした。神経質な息子は新しい学校での適応が難しく、しばしばお腹が痛くなり学校を休むことが続きましたが、夫にも実家の両親にも相談できない日々が続いていました。
〇 Hさんは、孤独感を抱えながらも必死で子育てをするなかで、息子の学校の同級生の母親との付き合いが始まり、徐々に自分の悩みを相談できるようになり、自分の居場所を得ることができたのです。
徐々にクラスの他の母親との付き合いも始まり、活発なやり取りがなされているママ友LINEグループにHさんも入りました。
〇 当初はママ友グループに入れてもらったことが嬉しくて、毎日のようにレスポンスしていましたが、子供の病気などが重なり、二日間レスポンスできないことがありました。この二日間の間に、次週のママ友ランチ会の日程調整がなされていたのです。
結局ランチ会には参加できましたが、いつになくママ友がよそよそしく、あるお母さんから「Hさん、やる気あるのかしら?!」という類いの呟きが幻聴のように聞こえ、幾ばくかの恐怖心が芽生え、以降、強迫的にLINEの確認をするようになりました。
〇 時に深夜も「いまからメッセージが届くのでは」と気が気でなく不眠がちとなり、Hさんの心のなかでは、当初癒やしの場であったママ友グループはいまでは逃げ出したいグループに様変わりしたのです。
それでも、グループから脱会することなく、今夜もLINEのチェックをしてから床に就きつつ、寝付けずに暗闇のなかで悶々とした間を過ごしています。