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17: 逃げられない国の住人たち H

加藤隆弘(かとう・ たかひろ)
九州大学大学院医学研究院精神病態医学 准教授
(分子細胞研究室・グループ長)
九州大学病院 気分障害ひきこもり外来・主宰
医学博士・精神分析家

『みんなのひきこもり』(木立の文庫, 2020年)
『メンタルヘルスファーストエイド』(編著: 創元社, 2021年)
『精神分析と脳科学が出会ったら?』(日本評論社, 2022年)

木立の文庫で来月刊行の本は
このnote連載が土台となっています。
『逃げるが勝ちの心得――精神科医がすすめる「うつ卒」と幸せなひきこもりライフ』

巻頭で「にげられない」シーンのバリエーションをお示しします。

☆『みんなのひきこもり』に引き続いて
 おがわさとしさん〔京都精華大学マンガ学部教授〕が
 私の原稿を読み込んで「ひとコマ漫画」として描いて下さっています!!

ママ友との絆

——30代後半の主婦Hさんは…


〇 上場企業のサラリーマンの夫と、小学五年生の息子と、三人で暮らすHさん。学生時代は部活やサークルに入り数名の友人がいましたが、元来大人しく人づきあいは得意ではなく、社会人になってからは交流が途絶えました。
 地方公務員の両親から「結婚するならエリートと!」と囁かれ、5年ほど付き合っていた地場企業につとめる彼氏と別れ、30歳になる直前に両親が強くすすめる地元出身の8歳年上のエリート男性とお見合いし、結婚し、上京しました。

〇 多忙な夫は結婚当初から平日の帰宅は深夜で、週末も出張のため留守がちでした。神経質な息子は新しい学校での適応が難しく、しばしばお腹が痛くなり学校を休むことが続きましたが、夫にも実家の両親にも相談できない日々が続いていました。

〇 Hさんは、孤独感を抱えながらも必死で子育てをするなかで、息子の学校の同級生の母親との付き合いが始まり、徐々に自分の悩みを相談できるようになり、自分の居場所を得ることができたのです。
 徐々にクラスの他の母親との付き合いも始まり、活発なやり取りがなされているママ友LINEグループにHさんも入りました。

〇 当初はママ友グループに入れてもらったことが嬉しくて、毎日のようにレスポンスしていましたが、子供の病気などが重なり、二日間レスポンスできないことがありました。この二日間の間に、次週のママ友ランチ会の日程調整がなされていたのです。
 結局ランチ会には参加できましたが、いつになくママ友がよそよそしく、あるお母さんから「Hさん、やる気あるのかしら?!」という類いの呟きが幻聴のように聞こえ、幾ばくかの恐怖心が芽生え、以降、強迫的にLINEの確認をするようになりました。

〇 時に深夜も「いまからメッセージが届くのでは」と気が気でなく不眠がちとなり、Hさんの心のなかでは、当初癒やしの場であったママ友グループはいまでは逃げ出したいグループに様変わりしたのです。
 それでも、グループから脱会することなく、今夜もLINEのチェックをしてから床に就きつつ、寝付けずに暗闇のなかで悶々とした間を過ごしています。

――どうしてHさんは、逃げずにLINEのママ友グループに留まり続けているのでしょう?


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