![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/64612450/rectangle_large_type_2_acb9d93614829b8978d8bf1e13a68a05.jpeg?width=1200)
『別れるとき付き合うとき』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2021年10月26日(再放送:10月30日)オンエア分ラジオドラマ原稿)
付き合い始めるときに別れることを考える人間はいない。
しかし別れないと思っていても、別れるときは別れる。
女「どうしようツナ」
「ニャー」という泣き声。
男「どうしたいツナ?」
また「ニャー」という泣き声。
ツナは何かを言っているようだが、僕らにはやはり分からなかった。
女「ツナには選べないよね」
男「そうだな」
ツナは保護猫だった。
母猫からはぐれたであろう子猫を河原で見つけて保護した彼女の友人から、猫を飼わないかと相談され、彼女と同棲を初めてすぐに一緒に生活することになった。
見つけたときにツナ缶を舐めていたのでツナという名前にしたのは彼女だった。
僕の中で結論は出ていたが、すぐにそれを言うのはツナに悪い気がして、言わないでいた。
女「ツナはあなたのことが大好きね」
男「君の膝より僕の膝の方が少しばかり大きいだけだよ」
ツナは僕の膝の上で寝ていた。
男「僕は猫アレルギーだ」
女「ふふ、そうね」
そして翌朝、ロンシャンのバッグとゲージに入ったツナと一緒に彼女は行ってしまった。
その日から毎朝ジャケットに付いたツナの毛を取る手間がなくなった。
「ニャー」という泣き声。
彼女はインスタグラムでツナのアカウントを作って、毎日ツナの写真や動画をアップするようになった。
僕は毎日いいねをした。
彼女と別れて一年が経ったある日、突然彼女から会えないかと連絡があった。
女「久しぶり、元気だった?」
彼女の新しいコートにツナの毛が付いているのを見て僕はなんだか嬉しかった。
男「どうしたの急に?」
女「猫、飼わない?」
というと彼女は僕にスマホを見せた。
そこにはツナそっくりな子猫が3匹いた。
女「1年前にツナを保護した友達がね、ツナのお母さんを保護して避妊しようと思ってたんだって、そしたら妊娠してて、でこの子たちが生まれたんだって」
男「ツナの弟たちだ」
女「そう」
男「お母さんはどうなるの?」
女「かわいそうだけど避妊して、やっぱり野に返すんだって」
男「大人の猫は貰い手がないから?」
女「というより外で大人になった猫は人には懐かないから家猫になるのは無理みたい」
男「そっか」
女「どうする?」
「ニャー」という泣き声。
それからまたジャケットについた猫の毛を取る毎日になった。
男「じゃあ行ってきます」
女「行ってらっしゃい」
ツナの弟はボタンという名前になった。
会ったときに僕のボタンをよくかじっていたから彼女がそう名付けた。
ツナとボタンの2匹分の毛を取るのは厄介だ。
別れるときにまた付き合うだろうなんて思う人間はいない。
けどそういうこともまれにある。
「にゃあにゃあ」と鳴く声。
おしまい
※こちらの小説は2021年10月26日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20211030133000
※こちヨロは土曜日13:30~14:00でも火曜日の放送をREPEAT放送でお届けしています。