『終わって始まる』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年1月25日(再放送:2022年1月29日)オンエア分ラジオドラマ原稿)
今回の作品は前回の作品「彼女の提案」の続編にあたります。
女「あのバー閉店するんだって」
5年ぶりにきた彼女からのLINEはそんな一言だった。
彼女からのLINEには驚いたが、バーの閉店にはさほど驚かなかった。
マスターは老齢だったし、
5年前に僕らが通ってた頃でも、いつも静かなバーだった。
カウンターに座ってジントニックを飲んで、どこに旅行にいこかとか、今度あの店に行ってうなぎを食べようだとか、そんな話しをした。
そして結局その夜はマスターの作ったインスタントラーメンを食べたりした。
別れてからもそのバーでは何度か会っていたが、
彼女が結婚したと聞いてから僕は自然とバーに行かなくなった。
おそらく彼女も言ってなかったんじゃないだろうか。
恋人同士で通っていたバーは、
別れるとどちらかだけが行くようになるわけではなく、
お互い足が遠のいてしまう。
バーのマスターが抱えている問題の一つかもしれない。
男「いつ?」
女「来週の日曜日が最後だって」
男「いくの?」
女「マスターに会いたくない?」
男「サッポロ一番、作ってもらおうか」
女「うん笑」
そして僕らは5年ぶりにあのバーで再会した。
男「変わらないね」
女「変わらないように見せてるだけかもよ」
男「弛まぬ努力ってやつだ」
女「あなたは変わったわ」
男「そう?」
女「5年前はそんなに胸板は厚くなかったし、髪も長かった」
男「短い方が似合うって君が言ったんだ」
女「うん、そう思う」
男「猫と暮らしてるよ」
女「え、猫飼ってるの?」
男「ああ、それも君がここで言ったんだよ。猫、飼ってみたらって」
女「えー覚えてないなあ。きっとサイドカーを何杯か飲んでたんだわ」
そう言って彼女はカクテルグラスを口につけた。
男「結婚生活は、どう?」
カクテルグラスを持つ彼女の左手の薬指の指輪を見て僕は質問した。
残っていたサイドカーを飲み干してグラスをテーブルに置いてから彼女は答えた。
女「別れたわ。去年」
男「そうなんだ。じゃあその指輪は?」
女「自分で買ったお気に入り。いろいろ面倒だからここにしてるの」
男「そっか。理由は?」
女「離婚の?」
男「いやまず結婚の」
女「そっちい(笑)」
男「じゃあ離婚で」
女「うーん」
男「え、殴られたりとかしてないよな?」
女「いやそんなのではないよ。ないけど、あれかな、お雑煮って醤油でしょ」
男「うん、あごだしの薄口醤油だね」
女「彼は白味噌だったの」
男「あー関西の方とかってそういうね。え、そんなこと?」
女「数年は我慢して食べてたんだけど、やっぱり許せなかったの、お雑煮が味噌なんて」
男「それはわかるけど、それが理由で離婚?」
女「まあそういうことの積み重ねかな」
男「積み重ねねえ」
女「ねえ、インスタントラーメン食べたくない?」
男「うん、食べよう。マスターの作るサッポロ一番」
二人「みそ!」
女「そう、サッポロ一番はみそだよやっぱり」
男「塩のときもたまーにあるけどね。基本は味噌だな」
女「前の旦那、醤油だったの!それは醤油なんかい!」
男「いやそれはないな。そりゃ離婚するわ」
女「ふふふ。ねえ猫みたい」
男「ああ、うち寄ってく?」
女「馬鹿じゃないの写真でいいよ」
男「ああ、そっかそっか。ほら(見せて)」
女「えーーかわいい。やっぱ見たいかも。いこっかな。ラーメン食べたら」
男「人見知りするから隠れるかもなあ」
おしまい(シーズン9完)
※こちらの小説は2022年1月25日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア
※こちヨロは土曜日13:30~14:00でも火曜日の放送をREPEAT放送でお届け。
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