『初デート』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2021年8月3日(RE:8月7日)オンエア分ラジオドラマ原稿)
(※本作品は2021年8月31日で閉館のイムズ Inter Media Station IMSに感謝とリスペクトをこめて作成)
「じゃあ、待ち合わせはイムズ前で」
「明日がとても楽しみだわ」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
少しの間。
「切らないの?」
「あなたから切って」
「じゃあ、せーので切ろう」
「そうしましょ」
「せーの」
「いや切ってないじゃないか笑」
「あなただって笑」
「じゃあ切るよ」
「このまま朝になればいいのに」
「そしたら眠気を我慢しながら芝居を見ることになる」
「そうね、それはよくないわ」
「さあ、寝よう」
「ええ、明日が楽しみ」
「おやすみなさい」
そう言って私たちは電話を切った。
彼との初デートはイムズだった。
天神の渡辺通り沿いに立つ黄金色に輝く八角形のビル。
大理石の正面入り口前に待ち合わせ時間より早く着いたのに、彼はすでに立っていた。
「ごめんなさいお待たせしちゃって」
「いま着いたところさ」
その日は10月だったけど少し暑くて、彼の顔に吹き出した汗を見たらそれが嘘だってすぐに分かった。けど私はそのことは言わずに「行きましょ」とだけ声をかけた。
それからイムズの地下1階のTOKIOでミックスフルーツパフェを食べた。
「ずっと気になってて、すごく食べてみたかったの!」
そんな私とは対照的に彼は恥ずかしそうにフルーツサンドを食べていた。
それから私たちはイムズホールでお目当てのお芝居を見たの、「蒲田行進曲」。
私は当時から山崎銀之丞さんのファンで、彼はつかこうへいさん書くものが好きだった。
もちろんお芝居は最高だった。
「たくさん笑ってたくさん泣いて、お腹がすいちゃった」
「だったらピエトロでパスタはどう?」
「最高!」
12階のピエトロで私たちはパスタを食べながらお芝居の感想を語り合った。
それが私たちの初デートよ。
娘「いやいや、ずっとイムズじゃん!」
母「そう、ずっとイムズの中にいた笑」
娘「えーパパ、楽してるなあ笑」
母「イムズさまさまね笑」
父「何話してんだ?」
母娘「なんでもなーい」
父「なんだか怖いなあ」
娘「ねえ、今週末の家族での食事なんだけど、ピエトロがいい」
父「おお、じゃあイムズのピエトロに行こうか」
二人「笑」
父「なに?なんか変なこと言ったか?」
二人「なんでもなーい」
娘「あとさあ、実は紹介したい人がいるんだけど、呼んでもいい?」
父「ああ、もちろん」
娘「じゃあ私と彼は先に行って待っとくね」
父「お、おう、待ち合わせはー」
娘「正面入り口前ね」
父「お、おう」
1994年の初デートから27年。
いろいろお世話になったイムズに、ありがとうとお疲れさまを言いに行こうと思う。
おしまい
※こちらの小説は2021年8月3日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20210803210000
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